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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第一章 冒険者への第一歩編

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第十一話 剣の理

 オークジェネラル討伐から一夜が明けた。


 シーサスの街は、朝から活気に満ちていた。


 街道の安全が確保されたことで商人たちの往来も再開され、露店には新鮮な魚や果物が並んでいる。

 街の人々の表情も明るい。


 オークの脅威が取り除かれたことを、誰もが喜んでいた。


 そんな中、冒険者ギルドでは別の意味で賑わいが起きていた。


「おい、あいつだ」


「オークジェネラル戦の新人だろ?」


「Fランクだったよな?」


「信じられねぇ……」


 視線の先にいるのは、ビルセイヤだった。


 昨日の戦いで、すっかり名が広まったらしい。


 だが当の本人は、その視線をまるで気にしていなかった。


    ◇◇◇


 ギルド裏の訓練場。


 朝日が差し込む中、ビルセイヤは静かにロングソードを構えていた。


 異世界へ来てから初めて手に入れた剣。

 木の枝とは違う、正式な武器。


 だが、まだ完全に身体へ馴染んではいない。


 だからこそ振る。


 何度でも。

 何百回でも。

 何千回でも。


 剣は、一日休めば鈍る。


 かつて剣道の師に言われた言葉だった。


 ブンッ。


 鋭い風切り音が響く。


 踏み込み。

 斬撃。

 体捌き。

 呼吸。

 重心移動。


 一つ一つを確認するように、ビルセイヤは剣を振り続ける。


 昨日、オークジェネラルを倒した。

 だが、それは自分一人の力ではない。


 セシリアがいた。

 エミリアがいた。

 討伐隊がいた。

 ギルドマスターがいた。


 皆の攻撃で隙が生まれたからこそ、最後の一撃が届いたのだ。


 そこを勘違いしてはいけない。


 慢心は、剣を鈍らせる。


 そして剣が鈍れば、守れるはずのものを守れなくなる。


    ◇◇◇


「やっぱり、ここにいたんですね」


 聞き慣れない女性の声がした。


 ビルセイヤは剣を下ろして振り返る。


 そこには、エミリアが立っていた。


 銀色の長い髪。

 透き通るような白い肌。

 エメラルドグリーンの瞳。

 長い耳。


 朝日に照らされた姿は、まるで絵画のようだった。


「おはよう」


「お、おはようございます」


 エミリアは少し緊張した様子で頭を下げる。


 昨日知り合ったばかりなのだから、無理もない。

 それでも、こうして自分から声をかけてきたあたり、彼女なりに距離を縮めようとしているのかもしれなかった。


「朝から鍛錬ですか?」


「ああ」


「毎日ですか?」


「毎日だな」


 当然のように答えると、エミリアは目を丸くした。


「強いのに、ですか?」


 その言葉に、ビルセイヤは苦笑する。


「強いから鍛えるんだ」


「え?」


 エミリアは意味が分からないという顔をした。


    ◇◇◇


 ビルセイヤは剣を肩に担ぎ、静かに言う。


「昨日の戦いを思い出してみろ」


 エミリアの表情が真剣になる。


 忘れるはずがない。

 死を覚悟した戦いだった。


「俺はまだ弱い」


「そんなことありません!」


 エミリアは思わず声を大きくした。


 オークジェネラルと渡り合った人間が弱いはずがない。

 少なくとも、彼女にはそう見えた。


 だが、ビルセイヤは首を横に振る。


「昨日、あの戦斧をまともに受けていたら死んでいた」


「……」


「避けられたから生きているだけだ。仲間が隙を作ってくれたから、斬れただけだ」


 それは事実だった。


 紙一重の場面はいくつもあった。

 一歩間違えれば、ビルセイヤもセシリアもエミリアも命を落としていたかもしれない。


「慢心した瞬間に人は死ぬ。剣道でも、実戦でも、それは変わらない」


