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第19話「皇のトレーニング開始!! 高まれ桃眞の法力よッ!!」その1

 白い半袖シャツで、早朝のグラウンドを走る桃眞。下は白い三本ラインが入った黒いジャージだ。

 軽快な足取りでリズムよく地面を跳ね、一周四百メートルのトラックを五周し終わった。

 額に少し汗が滲むが、その顔には爽快感さえ垣間見える。


 近くにあるベンチに戻り、本を読む皇の横に座った時には、もう息が整い始めていた。


「はい、どうぞ」と紫の狩衣を纏う皇が特製ドリンクを桃眞に手渡した。


「ありがとうございます」


 そう言うと、水筒のコップに入ったドリンクをゴクゴクと喉を鳴らして飲む。


 喉越しと共に清涼感のあるドリンクが体内に染み渡り、内部から熱を冷まさせる。

 桃眞は特製ドリンクを飲み終わると、タオルで顔の汗を拭い深呼吸をした。



「流石ですね桃眞さん」


 そう言い、ドリンクをもう一杯手渡す。


「たった10日でレベル5(ファイブ)をモノにしましたね」


「でも、なんか強くなった気がしないし。変わった感じがしませんね」と言いながら、桃眞は自分の拳をまじまじと眺める。


「そう思えていると言う事が、強くなっているのです。レベル1(ワン)の術を掛けた時に、もしも5(ファイブ)の術を掛けようモノなら死んでいたでしょう」


「マジすか?」


「はい」と笑顔で答える皇。



 皇は、立ち上がり「さて」と気持ちを切り替える。


 桃眞もそれに釣られ立ち上がった。


「これで、桃眞さんの法力のベースは完成しました。ここからが術者としての本当の修行です」


「待ってました」と、桃眞は意気揚々と、胸の前で拳を手の平に打ち付けた。



 だが、皇はハッと気が付くと「とは言いましたが、もう時間ですね。私とした事が時間を忘れておりました。続きは放課後にしましょう」と告げる。


 それを聞いた桃眞は、持っていたタオルを首に掛けながら、名残惜しそうに返事をした。


「そうっすねー。何か丁度体が良い感じにエンジン掛かって来たんですけど。しゃーないか」



「そう言えば、今日からですか? 皆と同じ授業に出られるのは」


 その問いに、ニンマリとした桃眞は嬉しそうに答えた。


「いやぁ、そうなんですよ。ようやく吉樹先生の授業から解放される訳で」


「苦痛だったのですか」と首を傾げる皇。


「いや、苦痛ではないですけど……あのノリを毎日付き合うのは疲れると言うか何と言うか。おまけにマンツーマンでしょ」


 苦笑いをしながらそう答える。


「吉樹さんは昔からあんな感じですからね」




 桃眞が去る後ろ姿を見ながら、皇は鼻から深い息を吐いた。

 昨夜の出来事を思い出す。


「まさか、イヌヒコ君が犬神と転生するとはね。まぁ、役目は果たしてくれましたし、それくらいの誤算も許容範囲でしょう」


 以前からイヌヒコが生き返った事は聞かされていたが、昨夜、皇の元へ、イヌヒコを抱き抱えた桃眞がやって来たのだ。

 イヌヒコの両脇を掴み持ち上げると「あらま、随分と小さくなりましたね」と丸く愛らしい目を覗き込む。


 皇は、イヌヒコの中の犬神の存在を直ぐに感知し、「犬神は今は眠っている」と告げた。

