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第10話「鬼喰いの一族」その2

 図書寮は、陰陽寮の三階にある。

 平安時代にも図書寮はあり、当時は「ずしょりょう」と呼ばれていたが、現代ではそのまま「としょりょう」と呼ばれている。

 その名から連想する通り、図書室のような場所である。


 畳張りの広大な空間に、木製の本棚があり、無数の書籍や資料が並べられている。

 読書スペースや、勉強スペースもあり、オシャレで落ち着いた和モダンの空間が、癒しを与えてくれるのだ。


 図書寮は五フロア程の吹き抜けになっており、その分天井も非常に高い。蛍光灯も電球も無いが、代わりに暖色の光を放つ球が幾つも宙を浮き、辺りを照らしている。

 生徒は、法力でその灯り球を操る事も可能で、本を照らしたり、時には、白い光に変える事も可能だ。


 

 ちなみに、和テイストのカフェもあり、式神のウエイトレスが対応をしてくれる。

 時間は、夜の二十一時過ぎだが、コーヒーや、抹茶を飲みながら勉強をしている生徒も数人いた。



 桃眞は、目の前の大量の本棚、見上げるフロア事にも並ぶ本棚を前に、「この中から探すのか」と二人に問いかける。


 すると、慎之介が「そんな訳ないだろ」と言うと、ふぅっと図書寮の案内人の女が現れた。


 桃眞が視線を下ろすと足がない。

 そう、彼女も式神なのだ。


「何をお探しですか」と女が訊ねると、「鬼喰いの力、法力を封印する鏡の首飾り」と慎之介が告げる。


「かしこまりました。お探しのモノは、どちらにお持ち致しましょう」


「読書スペースに持ってきてくれ」と慎之介が指示し、三人はカフェ前の読書スペースのテーブル席に座った。



 カフェから、嬉しそうにテーブルに戻ってきた櫻子。

 トレーの上に、三人分のショートケーキとコーヒーが乗っている。


「ここのショートが美味しいのよ」と言い、テーブルに並べる。


 そして、スマホのカメラで撮影し、三人の自撮りをした。


「SNSにのーせよ」と言い、スマホを操作する櫻子。


「お前、さっき晩飯食べたのに、よく食えるな」と言う慎之介に、「別腹でしょ」と答える。



 金色のフォークで掬ったケーキを口に運んだ櫻子が唸る。


「んー。幸しぇ」


 慎之介と桃眞もケーキを食べていると式神の案内人が現れた。


「お待たせ致しました」と言い、二冊の古い書物をテーブルに置いた。


「法力を封印する鏡の首飾りに関しては、該当する書物が御座いませんでした。私の方で関連性の強そうな資料を選んで参りました」と式神が告げる。


「分かった、ありがとう」と慎之介が言うと、「またお探しのモノが有りましたら、何なりと」と言い、式神はスッと消えた。



 慎之介は、指先で宙に浮く灯り玉を操る。

 野球ボール程の大きさの灯り玉三つが、テーブルの真上に集まった。



 暫くの間、慎之介が本を読む。

「何か書いてある」と桃眞が訊ねたが「うるさい黙ってろ」と慎之介は集中する為、拒絶した。



 スマホをずっと触っている櫻子。


 桃眞は、櫻子に殴られた頭を摩りながら、宙に漂う灯り玉をぼんやりと眺めていた。

 凄く幻想的で美しいと桃眞は思った。


 時折、誰かに呼ばれたのか、沢山の灯り玉の一つが何処かに向かって飛んでいく。

 そして、また、何処かから灯り玉が戻り、空中で止まる。



「あったこれだ」と、慎之介が声に出し、テーブルの上に書物を広げた。

 桃眞と櫻子も書物を覗き込む。



 ーー『鬼喰いの力・一族について』

 と書かれている。


 慎之介が、書かれている内容を口にした。


「お前が言っている通り、鬼喰いの力と言うのは確かに存在するみたいだ。鬼を喰らい、その呪力を己の力として利用する事ができる。だが、その反面、毒気も体に残り、許容値を超えた時に鬼になってしまうとな」


