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第10話 ことわりの線 


森は、夜のあいだ中、静かだった。


静かすぎるほどに。


まちるは、眠ったのか眠っていないのか、自分でもよく分からないまま朝を迎えた。


仮小屋の隙間から、薄い光が差し込んでいる。

火はほとんど灰になり、細い煙だけが、湿った空気の中をゆっくり上がっていた。


外では、人夫たちが小声で道具を整えている。


斧の柄を確かめる音。

杭を束ねる音。

荷馬の鼻息。

濡れた草を踏む足音。


いつもの朝と同じようで、少し違っていた。


誰も大きな声を出さない。

笑い声もない。

昨夜、黒羽根が残した言葉が、まだ空気の中に残っているようだった。


本道は、臆病者の足跡ではない。


まちるは、その言葉を思い出して、ゆっくり起き上がった。


荷の上で丸くなっていたハクが、ぱっと顔を上げる。

白いエゾリスの小さな耳は、もう森の方を向いていた。


「お前も、眠れなかったのか」


まちるが小さく言うと、ハクは尾をふくらませたまま、短く鳴いた。


その声に、エアノーレが入口の方から振り返る。


藍色のローブをまとった彼女は、もう立っていた。

朝の光に、銀白色の髪が淡く浮かぶ。

腰には星律棍。

傍らには標尺。


ただの標尺持ちには見えない。

けれど、この場にいる誰も、今はそれを口にしない。


「おはようございます、まちる」


「おはようって感じでもないけどな」


まちるは三脚に手を伸ばした。


父の三脚は、仮小屋の隅で、昨夜と同じように鈍く光っている。

小坂を救った崖の時も、この道具は戻る線を支えた。


今日もまた、ただ地面を測るだけでは済まない気がした。


まちるは嫌な予感を押し込めるように、三脚を肩へ担いだ。


「黒羽根は」


「すでに外です」


「早いな」


「はい。命令を変更する気配はありません」


「だろうな」


まちるは仮小屋の外へ出た。


朝の森は、白い霧を低く抱えていた。

草の先に露がついている。

土は昨夜の湿りを残し、踏むと柔らかく沈む。


少し離れた場所で、黒羽根貞矩が図面を広げていた。


泥を嫌うように、乾いた木箱の上へ紙を置いている。

濃紺の上着。

金の釦。

仕立てのよい外套。

革手袋。


周囲の空気だけが濡れているのに、黒羽根だけが別の場所から切り抜かれて来たようだった。


久世直継は、その向かいに立っている。

顔は硬い。

だが、怒りをそのまま表には出していない。


八代源吾は、経緯儀の箱を足元に置き、森の奥と空の開け方を見ていた。

小坂新八は測旗を抱え、痛めた足を少しだけ庇っている。

その表情はいつもの軽さを残そうとしているが、目元には緊張があった。


アイヌの案内役は、図面を見ていなかった。


樹皮の繊維で織られた上衣は、雨気を含んで少し重そうに見える。

袖口と裾には、控えめな文様が走っていた。

腰には小刀を提げ、足は草の湿りを確かめるように、わずかに開いている。


彼は森を見ていた。


木々の奥。

草の倒れ方。

風の抜け方。

鳥の声の途切れ。


まちるたちが紙に描かれた線を見ているあいだも、彼だけは、すでに地面に刻まれている別の線を読んでいた。


黒羽根が杖の先で図面を叩いた。


「予定通り、第一候補線に杭を打つ」


誰もすぐには返事をしなかった。


その沈黙を、黒羽根は不服と受け取ったらしい。

薄い笑みを浮かべ、久世を見た。


「昨夜も言ったはずだ。本道の進捗は遅らせられん。札幌本庁舎の造営も控えている。人も物資も、線が通らねば動かん」


久世は静かに答えた。


「承知しています」


「承知しているなら、始めろ」


久世は一拍置いてから、人夫たちの方を向いた。


「作業を始める。ただし、昨日伝えた退避の合図は必ず守れ。森の奥に単独で入るな。銃持ちは前へ出すぎるな。馬は一か所にまとめず、すぐ動かせる位置へ回せ」


黒羽根の眉がわずかに動いた。


「ずいぶんと物々しいな」


「危険な線だと判断しています」


「まだ言うか」


「命令には従います。ですが、危険が消えたわけではありません」


二人の視線がぶつかった。


その間に、朝の湿った風が抜ける。


まちるは、三脚の脚を握り直した。


何も起きなければいい。

昨日の夜、そう願った。


黒羽根が間違っていなかったなら、それでいい。

自分たちが笑われるだけで済むなら、それでいい。


けれど、森はやはり静かだった。


静かすぎるほどに。


作業は、思ったより順調に始まった。


最初に草が刈られ、目印の杭が打たれていく。

小坂が測旗を立てる。

