第七十話 巨人の終焉
古代神殿内部――。
超巨大ゴーレムとの戦いは、ついに佳境を迎えていた。
高さ十五メートルを超える巨体。
全身を覆う漆黒の石装甲。
胸部には三つの魔力核。
そのうち一つは、すでにビルセイヤが破壊している。
だが、残る二つの核が生きている限り、巨人は止まらない。
むしろ怒り狂ったかのように、さらに激しく暴れ始めていた。
◇◇◇
ゴォォォォン!!
◇◇◇
巨大な戦斧が振り下ろされる。
凄まじい轟音と共に神殿の床が砕け散った。
石柱が倒れ、天井からは瓦礫が降り注ぐ。
まるで神殿そのものが崩壊を始めているかのようだった。
◇◇◇
「急げ!」
◇◇◇
ビルセイヤが叫ぶ。
◇◇◇
「このままじゃ神殿ごと潰れる!」
◇◇◇
セシリアが駆け出す。
砕けた石床を蹴り、散乱する瓦礫を飛び越え、崩れた柱を足場にして加速する。
その視線は、超巨大ゴーレムの右胸に固定されていた。
残る核の一つ。
あれを壊さなければならない。
◇◇◇
「行くわよ!」
◇◇◇
跳躍。
人間離れした身体能力で宙へ舞う。
Bランク冒険者として鍛え上げてきた実力が、ここで発揮される。
だが――。
超巨大ゴーレムも黙ってはいない。
巨大な腕が、空中のセシリアを叩き落とすように薙ぎ払われた。
◇◇◇
「甘い!」
◇◇◇
セシリアは空中で身を捻る。
紙一重。
爪先が触れそうな距離でその一撃を躱し、そのまま勢いを殺さず剣を振り下ろした。
◇◇◇
「はあああっ!!」
◇◇◇
ズガァァァァン!!
渾身の一撃が右胸の魔力核を叩き砕く。
紫色の結晶が砕け散り、光の粒となって宙へ弾けた。
◇◇◇
「やった!」
◇◇◇
残る核は、あと一つ。
だが、その瞬間だった。
◇◇◇
ゴォォォォォォォッ!!
◇◇◇
超巨大ゴーレムが、咆哮にも似た轟音を発する。
最後の核が異常なまでに眩く輝き始めた。
神殿内の空気が震え、魔力の奔流が渦を巻く。
◇◇◇
「まずい!」
◇◇◇
エミリアが顔を青ざめさせる。
◇◇◇
「魔力が一点に集中しています!」
◇◇◇
「暴走する気だ……!」
◇◇◇
ビルセイヤは即座に理解した。
最後の核に残された全魔力を一気に解放するつもりだ。
しかも、その規模は先ほどの魔力砲撃を遥かに上回る。
まともに撃たれれば、この場にいる全員が消し飛ぶ。
神殿ごと、だ。
そして予想通り、巨大ゴーレムの胸部がゆっくりと開いていく。
紫色の光が内側で収束し、圧縮され、災厄のような力へと変わっていく。
◇◇◇
「全員伏せろ!」
◇◇◇
ビルセイヤが叫ぶ。
だが、間に合わない。
発射まで、あと数秒。
その時だった。
◇◇◇
「ビルセイヤ!」
◇◇◇
ツバサの声が戦場を裂いた。
◇◇◇
「最後はお前だ!」
◇◇◇
そう叫ぶと同時に、ツバサは日本刀を鞘へ納める。
居合の構え。
呼吸が止まったかのような静寂が、一瞬だけ周囲を支配した。
そして――。
◇◇◇
キィィィィィン!!
◇◇◇
神速の居合。
一筋の銀光が走る。
次の瞬間、超巨大ゴーレムの腕が深く切り裂かれ、巨体が僅かに傾いた。
ほんの一瞬。
だが、それで十分だった。
◇◇◇
ビルセイヤは駆けた。
◇◇◇
砕けた瓦礫を蹴る。
崩れた柱を足場にする。
さらに跳躍。
一直線に、最後の魔力核へ。
◇◇◇
「終わりだ!」
◇◇◇
全身全霊。
剣道で培った技術。
冒険者として積み重ねてきた経験。
数々の死線を越えてきた覚悟。
その全てを一撃に込める。
ビルセイヤの剣が、最後の核へ振り下ろされた。
◇◇◇
「はあああああああああっ!!」
◇◇◇
ズバァァァァァァァッ!!
最後の魔力核が、真っ二つになる。
瞬間――。
全ての光が消えた。
赤く輝いていた双眸。
胸部を満たしていた紫色の魔力。
暴れ狂っていた超巨大ゴーレムの巨体。
その全てが、完全に停止する。
神殿内に、静寂が落ちた。
そして。
◇◇◇
ドォォォォォォォォン!!
◇◇◇
超巨大ゴーレムが、ゆっくりと崩れ落ちた。
大地が揺れ、神殿全体が大きく軋む。
だが――もう動かない。
完全停止だった。
◇◇◇
「勝った……」
◇◇◇
セシリアが大きく息を吐く。
エミリアはその場へ座り込み、胸を押さえながら安堵の表情を浮かべた。
◇◇◇
「終わりました……」
◇◇◇
ツバサも刀を納め、ふう、と息を吐く。
◇◇◇
「さすがに疲れたな……」
◇◇◇
だが。
ビルセイヤだけは、まだ気を緩めていなかった。
黒ローブの男はまだ生きている。
蛇の牙の目的も、古代神殿の秘密も、何一つ明らかになっていない。
ここはまだ終着点ではない。
むしろ、本番はこの先にある。
その時だった。
◇◇◇
ゴゴゴゴゴ……
◇◇◇
超巨大ゴーレムが倒れていた場所の床が、ゆっくりと左右へ開き始めた。
石と石が擦れる重い音が神殿に響く。
現れたのは、地下へと続く巨大な階段だった。
その奥から流れてくるのは、今までとは比べ物にならないほど濃密で禍々しい魔力。
明らかに――黒幕がいる場所だ。
◇◇◇
「またか……」
◇◇◇
ツバサが半ば呆れたように呟く。
だが、その目には戦意が宿っていた。
セシリアも剣を握り直し、エミリアも立ち上がる。
ビルセイヤは階段の奥を見据えたまま、静かに口を開いた。
◇◇◇
「行こう」
◇◇◇
「もうすぐ真相に辿り着く」
◇◇◇
三人が力強く頷く。
古代神殿最深部。
蛇の牙の真の目的。
そして、黒ローブの男。
全ての答えが、その先に待っていた。
ビルセイヤたちは一歩ずつ、闇の奥へと歩き出す。
決戦の舞台は、ついに最深部へ――。
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第二章 第七十話
「巨人の終焉」
――続く。