 イヌヒコと融合し、転生するにあたって『神力(じんりょく)』を使い果たし、今は回復の為に出てこないのだと教えたのだ。


 犬神の意図は分からないが、(おおむ)ね、半妖半神でいる事よりも、目の前のイヌヒコと融合し、肉体を得る道を選んだのだろうと推測した皇。

 そして、皇の中では、イヌヒコの復活は、また桃眞に守るべき大切な存在が戻った訳で、むしろ好都合であった。



 皇は桃眞の成長を促す意味でのショック療法の為に、イヌヒコの死を利用したのだ。

 その作戦は見事に功を奏し、死に物狂いで法力アップを果たした。


 何故、(むご)い事をしてまで桃眞のパワーアップを急ぐのか。また別の思惑があるのか……。

 今の時点では、不気味な笑顔に包まれて読み取る事はできない。





 桃眞は一旦男子寮に戻り、大浴場へと向かった。

 露天の(ひのき)風呂に肩まで浸かると、眼前に広がる青空と、濃い緑に染まった山脈に癒される。

 元々、景色や自然を楽しむ様なタイプではなかったが、この陰陽寮の独特な世界観がそう感じさせるのか、風や自然の匂い、日の光さえ風情を感じてしまう。


 朝練の汗を流し、白い狩衣に着替え、黒い烏帽子を被る。

 そうしている間にも続々と、同じ部屋の一年生達が着替え終わり食堂へと向かう。


「おい、桃眞。先に飯いくぞ」と男子寮生が桃眞に声を掛けて部屋を出る。

 

「おぉ」


 そう答えると、桃眞も部屋を出た。

 桃眞に声を掛けた寮生は、年齢で言えば桃眞よりも一つ下だが、同学年でもある為、同等の扱いを受けている。

 桃眞自身は、あまり序列や、先輩後輩と言ったモノに疎く、(むし)ろそう言う関係に親近感を覚えるのだ。


 それ故、逆にそう言う事を重んじる慎之介からはあまり良く思われていない。




 食事を終えると、桃眞は遂に他の寮生との授業に向かった。

 陰陽寮に来て、初めての事ばかりであったが、今、この瞬間が、何故か一番緊張し、胸が高鳴る。

 初めて皆と授業を受けるのだからだ。


 一時間目は『占星術(せんせいじゅつ)』である。

 どうやら、星の動きを読み解き、吉凶を占うらしい。

 外界の学校に占いを習う授業があるだろうか?


 授業内容に対しては若干の戸惑いを抱きながらも、孤独から解放された空気に胸を躍らせ教室の戸を開いた。



 広い畳張りの和室。

 漆塗(うるしぬ)りの座卓と座椅子が等間隔に並べられ、そこに烏帽子を被った生徒達が(まば)らに座っていた。


 次々と生徒が教室に入ってきている中、桃眞がどこに座ろうかと視線を巡らせていると、気付いた櫻子が手を振って居場所を知らせる。


「桃眞ッ。こっちこっち」と、笑顔で櫻子の横の席に手招く。


「おぉ、櫻子じゃん」


「やっと個人授業が終わったんだ」と淡いピンク色の狩衣を纏う櫻子が訊ねた。


 亜麻色の光沢感のある髪が頭頂部で結ってあり、白い烏帽子の中に纏められている。そして、淡い光を放つラインストーンが烏帽子の表面で存在感を示し、その下には綺麗なうなじが見える。


「そうなんだよ。てか、今まで一人だったから、こんなに生徒がいるとソワソワするぜ」



 そんな事を話していると、いつしか教室は生徒で埋まり、先生が現れた。


 朱色の狩衣に金色の蝶の刺繍(ししゅう)が映える。


 天文博士の吉崎 匣紫(よしざき こうし)

