第五話『選べるということ』
LEVEL十に到達したニールに現れた《スキル選択》。
しかし、普通の人はスキルを「選べない」らしい。
これまで何をして、何を積み重ねてきたのか。
その経験によって、自分の技能は決まっていく。
では――勇者だけに与えられた《選択》とは?
青の勇者ニール、最初のビルド選択です!
今回も楽しんでいただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
「《スキル選択》って――何ですか?」
俺が聞くと。
ザイルさんは、少しだけ眉を上げた。
「選択?」
「はい」
「何を選ぶんだ?」
「だから、スキルです」
「…………」
ザイルさんが俺を見る。
俺も見る。
「何ですか?」
「お前、何か勘違いしてないか」
「え?」
「普通、スキルは選ばねえぞ」
「…………え?」
今度は俺が固まった。
「選ばない?」
「ああ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「どうもしねえ」
「どうもしない!?」
「うるせえな」
ザイルさんが顔をしかめる。
「LEVEL十になった時、それまで何をやってきたかで決まる」
「……何をやってきたか?」
「ああ。剣を振ってきた奴。槍を使ってきた奴。盾で仲間を守ってきた奴。魔法を学んできた奴。それぞれ違う」
「じゃあ……」
「積み上げてきたものが、技能として形になる」
「勝手に?」
「そうだ」
知らなかった。
いや。
最近。
こんなのばっかりだ。
LEVELのことも。
強くなる方法も。
俺は知ってるつもりで。
全然知らなかった。
「ザイルさんは?」
「何がだ」
「LEVEL十の時、何が出たんですか?」
「《剣術》だ」
「おお!」
「十になるまで剣しか振ってなかったからな」
「ザイルさんっぽい!」
「どういう意味だ」
「褒めてます!」
「ならいい」
いいんだ。
「じゃあ」
俺は首を傾げる。
「なんで俺は《選択》なんですか?」
「知らん」
「ですよね!」
ザイルさんに聞いても分からない。
なら。
俺は腰を見る。
「ベルトさん」
《――応答》
「なんで俺は選べるの?」
青い光が灯る。
《技能候補――複数》
《勇者補正――適用》
《選択権――付与》
「…………」
「何て?」
ザイルさんが聞く。
「勇者補正だそうです」
「便利な言葉だな」
「俺も今そう思いました」
でも。
意味は分かる。
普通なら。
これまでの経験によって、一つの技能が形になる。
だけど俺は。
候補から選べる。
「何個?」
《選択可能技能――三》
「三つ!」
「三つから一つか」
「はい」
なんか。
急に緊張してきた。
だって。
これ。
自分がこれからどう強くなるかを。
自分で決めるってことだ。
「見せて」
青の装具が応える。
《勇者技能――候補提示》
最初の技能。
《蒼撃》
意味が流れ込んでくる。
《近接攻撃時――身体出力補助》
《踏込・斬撃――補正》
「……強そう」
分かりやすい。
今より速く。
今より強く斬れる。
「次」
《蒼護》
《保護対象危機――検知》
《介入・防御行動――補正》
「これもいいな……」
ハリトやミーナと戦う時。
誰かが危なくなったら。
助けに行ける。
そして。
三つ目。
《蒼駆》
「そうく……?」
意味が流れ込む。
《移動・踏込・回避――補正》
《間合制御――補助》
《身体操作ニ応ジ効果上昇》
「…………」
なんだろう。
これ。
《蒼撃》ほど分かりやすく強くない。
《蒼護》みたいに仲間を守る力でもない。
だけど。
「これ……」
