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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
鍛冶革命編

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第五十五話 北部鉱山救出作戦

 オーガス鍛冶ギルドに、重苦しい緊張が走っていた。


 北部鉱山が魔物の群れに占拠された。


 その報告は、先ほどまで熱気に包まれていた工房を一瞬で静まり返らせるには十分だった。


 鉄鉱山はオーガスの生命線である。


 そこで採掘された鉄は、武器や防具だけでなく、農具や工具にも加工される。

 職人たちの仕事を支え、商人たちの取引を支え、街全体の経済を動かしている。


 もし採掘が止まれば、被害は計り知れない。


 だが、それ以上に深刻なのは――。


 鉱山内部に、採掘員たちが取り残されていることだった。


「詳しく話せ」


 ギルド長が険しい表情で、報告に来た男を見る。


 男は肩で息をしながら、必死に言葉を紡いだ。


「今朝早くです」

「採掘作業中、坑道の奥から大量の魔物が現れました」


 工房内がざわつく。


「魔物だと?」

「鉱山の中からか?」

「そんな馬鹿な……」


 職人たちの顔に動揺が広がった。


 男は悔しそうに拳を握る。


「作業員たちは避難しました」

「ですが……」


 そこで言葉が止まる。


 誰もが、続きの言葉を察していた。


「全員ではないのか?」


 ビルセイヤが静かに尋ねる。


 男は重々しく頷いた。


「十数名が、奥に取り残されています」


 その瞬間、空気が凍り付いた。


 家族が働いている者もいる。

 友人がいる者もいる。

 顔見知りがいる者もいる。


 ここにいる職人たちにとって、鉱山の採掘員はただの労働者ではない。

 同じオーガスを支える仲間だった。


「冒険者ギルドには連絡したのか?」


 ツバサが腕を組んだまま尋ねる。


「しました」

「ですが、高ランク冒険者たちは遠征中で……救援隊の編成に時間が掛かるそうです」


 オーガス周辺では依頼が重なっているらしい。

 街の戦力は不足していた。


 沈黙が落ちる。


 時間がない。

 だが、すぐに動ける者もいない。


 そんな空気を切り裂くように、ビルセイヤが口を開いた。


「なら、俺たちが行こう」


 静かな声だった。


 だが、その一言は工房中へはっきりと響いた。


 職人たちが一斉に振り返る。


「ビルセイヤさん?」


 エミリアが驚いたように目を見開く。


 しかし、ビルセイヤの表情に迷いはなかった。


「時間がない」

「助けられる命があるなら、助けるべきだ」


 あまりにも自然な言葉だった。


 昨日会ったばかりの街。

 昨日会ったばかりの職人たち。

 本来なら、彼にそこまで背負う義理はない。


 それでも、ビルセイヤは迷わない。


 困っている人がいる。

 助けを待つ人がいる。


 ならば動く。


 それが彼という男だった。


「本気か?」


 ギルド長が確認するように問う。


「もちろんです」


 ビルセイヤは即答した。


「見捨てる理由がありません」


 しばらく、ギルド長は何も言わなかった。


 そして――。


 深々と頭を下げる。


「頼む」

「助けてやってくれ」


 その声には、鍛冶師としての誇りと、人命を案じる切実な想いが込められていた。


 クラン【ホーム】は、すぐに準備を始めた。


 セシリアは剣と防具を点検する。

 エミリアは回復薬と魔力回復薬を確認する。

 ツバサは腰の日本刀を抜き、静かに刃を眺めた。


 ビルセイヤに研ぎ上げてもらった愛刀。


 今では以前とは別物の切れ味を誇っている。


「準備完了だ」


 ツバサが刀を鞘へ納める。


「こちらも大丈夫です」


 エミリアも頷いた。


 その時。


 リリアが一歩前へ出る。


「ビルセイヤ様」


 その表情には不安が浮かんでいた。


「気を付けてくださいね」


 隣ではミリアも両手を胸の前で握っている。


「皆さん、必ず無事に帰ってきてください」


 二人は戦闘要員ではない。


 最近、ツバサから護身術を習い始めたばかりだ。

 実戦に参加できる段階ではない。


 今回、二人はオーガスで待機することになった。


 ビルセイヤは二人へ優しく笑いかける。


「大丈夫だ」

「必ず全員で戻る」


 その言葉に、リリアとミリアは少しだけ安心したように頷いた。


 やがて、鍛冶ギルドが用意した馬車で北部鉱山へ向かう。


 オーガスを出発して約一時間。


 遠くに岩山が見えてきた。


 北部鉱山である。


 だが、近付くにつれて一行の表情は険しくなっていった。


 異常だった。


 坑道周辺に、大量の魔物がいる。


 ゴブリン。

 コボルト。

 オーク。


 さらには、ホブゴブリンの姿まで見えた。


「多すぎるわね……」


 セシリアが眉をひそめる。


「まるでスタンピードの前兆みたいです」


 エミリアも警戒を強めた。


 ビルセイヤは魔物たちの動きを観察する。


 そして、すぐに違和感へ気付いた。


 不自然だ。


 通常なら、種族の違う魔物同士は縄張り争いをする。

 ゴブリンとコボルト。

 オークとホブゴブリン。


 それぞれに習性があり、群れの動きも違う。


 だが、今は違った。


 魔物たちは互いに争っていない。

 無秩序に暴れているわけでもない。


 まるで一つの軍隊のように、鉱山入口を押さえている。


「ツバサ」


「ああ」


 ツバサも同じ結論に達していた。


「誰かが操ってるな」


 その一言で、全員の表情が引き締まる。


 盗賊事件。

 蛇の紋章。

 黒ローブの人物。

 そして今回の鉱山占拠。


 バラバラだったはずの事件が、少しずつ一本の線で繋がり始めていた。


 ビルセイヤは剣の柄へ手を置く。


「まずは救助だ」

「黒幕探しは後回しでいい」


 全員が力強く頷いた。


 今、最優先すべきことは一つ。


 坑道内に取り残された採掘員たちの救出。


 クラン【ホーム】は、北部鉱山へ向けて静かに動き出した。


 だが、彼らはまだ知らない。


 坑道の最深部で待ち受ける存在が、これまで戦ってきた敵とは比べ物にならない脅威であることを。


 そして、その存在こそが――。


 蛇の紋章へ繋がる、最初の手掛かりになることを。


第二章 第五十五話


「北部鉱山救出作戦」


――続く。

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