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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

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第七十二話 封印されし英雄

 ――パキッ。


 静まり返った神殿最深部に、乾いた亀裂音が響いた。


 それは決して大きな音ではない。

 だが、その場にいた誰にとっても、まるで雷鳴のように耳へ突き刺さった。


 最深部の中央にそびえる、巨大な紫水晶。

 その表面に、一本の亀裂が走っていた。


 そこから、淡い紫の光が滲み出している。


「やめろッ!」


 ビルセイヤが叫ぶと同時に駆け出した。


 狙うは、水晶の前に立つ黒ローブの男。

 蛇の牙の首領――この一連の事件を裏で操っていた元凶だ。


 だが。


「遅い」


 男は口元を歪め、嗤った。


 その笑みは、勝利を確信した者のものだった。

 いや、それ以上だ。長年信じ続けてきた悲願が、ついに叶う瞬間を迎えた狂信者の笑み。


「千年だ……」 「我らはこの時を、千年待ち続けた……!」


 男が両手を広げる。


 次の瞬間、巨大水晶の輝きが一気に増した。


 眩い紫光が広間を呑み込み、床に刻まれた古代文字が次々と発光していく。

 空気が震え、広間を満たす魔力が渦を巻いた。


「っ……!」


 エミリアの顔色が変わる。


「凄い魔力です……!」 「神殿中の魔力が、水晶に集まっています……!」


 封印が、解かれようとしている。


 誰の目にも明らかだった。


「止めるわよ!」  セシリアが剣を抜き放つ。


「問答してる場合じゃないな」  ツバサも腰の日本刀へ手を添えた。


 ビルセイヤ、セシリア、ツバサ、エミリア。

 四人が同時に踏み込む。


 しかし――その瞬間だった。


 ゴォォォォォォォォォッ!!


 広間を埋め尽くすほどの衝撃波が、水晶を中心に炸裂した。


「なっ――!?」


 ビルセイヤたちの身体がまとめて吹き飛ばされる。


 石床を滑り、壁へ叩き付けられた。

 肺から空気が押し出され、視界がぐらりと揺れる。


「くっ……!」


 立ち上がろうとする。だが、身体が重い。


 違う。

 重いのではない。


 この空間そのものが、圧倒的な魔力によって支配されているのだ。


 肌を刺すような圧力。

 呼吸すら妨げる濃密な魔力の奔流。


「はは……はははははっ!」


 黒ローブの男が、歓喜に震えた声で笑う。


「見ろ!」 「これこそ希望だ!」 「これこそ、我らが待ち望んだ奇跡だ!」


 パキッ。


 再び、亀裂が走る。


 一本では終わらない。

 水晶の表面に蜘蛛の巣のようにひびが広がり、紫の光が隙間から噴き出していく。


 パキ、パキパキッ――。


 そして。


 ――バリンッ!!


 巨大水晶が、砕け散った。


 視界を塗り潰すほどの閃光が最深部を包み込む。

 あまりの眩さに、全員が反射的に目を閉じた。


 やがて光が静かに収まり、再び視界が戻った時。


 そこには――一人の男が立っていた。


 白銀の長髪。

 整い過ぎた顔立ち。

 全身を包む銀色の鎧は、千年の時を越えたとは思えぬほど美しい輝きを放っている。

 腰には、一振りの長剣。


 まるで神話からそのまま抜け出してきたかのような、完成された姿だった。


「成功した……」


 黒ローブの男が、震える声で呟く。


「本当に……本当に復活した……!」


 その場に膝をつき、男は頭を垂れた。

 神へ祈る信者のように、あるいは長年追い求めた悲願を前にした狂徒のように。


「英雄アークレイド様……!」 「どうか……どうかこの世界をお救いください……!」


 その名に、ビルセイヤたちは顔を見合わせる。


 アークレイド。

 黒ローブの男が言っていた、千年前に世界を救ったという英雄の名。


 だが――。


 復活したその男は、すぐには何も答えなかった。


 静かに周囲を見渡す。


 ゆっくりと。

 まるで長い夢から醒めたばかりで、現実を確かめるように。


 そして、ようやく口を開いた。


「……ここは」


 低く、落ち着いた声だった。

 だがその一言だけで、広間の空気が変わる。


「どこだ?」


 黒ローブの男が、弾かれたように顔を上げる。


「アークレイド様!」 「ここは千年後の世界です!」 「あなた様を復活させるため、我ら蛇の牙は長き年月をかけて――」


 そこまでだった。


 アークレイドが、男を見た。


 ただ、それだけ。


 それだけだったのに――男の身体がふわりと浮かび上がる。


「……え?」


 本人が状況を理解するより先に。


 ドォォォォォンッ!!


 男の身体が壁へ叩き付けられた。


「がっ……!?」


 肺の空気を吐き出し、男が血を吐く。


 セシリアが目を見開いた。

 ツバサも言葉を失う。


 アークレイドは感情の見えない瞳で、壁にめり込んだ男を見下ろした。


「うるさい」


 冷え切った声だった。


「私は眠っていた」 「誰が起こせと言った?」


 その一言で、神殿最深部の空気が凍り付く。


 黒ローブの男は目を見開いたまま、理解できないという表情を浮かべていた。

 当然だろう。


 自分たちは、世界を救うために英雄を蘇らせた。

 感謝されることはあっても、敵意を向けられるはずがない――そう信じていたのだから。


「ま、待ってください……」 「我々はあなた様を――」


「黙れ」


 アークレイドが短く言い放つ。


 次の瞬間、男の身体が再び宙へ浮いた。


「ひっ……!」


 怯えた悲鳴が漏れる。

 だが、許されない。


 バキバキバキッ!!


 嫌な音が広間に響いた。


「ぎゃあああああああああっ!?」


 男の絶叫が最深部を引き裂く。

 骨が砕ける音。関節が悲鳴を上げる音。

 あまりに一方的で、あまりに残酷だった。


「っ……」


 セシリアが顔を青くする。


 ツバサも険しい顔で低く呟いた。


「おい……」 「なんか、思ってたのと全然違うぞ……」


 ビルセイヤも同感だった。


 英雄。

 千年前に世界を救った存在。

 そう聞かされていた。


 だが、目の前の男から感じるものは、そんな生易しいものではない。


 圧倒的な威圧感。

 常識を超えた力。

 そして、底知れない危険。


 ――これは本当に、“英雄”なのか。


 アークレイドが、ゆっくりと視線を巡らせる。


 今度は、ビルセイヤたちへ。


 その瞬間。


 全員の背筋を、氷の刃のような悪寒が走った。


 巨大な竜に睨まれた時ですら、ここまでの恐怖は感じなかったかもしれない。

 心臓を素手で掴まれたような圧迫感。

 一歩でも踏み出せば、その瞬間に殺される――そんな確信にも似た本能的恐怖。


「ほう……」


 アークレイドが、わずかに口元を歪める。


 それは笑みに見えた。

 だが、親しみや温度など欠片もない。


「面白い」


 ぞくり、と背筋が粟立つ。


 その言葉が何を意味するのか。

 それを理解する前に、ビルセイヤは剣を握り直していた。


 目の前にいるのは、千年前の英雄。

 だが同時に――この場で最も危険な存在でもある。


 蛇の牙の陰謀。

 古代神殿に眠る秘密。

 千年前に滅びかけた世界の真実。


 すべての謎が、今まさに一つへ繋がろうとしていた。


 そして、その中心にいる男――アークレイドは。


 どう見ても、味方ではなかった。



---


第二章 第七十二話


封印されし英雄


――続く。


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