第十四話『それぞれの道へ』(改訂版 ver.1.01)
第三章、最終話です。
青に続いて、緑の《勇者装具》が目覚めた今回の冒険。
《エルティア大森林》へ行くことを選んだハリト。
地図にも記録にも存在しない古代遺跡。
緑の《守護体》。
そして――リーフ。
五百年前から止まっていた何かが、少しずつ動き始めました。
ですが。
冒険が終われば、また次の道が始まります。
誰と歩くのか。
どこへ行くのか。
そして、いつ別の道を選ぶのか。
それを決めるのも、自分自身。
それでは。
第三章『緑の勇者』最終話。
第十四話『それぞれの道へ』。
お楽しみください!
昨日。
俺たちは。
五百年前のことを調べた。
《蒼天遺跡》。
《エルティア大森林》で見つけた古代遺跡。
二つとも。
五百年前から存在していた。
なのに。
ベルトさんが眠っていた場所には。
誰も辿り着けなかった。
リーフが眠っていた遺跡は。
存在そのものが。
何百年もの間。
記録されていなかった。
そして。
ベルトさんも。
リーフも。
その理由を知っている。
でも。
『《回答――制限》』
教えてくれない。
結局。
分からないことが。
増えただけだった。
だけど。
「腹減った」
「ニール、さっき朝ご飯食べたよね?」
「食べた」
「じゃあ何で?」
「食べたからって、次に腹が減らないわけじゃないだろ?」
「まだ一時間も経ってないよ」
「成長期なんだよ」
「十五歳って、まだ成長期なの?」
「たぶん!」
「知らないなら言わないでよ」
世界の謎が増えても。
腹は減る。
俺とハリトは。
ラグナードの大通りを歩いていた。
ハリトの腰には。
緑の《勇者装具》。
リーフ。
まだ。
少しだけ。
見慣れない。
でも。
こうして並んで歩いていると。
なんだか。
ずっと前から。
そこにあったような気もしてくる。
「おーい!」
後ろから。
声がした。
振り返る。
ミーナだった。
「遅い!」
「何が!?」
「私より先に宿出たでしょ!」
「だから俺たちの方が先にいるんだろ!」
「あ、そっか」
「何なんだよ!」
ミーナが。
俺たちに追いつく。
「シロナは?」
「知らない」
「まだ宿かな?」
「たぶん」
「じゃあ迎えに行こ」
「なんで?」
「暇だから」
「俺と同じじゃん」
「一緒にしないで」
「なんで!?」
そんなことを。
言いながら。
俺たちは。
宿へ戻った。
◇
「え?」
部屋へ入った俺は。
足を止めた。
シロナの横に。
荷物が置かれている。
旅用の鞄。
見覚えがある。
シロナが。
旅をする時に使っているものだ。
「どっか行くの?」
「はい」
シロナは。
いつもと変わらない顔で答えた。
「今日、ラグナードを出ようと思っています」
「今日!?」
「はい」
「聞いてない!」
「今、お伝えしました」
「そういう意味じゃない!」
ミーナが。
鞄を覗き込む。
「どこ行くの?」
「東へ向かうつもりです」
「依頼?」
「それもありますが」
シロナが。
少しだけ。
考える。
「確かめておきたいことがありまして」
「昨日の遺跡のこと?」
俺が聞く。
「それだけではありません」
「じゃあ何?」
「まだ秘密です」
「なんで!?」
「ニールさん」
「何?」
「何でも聞けば、すぐに答えを教えてもらえると思ってはいけませんよ」
「ベルトさんと同じこと言ってる!」
腰で。
ベルトさんが光った。
『《肯定》』
「ベルトさんは今、参加しなくていい!」
『《否定》』
「何を否定した!?」
ミーナが。
吹き出した。
ハリトも。
笑っている。
シロナも。
いつものように。
少しだけ。
笑った。
だから。
余計に。
実感がなかった。
「……一緒に行かないの?」
俺は聞いた。
「はい」
「なんで?」
「ニール」
ハリトが。
横から俺を見る。
「いや、だってさ」
俺たちは。
結構長く。
一緒にいる。
依頼を受けた。
旅をした。
戦った。
助けてもらった。
《エルティア大森林》にも。
一緒に行った。
なんとなく。
次も。
一緒なんだと思っていた。
