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第十三話『五百年前から』(改訂版 ver.1.01)

前回は、冒険者の休日。


依頼もなく。


戦闘もなく。


みんなで食べて、歩いて、笑って。


勇者が二人になっても、彼らの日常はそれほど変わりませんでした。


そして翌日。


しっかり休んだニールは、やる気満々。


「今日は依頼受けるぞ!」


……だったのですが。


ハリトには、一つ気になっていることがありました。


《エルティア大森林》で見つけた、地図にも記録にも存在しない古代遺跡。


なぜ、今まで誰にも見つからなかったのか。


青と緑。


二つの《勇者装具》をつなぐ、五百年前の謎へ。


物語は少しずつ踏み込んでいきます。


それでは、第十三話『五百年前から』。


お楽しみください!

 昨日は。


 何もしなかった。


 正確には。


 みんなでラグナードを歩いて。


 食べて。


 買い物して。


 また食べて。


 風呂に入って。


 のんびりした。


 依頼も受けなかった。


 魔物とも戦わなかった。


 LEVELも上がらなかった。


 冒険者になってから。


 あんな一日を過ごしたのは。


 初めてだったかもしれない。


 だから。


 今日は。


「よし! 依頼受けるぞ!」


 朝から。


 俺はやる気だった。


「その前に」


 ハリトが言った。


「調べたいことがある」


「何を?」


「あの遺跡」


 ハリトが。


 自分の腰を見る。


 緑の《勇者装具》。


 リーフ。


「あそこが何なのか。僕、もう少し知っておきたい」


「リーフのこと?」


「それもあるけど」


 ハリトが少し考える。


「僕たちが見つけるまで、誰にも知られてなかったのが気になるんだ」


「じゃあ調べる?」


「うん」


「分かった!」


 そして。


 しばらくして。


「……暇だ」


「静かにしてください」


「はい」


 リディアさんに怒られた。


 俺は。


 椅子に座り直す。


 目の前のテーブルには。


 紙。


 紙。


 紙。


 あと、本。


 分厚い本。


「昨日はあんなに楽しかったのに……」


「今日は調べ物だからね」


「冒険者って、もっと冒険する仕事じゃなかったっけ?」


「調べるのも冒険者の仕事ですよ」


 シロナが。


 古い記録をめくりながら答える。


「俺、こういうの苦手なんだよ」


「知っています」


「即答!?」


「ニールは字が多いと眠くなるからね」


 隣に座るハリトまで言った。


「ならない!」


「さっき欠伸してたよ」


「あれは酸素が足りなかったんだ!」


「部屋の中で?」


「……たぶん」


「寝れば?」


 ミーナが言う。


「寝ない!」


「静かにしてください」


「はい」


 二回目だった。


     ◇


 俺たちが。


 調べているのは。


 《エルティア大森林》。


 正確には。


 あの森で見つけた。


 地図にも。


 記録にも残っていなかった古代遺跡。


 ハリトが。


 リーフと出会った場所だ。


 ギルドへの報告は。


 もう終わっている。


 依頼も完了した。


 だから。


 別に。


 これ以上調べなくてもいい。


 でも。


「本当にないんだな」


「うん」


 ハリトの前には。


 何枚もの地図が広げられていた。


 十年前。


 三十年前。


 五十年前。


 もっと古いものもある。


 《エルティア大森林》は。


 広い。


 そして。


 危険な場所だ。


 森のすべてが。


 詳しく調べられているわけじゃない。


 それでも。


 冒険者。


 騎士。


 薬師。


 研究者。


 いろんな人たちが。


 長い時間をかけて。


 森を調べてきた。


 道。


 川。


 地形。


 魔物の生息域。


 全部じゃない。


 でも。


 記録は残っている。


 なのに。


「遺跡だけない」


 ミーナが。


 地図を覗き込む。


「誰も見つけなかったんじゃない?」


「その可能性はあります」


 シロナが答えた。


「《エルティア大森林》は広大です。未調査の場所もありますし、森の中では地形そのものが変化することもあります」


「じゃあ、普通じゃん」


「ですが」


 シロナが。


 一枚の地図を置いた。


「これは?」


「百二十七年前に行われた《エルティア大森林》の調査記録です」


「百二十七……」


 古い。


「こっちは?」


「八十三年前」


 もう一枚。


「こちらは四十一年前です」


 三枚の地図。


 ハリトが。


 その中の。


 ある場所を指差した。


「……ここ」


「はい」


 俺たちが。


 遺跡を見つけた場所。


 その近くまで。


 全部。


 誰かが来ている。


「でも」


 ミーナの耳が。


 ぴくりと動く。


「遺跡の記録はない?」


「ありません」


「見落とした?」


「一度なら」


 シロナが。


 別の資料を開く。


「ですが、これだけ長い期間。複数の調査隊が周辺を通っていて、一度も記録されていない」


「…………」


「少し、不自然ではありますね」


 俺は。


 地図を見る。


 俺たちは。


 見つけた。


 普通に。


 ……いや。


 普通だったか?


