第63話:スポーツの普及と、ルールある闘争
【1873年〜1874年:世界各地の拠点都市】
パレスが「五カ年計画」の中盤に差し掛かったこの時期。
物理的なインフラ整備と並行して、魁斗は民衆の「精神的な管理」を強化した。
かつての戦争や暴動という名の非合理なエネルギーを、パレスが用意した「ルール」の中に閉じ込めるための工作である。
教育のアテナが指揮を執り、世界中の学校や工場に、ある概念が導入された。
それが「スポーツ」という名の、管理された闘争であった。
「マスター、各地の労働者たちの間で、サッカーや野球といった競技が爆発的に普及しております」
アテナが、アイアン・パレスの執務室で魁斗に報告を行った。
「労働の後の娯楽として、彼らはパレスの提供するグラウンドに集まり、ルールの下で勝敗を競うことに熱中しています。
かつて銃を取った手は、今はボールを追いかけるために使われているのです」
魁斗は、各地のスタジアムで歓声を上げる民衆の映像を眺め、満足げに頷いた。
「素晴らしいですね。
人間は闘争を好む生き物ですが、それを殺し合いではなく、得点を競うゲームへと変換すれば、これほど扱いやすいエネルギーはありません」
【新たな才能:スポーツ局長レオン・ヴァンドルフ】
このスポーツ普及を現場で加速させたのは、旧フランス陸軍の将校候補生であった若き才能、レオン・ヴァンドルフであった。
彼は軍人としてのキャリアを失った後、パレスが主催した「地域競技会」の運営で見事な組織力を発揮し、アテナによってパレス・スポーツ局の初代局長に抜擢されたのである。
「いいか、選手たち!
パレスの提供するこのフィールドこそが、唯一の戦場だ!
卑怯な反則は、パレスの論理への反逆と見なす!
正々堂々と競い、勝利を掴み取れ!」
レオンは、各地の拠点都市を飛び回り、競技のルールを統一し、審判員を育成した。
彼は、パレスの制服を誇らしげに纏い、スポーツを通じて民衆に「ルールを守る喜び」を叩き込んでいった。
【1874年冬:寵愛を巡る幹部たちの献身】
執務室の窓際で、魁斗はマモンが淹れたコーヒーを口にしていた。
「マスター、レオンの報告によれば、来年には世界規模の大会を開催できるほどに競技人口が整うとのことですわ」
マモンが魁斗の肩に柔らかく触れ、その長い髪を魁斗の頬に触れさせる。
「レオンを抜擢したのは正解でしたね。
彼の情熱は、民衆を感化するのに適しています」
そこへ、アテナが新たなデータを持って入ってきた。
「マスター。
拠点都市の完工記念式典として、全人類が参加する祭典――『パレス・オリンピア』の構想をまとめました」
アテナは、マモンを牽制するように魁斗の反対側に立ち、自身の成果をアピールする。
「各地の優秀な選手を一つの場所に集め、パレスの旗の下で競わせる。
これこそが、旧時代のナショナリズムを完全に解体し、パレスへの忠誠へと昇華させる最後の鍵となります」
「二人とも、素晴らしい働きです。
その祭典を、五カ年計画の完遂を祝う最高のフィナーレにしましょう」
魁斗の言葉に、マモンとアテナは同時に微笑み、それぞれのやり方で彼への忠誠を誓い合った。
計画は、民衆の熱狂を燃料にして、さらに加速していく。
高評価とブックマークをよろしくお願いします。
コメントへの返信はしないと思います。