「ニールさん」
「何?」
「以前、お話ししたことを覚えていますか?」
「何を?」
「仲間だからといって」
シロナが。
俺を見る。
「ずっと同じ道を歩く必要はない、と」
「…………」
覚えている。
あの時は。
分かったような。
分からないような。
そんな感じだった。
「私は冒険者です」
「俺もだけど」
「はい」
シロナが。
笑う。
「ですから、自分が行きたい場所へ行こうと思います」
「…………」
「誰かと一緒に歩くこともあります。一人で歩くこともあります」
「でも」
俺は。
少し迷ってから聞いた。
「別々に行ったら、仲間じゃなくなるの?」
シロナが。
少し。
目を丸くした。
「どうしてですか?」
「え?」
「違う場所へ行ったら、仲間ではなくなるんですか?」
「…………」
俺は。
ハリトを見る。
こいつとは。
子どもの頃から一緒だった。
でも。
ずっと。
隣にいたわけじゃない。
離れていた時間もある。
違う場所にいた時間もある。
それでも。
ハリトは。
ハリトだ。
「……ならないな」
「はい」
シロナが。
頷いた。
「私もそう思います」
仲間だから。
ずっと。
一緒にいなきゃいけない。
そんな決まりは。
どこにもない。
「今回の旅は」
シロナが。
ハリトを見る。
「ハリトさんの冒険でしたね」
「僕の?」
「はい」
「《エルティア大森林》へ行くと決めたのは、ハリトさんでしたから」
ハリトが。
腰のリーフへ触れる。
「……そうだね」
「私たちは、その冒険を一緒に歩かせてもらいました」
そして。
シロナは。
自分の鞄を見る。
「ですから今度は」
静かに。
笑った。
「私が、自分の見たいものを見に行こうと思います」
シロナにも。
シロナのクエストがある。
当たり前のことなのに。
今まで。
考えたことがなかった。
「分かった」
「はい」
「でも」
「はい?」
「また会おう」
シロナが。
少しだけ。
驚いた。
それから。
いつものように。
笑った。
「はい」
◇
昼前。
ラグナードの東門。
俺たちは。
シロナを見送りに来た。
「食料持った?」
「はい」
「薬は?」
「あります」
「お金は?」
「あります」
「野営道具は?」
「ニールさん」
「何?」
「私は四つ星の冒険者です」
「知ってる」
「LEVEL二十六です」
「知ってる」
「あなたより旅にも慣れています」
「……知ってる」
「では、なぜ私が心配されているのでしょう?」
「なんとなく!」
「ニール、自分より強い人を心配してどうするの」
「ハリトまで!」
「でも」
ミーナが。
笑う。
「ちょっと分かるかも」
「だろ!?」
「一緒にいた人が一人で行くって聞くと、なんか心配」
「そう、それ!」
シロナが。
小さく息を吐いた。
「では」
俺たちを見る。
「私からも、一つ」
「何?」
まず。
ミーナ。
「ミーナさん」
「うん」
「二人をお願いしますね」
「任せて」
「特にニールさんを」
「なんで!?」
「危ないことをしそうになったら止めればいい?」
「お願いします」
「ミーナまで!」
ハリトが。
笑っている。
「ハリトも止めろよ!」
「止めてるよ。いつも」
「……そうだった」
否定できない。
シロナが。
今度は。
ハリトを見る。
「ハリトさん」
「はい」
「リーフとも、仲良くしてくださいね」
「うん」
ハリトの腰で。
緑が。
小さく光った。
『《肯定》』
「お」
俺が。
リーフを見る。
「リーフも仲良くするって!」
『《回答――解釈不一致》』
「違うの!?」
「ニール」
「何?」
「勝手に通訳しないで」
「でも肯定って!」
『《発言対象――不明》』
「ほら、困ってるじゃん」
「ごめん!」
シロナが。
くすりと笑う。
「ベルトさんも」
『《質問――受付》』
「ニールさんを、よろしくお願いしますね」
『《了解》』
「なんで俺だけ二重に見張られてるの!?」
「必要だからでは?」
「シロナ!?」
また。
笑い声が上がった。
いつもの。
四人だった。
でも。
もうすぐ。
三人になる。
