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第四話『剣を振るな』

第四章、いよいよ本格的な修行開始です!


ザイルに「剣は下手だ」と言われたニール。

今日から剣を教えてもらえる――と思っていたのですが……。


剣を習いに来たのに、剣を振らせてもらえない!?


LEVELでも、勇者の力でもない。

ニールがこれまで知らなかった「強くなる方法」が、ここから始まります。


楽しんでいただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは、第四話『剣を振るな』。

どうぞ!

 翌朝。


 俺は、いつもより早く目が覚めた。


「よし!」


 ベッドから飛び起きる。


 今日からだ。


 今日から俺は――。


「本格的な剣の修行だ!」


 昨日。


 俺はザイルさんに、散々なことを言われた。


『強いだけだ』


『剣は下手だ』


 思い出すだけで、ちょっと腹が立つ。


 いや。


 かなり腹が立つ。


 でも。


 否定できなかった。


 ザイルさんには、一度もまともに剣を当てられなかった。


 それどころか、二回も地面に転がされた。


「今日は違うぞ」


 腰に剣を差す。


 父さんにもらった剣。


 そして、その横には青の《勇者装具》。


「なあ」


 装具へ声をかける。


《――応答》


「お前の中にさ。すっごい剣技とか残ってないの?」


《――記録――存在》


「あるの!?」


 思わず声が大きくなった。


「じゃあ教えて!」


《――記録領域――制限》


「なんで!?」


《――同調不足》


「そこをなんとか!」


《――否定》


「ケチ!」


《――否定》


「ケチじゃない?」


《――肯定》


「そこは肯定するんだ!?」


 朝から装具と何をやってるんだ、俺は。


 まあいい。


 今日は本物の剣士から教えてもらえる。


 俺は部屋を飛び出した。


     ◇


 ラグナード冒険者訓練場。


 昨日と同じ剣術区画へ着いた時には、すでに何人もの冒険者が汗を流していた。


 剣を振る者。


 二人で打ち合う者。


 同じ動きを何度も繰り返す者。


「……朝からすげえな」


「遅い」


「うわっ!?」


 後ろから声がした。


 振り向く。


 ザイルさん。


「いつからいたんですか!?」


「今だ」


「じゃあ普通に声かけてくださいよ!」


「かけただろ」


「そうだけど!」


 ザイルさんは俺を無視して歩き出した。


「ついてこい」


「はい!」


 訓練場の端。


 昨日、俺が二回転がされた場所。


 そこには木剣が何本か置かれていた。


 俺は一本を手に取る。


「よし」


「置け」


「はい?」


「それを置け」


 俺は木剣を見る。


 ザイルさんを見る。


 もう一度、木剣を見る。


「……これ?」


「他に何を持ってる」


「いや、だって」


 木剣を持ち上げる。


「剣を教えてくれるんですよね?」


「ああ」


「じゃあ、これ使いますよね?」


「今日は使わん」


「なんで!?」


 ザイルさんが眉を寄せた。


「朝からうるさい奴だな」


「剣を習いに来たら剣を置けって言われたんですよ!?」


「だから何だ」


「おかしいでしょ!」


「いいから置け」


「……はい」


 仕方なく木剣を戻す。


 なんだ?


 もしかして。


 最初は素手で戦うとか?


