表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

第9話「放課後の式神ファイト倶楽部」その2

 その瞬間、視界が乱れる。


 そして、自分の体の中心に引き込まれる衝撃。体の内部と外部がひっくり返るかの様な感覚に襲われた。

 それらが一瞬にして起こり、ほんの一秒か二秒後には、景色が変わっていた。



 晴天を横切るカモメ。白く輝く雲。

 大きく広げられ風を受けるマストと帆。

 ワックスが染み込んだ板の床。


 目が回りながらも立ち上がる桃眞。


 そこは、大きな海賊船のようだった。

 船の外は何もない綺麗な海。波も穏やかだ。



 皆が歓声を上げている……。



 頭を押さえ振り返ると、赤い何かが桃眞の頬を掠めた。

 慌てて後ろに下がり、その正体を見た時、桃眞は絶句した。



 大きな赤いカマキリがそこに居たのだ。

 桃眞の身長の倍はあろうか……。

 その横で、両手で印を結ぶ慎之介。


 そして、甲板の向こう側には、青い毛が逆立つゴリラ。

 両手で印を結んでるのは、三年生の横谷 俊(よこや しゅん)



 桃眞は、甲板の端にいる生徒達の元に向かうと、櫻子に声を掛けた。


「櫻子ッ、コレ何ッ」


「何って式神よ」


「これが式神ッ!?」



 ゴリラが甲板を走り、飛び上がる。

 マストにしがみ付くと、タイミングを見計らい、カマキリの頭上に飛び掛かる。


「上だッ」


 慎之介が叫ぶと、カマキリは上を見上げ、大きな鎌を振りかぶる。

 飛び降りる加速度を乗せたゴリラの渾身のパンチは、カマキリの鎌を打ち砕いた。そのまま、カマキリの体を甲板に沈みこませた。

 絶命したカマキリの体は、人形の紙となり、凹んだ床の中心でボロボロになっていた。



 額に汗が滲む慎之介が「クソッ、参りました」と負けを認める。


 横谷が印を解くと、ゴリラも人形に戻る。

 お互いが一礼し、生徒達の元に戻った。



「す、すげーな」と驚く桃眞を見て、「あれ、アンタ式神が見えてんの」と声を掛ける櫻子。


「そ、そうなんだよ、だからコレの事を言いくてさ。櫻子にも後で……」


「じゃあ、次は雉宮(きじみや)と、狩麻(かるま)姉妹」と漣樹が次の対戦ペアを告げる。


 その言葉に違和感を覚える。


「姉妹?」


 すると、櫻子と入れ違いで返ってきた慎之介が口を開いた。


「アイツらは双子でな。いっつも一緒なんだ」


「そんなの有りなの……」


 そう言い、自分の足元をみると、犬神が座っている。


「お前が犬神……」と桃眞が言ったが、犬神は振り返る事もなく、ただ鎮座している。



 白に桜の柄をあしらった狩衣を纏う櫻子。


 対面に立った狩麻姉妹。

 二人とも瓜二つの姿だ。


 小さなドクロのイラストの刺繍が散りばめられた紫色の狩衣。目玉のアクセサリーが付いた烏帽子の下からは、胸元まで伸びる黒黒としたストレートヘアー。


 違う所があるとすれば一人は、ピンクのアイシャドー。一人は緑のアイシャドー。

 透き通るような白い肌と、妖艶な眼差し。


 