「では」
シロナが。
一歩。
街の外へ出た。
「行ってきます」
その言葉を。
聞いて。
なんとなく。
分かった。
お別れじゃない。
シロナは。
自分の次の冒険へ。
行くだけなんだ。
「行ってらっしゃい!」
「またね!」
ミーナが。
手を振る。
「気をつけて」
ハリトも。
手を上げた。
シロナは。
少し歩いて。
一度だけ。
振り返った。
「皆さんも」
そして。
また。
歩き出した。
俺たちは。
追わなかった。
止めなかった。
シロナが。
自分で選んだ道だから。
「……行っちゃったな」
「行ったね」
「寂しい?」
ミーナが。
俺を見る。
「ちょっと」
「素直」
「悪いかよ」
「別に」
俺たちは。
シロナの姿が。
見えなくなるまで。
その場に立っていた。
◇
「三人になったな」
帰り道。
俺が言った。
「三人になったね」
ハリトが言う。
「三人だね」
ミーナも言う。
「…………」
「…………」
「…………」
「何、この会話?」
ミーナが。
笑った。
「なんか変な感じするんだよ」
「それは分かる」
「で?」
ミーナが。
俺たちを見る。
「これからどうする?」
俺は。
ハリトを見る。
ハリトが。
俺を見る。
二人で。
ミーナを見る。
「なんで私を見るの?」
「何かある?」
「ない」
「ハリト?」
「ない」
「俺も!」
「威張らないでよ」
とりあえず。
俺たちは。
冒険者ギルドへ向かった。
◇
三つ星の依頼板。
護衛。
採取。
討伐。
調査。
いろんな依頼が。
並んでいる。
「どうする?」
「うーん」
「これとか?」
ミーナが。
討伐依頼を。
一枚取る。
俺は。
依頼書を見る。
魔物の名前。
報酬。
場所。
危険度。
「行けそうじゃない?」
「行けると思う」
ハリトも。
頷く。
たぶん。
今の俺たちなら。
普通に戦える。
でも。
そこで。
ふと思った。
「なあ」
「何?」
「俺って、剣をちゃんと習ったことないんだよな」
「急にどうしたの?」
ミーナが。
俺を見る。
「父さんに少し教えてもらったくらい」
「あとは?」
「実戦」
「それ、習ったって言わないよ」
「でも戦えてる!」
「LEVELのおかげもあるんじゃない?」
「…………」
痛いところを。
突かれた。
俺は。
腰の剣を見る。
十五歳の誕生日に。
父さんから。
もらった剣。
大切な剣だ。
ずっと。
使っていきたい。
でも。
大切にすることと。
上手く使えることは。
違う。
「ハリトは?」
「僕?」
「弓」
「村で教わったよ。でも、専門の人についてずっと習っていたわけじゃない」
「ミーナは?」
「里で基本は教えてもらった。でも、その後はほとんど実戦かな」
「…………」
三人で。
顔を見合わせる。
「もしかして」
俺は言った。
「俺たち、結構適当?」
「ニールほどじゃない」
「ハリト!」
腰で。
ベルトさんが光った。
『《肯定》』
「ベルトさんまで!?」
ミーナが。
笑う。
「ベルトさんにも言われてる!」
「違う! 今の質問に答えただけだから!」
『《肯定》』
「二回言わなくていい!」
ハリトまで。
笑っている。
でも。
俺は。
もう一度。
剣を見る。
青の勇者になった。
三つ星の冒険者になった。
LEVEL十二になった。
《蒼駆》も。
《蒼閃》も。
Ⅲになった。
昔より。
ずっと。
強くなった。
でも。
強くなったことと。
上手くなったことは。
同じじゃない。
《石角羊》と戦った時。
俺は。
自分の力を。
扱えなくなった。
ベルトさんの力に。
身体を任せて。
仲間にまで。
剣を向けそうになった。
あの時。
止められたのは。
強かったからじゃない。
たぶん。
違う。
「…………」
力が。
増えるだけじゃ。
きっと。
ダメだ。
LEVELが。
上がるだけでも。
ダメだ。
俺自身が。
その力を。
ちゃんと使えるようにならないと。
「なあ」
「何?」
俺は。
ハリトの弓を見る。
ミーナの短剣を見る。
そして。
自分の剣を見る。
「一回、ちゃんと習ってみない?」