「そこに立て」


「はい」


 言われた場所へ立つ。


「構えろ」


「……何を?」


「立て」


「立ってますけど」


「立て」


「だから立って――」


 ザイルさんの手が俺の肩に触れた。


 次の瞬間。


「うわっ!?」


 身体が崩れた。


 慌てて足を出す。


 転びはしなかった。


 でも。


「……え?」


「立て」


 もう一度。


 今度は足に力を入れる。


「はい!」


 ザイルさんが肩を押す。


「っ!」


 また崩れる。


「なんで!?」


「立ててないからだ」


「立ってるって!」


「それは地面の上にいるだけだ」


「違うの!?」


「違う」


 何が違うんだ。


 ザイルさんが自分の足元を指した。


「足」


「足?」


「広すぎる」


 俺の足を見る。


「腰」


「腰?」


「高い」


「肩」


「肩!?」


「力みすぎだ」


「多い!」


「剣を握れば、さらに酷くなる」


「まだ剣持ってないのに!?」


「だから持たせてない」


「なるほど!」


「納得するのが遅い」


 ひどい。


 ザイルさんが俺の正面に立つ。


「昨日、お前は俺に何度も剣を振った」


「はい」


「速かった」


「はい!」


「重かった」


「はい!」


「力もあった」


「はい!」


「全部、身体能力だ」


「…………」


 褒められてなかった。


「お前は速い。力もある。反応もいい。だから多少姿勢が崩れても戻せる。踏み込みが雑でも前へ出られる。腕だけで振っても威力が出る」


「……はい」


「それで今までは戦えた」


 ザイルさんが俺を見る。


「だから下手なまま強くなった」


「うっ」


 昨日より刺さった。


「LEVELはいくつだ」


「九です」


「九の身体で、一の剣を振ってるようなもんだ」


「そこまで!?」


「言いすぎた」


「ですよね!?」


「三くらいだ」


「そんな変わってない!」


 少し離れたところから笑い声がした。


「……誰?」


 見ると、二人の冒険者がこっちを見ていた。


 一人は大柄な男。


 もう一人は俺とそれほど歳が離れていなさそうな青年。


「ザイルさん、新入り?」


 大柄な男が聞く。


「ああ」


「青の勇者だろ?」


「え?」


 俺は思わず腰を見る。


 青の装具。


「知ってるんですか?」


「そりゃ目立つからな」


 男が笑う。


「ボルグ・クレスだ。俺もザイルさんに剣を習ってる」


「俺はニール・レイン!」


「知ってる」


「やっぱり!?」


「声がでかいから」


「そっち!?」


 もう一人の青年も小さく笑った。


「フィン・アルト」


「よろしく!」


「よろしく」


 二人の手には木剣。


 いいな。


 剣持ってる。


「ザイルさん」


「何だ」


「なんで二人は剣持ってるんですか?」


「剣を振れるからだ」


「俺も振れます!」


「振り回せる、だ」


「言い方!」


 ボルグが吹き出した。


「俺も最初言われたぞ、それ」


「本当!?」


「ああ。安心しろ」


「よかった……」


「三日くらい剣持たせてもらえなかった」


「安心できない!」


 フィンが木剣を構えた。


 そのまま。


 振る。


 ――ヒュッ。


「……あれ?」


 速くはない。


 少なくとも、俺の方が速く振れると思う。


 でも。


 なんだ?


 もう一度。


 フィンが振る。


 踏み込む。


 剣が走る。


 止まる。


 戻る。


 次の構え。


 全部が。


 繋がっている。


「……綺麗だな」


 思わず呟いた。


 フィンがこっちを見る。


「ありがとう」


「どれくらいやってるの?」


「ザイルさんのところでは一年くらい」


「一年!?」


 ザイルさんが俺を見る。


「お前は一日で何を覚えるつもりだ?」


「……必殺技とか」


「帰れ」


「すみません!」


     ◇


 それから。


 本当に剣を振らなかった。


「足」


「はい!」


「違う」


「はい!」


「腰」


「はい!」


「高い」


「はい!」


「肩」


「はい!」


「力むな」


「はい!」


「返事だけはいいな」


「ありがとうございます!」


「褒めてない」


「はい!」


 立つ。


 崩される。


 立つ。


 押される。


 崩れる。


 立つ。


 歩く。


「違う」


 戻る。


 また歩く。


 昼になった。


 まだ剣を握っていない。


「ザイルさん」


「何だ」


「俺、今日何しに来たんでしたっけ」


「剣を習いに」


「剣、一回も触ってないんですけど」


「知ってる」


「知ってるんだ……」


 ボルグたちは少し離れた場所で打ち合っている。


 カンッ!


 カンッ!