頭の中で。
色んな使い方が浮かんだ。
敵へ近づく。
離れる。
避ける。
回り込む。
仲間のところへ行く。
間合いを詰める。
剣を振る場所を。
自分で作る。
「ザイルさん」
「何だ」
「どれが一番強いと思います?」
「知らん」
「考えてくださいよ!」
「お前が使う技能だろ」
「でも!」
「なら聞く」
ザイルさんが俺を見る。
「お前は何がしたい」
「何が……」
「一撃で敵をぶった斬りたいのか。仲間の前で盾になりたいのか。それとも――戦場を自分で動きたいのか」
「…………」
戦場を。
自分で動く。
昨日までの俺なら。
たぶん《蒼撃》を選んでいた。
強そうだから。
敵を倒せるから。
でも。
俺は剣を習い始めた。
立ち方。
足の置き方。
重心。
間合い。
ただ強く振ればいいわけじゃない。
だったら。
「……決めた」
《選択――待機》
「《蒼駆》」
青い光が揺れる。
《勇者技能――《蒼駆》》
《選択――確認》
「これにする」
《選択――確定》
瞬間。
足元から。
身体の中心へ。
何かが繋がったような感覚がした。
「……おお」
「どうした」
「分かる」
「何が」
「動き方」
正確には。
身体が勝手に動くわけじゃない。
でも。
こう踏めば。
こう動ける。
そんな感覚が。
さっきまでより少し近い。
「やってみてもいいですか?」
「走るだけならな」
「はい!」
少し離れる。
構える。
足。
腰。
肩。
さっきまで何度も繰り返した姿勢。
前を見る。
「《蒼駆》!」
踏み込む。
「うおっ!?」
速い。
でも。
昨日までみたいに。
力任せに地面を蹴った感覚じゃない。
身体が。
前へ流れる。
三歩。
四歩。
止まる。
「おおお……!」
振り返る。
「ザイルさん! これすご――」
「肩」
「え?」
「力んでる」
「そこ!?」
「技能に動かしてもらうな」
ザイルさんが言った。
「自分で動け。その上に技能を乗せろ」
「…………」
「そうすりゃ、もっと速くなる」
俺は。
自分の足を見る。
「……はい!」
これだ。
強くなった。
でも。
まだ上手くなれる。
なんか。
いい。
「よし!」
「何がだ」
「修行します!」
「最初からそのつもりで来たんじゃねえのか」
「そうでした!」
「馬鹿」
その時。
青の装具が。
もう一度光った。
「ん?」
《勇者技能――選択完了》
《継承条件――達成》
《魂紋記憶――照合》
《伝説技能領域――開放》
「…………」
待て。
「ベルトさん」
《――応答》
「まだあるの?」
《肯定》
「…………」
「どうした」
ザイルさんが聞く。
「まだあるみたいです」
「何が」
「スキル」
「は?」
ですよね。
俺もそう思います。
《伝説技能――選択可能》
《選択可能数――一》
「もう一個選べる!」
「お前だけずるくねえか?」
「俺もそう思います!」
勇者。
すごい。
ちょっとずるい。
「でも」
伝説技能。
さっきとは。
言葉が違う。
「これ、何?」
《先代継承者――アズール・セイン》
胸が。
少しだけ鳴った。
「アズール……」
蒼天遺跡で見た。
知らない記憶。
誰かに呼ばれていた名前。
『――アズール!』
「アズールのスキル?」
《概ネ肯定》
「概ね?」
《魂紋記憶――照合》
《装具戦闘記録――参照》
《先代技能――再現補助》
少し考える。
「つまり……」
俺は。
自分の胸へ手を置いた。
「昔の俺が使ってた技を、今の俺が思い出す?」
《概ネ肯定》
「また概ね!」
でも。
たぶん。
そういうことなんだ。
アズールだった頃の記憶はない。
だけど。
魂のどこかに。
何かが残っている。
そして。