「剣を?」
「それだけじゃなくて」
構え。
足の運び。
距離。
武器の扱い方。
戦い方。
俺たちは。
知らないことが。
多すぎる。
「戦い方を」
ハリトが。
少し考える。
「いいと思う」
「私も」
「よし!」
「でも」
ミーナが。
首を傾げる。
「誰に習うの?」
「…………」
俺は。
受付を見る。
ハリトも。
見る。
ミーナも。
見る。
その先には。
リディアさん。
「聞いてみるか!」
「結局ギルド頼みだね」
「ギルドは冒険者の味方だから!」
「便利な時だけ言ってない?」
「そんなことない!」
たぶん。
俺たちは。
受付へ向かう。
途中。
いつも。
四人で囲んでいたテーブルの横を通る。
今。
シロナは。
ここにいない。
でも。
仲間じゃなくなったわけじゃない。
シロナには。
シロナの冒険がある。
ミーナには。
ミーナの冒険がある。
ハリトには。
ハリトの冒険がある。
そして。
俺には。
俺の冒険がある。
同じ道を。
歩くこともある。
違う道を。
歩くこともある。
それでも。
また。
会えばいい。
「ニール!」
前から。
ハリトに呼ばれた。
「今行く!」
俺は。
走る。
ハリトの腰には。
緑。
俺の腰には。
青。
五百年前から続いている。
勇者の謎。
まだ。
何も。
分かっていない。
でも。
今すぐ。
全部を知らなくてもいい。
俺たちは。
俺たちの道を。
進めばいい。
そして。
いつか。
また。
それぞれの道が。
重なる時が来る。
その時は。
一緒に。
冒険すればいい。
だから。
お別れじゃない。
ただ。
次の冒険へ。
行くだけだ。
――また、どこかで。
第三章『緑の勇者』 完
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これにて――
第三章『緑の勇者』、完結です!
今回の第三章で描きたかった大きなテーマの一つが、
「自分で選ぶ」
ということでした。
ハリトは、《エルティア大森林》に呼ばれたから行ったのではありません。
「僕が、行きたい」
そう自分で決めて、森へ入りました。
遺跡へ進むことも。
《守護体》と向き合うことも。
緑の《勇者装具》を受け取ることも。
《勇者技能》として《導風》を選ぶことも。
誰かに決められたからではなく、ハリト自身が選んだ道です。
そして最後は、シロナ。
仲間だからといって、ずっと同じ道を歩く必要はない。
一緒に冒険した時間がなくなるわけでもない。
別々の道を選んだからといって、仲間ではなくなるわけでもない。
シロナはシロナの次の冒険へ。
ニール、ハリト、ミーナは三人で次の冒険へ。
だからこれは「お別れ」ではありません。
また、それぞれの道が重なった時に、一緒に冒険すればいい。
そして三人が次に選んだのは――。
さらに危険な魔物でも。
さらに難しい依頼でもありませんでした。
「一回、ちゃんと習ってみない?」
LEVELが上がれば、それだけで強くなれるわけではない。
力が増えることと、その力を上手く使えることは違う。
青の勇者となり、三つ星冒険者となったニールたちが、今度は「自分自身の技術」と向き合っていきます。
そしてもちろん。
五百年前から続く《勇者装具》の謎も、まだ始まったばかり。
青。
緑。
五人のうち、二人。
残る三つの色は、今どこにあるのか。
なぜ《勇者装具》は五百年間、誰にも辿り着かれなかったのか。
そして――。
なぜ今、再び動き始めたのか。
物語は、次の冒険へ続きます。
ここまで第三章を読んでくださり、本当にありがとうございました!
第四章も、ニールたちと一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、★評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
第三章の感想や、好きだった場面・キャラクターなどもぜひ教えてください!
それでは――。
次のクエストで、またお会いしましょう!