「なっ」と桃眞は自分が言っている事が正しいと胸を張った。


 すると櫻子が「でも、もし、アンタがそうだとしたら、今みたいに胸を張ってられないわよ。その力を使うと鬼になっちゃうんでしょ」と心配そうに言った。


「まぁ、そうだけど。喰わなければイイんだろ。早い話」とケロッとした表情の桃眞。


 今度は慎之介が口を開いた。


「そうは言うが、ここには鬼喰いの一族は今は絶滅して存在していないと書かれている。過去に、この能力を驚異に感じた者達によって粛清されてしまったそうだ。又は、悪しき者達により貴重な呪物として扱われたとか」


「じゃあ、なんで俺はその力があるんだろ」


「絶滅したと言っても、隠れてて生き残ってたって可能性もあるよね」と櫻子が口にする。



 更に慎之介が書物を読み進める。


「それに鬼喰いの力は、血で継承すると書いている」


 それを聞いて、櫻子が「アンタの父親か母親が鬼喰いの一族だったとか?」と言い、桃眞に視線を向ける。


「さぁな。俺、どうやら育ての親とは別に本当の親ってのが居るらしいからさ」


 その言葉に、櫻子が動揺した。


「アンタ……何をサラッとそんな衝撃的な告白してんのよッ!? ……てかゴメン」と申し訳なさそうに(こうべ)を垂れる


「いや、全然いいよ。ちゃんと両親から説明をされたし、わだかまりも無いんだ」とニコリと答える。


「だったら良いけどさ……」


「血で継承とは書いているが、それが血縁関係なのか、血液を介して継承するのかは明記されていない」と慎之介が本を見ながら言った。


「そっか……」と言い口をつぐんだ櫻子の前で、「まぁ、結局は分からないって事だよな。でもホントだったろ」と桃眞は二人の顔を覗き込む。


 慎之介は眼鏡を中指で押し上げると「これでお前がただの一般人ではないと言う事実が分かったという事だろ。何者なんだよ……お前」と訝しげな眼差しを向ける。


「さぁな……俺が一番教えて欲しいよ」と桃眞は天井に浮く灯り球を見上げて言った。



 その後、鏡の首飾りについて、式神が持ってきた書物を読んだが、桃眞が持っている首飾りに繋がるような記述は見当たらなかった。


八咫鏡(やたのかがみ)や卑弥呼の鏡とか、神や悪魔の力を宿した鏡と言うのは古来から存在している。もしかしたらお前のその首飾りも、魔鏡の一種かも知れないな」


 慎之介は、書物を閉じながらそう言った。


「そっか。俺自身が俺の事を何も知らないなんてな。笑えるよな」と皮肉混じりに微笑する。



「アンタが言ってた通り、その力の事はあまり口外しない方がいいわね」


 そう言い、櫻子がコーヒーを飲む。


「うん」


「浩美さんには相談するのか? あの人なら信用できそうだけど」と慎之介が提案すると、「そうだな。皇さんなら、何か力になってくれるかも」と桃眞が頷いた。



「でよッ」と櫻子が体を乗り出し、目を輝かせる。


「な、何……」と不気味に感じた桃眞が仰け反る。


「安倍晴明ってどんな人だった。イケメンだった?」


「……………………男前だとは思うけど……」


「けど?」


「……あ、いや、何でもない。うん、凄い人だったよ」と笑って誤魔化す。


 桃眞は、女好きで変態だと言い、櫻子の夢を壊したくないと思ったのだった。




 翌日……。



 陰陽道のマンツーマン授業を受けていた桃眞。

 小さな和室で座卓に向かう。



「では、式神について説明しよう」と講師の吉樹 秀儀(よしき しゅうぎ)が口を開いた。


 まだ若く、皇と同じ年齢らしい。

 ボサボサの髪に丸いインテリ眼鏡が、慎之介とはまた違った勉強オタクと言う匂いを漂わせる。


 聞くと三十歳との事だ。黒い狩衣を纏う。烏帽子は、邪魔との理由で畳の上に立てている。そう言う作法事に関しては無頓着なのかも知れない。



「式神には大きく分けて三種類ありますが。阿形君、それらがわかりますか」


「わかりません」とキッパリと答える。


「イイねッ、気持ちいいくらいの全否定ッ」と吉樹がリズムよく動く。


 どうやら見た目以上にコミカルな人間だ。


