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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第5章:無謀な自由と神を思わせる星

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第95話:飽和する虚空、太陽系絶対防衛圏の再構築

西暦1889年5月6日。


人類が長きにわたる国家間の争いを終え、パレスの絶対的な管理の下で手にした「偽りの平和」の翌日。


太陽系外縁部は、宇宙の真の支配者による、容赦のない物理的圧殺の脅威に晒されていた。


海王星軌道よりさらに外側、エッジワース・カイパーベルト。


かつて冥王星域で異星艦隊を塵に換えた、パレスの絶対防衛線。


そこには今、魁斗が策定した広域防衛アルゴリズムに基づき、数千万隻の無人迎撃艦『オートマトン・セカンド』を統制する、人類史上最大の軍事ネットワークが展開していた。


彼らは平面的な陣形ではなく、太陽系という巨大な空間を丸ごと包み込む、幾重もの巨大な「球状防衛網」を構築し、静かにその時を待っていた。


「……ダイソン球からの演算接続は、完全に遮断されました。現在はパレス単体の量子計算機群で並列処理を行っていますが……マスター、敵の『質量』が、我々の観測限界を突破しています」


アイアン・パレスの最深部に位置する聖域、エリュシオンの中央司令室。


常に冷静な設計・意匠統括のダヴィンチの報告は、もはや恐怖を通り越し、乾いた絶望に染まっていた。


メインスクリーンに映し出されたのは、太陽系を全方位から包囲するように現れた、創造主アーキテクトの駆除艦隊の姿だった。


空間の亀裂から溢れ出す、滑らかな銀色の流線型を持つ艦影。


その数は、数千億。


秒速数千キロメートルという、惑星間航行としては現実的な、しかし軍事的な「質量兵器」としては致命的な速度で、彼らは太陽系の中心部へと静かに進軍を開始していた。


「敵総質量の計算、完了しました。……控えめに言って、恒星ひとつ分に匹敵します。このままの速度で接近を許せば、兵器による攻撃を待つまでもなく、彼らの持つ質量そのものが生み出す重力異常によって、太陽系の天体軌道はズタズタに引き裂かれます」


軍事・戦術統括のカルマが、抑揚のない声で絶望的な数値を読み上げる。


隣では、戦略眼・大局統括の老参謀オーディンが、無数に展開された星図のホログラムを睨みつけながら重々しく頷いた。


「……なるほど。小細工は不要というわけですか。一点を穿つ槍ではなく、全方位から押し潰す『質量の壁』として我々を処理しにきた」


魁斗はエリュシオンの司令塔のコンソールに向かい、落ち着いた手つきでマクロな指示を入力した。


オーディンとカルマが提示する「防衛網の歪み」の予測グラフを俯瞰し、戦略的な優先順位を決定し、大局的な機動方針を指示する。


複雑な微調整はパレスのAIと優秀な統括官たちが担い、魁斗はその「意志」と「決断」にのみ集中していた。


敵は複雑な戦術など持っていない。


ただ、太陽系という小さな座標の中心に向けて、膨大な艦隊を「物理的な重し」として静進させ、太陽系の重力バランスを根底から破壊し、あらゆる天体を軌道から弾き飛ばそうとしているのだ。


「ダヴィンチ、全オートマトンに『空間断層砲ディメンション・カッター』の斉射を命じなさい。ただし、狙いは敵艦の本体ではなく、彼らの表面を覆う『空間の歪み』です」


「了解! ……ですがマスター、敵の装甲は厄介です! 一隻一隻が、ワープ技術を応用した『ワープ装甲』を常時展開しています!」


ダヴィンチの言う通り、放たれた空間断層の刃や対消滅光弾は、敵艦の表面に触れる直前、極小のワープ門によって強制的に「別の座標の虚空」へと転送され、無力化されていく。


