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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第4章:無限の宙と未知なる文明

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第83話:論理の降伏と、種族の天秤

【惑星ゼノス:最高評議会 議事堂】


惑星ゼノスの空は、本来であれば二つの衛星が浮かぶ美しい紫褐色をしている。だが現在、その空は銀色に塗り潰されていた。


十万隻。アイアン・パレスが誇る無人のオートマトン艦隊が、惑星の重力圏を完全に包囲し、寸分の狂いもない幾何学的な陣形を維持したまま静止している。一切の攻撃行動を見せないその「静寂」こそが、ゼノス星人にとっては何よりも恐ろしい圧力であった。


最高評議会の代表を務めるゾルは、灰色の表皮に覆われた四つの瞳を細め、メインスクリーンに映し出された一人の地球人の姿を見上げていた。


「……代表ゾル。インフラ制御システム、全域でアクセス不能。大気循環システムも、外部からの謎のプロトコルによって掌握されています。彼らが『呼吸を止めろ』と信号を送れば、我々は三分で全滅します」


副官の報告には、絶望すら通り越した、冷徹な事実確認の響きしかなかった。


ゼノス星人は、極めて論理的で効率を重んじる種族である。彼らが遠く離れた地球へ向けて隕石を放ったのも、自らの星の資源枯渇を予測し、新たな居住地を確保するための「最も合理的な生存戦略」に過ぎなかった。そこに憎悪や悪意は存在しない。ただの計算結果だったのだ。


だが今、彼らは理解した。自分たちの計算機コンピューターのスペックが、目の前の「アイアン・パレス」という存在の前にあっては、石器時代のそろばんにも劣るという事実を。


『……さて、惑星ゼノスの皆さん。お茶の時間は終わりました。答えを聞かせてもらいましょうか』


スクリーン越しの魁斗が、グラスを置きながら静かに問いかけた。


ゾルは立ち上がり、深く頭を垂れた。彼らの文化において「降伏」を意味する最大の敬意の姿勢だった。


「……我々、惑星ゼノス最高評議会は、アイアン・パレスの圧倒的な論理と力を認めます。これ以上の抵抗は『非合理的』であり、種としての生存確率をゼロにするものと判断しました。……我々は、あなた方の管理下に入ることを受け入れます」


『賢明な判断です、代表ゾル。パレスの秩序へようこそ』


魁斗は満足げに微笑むと、通信を保留にした。


【地球・アイアン・パレス「エリュシオン」指令室】


「……見事な手のひら返しですね。誇りも何もない」


傍らに控えていたアテナ(教育・洗脳統括)が、冷ややかな声でモニターを一瞥した。


「そう責めるものではありませんよ、アテナ。彼らの行動原理は、我々地球人とは根本的に違うのですから」


魁斗は、ゼノスから送られてきた彼らの生態データや社会構造のレポートを指先でスクロールさせながら、面白そうに目を細めた。


「地球人は、理不尽な状況に置かれると、生存確率を度外視してでも『感情』や『自由意志』で反発しようとする。それは管理する側からすれば厄介なノイズですが、同時に、爆発的な進化や芸術を生み出すエネルギーでもあります」


魁斗は、ゼノス星人の画一化された都市構造や、個人の娯楽が極端に少ない社会データを見つめる。


「対して、ゼノス星人は極度に論理的です。彼らは『パレスに服従すれば生存確率が100%になり、反抗すれば0%になる』という計算結果が出た瞬間、地球人のような葛藤やプライドを一切持たず、システムの一部になることを受け入れた。まるで機械の歯車のようにね」


「では、彼らはパレスにとって扱いやすい『優秀な労働力』になるということですか?」


「ええ、その通りです。彼らにはソロモン(行政統括)の基本法制と、ヴァルカン(重工業統括)の生産ラインのフォーマットを与えなさい。ゼノスは今後、パレスの銀河進出を支える『巨大な兵器廠』として機能させます。彼らもまた、自らの役割が明確になることで安心を得るはずです」


魁斗は、自らが支配する種族の特性を完璧に理解し、適材適所でパレスの巨大なシステムに組み込んでいく。地球人の持つ「熱」と、ゼノス星人の持つ「冷徹な論理」。その両方を束ねる唯一の絶対者が、魁斗であった。


「さて、新しい隣人の歓迎会はこれくらいにしましょう。……オーディン、我が子たちの『揺り籠』の進捗はどうなっていますか?」


魁斗の問いに、老参謀のオーディンが一歩前に出た。


「はっ。火星、そして新天地エデン共に、マスターの完璧な設計図通り、劇的な変貌を遂げつつあります」


「結構。では、少し視察と洒落込みましょうか。私がこの手で作り上げた、新しい世界を」


魁斗は立ち上がり、銀河の星々が輝く窓の外へと視線を向けた。

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