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第21話「嵐の予選大会開始!! イキナリ囲まれた桃眞と櫻子」その2

 グラウンドに大きなクレーターが(あらわ)となっている。

 ついさっきまでそこに有った地面は、大小様々に裁断され、二年生の寮生達を乗せたまま遥か上空を漂っていた。


 バランスを取るのが難しく、試合開始直後に数名の寮生が落下……。

 クレーターに激突する寸前で姿が消え、場外に現れる。


 桃眞達がその姿を目の当たりにしている傍から、また落ちてくる。



 黒い狩衣を纏う慎之介も、野球のホームベース程のサイズの地盤の上で必死にバランスを取ろうとしていた。

 その顔は既に恐怖に支配されている。


 ――そう、慎之介は高い所が苦手なのである。


「おっ……おぉぉッ。落ちるッ……」と鬼気迫る顔で両手を広げ、平衡感覚を取り戻そうと試みる。


 心を落ち着かせ、息を整え、やっと前を向いた途端に、叫び声をあげなら落下する寮生を見て、再び恐怖心が(まと)わりつく。



 慎之介はふと上空を見上げると、落ち着いた様子で、しっかりと地盤に足をつく漣樹が見えた。

 完全にバランスを取れているようだ。


 そうしている内にも、数名の寮生達も何か"コツ"を掴んだのか、不安定感が消えてゆく。


 一体どういう"からくり"があるのだろうか?


 その時、慎之介の中で、ある仮説が浮かび上がった。

 それは、体の平衡感覚では無く、呪力や法力――つまり『気』の平衡感覚が求められているのでは無いか? と言う事だ。


 それを検証する為、慎之介は目を瞑り、自分の体内を巡る気の流れを感じ取り、体幹を意識しながらその中心へ重ねた。

 すると、フウッと体が軽くなり、足が地盤に張り付いている感覚を感じた。

 これこそが、吉樹が言っていた『仕掛け』なのである。


 この予選では、迅速な状況判断が求められていたのだ。

 それを理解できない者達が足を踏み外し、また、体を支えられずに地上へ落ちている訳だ。


 慎之介がバランスを取ったと同時に、戦闘が始まった。

 勿論、まだ仕掛けの種を理解できずにいる寮生を待っている訳が無い。



 桃眞達、一年生の拳で物を言わせる試合ではなく、突如として開始された戦いは、呪符が飛び交い紫電が駆け巡り、火花が散る……。

 風圧が拡散し、次々と寮生が落下。……場外に現れる。


 真っ直ぐに、慎之介に目掛けて向かって来る呪符を、近くを浮遊していた大きな岩盤に飛び移り交わす。

 直後にさっきまで立っていた地盤が粉砕して消えた。


「あっぶねぇ」とずれる烏帽子を手で押さえながら立ち上がる。


 その光景を見上げていた桃眞と櫻子。


「まさか慎之介……負けたりしないわよね」


 心配そうな表情を見せる櫻子。

 それは桃眞も同じだった。

 どうせ大会に出場するなら慎之介と出たい。


「慎之介ぇッ!! 負けんなぁッ!!」と桃眞は両手を口に当てながら叫んだ。


 桃眞の声を聞いた慎之介は、上空の地盤から見下ろす寮生を睨みながら、「また呼び捨てかよ。俺の方が先輩なんだぞッ」と語気を強めながら呟くと、袖から取り出した呪符に念を込め、投げ飛ばした。



「甘いな猿田ッ」と言い、寮生も呪符を取り出すと、向かって来る慎之介の呪符目掛けて飛ばした。


 双方の呪符が空中で衝突するや爆発を起こす。

 その衝撃で近くにいた別の寮生が足場を失い落下した。


 慎之介の呪符を相殺(そうさい)した寮生は、不敵な笑みを見せながら「馬鹿が、頭良くても戦闘スキルじゃ俺の方が上だぜ」と言った直後、爆煙の中を突っ切って来たもう一枚の呪符が直撃し、後方に突き飛ばされた。


