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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第4章:無限の宙と未知なる文明

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第74話:赤い星の産声と、時差の向こうの凶星

本日4話目

【1882年冬:月面拠点『ルナ・パレス』中央制御室】


人類の版図を飛躍的に拡大する、歴史的な実験の準備が整っていた。


「目標座標、火星軌道上。地球からの距離、現在約七千八百万キロ。光の速度でも四分以上かかる距離です」


主任科学者レオンハルトの弾むような声が、広大な制御室に響き渡る。


空間歪曲跳躍フォールド・ドライブ、試作一号機『ゲート・キーパー』、出力充填100パーセント。光速の壁を無視し、空間そのものを折り畳みます。……特異点、発生!」


月面の地表に建設された巨大なリングの中心に、光さえも歪む漆黒の「穴」が開いた。


「転移、開始してください」


魁斗が静かに号令を下すと、火星の極冠を融解させるための超巨大な核融合熱源ユニットが、瞬きする間に月面から消失した。


数秒後、気象観測統括アイオロスのモニターに、火星軌道上のデータが即座に送られてきた。

これもまた、空間の歪みを利用したパレスの超空間通信(量子通信)の恩恵であり、四分という光速の時差をゼロにしている。


「……火星極冠への熱源ユニット転移、成功しました。誤差はわずか3メートル。直ちに降下プロセスへ移行し、大気生成を開始します」


「やりました……! やりましたよ、魁斗様!」


レオンハルトが歓喜の涙を流し、観測員たちから拍手が巻き起こる。

これで、火星はパレスの管理する庭となった。


「素晴らしい成果ですね、レオンハルト。次は木星圏への転移座標を計算してください」


魁斗が穏やかに指示を出そうとした、まさにその時であった。


「――ッ!! マスター、緊急事態です!!」


通信・電信統括のヘルメスが、かつてないほど鋭い声を上げた。


「太陽系外縁部、冥王星軌道外側から、異常なまでの重力波を検知しました! 地球からの距離、約五十天文単位……光の速度で、およそ五時間半かかる距離です!」


中央モニターに、ノイズまみれの解析図が表示される。


「重力波も、光と同じ速度で空間を伝播します。つまり私たちが『今』検知したこの巨大な波は、五時間半前にあそこで発生した現象ということです」


戦略眼・大局統括のオーディンが、冷たい汗を流しながら報告する。


「質量は……数年前の隕石とは比較になりません。小惑星一つ分に匹敵します。速度は光速の約五十分の一。空間跳躍ワープではなく、通常空間を猛烈な速度で突き進んでいます。このままの軌道と速度を維持すれば、地球激突までおよそ三ヶ月」


「五時間半前の姿しか見えない、しかも正体不明の巨大な質量……。それが真っ直ぐ地球に向かっているということですね」


魁斗の声には焦りはないが、静かな緊張感が漂っていた。


司令室の一角では、武芸・近接統括の桜華オウカが、自身の太刀の柄を強く握りしめていた。


彼女は、密かに苦悩していた。


五時間半の時差があり、正確な現在位置すら推測に頼るしかない宇宙の彼方の敵。


「主……ウチは、何のためにここに居るんやろか。光すら届くのに何時間もかかる相手に、この刀が届くわけあらへん。ウチの存在なんて、もう時代遅れなんと違うやろか」


彼女の言葉には、戦士としてのアイデンティティを喪失しかけている深い焦燥感が滲んでいた。

どこに飛べばいいかも分からない敵に対して、剣を振るうことなど不可能だ。


そんな彼女の心の揺らぎを見透かしたように、生体統括のアスクレピオスが静かに歩み寄った。


「桜華。あなたは自身の身体を、目の前の敵を斬るためだけの道具だと思っているようですね」


アスクレピオスは、以前行ったパレス幹部の定期健康診断の結果をホログラムに表示した。


「先日、主様のご命令であなたたちの生体機能を詳細に再定義しました。……あなたは、創られた時から不妊の設計をされていたわけではありません。その子宮は、健全に機能しています」


「……え?」


桜華は絶句した。

アスクレピオスは、魁斗を振り返りながら言葉を続ける。


「主様は、あなたたちを『使い捨ての兵器』としてではなく、一つの『種』として完成させることを望まれました。……桜華、あなたは主様の御子をその身に宿し、産み育てる準備が整っているのです」


魁斗は、驚きに震える桜華の元へ歩み寄り、その手をおろして優しく包み込んだ。


「遠い星の敵に怯え、焦る必要はありませんよ、桜華。私は、あなたたちという『種』が安心して暮らせる世界を作るために戦っているのです」


魁斗は、彼女の頬にそっと手を添えた。


「生きて私の傍に在り続け、私と共に新しい命を育むこと。……それ以上に重要な任務など、この世には存在しません。折れてなくなることなど、私が許しませんよ」


「ウチも……主の子供を、産める。ただの道具や、ないんやな……」


桜華の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

戦士としての虚無感が、未来への希望に書き換えられた瞬間であった。


「レオンハルト、オーディン。接近してくる正体不明の天体が、地球圏に到達するまでに、確実な迎撃策を立案しましょう。私たちの空を、汚させはしませんよ」


魁斗の決断により、パレスは地球防衛のための総力戦へと突入した。

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