八代が方角を確かめる。

他の測量夫や人夫たちも、それぞれの持ち場で動き始めた。


雨宮班も作業に入る。

まちるが水準儀を据え、エアノーレが標尺を持つ。


「そこ、少し左」


「はい」


「止まれ。そのまま」


「この位置ですか」


「そう」


エアノーレは標尺を垂直に立てた。


藍色のローブの裾が濡れた草に触れる。

白い袖がその下から覗き、朝の光を少しだけ返す。


まちるは水準儀を覗き、数値を読む。

測量帳へ書き込む。


数字は、今のところ破綻していない。


第一候補は、水の道ではない。

そこだけは昨日の見立て通りだった。


足元は柔らかいが、大きく沈むわけではない。

低地の湿りも外している。

道として不可能な線ではない。


だからこそ、嫌だった。


完全に間違っているなら、止めやすい。

けれど、半分だけ正しい線は、もっと厄介だ。


「進むではないか」


黒羽根の声がした。


まちるは顔を上げた。


黒羽根は少し離れた場所に立ち、斧の音と杭打ちの音を聞いていた。

その顔には、昨夜と同じ薄い笑みが戻っている。


「水も出ない。地面も崩れない。人夫も動けている。現場の恐れとは、ずいぶん便利なものだな」


小坂の顔が引きつった。


「……あれ、言い返していいやつですかね」


八代が短く言う。


「やめておけ」


「源さん、止めるの早いですね」


「お前の口では火に油だ」


「ひどい」


「事実だ」


小坂は肩をすくめた。

けれど、その冗談にも力はなかった。


まちるは黒羽根を見返したが、何も言わなかった。


実際、午前中は作業が進んでいる。

黒羽根の目の前で、線は森へ入り始めている。


紙の上で引かれた線が、杭となり、足音となり、木に斧を入れる音となって地面へ移されていく。


その一つ一つが、まちるには重かった。


「雨宮」


久世が低く呼んだ。


「はい」


「数値は」


「今のところ、大きな問題はありません。水の道は外しています」


「そうか」


久世は、すぐに次の言葉を継がなかった。


測量帳に並ぶ数字を見つめ、森の奥へ視線を移す。

数値に問題がないことが、逆に、判断を難しくしていた。


「まちる」


エアノーレが標尺を抱えたまま戻ってきた。


「何だ」


「黒羽根さんは、勝ったような顔をしています」


「そうだな」


「まだ、何も終わっていません」


「分かってる」


まちるは測量帳を閉じた。


「でも、午前中だけ見れば、あの人の言い分にも見えるんだ。線は通る。人は動ける。水も出ない」


「それでも危険なのですか」


「危険だと思う。けど、それを今ここで証明できない」


まちるは、森の奥を見た。


案内役は、さっきから一度も笑っていない。

進んでいる作業を見ても、安心した顔をしていない。


むしろ、杭が一本打たれるたびに、少しずつ何かが狭まっていくような目をしていた。


「たぶん、危ないってのは、線を引いた瞬間じゃなくて、その線が奥へ入った時に出るんだ」


「奥へ」


「森の奥。人がまだ踏み慣れてない場所。すでに別のものが通っている場所」


エアノーレは、まちるの視線を追った。


「人の線と、山のものの線が重なる場所ですね」


「そういうことだと思う」


その時、ハクがまちるの肩で小さく鳴いた。


午前のうちは、まだ音があった。


斧が木に食い込む音。

枝が落ちる音。

杭を打つ音。

人夫たちの掛け声。

荷馬の鼻息。


森もまた、鳥の声や虫の気配を残していた。


だが、昼を過ぎる頃から、少しずつ空気が変わっていった。


作業線が、森の奥へ入り始めたのである。


太い木が増えた。

根が地面の下で絡み合い、足元の土を固くも柔らかくもしている。

空が狭くなった。

風が通りにくくなり、湿りがこもる。


まちるは水準儀を移しながら、何度も背中に視線を感じた。


誰かが見ているわけではない。

けれど、森の奥そのものが、こちらを見ているような気がした。


「エアノーレ、標尺を」


言いかけて、まちるは止まった。


ハクが肩の上で固まっていた。

小さな爪が、まちるの肩布を強く掴んでいる。

白い尾はふくらみ、目は森の奥を見ていた。


「ハク?」


返事の代わりに、ハクは短く鳴いた。


その声は、いつもの抗議でも、甘えでもなかった。


警告だった。


少し離れた場所で、荷馬が鼻を鳴らした。

首を振り、後ろ足で地面を掻く。

馬を押さえていた人夫が、慌てて手綱を引く。


「おい、どうした」


「落ち着け、落ち着けって」


鳥の声が、止まった。


まちるは、顔を上げた。


案内役が、森の奥を見ていた。

