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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第4章:無限の宙と未知なる文明

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第73話:不変の神々と、時を刻む花々

本日3話目

【1882年秋:アイアン・パレス マスター・デッキ】


正体不明の「質量兵器(隕石)」が地球を襲い、それを宇宙空間で粉砕してから五年。


太陽系には、嵐の前の静けさのような、異様な緊張感が張り詰めていた。


「……カイパーベルト以遠の監視網、異常なし。現在、太陽系内に未確認の質量体は存在しません」


気象観測統括のアイオロスが、月面のルナ・パレスと連携した広域センサー群のデータを読み上げる。


「敵の正体は未だ不明です。しかし、一度の失敗で諦めるような連中ではないでしょう。拠点防衛統括イージスの迎撃システムは、常に最大出力で待機させています」


戦略眼・大局統括のオーディンが、白髭を撫でながら重々しく告げた。


魁斗は、眼下に広がる完璧な秩序の街並みを見下ろしていた。

未知の脅威が存在しようとも、パレスの歩みは止まらない。


いや、止まるわけにはいかなかった。


敵が外宇宙から来るのであれば、人類もまた、外宇宙へ打って出るだけの力を手に入れなければならない。


「火星のテラフォーミング計画と、ワープ技術の試作は?」


「順調です。レオンハルトの空間歪曲跳躍フォールド・ドライブの基礎実験は成功しました。数ヶ月後には、火星軌道上へ巨大プラントを直接『転移』させる大実験を行います」



工学・機関統括のノアが、誇らしげに報告する。


パレスの技術は、着実に星々の距離を食い破ろうとしていた。



しかし、その圧倒的な進化の速度の中で、魁斗は一つの「違和感」に気づき始めていた。


執務室に戻った魁斗は、壁面の鏡に映る自らの姿を見つめた。



蝦夷地の荒野に降り立ってから、すでに十年以上の歳月が流れている。


しかし、鏡の中の青年は、二十代前半のあの日のまま、肌の艶も、何も変わっていない。


「アスクレピオス」

生体統括を呼び出すと、白衣の彼女は静かに一礼した。


「お気づきになりましたか、マスター。……はい。マスターの細胞分裂は、完璧なテロメアの修復機能により、老化という現象を完全に停止しています。そしてそれは、パレスのシステムから具現化した我々も同様です」


アスクレピオスの言葉に、魁斗は目を細めた。



シエルも、ダヴィンチも、オーディンでさえも、現れたあの瞬間から一切老いていない。


彼らは生物学的な人間というよりも、パレスの「機能」が受肉した存在なのだ。


「我々は、時間を超越した存在ということか。……だが、彼女らは違う」


夜の専用サロン。



そこには、かつての少女の面影を脱ぎ捨て、匂い立つような大人の女性へと成長した五人の令嬢たちがいた。


「魁斗様、お疲れ様でございます。……今日は、少し強いお酒をご用意いたしましたわ」


英国のアリスは、もはや可憐な王女ではなく、妖艶なドレスを着こなす完璧な淑女となっていた。


その豊かな胸元と、成熟した腰の曲線は、彼女が「女としての適齢期」の只中にあることを如実に物語っている。


「アリス、魁斗様は強いお酒よりも、柔らかな肌の温もりをお求めのはずよ。ねえ、魁斗様……私のこのドレス、少し窮屈になってしまいましたの。……解いて、確かめていただけませんか?」


フランスのイザベラが、潤んだ瞳で魁斗の耳元に囁く。



十年前、パレス・オリンピアで歓声を浴びていた十代の彼女たちは、今や二十代半ばから後半。


当時の価値観であれば、とうに結婚し、幾人もの子供を産んでいてもおかしくない年齢である。


「……お前たち、あまり主に擦り寄るな。主の思考の妨げになる」



プロイセンのルイーゼがたしなめるが、彼女の顔にも、隠しきれない焦燥感が滲んでいた。


彼女たちは気づいているのだ。

魁斗や、彼を取り巻く幹部たちが、全く老いないことに。



自分たちだけが、残酷に時を刻み、いずれ老い衰えていくことに。


「魁斗様……。お願いです。私たちが美しいうちに、あなたの……パレスの次代を担う御子を、このお腹に授けてくださいませ。数年後、私があなたの子供を抱いて、火星の空を見上げられたなら……それ以上の幸福はありません」


ロシアのアナスタシアが、魁斗の足元に崩れ落ちるように跪き、その大きな瞳から涙を零した。



それは、限りある命を持つ人間としての、切実で狂おしいほどの願いであった。


その光景を、部屋の隅から見つめる一つの影があった。



武芸・近接統括の桜華オウカである。


彼女の容姿もまた、十年前から全く変わっていない。



超硬合金の刀を帯びたまま、完璧な美しさを保つその姿は、まるで精巧なからくり人形のようだ。


(……ええなあ。あの娘らは)


桜華は、自らの変わらぬ白い肌を微かに憎むように見下ろした。



どんな敵でも一刀両断にできる最強の武と、強靭な肉体。



しかし、自分には「老い」がない。


それはつまり、令嬢たちのように「命を繋ぐ」という生物としての機能が、パレスのシステム上、必要とされていないのではないかという恐怖であった。


「……あるじ。ウチは……ウチは、いつまで主の影でいられるんやろか。百年後も、このままなんやろか……」


桜華の涼やかな京言葉が、わずかに震える。

彼女は魁斗の背中にそっと触れた。


「桜華。お前は私の最強の剣だ。私の支配が続く限り、お前は私の傍らに在り続ける」


魁斗は振り返らずにそう告げた。



それは絶対の保証であると同時に、人間としての「死」と「生殖」のサイクルから切り離された者たち同士の、永遠の孤独の共有でもあった。


「……はい。ウチは主の剣。主を脅かすもんは、星の彼方の敵やろうと、ウチが全部、斬り捨ててご覧に入れますえ」


桜華は瞳に狂気じみた忠誠の炎を宿し、令嬢たちを見下ろした。



自分には命を産み出す機能がないかもしれない。


ならば、この絶対的な武力で、主の全てを「守り、独占する」しかないのだ。


パレスの神々は老いない。



しかし、彼らが統治する世界は、確かに時を刻み、次なる戦火へと向かって加速していた。

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