「独特なファッションセンスだなぁ」と妙に感心する桃眞。


「どっちかが、汐恩(しおん)、どっちかが魅恩(みおん)だ」と説明する慎之介。



 漣樹が再び術を唱えると、瞬時に景色が変わった。



 闇夜。


 一同が立っているのは、大きな朱色の木製橋。

 聳え(そび)立つ、和風の城の石垣から、対岸に渡る橋である。


 等間隔に灯された灯篭の灯りが煌々と輝いていた。



 汐恩と魅恩が交互に会話を始めた。


「ねぇ、汐恩」


「何、魅恩」


「どれでいく?」


「何を出す?」


「グロいの?」


「怖いの?」


「んー」


「んー」


「怖くてグロいの!」


「うんッ、怖くてグロいの!」


 そう言うと、一人が懐から人形を取り出し、もう一人が両手で印を結び念を送る。


 そっと、人形を宙に投げる。


 ゆらゆらと宙を舞い、橋の上に落ちた途端。そこから、般若の仮面を被った白い装束の女が現れた。


 血塗れの装束のあちこちに、無数の釘が体に刺さっている。

 痛みに苦しんでいるのか、低い呻き声をあげて体をよじる。


 その手に握られた(なた)……。血がこびり付き、錆ている。


 それを目の当たりにしていた生徒達が、ゾッとし、後退りした。



「さすが、女子寮ナンバーワンッ」と、櫻子は狩麻姉妹の法力を称えると、懐から人形を取り出す。


 足元に置くと、両手を結び念を送る。

 そこから現れたのは、白いウサギだった。


「おい、マジかよ。あんなの無理だろ」と心配する桃眞に、「見た目に惑わされるな」と慎之介が言った。



 桃眞が良く見ると、ウサギは、ゆっくりと懐から鈍く光る斧を取り出す。



 ずり……ずり……

 般若の血と泥に染まる足が、橋の上を擦る。

 怒りと苦悶がないまぜになりながらも、無機質な感情を称える仮面。そして、また、ふと……足を前に突き出す。



 ゴリ……ゴリ……

 ウサギは、自分の体よりも重そうな斧を引きずりながら距離を詰める。



 その刹那。


 一気に振り下ろされた鉈が、床をかち割り、突き刺さった。


 間一髪飛び避けたウサギが斧を振り般若の首へ斬り込む。が、斧は、首の中心で止まる。

 力が足りなかったのだろうか? 首が異常に硬かったのか……。



 細く不気味な手が、ウサギを掴もうとしたが、俊敏な動きを見せ、般若の女を翻弄し体を這いまわる。


 その間に、何度も斧で斬り込む。 

 飛び散る鮮血。

 悲痛な叫び声をあげる女。


「ムカつくね」


「うん、ムカつくね」と、防戦一方の状況に苛立つ狩麻姉妹。



「ヒットアンドアウェイよッ」


 ウサギが正面から、般若の面を斬りかかったと同時に掴まれた。


「しまったッ」と叫ぶ櫻子。



 次第に力を増す手の中で、ウサギが藻掻く。


 その前で、ゆっくりと仮面が半分に割れた。

 現れた素顔に一同が絶句する……。


 皮膚が(ただ)れ落ちた赤黒い顔に、口が縦に大きく裂けている。


 ギョロっと飛び出た丸い瞳。

 無数の唾液と血に塗れた腔内から、無数の触手のような舌が蠢いている。



 そして、次の瞬間、口から触手が飛び出すと、ウサギの体に絡みつき、一気に腔内に引き込んだ。



「あ、あいつ喰ってる……」と青ざめる桃眞の前で、櫻子が地面に崩れ落ちる。


「くっそぉー」



「やったね」


「やったね」


 そういい、汐恩か魅恩かが印を解くと、般若の女は人形へと戻る。

 そこには、バラバラになった櫻子の人形も散らばっていた。



 一同が気を取り戻すのに暫く経った。



「どうだ、阿形 桃眞。体験入部がてら俺と一勝負は」と漣樹が桃眞を煽る。


「いや、俺はいいよ。式神なんてまだ習ってないし」と両手を振って拒否した。


「なんだ、お前もソコの猿田と同じで腰抜けか? 食堂で突っかかって来た時の威勢はどうした」


 その言葉にカチンと来た桃眞。


「慎之介は関係ないだろ」


「どうする。やるのか? 逃げるのか……」と桃眞の目を見ながら挑発する。



 とは言っても、式神の召喚の仕方なんて習ってもいない。


 返答に困っていると、「おい、猿田。阿形に教えてやれ」と漣樹が指示をする。


「いや、流石に短時間では無理だろ」と答える慎之介。