さっきまでと同じように立っている。

けれど、目だけが変わっていた。


彼は低く言った。


「下がれ」


その声は大きくなかった。

だが、不思議とその場にいた者たちの耳へ届いた。


久世が即座に反応した。


「作業を止めろ」


人夫たちが手を止める。

斧の音が消える。

杭を打つ槌が止まる。


黒羽根だけが、不愉快そうに眉を寄せた。


「何だ、熊か」


案内役は、黒羽根を見なかった。


「近い」


「見えるのか」


「見えない」


「ならば、なぜ分かる」


案内役は、森を見たまま答えた。


「森が先に黙る」


その言葉が落ちた瞬間、枝の折れる音がした。


乾いた音ではない。

太い枝が、重さに耐えきれず、湿ったまま裂けるような音だった。


人夫の一人が息を呑んだ。


もう一度、音がした。


今度は近い。


草が揺れる。

低い笹が割れる。

黒い影が、木と木のあいだから現れた。


まちるは、一瞬、呼吸を忘れた。


それは、ただの熊ではなかった。


森そのものが、形を持ってこちらへ出てきたようだった。

湿った毛。

盛り上がった肩。

太い前脚。

土を踏むたびに、地面がわずかに沈む。


まちるの知っている獣の大きさではない。


キムンカムイ。


案内役の言葉が、まちるの頭の中で重く響いた。


小坂が声を漏らす。


「……でかい」


八代が短く言った。


「下がれ」


だが、黒羽根は動かなかった。


一瞬、彼の顔から血の気が引いた。

それは誰の目にも分かった。


目の前の熊は、黒羽根の知っている熊とは違っていた。


本州で見た熊は、もっと小さかった。

山中で何度か仕留めたこともある。

銃声を聞けば逃げるものもいた。

当たり所がよければ、一発で崩れた。


だから黒羽根は、熊というものを知っているつもりでいた。


だが、目の前のキムンカムイは、黒羽根の記憶の中にいる熊ではなかった。


肩の高さが違う。

前脚の太さが違う。

こちらを見据える圧が違う。


人を避ける獣ではない。

銃声に驚き、森へ逃げ込む獣でもない。


黒羽根の喉が、わずかに鳴った。


けれど次の瞬間、彼は自分の顔を取り戻そうとした。


恐れたのではない。

そう自分に言い聞かせるように、口元を引き締める。


所詮、熊だ。

どれほど大きかろうと、獣は獣だ。


眉間を撃てば倒れる。

一発で倒れなければ、もう一挺ある。


黒羽根は、革手袋の手を上げた。


「銃を」


人夫の一人が、戸惑いながら単発銃を差し出す。

さらにもう一人が、二挺目を抱えていた。


黒羽根は、そこまで用意していた。


一発で仕留める。

駄目なら、すぐ次を撃つ。


本州の山で得た経験が、彼の恐怖を押しつぶしていた。


久世が鋭く言う。


「黒羽根殿、下がってください」


「撃てば済む」


「ここは本州の山ではありません」


「熊は熊だ」


案内役が低く言った。


「撃つな。浅く当てれば、怒らせる」


黒羽根は聞かなかった。


銃声が森を裂いた。


白い煙が広がる。

鳥の声が完全に消える。

荷馬が大きく身を震わせた。


弾は、キムンカムイの耳の端を掠めただけだった。


黒い巨体が、低く唸る。


黒羽根はすぐに二挺目へ手を伸ばした。

そこまでは想定していた。

一発で倒れなければ、続けて撃つ。


だが、熊の方が早かった。


ツキノワグマなら、銃声で怯んだかもしれない。

森の奥へ逃げたかもしれない。


目の前のキムンカムイは違った。


自分に手を出した者を恐れなかった。

むしろ、その者へ向かってきた。


巨体が、ありえない速さで間合いを詰める。


黒羽根の手が二挺目にかかる。

だが、構える時間がない。


「黒羽根殿!」


久世の声が飛んだ。


次の瞬間、キムンカムイの前脚が振るわれた。


黒羽根の体が横へ飛んだ。

外套が裂け、泥と血が濃紺の上着に散る。

革手袋の手から銃が離れ、湿った地面へ落ちた。


キムンカムイは止まらなかった。


倒れた黒羽根へ、さらに前脚を上げる。


まちるは、三脚を握って走っていた。


考えるより先に、体が動いていた。


熊の急所を、まちるは父から聞いていた。


鼻だ。


熊にとって鼻は、森を読むための器官だった。

水の匂い、獣の匂い、人の匂い、危険の匂い。

そのすべてを拾う場所。


そこを強く打たれれば、どれほど大きな熊でも、一瞬は動きが止まる。


倒せるわけではない。

追い払える保証もない。


ただ、一瞬だけ。


まちるは黒羽根と熊の間へ飛び込んだ。


「こっちだ!」


父の三脚を、両手で振り抜く。


狙いは、鼻っ柱。


挿絵(By みてみん)