この装具は。
アズールと一緒に戦っていた。
「見せて」
《伝説技能――候補提示》
三つ。
《水鏡》
《蒼天歩》
《蒼閃》
「…………」
名前だけで。
さっきまでとは違う。
なんというか。
身体の奥が。
知っている。
最初。
《水鏡》
《水系統高位防御技能》
《魔力操作ニヨリ攻撃軌道ヲ偏向》
「魔法系か……」
強そう。
でも。
今は。
剣を覚えたい。
次。
《蒼天歩》
《高速移動技能》
《身体操作・魔力操作・装具補助ヲ統合》
「…………」
めちゃくちゃ気になる。
しかも《蒼駆》と。
たぶん。
相性がいい。
そして。
最後。
《蒼閃》
その名前へ意識を向けた。
瞬間。
「――っ!」
青。
一瞬だけ。
景色が変わった。
剣を持つ手。
俺より大きい。
敵がいる。
遠い。
なのに。
一歩。
踏み込んだ瞬間。
距離が消える。
青い軌跡。
剣が。
走る。
「…………」
戻った。
訓練場。
俺は。
しばらく動けなかった。
「どうした」
「……見えました」
「何が」
「剣」
あれ。
使いたい。
理由なんて。
それだけだった。
「《蒼閃》」
《選択――確認》
「これにする」
《伝説技能――《蒼閃》》
《先代技能記憶――接続》
《装具戦闘記録――照合》
《再現補助――適用》
《選択――確定》
瞬間。
「…………!」
身体が。
知っている。
いや。
違う。
俺は知らない。
でも。
身体のもっと奥。
そこにいる誰かが。
知っている。
踏み込み。
重心。
剣を出すタイミング。
全部。
ぼんやりと。
分かる。
「使える?」
《肯定》
「今?」
《肯定》
「よし!」
「待て」
ザイルさん。
「何ですか?」
「嫌な予感がする」
「大丈夫です!」
「その言葉で安心したことが一度もねえ」
「まだ会って二日ですよ!?」
木剣を取る。
今度は。
ザイルさんも止めなかった。
「何を覚えた」
「《蒼閃》!」
「知らん」
「アズールが使ってた剣技らしいです!」
「……五百年前の青の勇者か」
「はい!」
ザイルさんの目が。
少しだけ変わった。
「なら」
木剣を取る。
「俺に撃ってみろ」
「いいんですか?」
「見なきゃ分からん」
「行きます!」
構える。
足。
腰。
肩。
呼吸。
そして。
《蒼駆》。
足元の感覚が変わる。
そこへ。
魂の奥にある。
知らない動きを重ねる。
「《蒼閃》!」
踏み込んだ。
――ドンッ!
「うおっ!?」
速い。
《蒼駆》だけじゃない。
一歩が。
まるで。
距離そのものを斬ったみたいに。
ザイルさんが目の前にいる。
「――っ!」
振る。
木剣が。
淡い青を纏った。
ザイルさんの剣が動く。
ガンッ!!
衝撃。
「うおおおおお!?」
受け止められた。
でも。
止まれない。
「あ」
ザイルさんの横を通り過ぎる。
「あああああああっ!?」
足。
もつれる。
地面。
空。
地面。
最後に。
ドサッ!
「…………」
痛い。
「……お前」
ザイルさんの声。
「はい……」
「止まれねえのか」
「今知りました……」
少し離れたところで。
ボルグが爆笑していた。
「勇者が飛んでった!」
「笑わないでください!」
フィンまで肩を震わせている。
「フィンも!?」
「ごめん……」
「絶対笑ってる!」
俺は身体を起こす。
でも。
痛いより。
嬉しい。
「……使えた」
あんな剣。
昨日まで。
絶対にできなかった。
「ベルトさん」
《――応答》
「今のが、本当の《蒼閃》?」
《否定》
「え?」
即答。
「じゃあ、どれくらい?」
《先代記録――比較》
少し間があった。
《現在再現率――約十%》
「…………」
十?
