第六十九話 神殿を揺るがす巨人
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
古代神殿全体が、低く唸るように震えていた。
四体の古代ゴーレムが融合して生まれた超巨大ゴーレム。
その姿は、まさに圧倒的だった。
高さ十五メートルを超える巨体。
全身を覆う漆黒の石装甲。
右手には、人間など容易く叩き潰せそうな巨大戦斧。
胸部には、紫色に脈打つ三つの魔力核。
そして、侵入者を見下ろすように赤く輝く双眸。
まるで神話に登場する巨人――いや、災厄そのものだった。
◇◇◇
「これは……洒落にならないな」
◇◇◇
ツバサが額の汗を拭う。
いつもなら余裕を崩さない彼の声にも、さすがに緊張が滲んでいた。
セシリアも剣を握り直す。
◇◇◇
「どうするの?」
◇◇◇
「正面からじゃ勝てないわよ」
◇◇◇
その通りだった。
あの巨体。
あの防御力。
しかも胸には核が三つ。
普通に斬り合っていては、こちらが先に消耗するだけだ。
ビルセイヤは巨大ゴーレムを見上げ、視線を胸部へ固定する。
三つの核。
おそらく、あれが弱点だ。
だが――高い。
地上からでは届かない。
◇◇◇
「エミリア」
「はい!」
◇◇◇
「風魔法で、俺たちを飛ばせるか?」
◇◇◇
エミリアが目を見開く。
◇◇◇
「できますけど……」
◇◇◇
「かなり危険ですよ?」
◇◇◇
ビルセイヤは迷わず頷いた。
◇◇◇
「それしかない」
◇◇◇
その瞬間だった。
超巨大ゴーレムが、ゆっくりと戦斧を振り上げる。
嫌な予感が全身を駆け抜けた。
◇◇◇
「避けろ!」
◇◇◇
ドォォォォォォン!!
戦斧が地面へ叩き付けられた。
直後、凄まじい衝撃波が神殿内を駆け抜ける。
石畳が砕け、壁が軋み、天井の破片が雨のように降り注いだ。
◇◇◇
「きゃあっ!?」
◇◇◇
セシリアが吹き飛ばされる。
ツバサも床を滑り、咄嗟に片手をついて体勢を立て直した。
たった一撃。
それだけで神殿が破壊され始める。
◇◇◇
「長期戦は無理だ……!」
◇◇◇
ビルセイヤが即座に判断する。
このまま戦いが長引けば、敵を倒す前に神殿そのものが崩落しかねない。
短期決戦しかない。
◇◇◇
「エミリア!」
◇◇◇
「今だ!」
◇◇◇
「分かりました!」
◇◇◇
エミリアが杖を掲げる。
風の精霊たちが一斉に集まり、彼女の周囲で渦を巻いた。
足元に巨大な魔法陣が展開される。
◇◇◇
「ウィンド・ブースト!」
◇◇◇
暴風が巻き起こった。
ビルセイヤとツバサの身体が、一気に宙へ舞い上がる。
◇◇◇
「行くぞ!」
「ああ!」
◇◇◇
二人は一直線に、巨大ゴーレムの胸部へ向かった。
超巨大ゴーレムも危険を察知したのだろう。
巨大な腕が、二人を叩き落とすように迫る。
だが――。
ツバサが口元を吊り上げた。
◇◇◇
「遅い!」
◇◇◇
空中で日本刀を鞘へ納める。
居合の構え。
普通なら不可能な姿勢。
だがツバサは、その常識ごと斬り捨てる。
◇◇◇
キィィィィィン!!
◇◇◇
神速の抜刀。
一筋の銀光が走る。
次の瞬間、巨大ゴーレムの胸部装甲に深い亀裂が刻まれた。
◇◇◇
「今だ!」
◇◇◇
ビルセイヤが突っ込む。
剣を両手で握り締め、狙いを定める。
中央核。
あれを砕く。
◇◇◇
「はあああああっ!!」
◇◇◇
全力の一撃が振り下ろされる。
◇◇◇
ズガァァァァァン!!
◇◇◇
中央の魔力核が砕け散った。
紫色の光が爆ぜ、神殿の空気がびりびりと震える。
だが――。
◇◇◇
「なにっ!?」
◇◇◇
巨大ゴーレムは止まらない。
動きが鈍るどころか、なおも腕を振るい、二人を叩き落とそうとしてくる。
ビルセイヤは空中で身を捻って回避し、辛うじて着地した。
ツバサも舌打ちする。
◇◇◇
「まだ動くのかよ!」
◇◇◇
エミリアが叫ぶ。
◇◇◇
「核が複数あります!」
◇◇◇
「全部壊さないと止まりません!」
◇◇◇
あと二つ。
まだ終わらない。
その時だった。
巨大ゴーレムの胸部が、ゆっくりと左右へ開いていく。
内部から溢れ出す紫色の光。
嫌な予感が走る。
◇◇◇
「まずい!」
◇◇◇
エミリアの悲鳴にも似た声が響く。
次の瞬間――。
◇◇◇
ゴォォォォォォォォッ!!
◇◇◇
胸部から極太の魔力砲撃が放たれた。
神殿を一直線に貫く、破壊の閃光。
壁が消し飛ぶ。
石柱が砕ける。
天井の一部が崩れ落ちる。
圧倒的な破壊力だった。
◇◇◇
「こんなのありかよ……!」
◇◇◇
ツバサが顔を引きつらせる。
まともに喰らえば、ひとたまりもない。
だが。
ビルセイヤの目に迷いはなかった。
あと二つ。
残る核を破壊すれば勝てる。
勝機は、まだこちらにある。
◇◇◇
「セシリア!」
◇◇◇
「分かってる!」
◇◇◇
セシリアが駆け出す。
崩れた石柱を足場にして跳躍し、次の核へ届く位置を探る。
エミリアも杖を握り直し、再び魔力を練り上げた。
風の精霊が集まる。
氷の精霊が呼応する。
彼女の瞳には、もう迷いはない。
クラン【ホーム】総力戦。
古代神殿最大の試練との決着が、すぐそこまで迫っていた。
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第二章 第六十九話
「神殿を揺るがす巨人」
――続く。




