↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/99

『王都』

前回の幕間では。


ニールたちの知らない場所で。


五百年間、眠っていた何かが。


静かに反応し始めました。


では。


もう一つ。


彼らの知らないところで。


今、何が起きているのか。


青

 アルヴェリア王国。


 その中心に位置する。


 王都《セレスティア》。


 巨大な城壁に囲まれた街。


 その中央には。


 白い石造りの王城が。


 高くそびえている。


 商人。


 冒険者。


 騎士。


 旅人。


 今日も。


 多くの人々が行き交い。


 王国最大の都市は。


 朝から活気に満ちていた。


 だが。


 そんな街の喧騒から。


 遠く離れた。


 王城の一室。


 そこでは。


 一枚の報告書が。


 静かに。


 机へ置かれた。


「……緑?」


 低い声が。


 響いた。


「はい」


 報告を持ってきた騎士が。


 答える。


「ラグナード冒険者ギルドからの報告です」


 机の向こうに座る男が。


 もう一度。


 書類へ目を落とした。


 年齢は。


 五十歳ほど。


 短く整えられた。


 灰色の髪。


 派手な装飾品は。


 身につけていない。


 ただ。


 その胸元には。


 アルヴェリア王国の紋章が。


 刻まれていた。


 男の名は。


 グレイヴ・アルセリア。


 アルヴェリア王国の宰相。


 国王を補佐し。


 王国各地から集まる情報を扱う。


 王国中枢の一人だった。


「ハリト・ヴェール。十六歳。エルフ。冒険者等級――三つ星」


「はい」


「《エルティア大森林》の調査依頼中、未確認の古代遺跡を発見」


 グレイヴが。


 文字を追う。


「その内部で、緑色の装具を入手」


「正確には」


 騎士が。


 わずかに姿勢を正す。


「装具側から、ハリト・ヴェールに対して何らかの認証が行われたものと思われます」


「……認証」


 グレイヴの指が。


 机を。


 一度。


 叩く。


 そして。


 報告書の。


 少し上へ。


 視線を移した。


 そこには。


 もう一人。


 少年の名があった。


 ニール・レイン。


「青に続いて」


 グレイヴが。


 呟く。


「緑か」


「はい」


「確認は?」


「ラグナード冒険者ギルドからは、極めて高い確度で《五大勇者》に由来する装具であると」


「極めて高い確度」


「確定とは記されておりません」


「それでいい」


 グレイヴが。


 書類を置く。


「五百年前の伝承を、似た装具を身につけているというだけで断定されても困る」


「ですが」


 騎士が続ける。


「青については、《蒼天遺跡》での一件。そして今回、青と緑の装具の間で何らかの反応が確認されています」


「分かっている」


 グレイヴが。


 別の書類を手に取った。


 少し。


 古い報告書。


 そこにも。


 同じ名前がある。


 ニール・レイン。


 十五歳。


 青い印を持つ少年。


 そして。


 《蒼天遺跡》で発見された。


 青の装具。


「最初は青」


 古い報告書を置く。


 そして。


 新しい報告書。


「今度は緑」


 グレイヴは。


 椅子へ。


 深く腰掛けた。


「偶然だと思うか?」


「…………」


 騎士は。


 答えなかった。


「……失礼しました」


「いや」


 グレイヴが。


 小さく息を吐く。


「それでいい」


「…………」


「私にも分からん」


 窓を見る。


 その向こう。


 王都《セレスティア》の街並みが。


 広がっている。


「五百年だぞ」


 ぽつりと。


 男が言った。


「《五大勇者》が歴史から姿を消してから」


 視線を。


 遠くへ向ける。


「五百年」


 長い。


 あまりにも。


 長い時間だ。


 英雄たちは。


 伝説になった。


 伝説は。


 物語になった。


 今では。


 五人の勇者が実在したことさえ。


 遠い昔の歴史として。


 語られている。


 それなのに。


 今。


 青。


 そして。


 緑。


 二つの色が。


 現れた。


「残る三人は?」


「現在のところ、それらしい報告はありません」


「黄は?」


「ありません」


「白は?」


「同じく」


 少し。


 間を置く。


 そして。


「赤は?」


「……ありません」


 部屋が。


 静かになる。


