第20話「告げられた四大陰陽寮とのバトルロワイアル。代表選手の切符は誰の手に?」その2
四神大祭の開催を告げられ、陰陽寮の空気は一変した。
四つの陰陽寮から選出された代表チームによる、バトルロワイアル。
次に開催されるのは千年先かも知れない。
このまたとない機会に好成績を叩き出し、歴史に名を残したいと願う猛者達がいきり立っていた。
大会での優勝は勿論、出場したと言うだけでも『箔』が付き、卒業後の就職に大きなアドバンテージを持つ事も容易い。
代表チームの構成は全学年に公平に可能性を与える為、各学年より二名の出場切符が用意されている。
その切符を誰が手にするのか?
全てが明日の13時より明らかになるのだ。
犬の刻。
外界の時刻で『23:00』頃……。
図書寮で分厚い式神辞典を開き、ノートに重要事項を書き写す慎之介。
グリーンのパーカーにグレーのスウェットのパンツを履いている。
流石に疲れたのか、スクエア型のインテリ眼鏡を読書スペースの机の上に置くと、両目を掌で軽く圧迫した。
そして、目頭を指でつまむ。
その手でティーカップの無糖コーヒーに口を付けると、目の前で突っ伏して寝ていた櫻子と、椅子に深く腰を沈め、天井に向かって口を開けていた桃眞が目を覚ました。
二人の姿を見兼ねた慎之介が、ティーカップを皿の上に置きながら口を開く。
「もう、二人共寮に戻って寝ろ」
その言葉に、黒いジャージ姿の桃眞が不機嫌そうに言葉を発した。
「だったら、大会に出場してよ」
「そうよ。私達だって予選に出るのに、アンタも出なさいよ」と、白黒ストライプのシャツを着た櫻子も言った。
「だから何回も言ってるだろ。興味が無い」
そう淡白に答える慎之介に、櫻子はデニムのショートパンツから伸びる白く長い脚を組み替えると、両手を胸の前で組んだ。
「予選に出るだけでも良いじゃない。この意気地無し」
慎之介の眉毛がピクリと動いた。
「てか、そこまでして俺を誘う意味が分からん。お前らに何のメリットがある」
「そんなの決まってるだろ。お前と出たいからだろうが」
桃眞がそう言うと、慎之介は溜息を付きながら、シャーペンを机の上に掌で叩きつけた。
「前からずっと言ってるけど、俺、お前の先輩だかんな。後輩が軽々しくお前とか言うな」
そのまま櫻子を見る。
「それに櫻子。お前、マジで出るのか? どんな危険かも分からないんだぞ。予選は男女合同だ。下手したら死ぬぞ」
「出たぁ男女差別。そんなのやってみなきゃ分からないじゃない。もしアタシが出場できたとしても、他の寮も条件は同じでしょ」
「男女差別じゃない。俺はお前の事を心配してるから言ってんの」
「心配してもらわなくて結構。自分の身は自分で守るわよ」
櫻子の返答に不満そうな表情を浮かべる慎之介。
大切だと思えるからこそ、守りたいと言う一心で出場を辞退するよう伝えてはいるが、全く響かない事に苛立ちを見せる。
「もういい。行こッ桃眞」と言い、櫻子は桃眞の手首を掴むと、慎之介にそっぽを向き、図書寮を後にした。
深い溜息を吐く慎之介。
「何で分かってくれないんだ……」と呟きながら、慎之介は空中を漂う灯り玉を見上げた。
翌朝……。
女子寮で淡い水色の狩衣を纏う櫻子が一人、気合を入れていた。
いつもよりもキツく髪を結い、化粧を決める。
その姿に訝しげな視線を向ける女子生徒が声を掛ける。
「ねぇ、櫻子。あんた……もしかして予選に出る気?」
「そうよ」と答えながら白い烏帽子をしっかりと髪に留めた。
「え、マジ!?」
「うん。マジ。えっ……美晴は?」と聞き返すと、「出る訳ないじゃん」と半笑いで返される。