「……嘘ッ……だろ」と直ぐに状況を悟ったが、時既に遅し。そのまま地上へと落下した。


 慎之介はスクエア型のインテリ眼鏡を中指で押し上げると、クールな表情で「馬鹿はお前だ。一枚目はフェイクだ」と言い放った。


 そう、慎之介は寮生の行動を予測し、二枚の呪符を同時に投げていた。

 一枚目の呪符が相殺され、気が緩んだ所に追撃の二枚目が相手を仕留めたのだ。



 慎之介の反撃を目の当たりにし、テンションが上がった桃眞と櫻子が「やった」「やった」と両手を掲げ、その場でスキップをする。

 前方からその姿を見ていた吉樹もつられてスキップをしそうになったが、我に帰り咳払いをすると、真剣な表情で上空を見上げた。

 楽しそうな事が大好きな吉樹なのである。



 黒い烏帽子を取り外した漣樹は、一番高い足場から飛び降りた。


「ヒャッホォーッ」と雄叫びを上げながら、人形(ひとかた)に念を込めると、式神の大蛇を召喚。


 蜷局(とぐろ)を巻くように旋回しながら、地上を目掛け降下する。

 そこで交戦している寮生達などお構いなしだ。

 足場を粉砕し、寮生達を弾き飛ばす。


 慎之介は、辛うじて大蛇の突進を(まぬが)れた足場に飛び移った。


「あの野郎……めちゃくちゃしやがって」


 大蛇の背中に着地した漣樹は、両手の指を絡め印を結ぶと、今度は旋回しながら上昇を始めた。

 地上に近い足場から確実に粉砕してゆく。

 寮生達の逃げ場を無くす為だ。


 負けじと他の寮生達も式神を召喚。


 大鷲(おおわし)に、男の上半身が生えた蜘蛛、戦国武将の様な鎧を纏った亡霊が大蛇の体に飛び移ると、その体表に攻撃を加える。

 だが、皮が分厚いのか対したダメージは与えられない。

 式神達は、大蛇に乗っている漣樹を標的とし長く太い背中を滑り下りた。


 その光景を前にして何故が高笑いをする漣樹。


 上空から見下ろす慎之介には漣樹の狙いが分かった。

 いつも漣樹の傍にいる三人の仲間達が、上空から、それぞれの式神を召喚している寮生の頭上に舞い降りる。

 完全に漣樹に意識を集中しているのだから、奇襲に気付く訳もない。


 あっけなく、突き飛ばされた寮生達と共に、それぞれの式神が人形に戻り地上に消え去った。


 桃眞は「アイツ……相変わらず汚ねぇな」と眉間に(しわ)を寄せる。



 その時、着地した漣樹の仲間達を金色に光る五芒星(ごぼうせい)の円盤が襲いかかった。

 足場を無くし、また、体を突き飛ばされた仲間達が無様な姿で落下してゆく。


 漣樹は、慎之介よりも更に上空の足場にいた寮生を睨みつけた。


相楽(さがら)の野郎……」と低い声でその者の名前を声に出す。


 黒い狩衣を纏う長身の男。

 漣樹とよく似た鋭い眼光を放つ、黒い長髪のその男。


 相楽 雄彦(さがら たけひこ)

 漣樹と抜きつ抜かれつの戦闘力を誇る。


 相楽が口を開いた。


「寺沢よ。ここらで決着付けようや。どっちが学年最強か」


 漣樹は不敵な笑みを浮かべる。


「学年だと? 悪いな、俺は寮内最強なんだわ」と皮肉る。


 グラウンドの周りから見上げていた三年生達が、漣樹の言葉を聞いて嘲笑(ちょうしょう)した。

 だが、中には真剣な眼差しを向ける者達もいた。

 何故なら漣樹の言葉は"ハッタリ"ではないからだ。

 最強と言うのは言い過ぎかも知れないが、漣樹の力は三年生の上位層と肩を並べる程なのだ。


 出場を意識している三年生からしても、共にチームを組む仲間がどんな戦い方をするのか? どれだけの力を秘めているのか? 非常に興味深い一戦が今、繰り広げられようとしている。



 先に仕掛けたのは相楽。

 五芒星の結界をフリスビーの様に投げ飛ばす。

 空気を振動させるかの様な低い音が空を裂き、足場を粉砕する。


 そして、その円盤を追いかけるように相楽が飛び降りた。


 向かい来る円盤目掛け、漣樹は取り出した呪符に今までに見た事がない程に強い呪力を込める。

 呪符が許容できる呪力の限界に達したのか、描かれた黒い文字が赤く光る。

 発火する寸前の様だ。


 投げ飛ばした赤い呪符と結界の円盤が激突し、四方八方に紫電を放ち互いの勢いを削り合う。

 放たれた紫電が周りの足場を次々と蒸発させてゆく。


 またも大勢の寮生が落下した。



「ふざけんなよ。あんなの相手にできるか」と上空から見下ろす慎之介目掛け、呪符が飛んできた。


 咄嗟に近くの足場に移る。


 見上げる視線の先に、下卑た笑い声をあげる丸眼鏡の寮生がいた。


丸山 涼(まるやま りょう)か」とその者の名を口ずさむ慎之介。


「猿田ッ」と叫ぶ丸山。


「なんだ」


「俺より頭が良いからってエバってるんじゃねぇぞ」と吐き捨てる。


「どうした怒ってんのか?」


「怒ってねぇよ」と憎しみを込めて睨み付ける丸山。


「いや、めっちゃ怒ってるだろ」


「怒ってねぇよ」


「そっか。じゃあ怒ってないんだな」


「怒ってるよッ!!」


「やっぱり怒ってるじゃねぇか」と次第に面倒臭いと感じ始める慎之介。


「いつも俺の先にいるお前が目障りなんだよ。堂々と復讐できるチャンスがやって来るなんてよ。今、ここで俺がお前より優っていると証明してやる」


「嫉妬かよ」と溜息を付く。


「嫉妬じゃねぇ」


「嫉妬なんだろ?」


「俺は嫉妬なんかしてねぇッ!!」


「じゃあ嫉妬じゃないんだな」


「嫉妬だよッ!!」


「やっぱりかいッ!!」と二度も同じくだりに付き合わされ苛立ちを爆発させた慎之介。



 丸山は、ただ言葉でおちょくっている訳では無かった。

 最初から腰の後ろで組んだ手で、ずっと印を結んでいたのだ。


 一体何をしようとしているのか……。


 慎之介が立っている地盤の裏に貼り付いた呪符。

 そして、その周りの地盤の裏にも呪符が貼られている。


 そう。

 そこは――丸山のトラップ地獄の中心だったのだ。


 そうとは気付かず丸山の支離滅裂な言葉を嘲笑(あざけわら)う慎之介。


 丸山が指先で手刀を作り、唇に当てる。

 術を唱えた瞬間に慎之介が立つ足場が爆発した。

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