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第21話「嵐の予選大会開始!! イキナリ囲まれた桃眞と櫻子」その1

 予選開始の合図と共に、桃眞に向かって飛び掛かった寮生達は、咄嗟に突き出された拳によって、場外へと吹っ飛ばされた。


 桃眞自身も、迫り来る寮生達に対して、反射的に繰り出した反撃がまさかの結果を生んだ事に、驚きと動揺を隠せずにいた。


 予期せぬ出来事に静まり返ったグラウンドに徐々にざわめきが戻る。


 グラウンドを囲むようにして、その光景を目の当たりにしていた二年生と三年生の寮生達が、口々に桃眞の評価を始める。



 両腕を胸の前で組んで仁王立ちしていた漣樹が、隣にいる慎之介に話しかけた。


「おい、お前。アイツがどうやって力を上げたのか知っているのか」


「さぁ……知るわけ無いだろ」と前を見たままクールに答える。



 静寂の中、気を取り戻した寮生達が桃眞と櫻子に襲いかかった。


「でぇやぁぁぁぁッ」


 気合と共に飛んで来た拳だが、今の桃眞にはゆっくりと見える。

 同時に、蹴りと肘が別々の方向から飛んできたが、その者達が放つ『気』を捉えた桃眞には、どの攻撃がどの順番で接触するのかが手に取るように分かった。

 目隠しのトレーニングの賜物(たまもの)である。


 空をなびく淡い紫色の大(そで)が、効率良く、かつ、的確にそれらをいなし、振り払う。

 桃眞は自分に向けられる無数の眼を睨みつけると、ニヤリと笑みを見せてこう言った。


「無駄だ。お前らじゃ俺の相手にはならねぇよ」



 櫻子に襲いかかる四人の男達。

 それぞれの表情は頬の筋肉が緩み、鼻の下が伸び、相手を倒すと言うよりは下心が全面に出ている。


 振りかぶる拳に覇気は無く、あわよくば、その勢いで櫻子の豊満なバストの感触を味わおうとする者や、そのまま抱きしめようと企む者も……。


 心配そうにその状況を見つめる慎之介の拳に力が入る。


 その時、グラウンドに成春の声が飛び込んだ。


「僕の櫻子たんに手を出すなナリッ!!」


 (だいだい)色の狩衣を纏う成春が櫻子の前に立ち、持っていた数枚の呪符に念を込めると、寮生達に向かって投げ飛ばした。

 寮生達は、胸や腹に呪符が貼り付くや動きを止め、急に身悶(みもだ)える。

 苦しそうに(うごめ)くと、次第に顔を真っ赤にしながら股間を押さえ始めた。


 恥ずかしそうにモジモジとする寮生達に向かって、成春はキザな笑みを見せつけこう言った。


小生(しょうせい)が編み出した新しい呪術……その名も『ギンギンの術』ナリッ!! おひょひょひょひょ」


「元気にしてどうすんじゃいッ!!」と櫻子の拳が成春の後頭部にめり込む。


「アジャパァッッ!!」と謎の悲鳴をあげる成春。


 痛む後頭部を押さえながら「愛を感じる。櫻子たんの愛を感じるぞい」と抱きつこうとしたが、すぐさま皇のホイッスルが鳴った。

 吉樹が指先を唇に当てると、成春が場外に吹き飛ぶ。


「ギャフンッ……」


 フェンスの前に転がる成春に、吉樹が注意をした。


「成春君、失格だよ。上級生が混じっちゃダメじゃないか」


「しかし、先生ッ……エロはルールすら凌駕(りょうが)するナリよ」と熱く訴え掛けるが、後ろからおネェの吉崎が太い声を掛けた。


