第72話:星の落とし子、見えざる敵の宣戦布告
本日2話目
【1877年春:アイアン・パレス中央司令室】
地球上のすべての国家がパレスの完全な管理下に置かれ、人類が「終わりのない平和と発展」を享受し始めてから一年。
気象観測統括アイオロスの衛星網と、通信統括ヘルメスの情報網に死角はなく、地球は一つの巨大な「温室」として完成の域に達していた。
しかし、その完璧な静寂を破る警報が、突如として司令室に鳴り響いた。
「……警告。地球接近軌道上に、高質量の物体を確認。」
アイオロスの声が響く。 メインモニターには、宇宙空間から地球へ向かって猛スピードで突き進む、直径数百メートルに及ぶ巨大な岩塊――隕石の姿が表示されていた。
「軌道計算……落下予想地点は、旧ユーラシア大陸の中央部。激突すれば、大陸の半分が灰に帰し、数億の命が失われます」
戦略眼・大局統括のオーディンが、冷徹に被害予測を弾き出す。
「パレスの庭を荒らすことは許しません。迎撃システムを起動してください。」
魁斗の静かな、しかし絶対的な命令が下る。
「承知いたしました。拠点防衛統括イージス、防衛衛星砲の照準をセット」
イージスが流れるような手つきでコンソールを操作する。
大気圏外に配備されたパレスの無人防衛プラットフォームが、巨大な砲身を隕石へと向けた。
「出力最大。……穿て」
閃光。
音のない宇宙空間で、高圧縮されたエネルギーの奔流が放たれた。
光の槍は寸分の狂いもなく隕石の中心を直撃し、数億トンの岩塊は一瞬にして蒸発、細かな塵となって宇宙空間へ散った。
「……目標の完全破壊を確認。地球への被害はゼロです」
イージスが安堵の息を吐き、司令室の幹部たちもパレスの絶対的な力に改めて酔いしれた。
「しかし変ですね。このサイズの隕石であれば、数年前には察知できていたはずです。」
魁斗は当然の疑問を口にした。
その後、隕石のデータ解析を進めていた工学・機関統括のノアが、不意に眉をひそめた。
「マスター、お待ちください。……破壊された隕石の破片から、異常なスペクトル反応を検知しました。これは……自然の岩石ではありません」
「どういうことですか、ノア」
魁斗の目が細められる。
「破片の成分を分析した結果、内部に極めて高度なステルス性能を持つ超硬合金と、我々のものとは異なる独自の推進機関の残骸が発見されました。……つまり、あれは自然の隕石ではなく、外宇宙から意図的に加速され、地球に撃ち込まれた『質量兵器』です」
司令室に、凍りつくような沈黙が落ちた。
「人為的な攻撃……? バカな。地球上の全国家は完全に制圧したはずだ。残党がこんなものを宇宙から撃ち込めるはずがない!」
情報統括のヘルメスが、信じられないというように叫ぶ。
「地球外の知的生命体……あるいは、我々よりも前に宇宙へ逃れた旧文明の生き残りか……。正体は不明ですが、我々を明確な『敵』として認識していることは間違いありません」
オーディンが重々しく結論を述べる。
「……不粋な。主の完璧な庭に、泥を投げ込むような真似をしはるとは、ええ度胸どすなあ」
魁斗の傍らに控えていた桜華が、ゆっくりと立ち上がった。
彼女の纏う空気が、先ほどまでの妖艶なものから、極寒の吹雪のような殺意へと一変する。
「地球へ石ころ投げ込むような無礼者……どこの馬の骨か知りまへんけど、宇宙の果てまで追いかけて、バッサリ断ち切って差し上げますえ」
桜華は刀の柄に手をかけ、薄く、そしてひどく凶悪に微笑んだ。
それは、愛しい人のためならば、未知の星系をも地獄に変えても構わないという、強大な力を持った微笑みであった。
「いいでしょう。パレスの論理に逆らう者は、星の彼方であろうと排除します」
魁斗はモニターに映る、隕石が飛来した暗黒の宇宙空間を見据えた。
完璧な秩序を誇るパレスの前に、初めて現れた「見えざる敵」
それは、地球という温室を飛び出し、真の宇宙の覇権を握るための、新たな戦争の幕開けであった。
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