鈍い手応えが、腕の骨まで響いた。


三脚の金属芯が軋む。

まちるの肩に、焼けるような痛みが走る。

手のひらの皮が裂けたように熱い。


キムンカムイの頭が、わずかに揺れた。


巨体が、一瞬だけ止まる。


その一瞬でよかった。


「まちる、下がってください!」


エアノーレの声が、すぐ近くで響いた。


まちるが飛び出した時、エアノーレもすでに走り出していた。


藍色のローブが風を受けて翻る。

銀白色の髪が、森の暗がりの中で青白く光った。


星律棍が展開する。


金属が伸びる音。

青い光が節に沿って走る音。

人の道具ではないものが、森の空気を変えていく。


エアノーレは、仕留めるための間合いではなく、まちると黒羽根を逃がすための位置に立った。


「排除はしません」


青い瞳が、まっすぐ巨体を捉える。


「距離を作ります」


星律棍の先端が、白く弾けた。


閃光。


昼の森が、一瞬だけ夜明けのように白く染まる。

続いて、腹の底に響くような爆ぜる音が走った。


銃声ではない。

火薬の音でもない。

雷に似ていて、雷とは違う。


キムンカムイが動きを止めた。


耳を掠めた銃弾にも怯まなかった巨体が、その未知の光と音に対して、はっきり警戒を見せた。


低く唸る。

前脚が地面を掻く。

だが、踏み込まない。


エアノーレも動かない。


睨み合いが続いた。


その間に、案内役が静かに、しかし強い声で言う。


「背を向けるな。走るな。ゆっくり下がれ」


久世が黒羽根の外套を掴む。

八代がすぐに手を貸す。

小坂も痛めた足を庇いながら、黒羽根の肩側を支えた。


「小坂、無理をするな」


「無理しないと、この人重いんですよ、源さん」


「黙って引け」


「はいはい……!」


人夫たちも、案内役の声に従って、背中を見せずに後退していく。

馬を押さえる者たちも、息を殺して手綱を引いた。


まちるは三脚を抱えたまま、後ずさった。

ハクが肩の上で小刻みに震えている。


エアノーレはまだ、そこに立っていた。


キムンカムイが、再び一歩踏み出そうとした。


その瞬間、エアノーレは星律棍を空へ向けた。


「二次制動。上方放出」


星律棍の節が、青白く明滅する。


次の瞬間、光が空へ走った。


爆光。


そして、雷鳴。


挿絵(By みてみん)