「あらぁ……だったらアタシが先にアナタと『生徒と教師の関係』を凌駕しようかしらん」


「や……辞めるナリぃッ!!」


 成春の断末魔が鳴り響いた。


 周囲で観戦している寮生達から笑い声が聞こえる。


 男らしく元気になった寮生が、さっきよりも鋭い眼光を櫻子に向ける。

 ニヤニヤとしながらも、鼻息は荒く、(よだれ)を垂らす。


「成春のヤツ……余計な事しやがってッ」


 そう言うと、櫻子は淡い水色の袖から人形(ひとかた)を取り出すと、術を唱え床に投げ捨てた。

 瞬時に白いウサギが現れる。


 ――櫻子の式神だ。


 だが、見た目は以前にも増して一回り大きくなっており、引きずっていた斧は二本の刀へと変わっている。


「さて進化した力を見せてちょうだい」



 ウサギは、寮生達の間を二刀流の構えで突っ切っり、踵を返えした。

 刀を腰鞘(こしざや)にガチャリと収めると、寮生達の狩衣がバラバラに(ほど)け裸体が(あらわ)になる。


「しもたッ……しもたッ」「あきません」「まだ早うございます」「お婿(むこ)に行けないよぉ」


 そう叫びながら寮生達は股間を両手で隠しながら、自ら場外へと走り去って行った。


「ホントに男って馬鹿ばっかりね」と吐き捨てる櫻子。



 次第に、あちこちで乱闘が勃発し始める。


 桃眞も軽快なリズムで、迫り来る攻撃を交わしながら、カウンターのパンチやキックで寮生達を着実に場外に送り込む。

 そんな光景を目の当たりにしていた漣樹が嘲笑(ちょうしょう)した。


「なんて様だ。これじゃあただの乱闘だ」


「入学して三ヶ月ちょいの一年生ならこんなモンだろ」とフェンスにもたれる慎之介が言った。


「法術、呪術を駆使しての陰陽師だろ……。なんと(なげ)かわしい」


「まぁ、確かに。これじゃあ、ただの子供の喧嘩だな」


 慎之介も両腕を胸の前で組んだ。



 漣樹は目の前の乱闘を目で追いながら「まぁ、阿形 桃眞がダントツだな。同じ一年生とは基礎力の次元がまるで違う。次いでまさかの雉宮 櫻子と言ったところか」と状況から結果を予測する。


「意外だな。お前がアイツを評価するなんてな」と慎之介は鼻で笑った。


 その態度に舌打ちをした漣樹。


「俺を愚弄(ぐろう)するな。馬鹿で腰抜けのお前でも流石にそれくらい分かるだろ」


「俺にテストの点で負けているお前に、馬鹿とは言われたくないな」と皮肉る慎之介。


 そのふてぶてしい態度に、漣樹はまたも舌打ちをした。



 バタバタと空を裂く呪符を頬の際で避ける桃眞は、反撃の為に握った拳をふと見つめた。


「そう言や、俺、皇さんから戦う為の術って習ってなかったよな。だったらアレ使うか」


 そう呟くと、桃眞は安倍晴明(あべのせいめい)から習った九字切りの構えを取った。

 両手の指を絡めて印を結ぶ『破邪(はじゃ)の法』では隙が大きすぎる為、片手の指先で手刀を作る『剣印(けんいん)の法』の所作に入る。


 格子状に手刀で空中を切りながら、素早く術を唱えた。


青龍(せいりゅう)白虎(びゃっこ)朱雀(すざく)玄武(げんぶ)勾陳(こうちん)帝台(ていたい)文王(ぶんおう)三台(さんたい)玉女(ぎょくにょ)