被弾の瞬間に空間の「入口」を開き、エネルギーを無害な「出口」から捨てる、無敵の盾。


「ええ、分かっています。一隻のワープ門の隙間をこじ開けて撃沈する間に、数万隻の接近を許してしまう。……ならば、こちらも『効率』の限界を超えればいいだけの話です」


魁斗は防衛網の数値を冷静に見極め、戦略的な遅滞戦闘を指揮し続ける。


前方から迫る数千億の銀色の波に対し、パレスの計算機群は、全ての移動軌道の予測を繰り返し、防衛の球体を徐々に収縮させていく。


一歩でも判断を誤れば、防衛網の「穴」から数万の艦魂が滑り込み、地球を含む内惑星系は敵の巨大な質量に捉えられ、天体軌道が致命的に狂わされる。


球状防衛網は、敵の圧倒的な圧力に押され、少しずつ、だが確実に太陽系の中枢へと後退を余儀なくされていた。


「マスター! 第四から第七防衛層が突破されました! この移動速度のままでは、あと十数日で敵の最前列が木星軌道に到達します!」


教育・洗脳統括のアテナが悲痛な声を上げる。


だが、司令席に座る魁斗の口角は、不敵に吊り上がっていた。


「慌てる必要はありません、アテナ。敵が『数』という無骨な力押しを選んでくれたおかげで、彼らは見落としているのですよ。……自分たちが今、どれほど『密集』しているかということに」


一方、地球のアイアン・パレス内部では、この未曾有の危機に対し、各部門の統括官たちが異常なまでの熱量で稼働していた。


重工業・兵器統括のヴァルカンと、熱源・動力統括のカグツチは、溶鉱炉の出力を限界まで引き上げ、弾薬と無人艦艇の文字通りの「無限生産」を続けている。


「休むな! 冷却液の循環を絶やすな! マスターの盾となる兵器を、一秒に一万隻のペースで吐き出し続けろ!」


ヴァルカンの怒号が工場区画に響き渡る。


そして、医療区画では、シエルの付き添いのもと、アリスやルイーゼ、イザベラといった妃たちが、祈るように手を組んでいた。


彼女たちの瞳に、恐怖はない。過去の時代において国家の命運を背負っていた頃の重圧はとうに消え去り、今はただ、自らの絶対的な主である魁斗が、神すらも凌駕する奇跡を起こすことを狂信的に信じ切っていた。


「……魁斗様。どうか、哀れな鉄屑どもに、貴方様の真の恐ろしさを教えて差し上げてくださいませ」


プロイセン出身のルイーゼが、恍惚とした表情で呟く。


そしてその頃。


地球から数千光年離れた、静謐と調和に満ちた翠緑の楽園、新発見惑星『エデン』。


農業・食糧統括のセレスと気象観測統括のアイオロスによって完璧に環境が管理されたこの星の軌道上で、航海・海図統括のコロンブスは、巨艦のブリッジから深宇宙の海図を睨みつけていた。


「……見つけたぞ。太陽系を包囲しているあの巨大な群れの『発信源』を」


コロンブスが指し示したモニターには、銀河の暗黒星雲の奥深くに隠された、ひとつの巨大な恒星系の座標が映し出されていた。


「創造主の真の本拠地は、この星系だ。……マスター魁斗の予測通り、奴らも無から湧いて出たわけじゃない。物理的な『母星』が必ず存在する」


コロンブスは不敵に笑い、通信・電信統括のヘルメスを通じて、暗号化された座標データを地球のエリュシオンへと送信した。


数分後、魁斗からの返答は、極めて簡潔で冷酷なものであった。


『防衛の成否を待つ必要はありません。戦力は十分。ただちにその座標へ長距離跳躍し、敵本拠地の防衛網を削りなさい。……指示通りの強襲を行えば、奴らの心臓は容易く露出するはずです』


「了解した、マスター。……さあ、ハデス、ヘラクレス。地下資源の採掘より先に、神様の庭を荒らしに行くぞ」


コロンブスは舵輪を力強く握りしめ、パレスの誇る強襲艦隊群に空間跳躍の命令を下した。


太陽系という小さな籠を舞台にした極限の防衛戦と、銀河の果てで火蓋を切った反撃の刃。


人類と神の、生存を懸けた総力戦が、二つの星域で同時に幕を開けようとしていた。

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