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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky@複数作品を同時連載中
第3章:大陸と資源の収奪

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第61話:電波の浸透と、新たな星の瞬き

本日3話目

【1872年秋:蝦夷地・アイアン・パレス 統括執務室】


窓外には、幾何学的な美しさを持つ未来都市が広がっている。


その頂点に位置する執務室で、九条魁斗は皮張りのソファに深く腰を下ろしていた。


「マスター、本日のブレンドでございます。

南米の特別プラントで栽培させた、最高純度の豆を使用いたしました」


経済管理のマモンが、蠱惑的な笑みを浮かべながら、透き通るような白磁のカップを魁斗の前に置いた。


彼女の豊かな胸元が、計算された角度で魁斗の視界に入るように屈み込む。


「いつもありがとう、マモン。

あなたの淹れるコーヒーは、システムには出せない深い味わいがありますね」


魁斗が優しく微笑みかけると、マモンは頬を染めて嬉しそうに目を伏せた。


「マスターにそう言っていただけるのが、私にとって何よりの報酬でございますわ」


その甘い空気を切り裂くように、硬質なヒールの音が響いた。


「マスターの貴重な休息時間を、個人的な嗜好で長引かせるのは感心しませんね、マモン」


教育と情報を統括するアテナが、冷ややかな視線をマモンに向けながら、分厚いデータパッドを手に進み出た。


彼女は魁斗の隣にピタリと寄り添い、その整った横顔を魁斗の肩口に近づけた。


「マスター、北米および欧州エリアにおける『パレス・ビジョン(映像受信機)』と『パレス・レシーバー(音声受信機)』の普及率が、目標の80%を突破いたしました」


アテナは、マモンに見せつけるように、魁斗の耳元で囁くように報告する。


「ご苦労様です、アテナ。

見事な手腕ですね」


魁斗は二人の女性幹部が発する静かな火花を心地よく受け流し、データパッドに視線を落とした。


「労働クレジットの交換品として、家電製品を最優先にしたのが功を奏しましたね。

これでようやく、彼らの『娯楽』を完全に掌握できる段階に入りました」


【ニューヨーク:リバティ・パレス居住区】


同時刻、大西洋を隔てたニューヨークの街角は、かつての薄汚れたスラムの面影を完全に失っていた。


整備された清潔な集合住宅の一室。


労働を終えた鉄鋼工場の作業員とその家族が、リビングの中央に置かれた黒い箱型の機械――『パレス・ビジョン』の前に釘付けになっていた。


箱の表面に張られたガラス板には、色鮮やかな映像が滑らかに映し出されている。


「パパ、早く!

今日の『ホバーボード・グランプリ』の決勝戦が始まるよ!」


子供が興奮した声で叫ぶ。


画面の中では、パレスが開発した水上ボードに乗った若者たちが、専用のコースを時速百キロ近い猛スピードで駆け抜けていた。


これまでは、パレスの広告塔であるアイドルのライブ映像が主なコンテンツであった。


しかし、受信機が各家庭に普及した今、アテナが指揮する情報部門は、多様なエンターテインメントを一斉に投下し始めていたのである。


スポーツ、演劇、連続ドラマ、そして世界各地の美しい風景を流す紀行番組。


かつては一部の富裕層しか楽しめなかった娯楽が、パレスの配給する電気と電波によって、全ての労働者のリビングに無料で供給された。


人々は、日々の労働の疲れを忘れ、パレスが提供する「光の箱」から流れる情報に、自らの意識を完全に委ねていた。


【才能の発掘:映像ディレクター、アルバート・エヴァンス】


その熱狂の裏側には、現地の人間から抜擢された新たな才能の存在があった。


ニューヨークの巨大な放送スタジオ。


パレスの最新型カメラドローンを、まるで自身の手足のように操る若き青年がいた。


彼の名はアルバート・エヴァンス。


元々はブロードウェイのうらぶれた劇場の、名もなき照明助手であった。


しかし、パレスの技術力と表現の可能性に魅了された彼は、アテナが主催した映像制作コンテストで圧倒的な才能を見せつけ、見事パレスの専属ディレクターの座を勝ち取ったのである。


「違う、第3カメラのドローンはもっと演者の右下からあおれ! パレスの技術の美しさを、ただの娯楽に見せちゃ駄目だ!」


アルバートは、スタジオに響き渡る声で指示を飛ばす。


彼は、パレスの技術を「恐ろしい未知の力」としてではなく、「美しく洗練された未来」として大衆の脳裏に焼き付ける、天才的な視覚的センスを持っていた。


「素晴らしいですね、アルバート。

あなたの演出は、私の計算モデルを常に凌駕してくれます」


スタジオの視察に訪れたアテナが、満足げに微笑んだ。


「アテナ様!

もったいないお言葉です。

パレスの技術があれば、僕は世界中の人間の魂を震わせる映像を作れます」


アルバートは、目を輝かせて頭を下げた。


アテナは静かに頷き、魁斗から与えられた次なる指令を彼に伝えた。


「次は、パレスの『基礎科学』をテーマにした教養番組を制作してもらいます。

ただの娯楽ではなく、彼らの常識を根底から書き換えるための、非常に重要な任務ですよ」


「科学を、エンターテインメントに……!

やらせてください、必ず最高の番組にしてみせます!」


アルバートの才能という名の歯車が、パレスという巨大なシステムに完璧に噛み合った瞬間であった。


人々の意識は、銃弾や暴力ではなく、美しく楽しい「映像」によって、ゆっくりと、しかし確実にパレスの色へと染め上げられていく。


情報という名の見えない侵略は、各家庭のリビングルームという最前線で、圧倒的な勝利を収めつつあった。

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