第六十七話 古代神殿の守護者
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
巨大な石門が、ついに完全に開いた。
門の奥から溢れ出す膨大な魔力。
空気が震え、大地が低く唸る。
肌を刺すような圧力に、セシリアたちは思わず身構えた。
「歓迎しよう」
黒ローブの男が、ゆっくりと両手を広げる。
「古代神殿へ」
その声には余裕があった。
いや、余裕どころではない。
すべてが計画通りに進んでいると確信している者の声だった。
「貴様……!」
セシリアが剣を構える。
だが、ビルセイヤが片手を上げて制した。
「待て」
敵は落ち着き過ぎている。
焦りもない。
緊張もない。
つまり、まだ何か仕掛けがある。
「何が目的だ」
ビルセイヤが静かに問い掛ける。
黒ローブの男は、小さく笑った。
「目的?」
男は神殿の奥を見上げる。
その声には、狂信にも似た熱が宿っていた。
「そんなもの決まっている」
そして、低く告げる。
「我らの悲願だ」
意味は分からない。
だが、その言葉には不気味な重みがあった。
「千年待った」
「ようやく、ここまで来たのだ」
千年。
その言葉に、全員が眉をひそめる。
セシリアも、ツバサも、エミリアでさえ聞き覚えのない話だった。
「何を解放する気だ」
ツバサが低く問う。
しかし男は答えない。
ただ、笑った。
まるですべてを知っている者のように。
「知りたければ進めばいい」
黒ローブの男は、ゆっくりと後ろへ下がる。
「ただし――」
その瞬間だった。
ゴォォォォォォォッ!!
神殿内部から轟音が響いた。
床が揺れる。
壁が震える。
そして、闇の奥で巨大な影がゆっくりと立ち上がった。
「なっ……!」
セシリアが息を呑む。
石像だった。
いや。
石像ではない。
動いている。
高さは八メートルを超える。
全身を黒い石で覆われた巨人。
手には巨大な戦斧。
目には不気味な赤い光が灯っていた。
「古代ゴーレム……!」
エミリアが叫ぶ。
文献でしか存在が確認されていない古代兵器。
古代文明が神殿や都市を守るために造ったとされる守護者だった。
「本当にいたのかよ……」
ツバサが思わず呟く。
だが、驚くのはまだ早かった。
ゴゴゴゴゴ……。
神殿の左右からも、石が擦れる音が響く。
一体。
二体。
三体。
そして四体。
合計四体の古代ゴーレムが、ゆっくりと立ち上がった。
まるで、神殿への道を封鎖するように。
「これが試練だ」
黒ローブの男が笑う。
「神殿へ進みたければ、突破してみせろ」
そう言い残すと、男の姿は闇の中へ消えていった。
「待て!」
ビルセイヤが追おうとする。
だが。
ドォォォォォン!!
巨大な戦斧が振り下ろされた。
床が砕け、石片が飛び散る。
ビルセイヤは咄嗟に後退した。
「ちっ……!」
追撃は不可能だった。
まずは目の前の守護者を突破しなければならない。
「作戦は?」
セシリアが剣を構えたまま尋ねる。
ビルセイヤは古代ゴーレムを見上げた。
魔物ではない。
首輪もない。
おそらく古代文明の防衛装置。
ならば必ず弱点がある。
「エミリア」
「はい!」
「魔力の流れを見ろ。核になっている場所があるはずだ」
「分かりました!」
エミリアは目を閉じ、精霊たちの力を借りて解析を始める。
その間にも、ゴーレムたちは歩みを進めていた。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
たった一歩で大地が揺れる。
巨大な戦斧が振り上げられた。
あの一撃をまともに受ければ、ただでは済まない。
「ツバサ」
「ああ」
ツバサが静かに日本刀へ手を添える。
居合の構え。
狙うのは関節部。
石の巨人にも通じるかは分からない。
だが、試す価値はある。
「セシリアは右を」
「任せて」
「俺が中央を抑える」
ビルセイヤが剣を構える。
古代神殿の入口。
そこは一瞬にして、決戦の舞台へと変わっていた。
守護者を突破しなければ、先へは進めない。
そして神殿の奥には、蛇の牙の真実が待ち受けている。
ビルセイヤたちは、武器を握り直した。
古代神殿攻略戦が、今始まる。
第二章 第六十七話
「古代神殿の守護者」
――続く。