森の上で青白い電光が裂け、重い音が遅れて降ってくる。

空そのものが割れたような響きだった。


キムンカムイが、今度こそ大きく身を引いた。


それは敗走ではなかった。

恐慌でもなかった。


自分の知らないものを前にした獣の判断だった。


踏み込めば危険だと、そう見切ったように、巨体は低く唸り、森の奥へ身を翻した。


草が割れる。

枝が揺れる。

湿った黒い背が、木々の間へ消えていく。


誰も追わなかった。


誰も勝ったとは思わなかった。


音が戻ってくるまで、少し時間がかかった。


最初に聞こえたのは、まちる自身の息だった。

荒く、浅い。


次に、ハクの小さな鳴き声。

それから、馬の震える鼻息。

誰かが啜るように息を吸う音。


エアノーレの星律棍の光が、ゆっくり消えた。


まちるは膝から崩れそうになった。

だが、三脚を杖のようにしてどうにか踏みとどまる。


「……戻った、のか」


小坂が呟いた。


案内役は森の奥を見たまま、低く言った。


「今日は、一頭だった」


誰も口を挟まなかった。


「子連れでもない。腹を空かせきってもいない。だから戻った」


その言葉が、湿った森に落ちた。


案内役はゆっくり振り返る。

その目は、勝った者の目ではなかった。


「命が残っただけだ」


まちるは、三脚を見下ろした。


父の三脚の脚には、熊の毛が少しついていた。

金属の芯は無事だった。

けれど、握っていたまちるの手は震えていた。


測るための道具。

高さを読むための道具。

地面に線を引くための道具。


それが今、また人の命を受け止めていた。


小坂を救った崖の時と同じだ。


いや、同じではない。


あの時は、戻る線を支えた。

今日は、踏み込んではならない線の前で、一瞬だけ人を引き戻した。


「まちる」


エアノーレが近づいた。


「怪我は」


「手が痛い」


まちるは、どうにか笑おうとした。


「腕も、肩も、たぶん全部痛い」


「見せてください」


「後でいい。それより黒羽根は」


久世が黒羽根のそばに膝をついていた。


黒羽根は意識を失ってはいなかった。

だが、顔は白く、額に汗が浮かんでいる。

外套は裂け、肩から腕にかけて血が滲んでいた。


久世が手早く布を当て、血を押さえる。


「深いが、すぐに死ぬ傷ではない。馬車を出す。苫細の方へ戻す」


黒羽根は、荒い息の間から何かを言おうとした。


「……熊、が」


声が擦れていた。


「熊が、なぜ……」


まちるは、その言葉を聞いて、胸の奥が妙に冷えた。


黒羽根はまだ、分かっていないのかもしれない。

あるいは、分かりかけているからこそ、その言葉しか出ないのかもしれない。


案内役が、静かに言った。


「ここは、山のものが通る道だ」


黒羽根の目が、案内役へ向く。


「先に使っていた道だ。そこへ後から人の線を引けば、争いになる」


黒羽根は何も返せなかった。


まちるは、少し離れた場所に落ちている図面を見た。

泥がついている。

第一候補の赤い線は、濡れた土の跡で歪んでいた。


紙の上では、まっすぐだった。

けれど地面の上では、通らなかった。


それだけのことだった。


その日の作業は、当然ながら中止された。


黒羽根は応急処置を受け、馬車で後送されることになった。

表向きには、現場視察中の負傷。

療養のため、一時的に現場を離れる。


だが、誰もそれをただの療養とは思わなかった。


馬車へ運ばれる直前、黒羽根はまちるを見た。


その目に、いつもの薄笑いはなかった。

怒りも、はっきりした感謝もない。


ただ、理解しきれないものを見た者の、濁った沈黙があった。


まちるも、何も言わなかった。


礼を言われたいわけではない。

謝らせたいわけでもない。

勝ったつもりもなかった。


ただ、生きているなら、それでいいと思った。


黒羽根の視線が、まちるの三脚へ落ちた。


「……その道具で」


声は弱かった。


「熊を、仕留めるつもりだったのか」


まちるは三脚を見た。


「そんなことはできません」


黒羽根の眉が、かすかに動く。


「じゃあ、なぜ」


「一瞬だけでも、動きを止めたかった」


まちるは答えた。


「それだけです」


黒羽根は、何かを言いかけた。

だが、言葉にはならなかった。


まちるは、少しだけ息を吐いた。


「死なれると、寝覚めが悪いんです」


小坂が後ろで小さく吹き出しかけ、すぐに口を押さえた。

八代が肘で小坂を突く。


黒羽根は、まちるを見た。

そして初めて、わずかに目を伏せた。


謝罪ではない。

感謝でもない。


けれど、昨日までの黒羽根なら決してしなかった仕草だった。


馬車が動き出す。

車輪が泥を踏む。

濃紺の外套の破れが、車の揺れに合わせて小さく動いた。


まちるは、馬車が森の向こうへ消えるまで見送った。


久世も、しばらく馬車の消えた方角を見ていた。


やがて、その視線がエアノーレへ移る。


エアノーレは何事もなかったように、星律棍を収めていた。

その仕草だけ見れば、静かな標尺持ちである。


だが、さきほど森の上へ走った青白い光を、久世は確かに見ていた。


「……服部半蔵か」


エアノーレが首を傾げる。


「はっとり、はんぞう」


「いや、こちらの話だ」


久世は小さく苦笑した。


「忍びの術というには、少々派手すぎるが……標尺持ちにしておくには惜しいな」


「引き抜かないでください」


まちるは、間を置かずに言った。


久世は片眉を上げた。


「考えておく」


「考えないでください」


小坂が、痛めた足を庇いながら笑いをこらえた。

八代は何も言わなかったが、目だけが少しだけ細くなっていた。


エアノーレは、まちると久世を交互に見た。


「わたくしは、引き抜かれる可能性があるのですか」


「ない」


まちるは即答した。


「うちの標尺持ちだ」


久世はその言葉に、ほんの少しだけ表情を緩めた。


「ならば、雨宮班に感謝しておく。今日ばかりはな」



「まちるさん」


小坂がそっと声をかける。


「手、大丈夫ですか」


「大丈夫じゃない」


「ですよね」


「痛い」


「ですよねえ」


「でも、お前の足ほどじゃないかもな」


小坂は自分の足を見て、苦笑した。