 陰陽助(おんみょうのすけ)霞 黄明(かすみ こうめい)よりも一つ歳上の四十一歳。

 爬虫類顔をしており、鋭い目つきに睨まれれば、恐怖から全身が硬直しそうである。

 そんな危険なオーラを醸し出してる。


「なんかメッチャ怖そうな先生じゃん」と桃眞が櫻子に耳打ちする。


「見た目はね」と櫻子は、卑しい笑みを浮かべた。



「今日の号令は誰かしら」と、おネェ口調で生徒達に訊ねる。


 見た目からは想像が付かなかった桃眞は、目を見開き驚く。

 そして、櫻子の顔をじっと見た。


「おネェ?」と囁くように訊ねる。


「うん。おネェ」と櫻子も囁くように答えた。


「マジで……」



 その時。


「ちょっとソコのあんた」と、桃眞が声を掛けられる。


「は、はい」


 急に声を掛けられ緊張する桃眞。


 吉崎がゆっくりと畳の上を摺足(すりあし)で歩き近づく。


 周りの生徒達が不思議そうな顔を向ける中、持っていた扇で桃眞の顎を持ち上げる。


「見ない顔だけど。アナタが噂の阿形 桃眞かしら」


「う、噂? ……は、はい?」


「いい男ね。私の好みのタイプ」


「……あ、ありがとうございます……」


 別の意味での恐怖心が桃眞を締め付ける。

 新しい扉をこの不気味なおネェに開かれてしまうかも知れない。

 それだけは勘弁願いたい。

 平静を装おうと笑顔を作って見せるが、心は正直であり、口角がひきつる。



 吉崎は扇を桃眞の顎から離すと、(きびす)を返し教壇に戻った。


 指を唇に当て術を唱えると、大きな巻物がしゅるしゅると開き、教室の全面に大きなホワイトボードのように広がった。


「今日は号令は無くてよろしい。教科書の32ページよ」


 そう言いながら、吉崎は教室の横で一際存在感を放つ、幾つもの輪っかが重なり合う渾天儀(こんてんぎ)を触り始めた。

 星の位置を測定するモノである。


 吉崎は、生徒達に渾天儀を見せながら授業を行い、重要なポイントを大きな巻物に、筆で記してゆく。


 周りの生徒と同じ様に、桃眞は必死に自分用のノートにシャーペンで書き写した。

 どうやら、筆を使うのは教師だけの様で、効率の観点から今の生徒は外界の高校生と同じく、ノートとシャーペンやボールペン。蛍光ペンが当たり前らしい。


 ちなみに、正面の巻物も教師の術で、また白紙に戻るのだ。




 放課後――。


 空が青とピンクのグラデーションに染まる中、グラウンドには桃眞と皇の影が遠くまで伸びていた。



「では、本格的な修行の始まりです」と桃眞に告げる皇。


 指先で手刀を作り唇に当て、術を唱える。


 すると、グラウンドの土が盛り上がり、四つの固まりが飛び出したかと思うと、次第に人の形へと変化した。

 それぞれが桃眞を中心に対角線上に立つ。


 皇は、野球ボールを一球、その中の一体に手渡した。


「今から、桃眞さんには、彼らが投げるそのボールを避けて頂きます。ただし、目隠しをしてです」


 そう言って、黒いアイマスクを桃眞に手渡した。


「マジですか。こんなの避けれる訳ないじゃないですか」


「何事も挑戦です」


 その言葉を聞き、桃眞はアイマスクを着けた。

 視界が完全に奪われる。

 今、頼れるのは、聴覚くらいしか無い。


 この状況でボールの位置を特定できる訳が無いと桃眞に不安が襲う。



「良いですか、桃眞さん。今のアナタは以前のアナタよりも格段に法力が体に浸透しています」


「はい……」


「私が手渡したボールには私の法力を宿しています。視覚を奪われたアナタに今、求められるのは、聴覚なんかではありません。相手の気を捉える事です」


「相手の気を捉える……」


「感覚を研ぎ澄ましなさい。そうすれば、飛んでくるボールが見える様になります」


 その言葉を聞いて、難しそうな表情を浮かべる桃眞。


「どうしましたか」と訊ねる皇に「…………感覚を研ぎ澄ますって言われても、どうすればいいのか分かりません」と、キッパリと答える。


 謎の沈黙が二人を包込む。


「まぁ、始めれば分かります」


 そう言うと、桃眞の斜め後ろの泥人形が、ボールを握り締め大きく振りかぶった……。




 霧島 流海(きりしま るか)のしなやかな指先が桃眞の顔を滑る。


 ボコボコに腫れ上がった顔を見て、「一ヶ月に二回も顔面がボコボコに腫れ上がった生徒はアナタが初めてよ」と心配そうに声を掛ける。


「ですよねぇー」と、桃眞は痛みを堪えながら苦笑いをした。

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