 初日の授業の時からこうであり、何故か桃眞と息が合う。桃眞もどちらかと言えば、いい加減な性格に近いからなのかも知れない。


 とは言え、吉樹は陰陽道の講師であり、その情報量は凄まじい。


「あざーす」と桃眞が礼を言う。



「まず、君達が最初に使役できる式神が『擬人式神(ぎじんしきがみ)』だ。擬人と言っても別に人とは限らないよ」と言い、紙で作った人形(ひとかた)を取り出した。


「コレは、人形、別名で形代(かたしろ)。藁人形を使う事もある。これに陰陽師の念を込めて使役する式神でね。術者の力で自立的に行動する上位式神と、与えた指示のみに従う下位式神がある。君達がファイト倶楽部で使役しているのは、戦う事のみの指示に従う下位式神ってところかな。ちなみに下位式神は、護身符に憑依させお守りとして、効力が無くなるまで誰かを危険から守ると言う使い方もできる」


 桃眞は、頷きながらノートにメモを取る。



「では阿形君。この擬人式神を更に高度な式神に発展させたモノを何と言うか分かるかい」


「わかりません」とキッパリと答える。


「イイねッ、教科書を見ない潔さ。イイねッ」と吉樹がステップを刻む。


「あざーす」



思業式神(しぎょうしきがみ)と言います。これは、人形や形代が無くても使役できる式神でね。陰陽師の思念から生み出されるので、見た目や能力にもカナリのバラつきがある。術者の力がそのまま反映されるんだ。まぁ、擬人式神と根本は同じなんだが、より直感的で高度な力が求められるって訳さ」


「なるほど」



「じゃあ、最後の一つは何かわかるかな」


「わかりません」


「イイねッ、その初志貫徹の姿勢。イイねッ」と両手の人差指を桃眞に向ける。


「あざーす」



「最後の式神は、悪業罰示式神あくぎょうばっししきがみと言います。これは過去に悪行をおこなった霊的な存在や鬼、時には神を陰陽師が打ち負かし、自分の使役神とした存在の事を言います。もともと力が強く、悪い存在なので、陰陽師の能力と心根次第では、逆に闇に取り込まれる可能性もある非常に危険な式神です。その変わり、普通の式神では太刀打ち出来ない程の強力な力を発揮するでしょう」


「凄いですね」と関心する桃眞。


「かの安倍晴明は、幾人もの次元が高い霊を術でねじ伏せ、多くの悪業罰示式神を使役していたとか。しかも、噂では十二神将を使役していたとも言われています」


「はい先生ッ」と手を上げる。


「何ですか」


「十二神将って何ですか」


「そうですね。話すと長いですよ。六人の吉将と六人の凶将の神が存在して、十二支……」


「先生、あとで教科書見ときます」と話を切り上げる桃眞。


 吉樹が『話すと長い』と言うと、何時間でも話し続ける。

 これまでの経験があった為、その言葉を聞き、桃眞はすぐに話を切り上げたのだ。



「では、具体的な式神の使役の方法に参りましょうか」


 こんな感じで、一日の授業が進んでいたのだった。




 外界……。


 

 陰陽道の時刻で言うと、丑の刻……。深夜一時過ぎ。

 十階建てのマンションの一室で、突如として響き渡る奇声。



 ベッドの上で苦痛にのたうち回る熟年の女。


 体の至る所に浮かび上がる黒い血管。充血し晴れ上がる目。

 黒く変色した舌。



「真理ぃぃぃ……真理ぃぃぃ……」と声とも取れない様な掠れた濁声が木霊する。



 そう、この女は、桃眞が最初に襲われた森で、異形の存在に殺された真理の母親だ。


 一体彼女の身に何が起こったと言うのだろうか……。




次回はついに、この物語の見せ場の一つダイブに差し掛かります。

真理の母親の精神世界に入り込み、除霊を行うんですよ。

これがなかなかのタイムクライム除霊になるかと。

まぁ、書いてみてどうなるかかな。


さて、図書寮。なかなか良い雰囲気の場所ですね。

自分も行ってみたい。お洒落ぇ。


終盤に出てきた3つの式神の種類は、実際にあります。

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