「いやあ、こっちはもうだいぶ良いんですけど、今日のでまた変な力が入っちゃいまして」


八代が言う。


「休め」


「源さん、優しい」


「邪魔になる前に休めと言っている」


「優しさの形が硬い」


まちるは、少しだけ笑った。


笑えることが、少し不思議だった。


まだ森は怖い。

手は痛い。

黒羽根の血の匂いも、銃声の残りも、体の奥に残っている。


それでも、人が生きている。

小坂が軽口を言える。

八代がいつも通り短く返す。

久世が黙って次の判断を考えている。


そのことに、まちるは少しだけ救われた。





翌朝、久世は図面を広げた。


昨日と同じ木箱の上だった。

だが、そこに置かれた図面は、もう昨日と同じには見えなかった。


第一候補の赤い線には、泥の跡が残っている。

久世はしばらくそれを見つめてから、筆を取った。


そして、その線に一本、横線を引いた。


強く。

迷いなく。


小坂が小さく息を吐く。


「消えましたね」


八代が言う。


「最初から消すべき線だった」


「源さん、昨日のうちにそれ言ってほしかったです」


「言った」


「言いましたっけ」


「顔で言った」


「顔だけじゃ伝わりませんって」


まちるは、思わず笑いそうになった。

だが、久世が次の線をなぞったので、すぐに表情を戻した。


第三候補。


少し迂回する線。

太い森を避け、水の道を外し、キムンカムイの通り道からも距離を取る線。


久世は言った。


「この線で行く」


誰も異論を挟まなかった。


案内役は、森の方を見ている。

昨日キムンカムイが消えた方角ではなく、第三候補の方角を見ていた。


やがて、彼は小さく頷いた。


「そちらなら、通れる」


久世はその言葉を受けて、図面の上に線を引き直した。


その線は、紙の上では遠回りに見えた。

曲がっていた。

不格好にも見えた。


けれど、まちるには昨日よりずっと確かな線に見えた。


土地に逆らわない線。

水を避ける線。

獣と争わない線。

人が生きて通るための線。


エアノーレが、まちるの横に立った。


「これが、地のことわりを読んだ線ですか」


まちるは少し考えた。


「たぶんな」


「ことわり、とは」


「水が流れる場所には水の理がある。獣が通る場所には獣の理がある。森には森の、地面には地面の理がある」


まちるは、図面の曲がった線を見た。


「人が道を作るなら、それを無視しちゃいけない。無視すれば、争いになる。昨日みたいに」


エアノーレは静かに聞いていた。


「人間が決めるのではなく、土地と折り合うのですね」


「そうだな」


まちるは少しだけ笑った。


「あんたにしては、いい言い方だ」


「学習しています」


「それ、自分で言うなよ」


エアノーレは、少し首を傾げた。


まちるは三脚を見た。


父の道具。

父が残した未完の地図。

そして、今ここに引かれている新しい線。


森蔵なら、どうしただろう。


昨日の夜と同じ問いが、また胸の奥に浮かんだ。

でも、今朝のまちるは、少しだけ答えに近づいた気がしていた。


父なら、きっと測った。

何度でも。

地面を見て、人に聞いて、危険を危険として扱った。


そして必要なら、曲げた。


笑われても、怒られても。


「まちる」


エアノーレが呼んだ。


「何だ」


「昨日、あなたは黒羽根さんを助けました」


「まあ、そうだな」


「嫌いではなかったのですか」


まちるは少しだけ目を細めた。


「嫌いだよ」


「では、なぜ」


「嫌いなやつが死んでいい理由にはならない」


エアノーレは黙った。


まちるは肩をすくめる。


「それに、あの人が死んだら、昨日の線がただの罰で終わる。土地のことわりを知らないやつが死にました、終わり、ってなる」


「それでは足りないのですか」


「足りない」


まちるは図面を見た。


「生きて、見た方がいい。自分が引こうとした線が、何を踏んだのか」


エアノーレの青い瞳が、少しだけ揺れた。


「まちるは、厳しいです」


「そうか?」


「はい。殺すよりも、生かして見せる方が厳しい場合があります」


まちるは、一瞬だけ言葉に詰まった。


そんなつもりはなかった。

ただ、死なせたくなかっただけだ。


けれど、エアノーレの言葉は、どこかで当たっている気もした。


「……星の軍人は、嫌なこと言うな」


「すみません」


「謝るな。たぶん、それも間違ってない」


ハクが肩の上で、ぺし、とまちるの頬を叩いた。


「痛っ」


「ハクさんは、まちるに休息を求めています」


「分かってるよ。手が痛いのも知ってる」


まちるは、右手を見た。

布で巻かれた手のひらが、じんじんと熱を持っている。


エアノーレが静かに言う。


「治療します」


「星の力で?」


「簡易処置です。完全な治癒ではありません」


「じゃあ、後で頼む」


「今でも可能です」


「今は久世さんの話を聞く」


「まちる」


「何だよ」


「あなたは、休むことも学習してください」


まちるは目を丸くした。

それから、小さく笑った。


「それ、あんたに言われるのは心外だな」


エアノーレは真面目な顔で答える。


「わたくしも学習中です」


今度こそ、まちるは笑った。


久世が図面から顔を上げる。


「何を笑っている」


「いえ。なんでもありません」


「手は」


「痛いです」


「なら休め」


「久世さんまで」


「命令だ」


まちるは口を尖らせた。


「みんなして私を休ませようとする」


小坂が横から言った。


「昨日熊に突っ込んだ人に言われても説得力ないですよ」


「お前だって足痛めてるだろ」


「僕は熊には突っ込んでません」


「崖から落ちかけただろ」


「それはもう終わった話です」


八代が短く言う。


「終わっていない。まだ歩き方が悪い」


「源さん、見てたんですか」


「見れば分かる」


「怖いなあ、もう」


そのやり取りに、久世の表情がわずかに和らいだ。


だが、すぐに彼は図面へ視線を戻した。


「第一候補は破棄。第二候補も水の戻りで外す。第三候補を本道の修正線として記録する。理由は、伐採量、湿地回避、獣道との干渉回避。黒羽根殿の負傷も含め、報告は私が上げる」


