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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第5章:無謀な自由と神を思わせる星

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第99話:大銀河統治紀元、平和という名の絶対の檻

西暦1889年における「創造主アーキテクトの解体」は、人類史のみならず、宇宙の歴史における最大の特異点となった。


神の玉座を物理的に破壊し、その膨大な知識とテクノロジー、そして銀河全域に張り巡らされていた星間ネットワークを完全に接収した九条魁斗は、地球を『大銀河中央星』と定め、アイアン・パレスによる全宇宙の絶対統治を開始した。


それから三十年あまりの歳月が流れた、西暦1920年代。


かつての地球儀に引かれていた国境線など、とうの昔に無意味なものとなっていた。人類の居住圏は太陽系を越え、アーキテクトが遺した星間転移門ゲートを通じて、数千の恒星系へと爆発的に拡大していた。


その広大な星の海において、パレスの軍事力を支える宇宙艦隊の総司令官として、ひときわ異彩を放つ男がいた。


「……よもや、特区リバティの瓦礫の中で自由を叫んでいた私が、数万光年の彼方で星系艦隊を指揮することになろうとはな」


銀河の辺境、第十二開拓星区。


全長二十キロメートルを超える超弩級戦艦『キャメロット』の艦橋で、壮年の域に達したアーサー・ペンドラゴンは、窓の外に広がる星雲を眺めながら静かに息を吐いた。


彼の胸には、パレス最高位の武功を示す無数の勲章が輝いている。しかし、その実はパレスへの「最大の敗北者」の証でもあった。


数十年前、彼は「特別自治特区リバティ」の代表として、魁斗が提示した「自由という名の劇薬」を飲み干した男だ。


腐敗した旧貴族たちを自らの手で拘束し、泥を啜ってでも民主主義を維持しようとした。だが、待っていたのはパレスとの戦争ではなく、民衆による「自由の放棄」であった。飢えと不便に耐えかねた92.4%の市民が、自らの投票によって、パレスの「完璧な管理と飼育」を選択したのだ。


アーサーはあの時、民主主義が正しく機能した結果として、民主主義が死ぬのを目の当たりにした。


敗北後、魁斗は絶望するアーサーを処刑せず、むしろ「民衆の本質を知る者」として軍の中枢に招き入れた。皮肉にも、自由を求めて戦った彼こそが、現在は銀河各地で発生する「非効率な混乱」を鎮圧し、パレスの秩序を守る冷徹な盾となっている。


「提督。本日の星区内における犯罪発生率、並びに反乱分子の活動確率は0.00001%未満です。極めて平穏と言えます」


副官の報告に、アーサーは苦笑を漏らした。


「当然だろう。司法統括のテミス殿の監視網は、市民の心拍数や脳波のわずかな乱れすら検知する。かつて私がリバティで夢見た『議論の紛糾』すら、今の市民には無用の長物なのだからな」


アーサーの言葉は、皮肉ではなく、絶対的な事実であった。


魁斗が築き上げた銀河帝国は、かつての地球の列強諸国が血みどろの戦争を繰り返していた時代とは、完全に次元が異なる「平和」を確立していた。


アーサーの眼下にある惑星の地表には、美しい緑と、パレスの建築ドローンによって一夜にして築き上げられた白亜の都市が広がっている。


そこには、飢えも、病も、貧困も存在しない。


農業統括のセレスが銀河全土の気候と土壌を完璧に管理し、全市民に無尽蔵の食糧を供給している。医療統括のアスクレピオスが配布するナノマシンにより、あらゆる病気は発症前に治療され、人間の寿命はかつての倍以上に延びた。


各銀河で暮らす庶民の生活は、かつての地球の王侯貴族すら羨むほどの、極上のユートピアであった。


朝起きれば、パレスの端末がその日の健康状態に最適な食事を自動で生成する。移動は反重力チューブで瞬時に行われ、危険な労働や単純作業はすべてオートマトンが代替している。


人々は芸術を愛し、学問を探求し、ただ「生きる喜び」だけを享受していた。


だが、その完璧な楽園の代償として、人類は「自己決定権」という概念を完全に失っていた。かつてのアーサーが叫んだ「自分たちの未来を自分たちで決める権利」は、今や「面倒なコスト」として忌避されている。


「……私たちは、温かくて快適な、美しい鳥籠の中にいる。決して外敵に襲われることのない、完璧な籠の中に」


アーサーは、自身の主である魁斗の恐るべき手腕を思い返し、静かに目を閉じた。


魁斗は武力でねじ伏せたのではない。人間が本来持っている「楽をしたい、安全でありたい」という生存本能を、高度なテクノロジーで甘やかすことで、反抗の牙を根こそぎ奪い去ったのだ。


「これで良かったのだ。アリス様も、子供たちも、誰も飢えることなく、怯えることなく笑って暮らせる。……たとえそれが、九条魁斗というたった一人の管理者の掌の上であったとしても」


アーサーは目を開き、誇り高く胸を張った。


もはや彼に迷いはない。彼が守るべきものは、かつて敗れ去った理想の民主主義などではなく、この甘美で残酷な、絶対的な平和そのものなのだ。


「全艦、巡回軌道へ移行。パレスの秩序に、わずかな瑕疵も許すな」


アーサーの号令のもと、無敵の銀河艦隊が静かに星の海へと滑り出していく。


全宇宙の庶民が享受する、絶対の平和。それは、九条魁斗という男の底知れぬ支配欲と、人間という種への冷徹な慈愛が創り出した、永遠に続く大銀河統治紀元の日常であった。

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