第五十六話 北部鉱山突入
オーガス北部鉱山――。
ビルセイヤたちは、鉱山を見下ろす岩場の上に立っていた。
眼下に広がる光景は、異様の一言だった。
鉱山の入口周辺に、大量の魔物が集まっている。
ゴブリン。
コボルト。
オーク。
さらに、ホブゴブリンの姿まで確認できた。
本来なら、同じ場所に共存することすら珍しい魔物たちである。
縄張り争いを始めてもおかしくない。
しかし、今は違った。
互いに争う様子がない。
それどころか、まるで一つの軍隊のように統率されている。
「完全に異常事態だな」
ツバサが低く呟いた。
その手は、腰に差した日本刀へ自然と添えられている。
ビルセイヤも静かに頷いた。
「誰かが操っている可能性が高い」
盗賊事件。
蛇の紋章。
黒ローブの人物。
そして今回の鉱山占拠。
全てが、少しずつ繋がり始めていた。
だが、今は推理をしている時間はない。
鉱山の奥には、取り残された採掘員たちがいる。
彼らを助けることが最優先だった。
「正面突破する」
ビルセイヤが言った。
セシリアが苦笑する。
「結局それなのね」
「時間がないからな」
最短距離で救助へ向かう。
それが今取れる最善の手段だった。
全員が頷く。
「行くぞ!」
ビルセイヤが岩場から飛び降りた。
続いてセシリア。
ツバサ。
エミリア。
クラン【ホーム】が一斉に突撃を開始する。
最初に気付いたのは、見張りをしていたゴブリンだった。
「ギャッ!?」
警戒の叫び声を上げる。
だが、遅い。
ビルセイヤの剣が閃いた。
ズバッ!
一閃。
ゴブリンが崩れ落ちる。
続けて二体。
三体。
まるで草を刈るような速度だった。
「ギャアアア!」
魔物たちが一斉に襲い掛かってくる。
だが、クラン【ホーム】は動じない。
「こっちも行くぞ!」
ツバサが日本刀を抜き放った。
キィン――。
澄み切った音が響く。
ビルセイヤに研ぎ上げられた愛刀。
その切れ味は、すでに常識の外にあった。
オークが振り下ろした棍棒。
ツバサはそれを正面から受け――。
斬った。
真っ二つになった棍棒が地面へ落ちる。
「なっ!?」
オークが目を見開く。
その隙を逃さない。
返しの一閃。
オークが崩れ落ちた。
「本当に凄い刀になったな……」
ツバサ自身も驚きを隠せない。
以前とは比較にならない切れ味だった。
一方。
「エミリア!」
「はい!」
エミリアが魔法陣を展開する。
「アイス・アロー!」
無数の氷の矢が放たれた。
正確無比な射撃。
ゴブリンたちの急所を次々と貫いていく。
「ウィンド・カッター!」
続けて、風の刃が走った。
魔物の群れをまとめて吹き飛ばす。
数分後。
鉱山入口周辺の魔物は、ほぼ壊滅状態になっていた。
セシリアが剣に付着した血を払う。
「入口は確保したわ」
「だが、本番はここからだ」
ビルセイヤは暗い坑道を見つめた。
薄暗い奥から、嫌な気配が流れてくる。
まるで、何かが待ち構えているかのようだった。
一行は坑道内部へ足を踏み入れる。
中は薄暗い。
採掘用の魔道ランプが点在しているが、十分な明るさとは言えない。
湿った空気。
岩壁から滴る水音。
反響する足音。
奥へ進む。
さらに進む。
すると――。
「助けてくれぇぇぇ!!」
悲鳴が聞こえた。
全員の表情が変わる。
「いた!」
ビルセイヤたちは一気に駆け出した。
やがて、広い採掘場へ辿り着く。
そこにいたのは、十数人の採掘員たちだった。
岩壁の一角へ追い詰められている。
そして、彼らを囲んでいたのは――。
巨大な魔物。
オーガの上位種。
レッドオーガだった。
身長は三メートルを超える。
赤黒い筋肉質の身体。
巨大な棍棒。
そして狂気を宿した血走った目。
「レッドオーガ……!」
セシリアが息を呑む。
Bランク冒険者でも油断できない強敵。
なぜ、こんな場所にいるのか。
しかし、ビルセイヤの視線は別の場所に向いていた。
レッドオーガの首。
そこには、黒い首輪が装着されていた。
見覚えのある黒い金属。
そして刻まれた紋章。
蛇。
「やはりか……」
ビルセイヤが目を細める。
盗賊たちが持っていた紋章。
黒ローブの人物。
そして魔物の統率。
全てが一本の線で繋がった。
「ビルセイヤ!」
ツバサが叫ぶ。
レッドオーガがこちらへ向き直った。
巨大な棍棒を振り上げる。
轟音。
地面が震える。
だが、ビルセイヤは静かに剣を抜いた。
その瞳に迷いはない。
「採掘員たちを守れ」
そして、静かに告げる。
「こいつは俺がやる」
仲間たちは誰一人として反対しなかった。
ビルセイヤなら勝てる。
そう信じているからだ。
レッドオーガ。
蛇の紋章。
そして黒幕へ繋がる手掛かり。
クラン【ホーム】はついに、陰謀の核心へと足を踏み入れ始めていた。
第二章 第五十六話
「北部鉱山突入」
――続く。