 ハリトが。


 森の中で。


 何かを感じて。


 俺たちは。


 その先へ進んだ。


 そして。


 あの《空白地帯》を見つけた。


 その奥に。


 遺跡はあった。


「ハリト」


「何?」


「お前、すごくない?」


「何が?」


「百年以上、誰も見つけられなかったもの見つけた」


「僕だけじゃないでしょ」


「でも先頭ハリトだったじゃん」


「それならニールも一緒だったよ」


「じゃあ俺もすごい」


「そういう話?」


 ミーナが。


 呆れている。


 だが。


 シロナは。


 笑わなかった。


 古い資料を。


 じっと見ていた。


「……もっと古いものはありますか?」


 リディアさんに聞く。


「《エルティア大森林》ですか?」


「はい」


「少々お待ちください」


 リディアさんが。


 奥へ消える。


 しばらくして。


 さらに古い記録が。


 運ばれてきた。


 紙というより。


 もう。


 触ったら壊れそうだった。


「気をつけてくださいね」


「もちろんです」


 シロナが。


 慎重に開く。


「三百……十二年前」


 ハリトが読む。


「こっちは?」


「三百八十六年前ですね」


 ない。


 やっぱり。


 遺跡の記録は。


 ない。


「じゃあ」


 俺は。


 ふと思った。


「五百年前は?」


 シロナの手が。


 止まった。


 ハリトが。


 俺を見る。


「ニール」


「何?」


「それ」


「え?」


「五百年前」


「…………あ」


 俺も。


 そこで。


 気づいた。


 五百年前。


 《五大勇者》がいた時代。


 リーフが。


 まだ。


 誰かと共に戦っていた時代。


     ◇


 さすがに。


 五百年前の《エルティア大森林》を。


 詳しく記した地図なんて。


 簡単には見つからなかった。


 残っている資料も。


 少ない。


 戦争。


 災害。


 国の変化。


 五百年もあれば。


 いろんなものが。


 なくなるらしい。


「これが、このギルドに残っている中では最古ですね」


 リディアさんが。


 持ってきたのは。


 古い記録の写しだった。


「およそ四百八十年前のものです」


「微妙に五百年前じゃない!」


「仕方ないでしょ」


 ミーナに怒られた。


 その記録にも。


 遺跡はない。


「…………」


 ハリトが。


 腕を組む。


「変だね」


「やっぱり?」


「うん。でも」


 ハリトが。


 何枚もの地図を見る。


「これだけじゃ、何も分からない」


「だよな」


 たまたま。


 誰も見つけなかっただけかもしれない。


 俺たちが。


 たまたま。


 最初だったのかもしれない。


「…………」


 でも。


 何か。


 引っかかる。


 五百年前。


 勇者。


 遺跡。


 緑の装具。


 遺跡。


 装具。


「……あ」


「どうしたの?」


「《蒼天遺跡》」


 ハリトが。


 俺を見る。


「《蒼天遺跡》?」


「うん」


 俺が。


 ベルトさんを見つけた場所。


「あそこも変じゃない?」


「どういうこと?」


「だって」


 俺は。


 腰のベルトさんに触れる。


「《蒼天遺跡》って、昔からあったんだよ」


 存在そのものは。


 知られていた。


 むしろ。


 近づくなと。


 言われていたくらいだ。


「なのに」


 俺は言う。


「ベルトさんがあった場所を知ってる人はいなかった」


 ハリトの。