まちるは頷いた。


「はい」


「雨宮」


「はい」


久世は、そこで図面から目を離した。


視線は、まちるの顔ではなく、彼女の傍らに置かれた三脚へ向いていた。


「昨日の無茶は、褒められたものではない」


まちるは、少しだけ肩を縮めた。


「……はい」


「だが、責めるつもりもない。あの一瞬がなければ、黒羽根殿は死んでいた」


まちるは目を伏せた。


「私は、一瞬だけ止めただけです。その先は、エアノーレに助けられました」


「だが、その一瞬を作れる者は、そう多くない」


久世は静かに言った。


「お前の父も、よく似たことをした」


まちるは顔を上げた。


久世は、まだ三脚を見ていた。


「線を引く時、森蔵先生はいつも言っていた。道具は地面を測るためだけのものではない。人がどこまで踏み込んでよいかを考えるためのものだ、と」


まちるの胸が、静かに詰まった。


「父さんが」


「ああ」


久世は少しだけ笑った。


「もっとも、先生は口でそう言っても、自分ではずいぶん無茶をしたがな」


「……そこは似たくなかったです」


「もう遅いかもしれん」


小坂がぼそりと言う。


「雨宮さん、きっとそこも継いでますよ」


「うるさい」


まちるは言い返したが、声には力がなかった。


父の話が出ると、まだ胸が痛む。

けれど、今日の痛みは、ただ悲しいだけではなかった。


森蔵が残したものが、少しずつ今の自分の手元へ戻ってきている。

そんな気がした。


未完の地図。

識別番号。

中継器の配置。

古帝国軍への静かな挑戦。

そして、土地のことわりを読む目。


まちるは、その続きを歩いている。


久世が図面を畳んだ。


「行くぞ。線を戻す」


「はい」


まちるは三脚を持ち上げた。


手は痛い。

腕も痛い。

肩も痛い。


それでも、立てた。


エアノーレが標尺を手に取る。

ハクがまちるの肩へ戻る。

小坂が測旗を担ぎ直す。

八代が経緯儀の箱を持ち上げる。

案内役は、第三候補の方へ先に歩き出した。


森はまだ深い。


だが、昨日とは少し違って見えた。


人の線が、すべて悪いわけではない。

道を作ることが、すべて間違いなわけでもない。


ただ、そこにはすでに水の線があり、獣の線があり、風の線があり、土地の理がある。


人が道を引くなら、それらと争わずに通る線を探さなければならない。


それが、ことわりの線なのだと、まちるは思った。


北へ。


さらに北へ。


曲がった線が、まっすぐな目的へ向かって伸びていく。


____________



遠く離れた場所で、別の線が動き始めていた。


地上の森ではない。

湿った草地でもない。

人の声も、馬の息も届かない場所。


古帝国軍の監視記録層。


そこには、地球の地名は存在しなかった。

白樺の水辺も、ポロチケウも、幌別も、苫細もない。


表示されるのは、識別番号。

座標。

管理半径。

稼働状態。

反応密度。


黒紫の光が、暗い空間に幾重にも浮かぶ。


ラグネブは、その前に立っていた。


明るい髪。

紫の瞳。

若い顔に浮かぶ、苛立ちを隠そうともしない表情。


彼の前には、複数の中継器記録が並んでいる。


外殻損傷なし。

表層動作正常。

反応遮断なし。

管理半径維持。


だが、内部記録の一部に、同じ形の空白がある。


ほんのわずかな遅れ。

読み飛ばしのような欠落。

表面上は正常に見えるが、深部にだけ残る異物の痕。


ラグネブは舌打ちした。


「壊していない」


傍らの兵が無言で控えている。


「外殻を破壊したわけでも、通信を止めたわけでもない。表層は正常。だが、記録だけが欠けている」


紫の表示が、別の中継器へ切り替わる。


同じ空白。


次も。


また次も。


それは、ただの故障ではなかった。

一つの地点だけなら偶然で済む。

二つなら誤差と言える。

だが、複数の中継器に、同じ種類の空白が残っている。


しかも、並びがあった。


外周北東列。

低密度管理域。


地球文明側の地名など、古帝国軍にはどうでもよい。

だが、座標上では明らかだった。


空白は、移動している。


「誰かが触っている」


ラグネブの声が低くなる。


「だが何をしたのかは分からない。外からは正常に見せている」


彼の口元が歪んだ。


怒りと、わずかな高揚。


「まさかトメインの残党か」


その時、背後から静かな声がした。


「断定するには早い」


ラグネブは振り返った。


イリゲリアが立っていた。


黒紫の軍装。

落ち着いた眼差し。

ラグネブの苛立ちを、まるで浅い水面の揺れでも見るように見ている。