 五百年前。


 《五大勇者》の中心にいたと。


 伝えられる存在。


 赤の勇者。


「二人が現れたのなら」


 グレイヴが。


 呟く。


「残りも現れると考えるべきか」


「捜索を?」


「何を探す?」


「それは……」


「勇者がどこにいるのか。我々は知らん」


 グレイヴが。


 騎士を見る。


「装具がどこにあるのかも知らん。何をもって勇者に選ばれるのかも分からん」


「…………」


「伝承だけを頼りに、王国中を掘り返すつもりか?」


「……失礼しました」


「それより」


 グレイヴが。


 報告書を持ち上げる。


「今、分かっている二人だ」


 ニール・レイン。


 ハリト・ヴェール。


「二人とも三つ星冒険者か」


「はい」


「随分と普通だな」


「普通……でしょうか」


「少なくとも」


 グレイヴが。


 少しだけ笑う。


「王侯貴族でもなければ、騎士でもない」


「伝承では、五人の勇者の出自はそれぞれ異なっていたとされています」


「そうだったな」


 もう一度。


 書類へ。


 目を落とす。


「ニール・レイン。十五歳」


「はい」


「若いな」


「ハリト・ヴェールも、十六歳です」


「もっと若かった」


 グレイヴが。


 額へ。


 手を当てる。


「この歳の少年二人が、五百年ぶりの勇者か」


「王都へ召集しますか?」


 その言葉で。


 グレイヴの指が。


 止まった。


「……いや」


「よろしいのですか?」


「今は、まだいい」


「しかし」


 騎士が。


 わずかに声を落とす。


「本当に《五大勇者》が再び現れたのであれば、王国として保護する必要もあるのでは」


「保護?」


 グレイヴが。


 騎士を見る。


「本人たちは、それを望んでいるのか?」


「……分かりません」


「ならば」


 グレイヴが。


 報告書を置く。


「まだ、するな」


「…………」


「勇者だからといって」


 静かな声だった。


「王国の所有物になるわけではない」


 騎士が。


 黙る。


「それに」


 グレイヴは。


 二人の名前を見る。


「勇者だからこそ、だ」


「どういう意味でしょうか」


「我々が先に」


 ニール。


 ハリト。


 二人の名前を。


 指先でなぞる。


「彼らの生き方を決めるべきではないということだ」


「…………」


 騎士が。


 少しだけ。


 驚いたように。


 グレイヴを見る。


「ただし」


 その声が。


 低くなる。


「放置もしない」


「では」


「監視はするな」


「…………」


「情報だけを集めろ」


「承知しました」


「本人たちへ、余計な干渉はするな。ラグナード冒険者ギルドにも、これまで通り冒険者として扱うよう伝えておけ」


「はい」


「もし」


 グレイヴが。


 少し考える。


「本人たちから王国へ助力を求めてきた場合は、その時に考える」


「承知しました」


「それから」


 グレイヴが。


 窓の外を見る。


 王都。


 そのさらに向こう。


 遥か遠くにある。


 まだ。


 何も分からない場所へ。


「《五大勇者》に関する王立書庫の記録を、もう一度洗い直せ」


「五百年前の記録を?」


「ああ」


「何をお探しですか?」


 グレイヴは。


 少し。


 考えた。


「……分からん」


「分からない?」


「だから調べるんだ」


「…………」


 騎士が。


 一礼する。


「承知しました」


 そして。


 部屋を出ようとした時。


「ああ、待て」


「はい」


「この件を知っている者は?」


「現時点では、陛下、宰相閣下、一部の上級官吏。それから、報告を扱った者のみです」


「教会は?」


「まだ」


「研究院は?」


「こちらも」


「なら」


 グレイヴが。


 短く答える。


「そのままでいい」


「よろしいので?」


「二人の少年が、五百年ぶりの勇者かもしれない」


 グレイヴが。


 椅子へ。


 背を預ける。


「そんな話を聞けば、近づきたがる人間はいくらでもいる」


 学者。


 貴族。


 宗教関係者。


 軍人。


 商人。


 そして。


 勇者という名を。


 利用したい者。


「まだ確定情報が少なすぎる」


 グレイヴが。


 言う。


「今は騒ぎにする必要はない」


「承知しました」


 騎士が。


 今度こそ。


 部屋を出る。


 扉が。


 閉まった。


 静寂。


 グレイヴは。


 一人。


 残された。


 机の上には。


