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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第4章:無限の宙と未知なる文明

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第80話:銀河の狩人と、黄金の福音

本日2話目

【太陽系外縁・深宇宙探査母艦『アルゴナウタイ』艦橋】


絶対零度の静寂が支配する星の海を、巨大な針のような探査母艦が音もなく滑っていく。


艦橋の主モニターには、何千、何万という星々の座標データが、光る粒子となって無数に飛び交っていた。


「……第七区画の重力波に、極めて微小な歪みを確認。通信の暗号化による不可視のレイヤーが張られていますね。小賢しい隠蔽工作ですが、わたくしの眼からは逃れられませんよ」


航海・海図統括のコロンブスが、コンソールに優雅に指を滑らせながら呟いた。


彼の視界に展開されているのは、通常の光学観測図ではない。宇宙空間に存在するあらゆる物質の質量、電磁波、そして暗号通信の「遅延」すらも計算に組み込んだ、四次元的な「海図」であった。


「ロキ。指定座標の通信プロトコルに、解析信号を這わせなさい。……彼らが対話を拒み、殻に閉じこもるなら、その殻ごと優しく開いて差し上げるのが礼儀というものです」


「了解。……いやあ、敵さんも必死だね。冥王星で三千隻の主力艦隊を失ってから、完全にパニックだ。本星の座標を隠すために、自軍のネットワークを次々と物理切断してる。これじゃあ、自分たちの手足をもいでるようなもんだよ」


攪乱・情報戦統括のロキが、薄笑いを浮かべながら手元の量子演算器を叩く。


敵である異星文明は、パレスの圧倒的な科学力を恐れ、本星へ繋がる通信のハブを自ら破壊し、「沈黙」することで嵐が過ぎ去るのを待とうとしていた。だが、魁斗の指示は「殲滅」ではなく「無力化と管理」である。


「通信が途絶した空白地帯の境界線を結び、重力波の不自然な偏りを逆算。……出ました。本星を隠蔽していると見られる『独立防壁層シェル』の予想座標、三箇所に絞り込みました」


「上出来だ、コロンブス。じゃあ、その三箇所をカルマの部隊に送るよ。本命が当たるまで、順番に空間を固定して、彼らの『戦う意志』を物理的に折ってあげよう」


ロキが送信ボタンを軽く叩いた瞬間、天文学的な距離を隔てた三つの宙域へ向けて、無人のオートマトン艦隊が空間跳躍を開始した。


彼らにとって、銀河は広大な海であり、敵は「いずれパレスの秩序に組み込まれるべき迷える隣人」でしかなかった。


【同時期:地球・旧大英帝国 ロンドン第一居住区】


「……信じられない。これが、本当のロンドンなのか」


元時計職人のアーサーは、抜けるように青い空を見上げながら、深く、清々しい呼吸を繰り返した。


以前のこの街は、煤煙で空が濁り、テムズ川はヘドロに満ちていた。貧民窟では疫病が蔓延し、弱者はただ踏みにじられるだけの場所だった。


だが、アイアン・パレスが上空に現れ、魁斗が「最適化計画」を宣言した日から、世界は一変した。


アーサーが歩く大通りは、アヌビス(廃棄物処理統括)の浄化プラントによって常に無塵状態に保たれ、セレス(農業・食糧統括)が管理する巨大温室からは、かつての王侯貴族ですら見たこともないほど高品質な食料が、市民の権利として無償で提供されている。


「お父さん! 今日は図書館で、火星の開拓史の講義があるんだよ。行っていい?」


幼い娘が、目を輝かせてホログラムの学習端末を見せてくる。


パレスの統治下において、教育(アテナ統括)は「洗脳」ではなく「可能性の解放」へと姿を変えていた。かつてのように、家柄や貧富の差で子供の未来が閉ざされることはない。本人の適性と意欲さえあれば、宇宙工学から芸術まで、あらゆる最先端の知識を学ぶ自由が与えられていた。


「ああ、もちろん。しっかり学んでおいで。いつか君が、あの空の向こうの星へ行く日も遠くないんだから」


アーサーは優しく娘の背中を押した。


労働の概念も変わった。過酷な重労働は全てヘラクレスやヴァルカンの指揮する機械が担い、人間は「創造的な活動」や「文化的な交流」に時間を割くことが推奨されている。


「自由意志の尊重」は、パレスのルールの根幹にあった。


もちろん、暴力や略奪といった他者の権利を侵害する行為は、テミス(司法統括)によって厳正に裁かれる。しかし、正当な批判や改善の提案は、ソロモン(行政統括)のシステムを通じて魁斗へ直接届けられ、合理的であれば即座に政策へ反映された。


「かつての政治家たちより、ずっと僕たちの声を聞いてくれる……」


アーサーは酒場の喧騒を見渡す。そこでは人々が、明日の仕事や生活に怯えることなく、未来の宇宙移住計画について熱く語り合っていた。


魁斗の支配は、決して「悪」ではない。それは、人類という種の生存と幸福を最大化させるための、巨大で慈愛に満ちた「最適解」なのだ。


「パレスが来てくれて、本当によかった。……ありがとう、マスター魁斗」


アーサーは配給された瑞々しい果実を口にし、満ち足りた笑顔で、銀河を照らす銀色の艦隊の光を見上げた。その光はもはや恐怖の象徴ではなく、人類を暗黒の宇宙から守る、希望の灯火であった。

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