 そんな答えは受け付けないと言った表情で、無言を貫く漣樹。

 選択肢が他に無いと悟った慎之介は、桃眞を連れて、橋の対岸へと移動した。



「式神の原理や説明をしている時間はない。ただ、式神の召喚の仕方だけを教える」


 そう言うと、慎之介は懐から人形を取り出すと、桃眞に手渡した。

 そして、式神召喚のレクチャーを始めた。



 その間に、漣樹が再び場所を変える。

 術を唱えると、真昼のコロッセオ闘技場へと景色が変わった。


 中央の闘技場には、漣樹と、桃眞。そして今、レクチャーを進めている慎之介。

 その他の生徒はギャラリーとして観客席に座っていた。



 それから暫くして、慎之介が闘技場を離れた。



 櫻子の隣の席に座る慎之介。


「ねぇ、大丈夫なの」と訊ねる櫻子に、「多分……」と答える。


「あとは、アイツの法力次第だ」


「でも、アイツ……何か雰囲気変わったよね」と桃眞を見ながら喋る櫻子。


「何で、法力があるんだ……。今のアイツには法力を感じる」と慎之介は神妙な表情で、そう言った。



 漣樹は、黒い狩衣の袖から人形を取り出した。


「準備はできたか」


「たぶん……」と桃眞は返事をした。



 漣樹が人形を投げ捨て、両手で印を結ぶ。

 すると、人形が大蛇へと姿を変えた。


 頭だけでセダンタイプの乗用車程の大きさがある巨大な蛇だ。とてつもなく……デカイ。

 圧倒される桃眞。



「あの野郎、素人相手に本気かよッ」と焦る表情の慎之介。


「寺沢さんて強いの」と訊ねる櫻子に、「一応、兄貴は元怪伐隊の隊長だからな。アイツも今の学生の中ではトップクラスだ」と答える。


「マジで……」


 櫻子の手に汗が滲んだ。


「阿形……。見た目に惑わされるなよ。量より質だ」と慎之介は呟いた。



 もう、敗北感が全身を支配していたが、何とか奮い立たせる桃眞。


「俺だって、安倍晴明に直接術を習ったんだ。こんな状況……覆してやるッ」


 そう言うと、人形を地面に投げ捨てる。

 両手を、慎之介に習ったように結び、心の中で術を唱える。


「出ろッ。俺の式神ッ!!」


 そう叫んだ桃眞に一同が固唾を飲む。



 ……………………



「何か出た? 失敗?」と言い、辺りを覗き込む櫻子。


「いや……多分。成功……してる……と、思う。今のアイツの力み方からすると」と答える。


 すると、他の倶楽部生が口々に喋りだした。


「おい、アレ見ろよ」


「エッ、アレ……か?」


「どれ?」


 何人かが指差す先を、目を凝らした。


「あ……」と声を漏らす慎之介が、櫻子に分かるように指を指し示す。


 そして、ソレを見た櫻子がぼそっと呟いた。


「毛虫……」



 にょき……にょき

 にょき……にょき……



 一生懸命に体をくねらせては前へと進む毛虫。

 ギャラリーがずっこける。



 その様子に、馬鹿笑いをする漣樹。


「お前、マジかよ。何だソレ」


「う、うるせー。これでも今、カナリ集中してんだぞ」と顔を赤らめる桃眞。


「まぁ、面白いモン見せて貰ったよ。じゃあ、体験入部のお土産として、腕の一本くらいへし折っとくか。行けッ」と漣樹は大蛇に指示をした。



 地面を抉りながら這う大蛇。

 毛虫が一瞬で消し飛ぶ。


 その衝撃で印が解けた桃眞が、勢い余って尻餅をついた。


 大きな口を開ける大蛇。長く鋭利な歯から唾液が垂れる。桃眞の体がすっぽり入ってしまう程の大きさだ。


「や、ばい」


 大蛇の口が桃眞の体を覆い尽くそうとした。

 観客席から、悲鳴にも似た声が上がる。



 次の瞬間……。



 強烈な閃光。



 仰け反る大蛇……。

 腕で顔を伏せる漣樹。



 光が収まると、桃眞の前に大きな青い炎が渦を巻いていた。


 次第に一点に収束する炎が、犬の形になる。

 前足だけで桃眞の体に匹敵する程の大きさだ。


「犬神……?」


 直感で桃眞には分かった。



 太く低い声が犬神から発せられる。


「こんな所で死なれては困る。お前を殺すのは我なのだから」


 そう言うと、犬神は大蛇を睨みつけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