 二枚の報告書。


 青。


 そして。


 緑。


「五百年、か」


 その指が。


 一冊の古い記録へ。


 伸びる。


 王立書庫から。


 以前。


 取り寄せたものだった。


 慎重に。


 頁を開く。


 そこには。


 五つの色が。


 記されていた。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 白。


 五人の勇者。


 五百年前。


 魔王と戦い。


 世界を救ったと。


 伝えられている英雄たち。


 だが。


「…………」


 グレイヴの指が。


 ある場所で。


 止まる。


 魔王討伐。


 その記録は。


 残っている。


 勇者たちの。


 戦いも。


 残っている。


 だが。


 その先。


 五人が。


 どうなったのか。


 記録は。


 不自然なほど。


 少ない。


「なぜ……」


 グレイヴが。


 呟く。


「誰も帰ってこなかった?」


 魔王を倒した。


 世界を救った。


 ならば。


 その後。


 五人は。


 どこへ行った?


 死んだのか。


 どこかへ。


 消えたのか。


 それとも。


 記録に残せない。


 何かがあったのか。


 五百年前の記録には。


 その答えが。


 ない。


「…………」


 グレイヴは。


 古い記録を閉じる。


 そして。


 新しい二枚の報告書へ。


 視線を戻した。


 ニール・レイン。


 ハリト・ヴェール。


 青。


 緑。


 そして。


 まだ。


 現れていない。


 三つの色。


「今度は」


 グレイヴが。


 静かに。


 呟く。


「何が始まる?」


 当然。


 答える者は。


 いない。


 王都《セレスティア》。


 その日。


 ニールとハリトが。


 知らないところで。


 二人の名前が。


 初めて。


 王国の中心へ。


 届いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


『五百年の眠り』では。


青と緑。


二つの《勇者装具》が認証されたことで、五百年間止まっていた何かが反応し始めました。


そして今回。


動き始めたのは、五百年前の何かだけではありません。


ニール・レイン。


ハリト・ヴェール。


二人の名前が。


ついに王国の中心――王都《セレスティア》へ届きました。


とはいえ。


いきなり王都へ召集!


勇者として国に仕えろ!


……とは、なりませんでした。


宰相グレイヴが選んだのは。


「勇者だからといって、王国の所有物になるわけではない」


という判断。


ニールたちは、勇者である前に。


自分の意思を持った、一人の人間です。


そして何より。


冒険者です。


だから今は。


彼ら自身が選んだ道を歩いていきます。


ですが――。


王国もまた。


五百年前について調べ始めました。


魔王を倒し。


世界を救ったと伝えられる五人の勇者。


では。


その後、五人はどこへ行ったのか?


なぜ、誰も帰ってこなかったのか?


なぜ、その先の記録がほとんど残されていないのか?


そして。


五百年後の今。


なぜ再び勇者が現れ始めたのか?


まだ。


答えはありません。


地下では、五百年間眠っていた何かが反応し。


王都では、五百年前の記録が開かれ。


そのどちらも知らないニールたちは――。


「ちゃんと戦い方を習ってみよう」


と、自分たちの次の一歩を踏み出します。


世界では大きな何かが動き始めていますが。


ニールたちの冒険は、これまでと同じ。


一歩ずつ。


自分たちにできることから。


ここまで第三章、そして二つの幕間までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


次回から――。


新章、第四章へ。


青と緑。


二人の勇者となったニールとハリト。


そしてミーナ。


三人の新しい冒険を、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、★評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります!


五百年前に何があったのか。


残る三人の勇者は誰なのか。


そして、王国はこれからどう動くのか。


皆さんの予想や考察も、ぜひ感想で聞かせてください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。