「ですが、この装置の内部に手を入れるなど、地球内の個体には不可能です」


「通常ならば、そうだ」


「ならば」


「だからこそ、急ぐな」


イリゲリアは、浮かぶ記録を見上げた。


「追えば、痕跡は消える。相手が表層を残している以上、こちらが動いたことも読まれる」


ラグネブは歯を食いしばった。


「では、放置するのですか」


「放置ではない」


イリゲリアの指が、次の中継器列を示した。


「次に接触される可能性の高い中継器を割り出せ。連続配列、移動方向、反応間隔を照合する」


表示が次々と変わる。


識別番号。

座標。

管理半径。

地表反応密度。

異常発生間隔。


地球の地図ではない。

だが、そこには確かに一本の線が現れ始めていた。


「外殻は触るな」


イリゲリアが言った。


「異常も消すな。正常に見えるまま置いておけ」


ラグネブの紫の瞳が細くなる。


「罠にするのですか」


「罠というほど粗くはない」


「では何です」


イリゲリアは静かに答えた。


「空白は、追うものではない」


表示の中で、次の中継器が淡く光る。


「囲むものだ」


ラグネブは、その光を見た。


苛立ちはまだ消えていない。

だが、その奥に、獲物を見つけた若い獣のような笑みが浮かぶ。


「では、待てばいいのですね」


「待て。そして識別しろ」


「排除は」


「まだだ」


イリゲリアの声は冷たかった。


「まずは、誰が地球牢獄の網へ手を入れているのかを知る」


ラグネブは、ゆっくり頷いた。


紫の表示が、暗い空間に脈打つ。


地上では、まちるたちが土地のことわりを読み、曲がる線を選び直していた。


星側では、古帝国軍が見えない網の上で、次の線を絞り込んでいた。


二つの線は、まだ遠い。


けれど、確実に近づいていた。



つづく



著:國風惠昂

あとがき


第10話「ことわりの線」では、黒羽根が強行した第一候補の線により、まちるたちはキムンカムイと対峙することになりました。


今回は、昨今ニュースでもたびたび目にする、熊が人間の生活圏へ入り込む問題を想起させる話でもあったかもしれません。


もちろん、本作の舞台は明治初期の北海道であり、現代の市街地や住宅地で起きている熊出没とは状況が異なります。


ただ、根にあるものは少し似ています。


人には人の暮らしがあり、道を通し、家を建て、物を運び、生活圏を広げていく必要がある。


一方で、山には山のものの通り道があり、水の道があり、獣の道がある。


どちらか一方だけが正しい、という話ではありません。


けれど、人間が紙の上で引いた線を、そのまま土地へ押しつけようとした時、すでにそこにある別の線とぶつかることがある。


今回のキムンカムイは、悪役として現れたわけではありません。


そこは、先に山のものが使っていた場所だった。


そこへ後から人間の線が入り、黒羽根が「熊は撃てば済む」と考えたことで、衝突が起きました。


まちるが三脚で作ったのは、勝利ではありません。


エアノーレが星律棍で作ったのも、討伐ではありません。


ただ、距離を作っただけです。


案内役の言う「命が残っただけだ」という言葉は、この話の中でとても大切な一言になりました。


人が自然に勝ったのではない。


熊を懲らしめたのでもない。


ただ、今回は戻ってくれた。


ただ、今回は生き残れた。


その事実を前にして、まちるたちはようやく、第一候補の線を消します。


道を作ること自体が悪いわけではありません。


けれど、道を引くなら、地のことわりを読まなければならない。


水の線。

獣の線。

風の線。

人が生きて通るための線。


それらを無視して、紙の上のまっすぐさだけを信じれば、いつか必ず、現実の土地に拒まれる。


第10話の「ことわりの線」は、そんなお話でした。


そしてラストでは、古帝国軍がまちるたちの動きに気づき始めます。


地上では、まちるたちが土地のことわりを読み、道の線を選び直している。


星側では、古帝国軍が中継器の空白を読み、次の罠の線を引き始めている。


人の線。

獣の線。

土地の線。

星の網の線。


それぞれの線が、少しずつ重なり始めました。


次回、まちるとエアノーレの旅は、さらに危うい場所へ踏み込んでいきます。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次回も、北へ向かう二人の旅にお付き合いいただければ幸いです。

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