 ビルセイヤの声は静かだった。


 だからこそ、その言葉には重みがあった。


    ◇◇◇


「だから鍛える」


 ビルセイヤは再び剣を構える。


 その姿を見ながら、エミリアは尋ねた。


「そこまで強くなりたい理由があるんですか?」


 少しだけ沈黙が流れる。


 やがてビルセイヤは、静かに答えた。


「剣術の理だからだ」


「理?」


 聞き慣れない言葉だった。


 ビルセイヤは空を見上げる。


 青空が広がっていた。


「剣術は、人術だ」


 エミリアは首を傾げる。


 ビルセイヤは、手にした剣を見つめながら続けた。


「どんな綺麗事を並べても、剣術は人を制するための技術だ」


 エミリアが息を呑む。


 少し冷たい言葉にも聞こえた。

 だが、ビルセイヤの表情は真剣だった。


「戦場では、迷いが死を呼ぶ。だから現実から目を背けちゃいけない」


 剣は武器だ。


 武器は命を奪える道具だ。


 その本質を忘れてはいけない。


    ◇◇◇


 しかし、ビルセイヤは続けた。


「だけどな」


 剣をゆっくりと鞘へ納める。


「それだけじゃない」


「え?」


「人を制する力だからこそ、自分の心も制しなきゃいけない」


 ビルセイヤは、真っ直ぐエミリアを見る。


「剣を振るう理由を間違えれば、ただの暴力になる。だからこそ、自分を律して、守るために使わなきゃ意味がない」


 昨日の戦いを思い出す。


 もし剣がなかったら。

 もし力がなかったら。

 目の前の少女は助けられなかったかもしれない。


「俺は、人を傷つけるためだけの剣は打ちたくないし、振るいたくない」


 刀鍛冶として。

 剣士として。


 それは、ビルセイヤがずっと大切にしてきた考えだった。


    ◇◇◇


 エミリアは、胸の奥が温かくなるのを感じた。


 強い人だと思った。

 優しい人だとも思った。


 けれど今は違う。


 この人は――芯のある人だ。


 そう思った。


「素敵な考え方ですね」


 自然と言葉が漏れる。


 ビルセイヤは少し照れくさそうに笑った。


「大したものじゃない」


「そんなことありません」


 エミリアは小さく首を振った。


 そして、自分でも気づかないうちに、ビルセイヤを見つめる時間が少しずつ長くなっていた。


    ◇◇◇


 その時だった。


「見つけました!」


 元気な声が訓練場へ響く。


 振り返ると、セシリアが走ってきていた。

 手には一枚の依頼書を持っている。


 嫌な予感しかしない。


「どうした?」


「新しい依頼です!」


 満面の笑みだった。


 こういう時のセシリアは、大抵何かしら面倒事を持ってくる。


「今度は何だ?」


 ビルセイヤが尋ねる。


 セシリアは得意げに依頼書を掲げた。


「オーク討伐後の追加調査です!」


「調査?」


「はい!」


 セシリアは周囲を見回し、少しだけ声を潜めた。


「実はですね……」


 もったいぶるように言葉を切る。


「オークジェネラルがいた森の奥で、遺跡が見つかったそうです」


 空気が変わった。


 遺跡。


 その言葉には、冒険者を惹きつける何かがある。


 未知の発見。

 古代の財宝。

 失われた技術。

 そして危険。


「行くか?」


 ビルセイヤが尋ねる。


 セシリアは即答した。


「もちろんです!」


 エミリアも、少し緊張しながらも力強く頷く。


「私も行きます。昨日助けてもらったばかりですし、森のことなら少しは分かります」


 三人の視線が交わる。


 こうして、新たな冒険が始まることになった。


 まだ誰も知らない。


 その遺跡が、ビルセイヤの刀鍛冶としての運命を大きく動かし始める場所になることを。


 そして、後に世界を震撼させる伝説の刀へと繋がる最初の一歩になることを――。


---


第一章 第十一話


剣の理


――続く。

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