 桃眞が九字切りを放った途端、今までは見えなかった格子状の気が、白銀の光を放つ刃となり、目の前の寮生の固まりへ向かった。

 それは、以前に漣樹と食堂での喧嘩の際に放った九字切りよも桁外れな力を見せつける。

 術を放った桃眞自身が、その圧倒的な破壊力に目を疑った程だ。


 格子状の刃が(ほど)け、縦横無尽(じゅうおうむじん)に前進する。

 グラウンドの土を(えぐ)り、大気を切り裂く音が辺りを突き抜けた。


 その殺傷性をいち早く見抜いた吉樹が、指先を唇に当て術を唱えると、九字切りの刃の出力が弱まる。

 真空の刃は、寮生達に接触するや空気爆発を起こし、一度に十数名の寮生を場外に吹き飛ばした。


 きょとんとする桃眞に吉樹が声を掛ける。


「阿形君。お仲間を殺す気ですか?」


「あ、いや……そんなつもりは」



 吉崎が顎を指で押さえながら鼻の奥から頷く声を出す。


「ふーん。まだ、力のコントロールが上手くできないようね」



 気を取り直した桃眞は、目の前で寮生に囲まれている櫻子の下へと向かった。

 呪力を使い果たしたのか、式神は消え去り全身に脱力感が襲っているようだ。


「ほら、言わんこっちゃない」と唇を噛み締める慎之介に、「どうする、タオルを投げ込んでやるか?」と漣樹が下卑た笑みを浮かべた。


 その言葉に迷う慎之介。

 もしかすると、桃眞が櫻子を救う事で、代表選手に選ばれてしまったら、更に危険な本戦に進む事になる。


 櫻子を守ると言う意味では、棄権(きけん)を勧める事が最善の策なのかも知れないと思い始める。


 追い打ちを掛けるかのように漣樹が口を開いた。


「あんなレベルの女が本戦に出た所で足で(まと)いだ。俺は必ず本戦に出場するが、もし代表チームにあの女が居たら……真っ先に(おとり)に使うぜ」


 そう言い、慎之介の表情を覗き込む。

 迷い続ける慎之介だったが、戦況はリアルタイムで進行していく。



 待っていたと言わんばかりに、下心丸出しの寮生が櫻子を手に掛けようと近づく。


 体が思うように動かずに焦りを見せる。


「待って……マジでやばい」


 覚悟を決めた櫻子の前に、飛び蹴りで寮生を場外に突き飛ばし現れた桃眞。


「大丈夫か櫻子ッ」


「桃眞ッ」と思わず笑みが溢れた櫻子。


 他の寮生が「阿形ッ……邪魔するな。独り占めする気なんだろ」と怒りを顕にする。


「何言ってんのお前」


「俺は雉宮のおっぱいを揉み揉みしてぇんだよッ」


「馬鹿かお前は。そんな下心で陰陽師になる資格は無いし、代表選手になる資格もねぇ。さっさと消えろ」


「んだとぉ、このヤロウッ!!」と、激昂(げきこう)し桃眞に襲いかかるも、カウンターパンチが(あご)を弾き、脳が揺れた寮生は膝から崩れ落ちた。



 ふと、足元に未使用の呪符が落ちている事に気付いた桃眞は、それを拾った。

 見慣れない術が記された呪符をまじまじと眺める。

 そして、櫻子に見せつけた。


「なぁ、これなんの呪符か分かる?」


「さぁ、初めてみたけど」


「そっか」


 そう言った桃眞は、呪符に念を込めると、前方の寮生達に向かって手首のスナップを効かせながら投げ飛ばした。



 ……一瞬の閃光。


 ――爆発!?


 そして炎上……。



 予想の斜め上を行く出来事に、またもたじろぐ桃眞。


「うそ……」


「爆発の呪符だったようね……」と顔が引き()る櫻子。



 辺りを見回すと、グラウンドに立っているのは、桃眞と櫻子の二人だけだった。

 残っていた寮生達は今の爆風で全員場外へと飛ばされたようだ。


「私達……勝ったの?」と信じられない様子で辺りを見回す櫻子。


「どうやら……そのようだな」


 皇が笑顔でホイッスルを鳴らした。

 続いて吉樹の声が響く。


「おめでとう。一年生の代表者は阿形君と、雉宮さんだね」


 勝利の喜びに酔いしれる二人は、ハイタッチを繰り返しながら「やった」「やった」と連呼する。

 ただ、その様子を不安げに見守る慎之介。



「じゃあ、次は二年生の予選を行うよ、グラウンド内に集合ぉ」


 吉樹の合図で、慎之介、漣樹、そして残りの三十五名が集合した。

 寮生達の目が血走り、戦々恐々とした雰囲気の中、余裕の表情を見せつける漣樹。



 すると、吉樹が指を鳴らした。


「二年生からは、ちょっとしたギミックを発動するからね。じゃあ頑張ってね。よーい始めッ!!」


 吉樹の合図と共に、グラウンドを囲む大きな円の内部に異変が起きた。

 地面が隆起(りゅうき)したと思うや、裁断(さいだん)され空中に浮かび出す。

 高低差がバラバラな足場に、それぞれが立っている。


 フェンスにもたれ見上げる桃眞と櫻子。


「やべぇ、メッチャ面白そう」と二人の声が揃った。

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