櫻子の中では女子寮の生徒の半分は出場するだろうと見込んでいたが、周りを見渡しても、櫻子と同様に気合を放つ女の子は見受けられない。
「蓮水は? 出場するの」と訊ねるが、蓮水は顔を左右に振った。
振り返り、ポップなドクロ柄が散りばめられている狩衣を纏った、狩麻姉妹に声を掛ける。
「魅恩と汐恩は?」
「私は出ない」
「私も出ない」と声を揃えて答える。
「どうしてよ」
すると、姉の汐恩が、艶のある長い黒髪をピンで留め、グリーンのアイシャドウを目蓋に塗りながら口を開いた。
「私達は和やかな雰囲気が苦手なの」
「もっと殺伐とした空気がタイプ」と、妹の魅恩がピンクのアイシャドウを塗りながら答える。
「それに……」と汐恩。
続けて魅恩が答えた。
「各学年から出場出来るのは2名。残念ながら私達が一緒に出場できないなら意味がない」
その言葉に櫻子が口を開く。
「認めたくないけど、貴方達だけで一年生の枠は埋まりそうだけど」
魅恩と汐恩が首を左右に振った。
その反応に訝しげに首を傾ける櫻子。
「残念だけど。予選に出た所で私達のどちらかしか出場は無理みたい」と汐恩が答える。
「何でそんな事がわかるのよ」
「ここ最近で、男子の中で急激に法力を高めている者がいる」
「それって桃眞の事?」
「かも知れないわね。彼が出場に前向きでいる限りは、私達が揃って出場するのは無理みたい」
汐恩の言葉を聞き、「桃眞ってそんなに強くなったんだ……」と感心する。
ふと、胸がドキッとした。
また女の顔になると恐れた櫻子は、顔を左右に揺さぶり奮起した。
「いかん、いかん」
すると魅恩が薄紫色の口紅を塗りながら「だけど、注意なさい」と櫻子に告げる。汐恩も「注意なさい」と言った。
「どういう事?」
魅恩が話す。
「彼の法力の急激な成長は『異常』なの」
「え……? 異常?」
汐恩が補足する。
「才能やセンスがあると言うだけでは説明がつかない。人間の成長レベルを遥かに上回っている」
「人間じゃないのかも……」と魅恩が不敵な笑みを浮かべながら言った。
「い、いやぁー。そんな訳ないじゃん」と複雑な表情で否定した櫻子。
確かに桃眞は、『鬼喰いの力』を持っている。
だが、桃眞自身が自らリスクのある『鬼喰い』を行い、法力を増幅しているとは考えられなかった。
故に、櫻子の中では、狩麻姉妹の言葉が信じれる訳がない。
別の理由があるはずだ。
何せ、桃眞を鍛えているのは、あの皇なのだから。
特別な修行を行っているのだろう。
そう櫻子は考えた。
魅音と汐恩は、スマートフォンを術で宙に浮かせると、新しく配信が始まった特撮戦隊モノのドラマの視聴を始めた。
アップテンポなオープニングソングが流れ始めると、ニヤリと不気味な笑みを湛える。
結局、女子寮からの出場者は櫻子一人であった。
子の刻。
昼の12時が過ぎると、陰陽寮の外周にある広大なグラウンドに、続々と寮生が集まり始める。
黒い狩衣が比較的多い。その中にちらほらと明るい色の狩衣が目立つ。
黒色は正装でもあり、陰陽師を志す者からすると、気合の現れの色でもあるのかも知れない。
そんな中、淡い紫色の狩衣を纏う桃眞と、淡い水色の狩衣を纏う櫻子が一緒に並んで現れた。
目の前に見える大勢の寮生達の姿に圧倒される。
「すげぇな。やっぱメッチャいるなぁ」と辺りを見渡す桃眞に、「やっぱり慎之介は居ないね」と櫻子は不満そうに言った。
だが、桃眞は自信満々な様子で、「いや。アイツは来るよ」と言い張る。
「どうして分かんのよ」
「どうしてって……。そう思うからだ」
「それって答えになってないよ」と鼻から息を吐く櫻子。
そう言っていると、桃眞の目の前を寺沢 漣樹が横切った。