 木剣の音。


 楽しそう。


「……いいなあ」


「見るな」


「はい」


「足」


「はい!」


 もう何回目だ。


 足の幅。


 重心。


 腰。


 肩。


 呼吸。


 たったそれだけ。


 なのに。


 難しい。


 魔物と戦う方が分かりやすい。


 敵が来る。


 避ける。


 斬る。


 倒す。


 でもこれは。


 自分の身体なのに。


 思った通りにできない。


「もう一度」


「はい」


 立つ。


 右足。


 左足。


 広げすぎない。


 腰を落としすぎない。


 肩の力を抜く。


 呼吸。


 ザイルさんが近づく。


 肩へ手を置く。


 押される。


「っ」


 耐えようとするな。


 力じゃない。


 足。


 腰。


 地面。


 身体の重さを――。


「…………」


 倒れない。


「……あれ?」


 ザイルさんがもう一度押す。


 今度は少し強い。


 でも。


 崩れない。


「お?」


 思わず声が出た。


 ザイルさんの手が離れる。


「今の感覚を忘れるな」


「……はい」


 なんだ。


 今。


 いつもと違った。


 力を入れたわけじゃない。


 むしろ。


 さっきまでより楽だった。


 なのに。


 立てた。


「もう一回!」


 俺は構え直す。


 その瞬間。


 ――リーン。


「…………え?」


 頭の奥。


 聞き慣れた音。


「今?」


「何だ」


「ちょっと待ってください」


 意識を内側へ向ける。


 そして。


《ニール・レイン》


《LEVEL 十》


「…………」


 もう一度見る。


《LEVEL 十》


「上がってる」


「何が」


「LEVEL!」


 ザイルさんは特に驚かなかった。


「そうか」


「そうか!?」


「何だ」


「いやいやいや!」


 俺は周囲を見る。


「俺、今日、魔物一匹も倒してませんよ!?」


「ああ」


「依頼もしてない!」


「ああ」


「剣すら振ってない!」


「ああ」


「なのにLEVEL上がったんですけど!?」


「訓練で上がることくらいあるだろ」


「あるの!?」


 ザイルさんが眉を寄せた。


「お前、そんなことも知らずにLEVEL九まで来たのか?」


「…………」


 なんか。


 前にも似たようなこと言われた気がする。


 蒼天遺跡でのことを思い出す。


 あの時もそうだった。


 魔物を倒していないのに。


 俺はLEVEL二から三になった。


 あの時から。


 ずっと気になっていた。


「……そもそも」


 俺は腰の青い装具を見る。


「LEVELって、何なんだ?」


 青い光が。


 淡く灯る。


《――成長確認》


「成長?」


《――肯定》


「今日のこれが?」


《――肯定》


「魔物を倒してなくても?」


 一瞬。


 装具の光が揺れた。


 そして。


《――実経験――蓄積》


「実経験……?」


《――肯定》


「じゃあ」


 俺は聞く。


「魔物を倒すことだけが、経験じゃない?」


《――肯定》


「じゃあ何が経験なの?」


 少し間があった。


《――回答――一部制限》


「またそれ!?」


《――補足可能》


「補足?」


 次の瞬間。


 意味が頭へ流れ込む。


《戦闘のみを経験とは定義しない》


「…………」


 俺は。


 自分の足を見る。


 朝から。


 立って。


 転んで。


 歩いて。


 直されて。


 また立って。


 何度も失敗した。


 魔物は一匹も倒していない。


 剣すら一度も振っていない。


 でも。


 朝の俺にはできなかったことが。


 今は。


 少しだけできる。


「……これも」


 俺は呟いた。


「強くなったってことなのか」


《――肯定》


 その時だった。


 青の装具が。


 今までとは違う光を放った。


「ん?」


《LEVEL 十――到達》


「それは今見た」


《成長条件――達成》


「条件?」


《新規領域――開放》


「……何?」


 知らない感覚が。


 頭の奥に広がる。


 今までLEVELを確認した時とは違う。


 何か。


 選べる。


 そんな感覚。


《スキル選択――開放》


「…………」


 俺は固まった。


「どうした」


 ザイルさんが聞く。


「なんか……」


 もう一度。


 意識を向ける。


 確かに。


 そこにある。


 今までなかったもの。


「増えた」


「何が」


 俺は顔を上げた。


「《スキル選択》って――何ですか?」


 ザイルさんが。


 今度こそ。


 少しだけ眉を上げた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回はタイトル通り、剣を習いに来たのに剣を振らない回でした(笑)


ニールはこれまで、実戦と高い身体能力で戦ってきました。

でも「戦えること」と「剣を使えること」は、どうやら同じではないようです。


そして今回、もう一つ大きく動いたものがあります。


《戦闘のみを経験とは定義しない》


魔物を倒していない。

依頼もしていない。

それどころか剣すら振っていない。


それでもニールはLEVEL十へ。


では、この世界における「経験」とは何なのか?

そして最後に現れた――


《スキル選択――開放》


ここから第四章の「強くなるということ」を、もう一段掘り下げていきます!


ボルグやフィンたち、新しい冒険者との出会いも含めて、ニールたちの世界はまだまだ広がっていきます。


続きが気になった方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次は――

LEVEL十で何が変わるのか。


ニール、新しい成長の扉を開きます。

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