「十%!?」
《肯定》
「今ので!?」
《肯定》
「アズールどんだけ強かったんだよ!?」
俺は。
思わず叫んだ。
「なるほどな」
ザイルさんが呟く。
「何がですか?」
「技は本物だ」
「ですよね!」
「お前が下手だ」
「やっぱりそこ!?」
「踏み込みで姿勢が崩れてる。剣を振った後はもっと酷い。止まり方も知らねえ」
「ボロボロ!」
「その上」
ザイルさんが俺の足を見る。
「痛めただろ」
「…………」
ばれてる。
「ちょっと」
「どれくらいだ」
「かなり」
「馬鹿」
「はい……」
青の装具が光る。
《身体負荷――検知》
《現身体能力――出力制限》
「出力制限?」
《肯定》
「じゃあ」
俺は聞く。
「俺が強くなれば、もっと使える?」
《肯定》
「LEVELが上がったら?」
《肯定》
「剣が上手くなったら?」
《肯定》
「身体の使い方を覚えたら?」
《肯定》
「装具ともっと仲良くなったら?」
少し間。
《概ネ肯定》
「そこは概ねなんだ」
でも。
分かった。
《蒼閃》を手に入れた。
だけど。
完成したわけじゃない。
アズールが使っていた《蒼閃》を。
今の俺は。
ほんの一部しか使えない。
「百%になったら」
俺は聞く。
「アズールと同じ《蒼閃》になる?」
《肯定》
「…………」
じゃあ。
そこまでは。
アズールが歩いた道だ。
「その先は?」
青の装具が。
静かになった。
《記録――存在せず》
「分からない?」
《肯定》
「そっか」
なんか。
それが。
嬉しかった。
百%までは。
道がある。
五百年前。
アズールが歩いた道。
でも。
その先は。
誰も知らない。
「だったら」
俺は立ち上がる。
「その先は、俺が作ればいいんだな」
青の装具が。
一度。
強く光った。
《肯定》
「ニール」
「はい!」
「剣を置け」
「…………はい?」
「修行の続きだ」
「今、いい感じだったじゃないですか!」
「知らん」
「伝説技能ですよ!?」
「だから何だ」
「強いやつですよ!?」
「その強いやつを使って、お前は今地面を転がった」
「…………」
何も言えない。
ザイルさんが。
俺の足元を指す。
「立て」
「……はい」
木剣を置く。
足。
腰。
肩。
呼吸。
ザイルさんが俺を見る。
「技が先に行ってるなら」
肩へ手を置く。
「お前が追いつけ」
「…………」
俺は。
笑った。
「はい!」
LEVEL十。
俺が選んだ。
俺自身の《勇者技能》。
《蒼駆》。
そして。
五百年前の青の勇者。
アズール・セインから受け継いだ《伝説技能》。
《蒼閃》。
強くなった。
間違いなく。
でも。
同時に。
今までよりずっと。
自分が下手なのも分かった。
「もう一回お願いします!」
「ああ」
ザイルさんが肩を押す。
「うわっ!?」
転ぶ。
「なんで!?」
「浮かれるからだ」
「難しい!」
ボルグの笑い声が響いた。
フィンも笑っている。
俺はまた立つ。
五百年前の勇者が。
どれだけ強かったのか。
今の俺には。
まだ分からない。
でも。
追いつく。
そして。
いつか。
追い越す。
アズールの技を。
ただ思い出すだけじゃない。
俺の技にする。
そのために。
まずは――。
「足」
「はい!」
立つところからだった。
ニール、ついにLEVEL十!
そして選んだ《勇者技能》は――《蒼駆》。
単純な攻撃力でも、防御力でもなく、敵へ飛び込み、攻撃をかわし、仲間のもとへ駆けつけるための「機動力」を選びました。
さらに、アズールから受け継いだ《伝説技能》――《蒼閃》。
いきなり強力な技を手に入れましたが、現在のニールではまだその一部しか扱えません。
技だけ強くても、使う本人が追いついていなければ意味がない。
だからこそザイルの、
「技が先に行ってるなら、お前が追いつけ」
です。
アズールが完成させた技を受け継ぎ、いつか追いつき、その先でニール自身の技へ変えていく。
ここからニールの「青の勇者としての戦い方」が少しずつ形になっていきます。
そしてもちろん、ハリトとミーナの修行もこれからです!
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