桃眞に気付き、歩みを止める。
そして下卑た笑みを作る。
「あんなに俺にボコられて、よく出場しようと思ったな」
その言葉に睨む桃眞。
「お前が停学になってる間に俺は変わったんだよ」
漣樹は、視線を桃眞の足先から頭部へとゆっくりと上げる。
「確かに……。多少はマシになったようだ。だが、雑魚は雑魚だ」
そこで、桃眞は気になっていた事を訊ねた。
「なぁ漣樹。お前、本当はイヌヒコを殺すつもりは無かったんじゃないか?」
一瞬、漣樹の表情に動揺が見えた。だが、直ぐに元に戻る。
「さぁな。知らない方がいい事もある」
漣樹は意味深な言葉を残すと、後ろに付いて来ていた取り巻きの仲間3人と共に、大勢の寮生達の中に消えていった。
「ねぇ、今の話ってどう言う事?」と訊ねる櫻子を他所に、桃眞は「ほら見ろよ」と、グラウンドに向かって歩いて来る慎之介を指差した。
黒い狩衣を纏う慎之介の元に駆け寄る二人。
「来てくれたんだ」と笑顔で迎える櫻子に、慎之介は「お前らの事が心配なだけだ。どうせ俺の実力じゃ出場は出来ない」と冷静に答える。
桃眞は慎之介の肩を掴んだ。
「んなの、やってみなきゃ分かんねぇだろ。初めから諦めんなよ」
「うるさい」と慎之介は桃眞の手を振りほどいた。
そして時刻は13時である丑の刻となった。
時間ピッタリに寮生の前に現れた陰陽博士である吉樹 秀儀。
天文博士の吉崎 匣紫。
そして、世話係の皇 浩美が寮生達の後方から全体を見渡す。
寮生一同が頭を下げる。
「皆、顔をあげてくれて良いよ。そう言う堅苦しいのは無しにしよう」と柔和な言葉を投げかける吉樹。
桃眞は、寮生達の間を縫って来る吉崎の熱い視線を感じ、身震いをした。
それに気付いた櫻子がニヤリとした。
「アンタめっちゃ狙われてんじゃん」
「マジ勘弁なんですけど……」
吉樹は丸いインテリ眼鏡を指で押し上げながら、「さて、じゃあ予選の内容だけど。グラウンドに描かれている大きな円の中で、最後まで立っていた二名が代表選手に選ばれます。至ってシンプルでしょ」と笑みを見せる。
すると横に立っていた長髪の吉崎が低く艶かしい声で、「予選に関しては武器や道具の使用は禁止よ。ただし、呪符と人形の使用は認めるわ。そして勿論、予選では相手を殺しても失格よ」と告げる。
続いて後方の皇が変わらぬ笑顔で口を開く。
「もちろん、この円から出ても失格です」
「じゃあ、さっそく一年生から始めちゃおうか」と吉樹が言うと、一年生以外の寮生がグラウンドの円から出ていき、フェンス側へと寄る。
予選に名乗りを上げた一年生は、桃眞と櫻子を含めて三十二名。
それぞれが満遍なく散らばる。
が、その大多数が狙うは桃眞だった。
「まずは、一番弱い漏刻のアイツからだ」「寺沢さんに半殺しにあったヤツだろ」
そして、なんとその次に狙われていたのは櫻子だ。
「どうせヤルなら雉宮だな」「どさくさに紛れて、おっぱい揉んじゃおうかな」
自然と背中を合わせた桃眞と櫻子。
その光景を心配そうに見守る慎之介。
「ねぇ、私達めっちゃ狙われてるんだけど」
「そうみたいだな」と言う桃眞の顔には一切の焦りがない。
何故か不思議と落ち着いている桃眞。
自分自身でもその理由が分からないが、今はそんな事を考えている暇はない。
今、その答えを一番理解しているのは他でも無く皇だろう。
「始めッ!!」
吉樹が開始の合図を出した途端に、強烈な鈍い打撃音が鳴り響き、3名の寮生が場外に吹っ飛んだ。
その内、2名がフェンスにめり込む。
何が起きたのか分からず、グラウンドが静まり返る……。
「えっ……?」と言う、桃眞の突き出した拳から薄らと煙が上がっていた。