 表情が変わった。


「……確かに」


「だろ?」


 ミーナが。


 二つの地図を見比べる。


「でも、それってちょっと違わない?」


「違う?」


「だって《蒼天遺跡》は、遺跡があること自体は知られてたんでしょ?」


「うん」


「こっちは」


 ミーナが。


 《エルティア大森林》の地図を指す。


「遺跡そのものが知られてなかった」


「……あ」


 ハリトが。


 頷く。


「そうだね」


 そして。


 二つの記録を見る。


「青と緑では、見つからなかったものが違う」


「見つからなかったもの?」


「《蒼天遺跡》は知られていた。でも、ベルトさんが眠っていた場所は知られていなかった」


「うん」


「《エルティア大森林》は、遺跡そのものが知られていなかった」


「…………」


 確かに。


 違う。


 でも。


 似ている。


 どちらも。


 《勇者装具》へ。


 誰も。


 辿り着いていない。


「シロナ」


「はい」


「そういうことってある?」


「ありますよ」


「あるんだ」


「遺跡というものは、すべてが調査されているわけではありません。隠し部屋や地下空間が、何百年も経ってから発見されることもあります」


「じゃあ普通?」


「ですが」


 シロナが。


 少し考える。


「二つ続けば、気にはなりますね」


 青。


 そして。


 緑。


 俺と。


 ハリト。


 五百年前。


「…………」


 俺は。


 腰のベルトさんに。


 触れた。


「なあ、ベルトさん」


『《質問――受付》』


「お前に聞きたいことがある」


『《質問内容――入力待機》』


「…………」


「ちゃんと聞かないとね」


 ハリトが。


 笑っている。


「分かってるよ!」


 最近。


 ベルトさんは。


 質問が曖昧だと。


 細かい。


 だから。


 俺は。


 少し考えた。


「《蒼天遺跡》で、俺がお前を見つけた場所」


 腰の青が。


 淡く光る。


「俺が行く前から、あの場所は存在してたのか?」


 一瞬。


 光が強くなる。


『《肯定》』


「…………」


 あった。


 俺が。


 生まれる前から。


 ずっと。


「じゃあ」


 俺は聞く。


「なんで誰も見つけなかった?」


『《回答――制限》』


「…………」


 ミーナが。


 俺の腰を見る。


「何て?」


「回答制限」


「また?」


「また」


 でも。


 今回は。


 もう一つ。


 聞いてみる。


「知らないから答えられないんじゃなくて」


 少し。


 間を置く。


「知ってるけど、今は俺に教えられない?」


 青い光が。


 明滅した。


『《肯定》』


「…………」


 俺たちは。


 顔を見合わせた。


「それ」


 ミーナが言う。


「余計気になるやつじゃん」


「だよな!」


「ニール」


 ハリトが。


 自分の腰を見る。


「僕も聞いてみる」


「おう」


 ハリトが。


 リーフに。


 手を置く。


「リーフ」


『《質問――受付》』


「《エルティア大森林》で僕たちが見つけた遺跡は」


 ハリトが。


 ゆっくり聞く。


「五百年前から、あそこにあった?」


 緑が。


 静かに光る。


『《肯定》』


「…………」


 俺は。


 思わず。


 身を乗り出した。


「じゃあ!」


「ニール」


「はい」


 止められた。


「僕が聞く」


「はい」


 ハリトは。


 もう一度。


 リーフへ問いかける。


「ずっと、あそこにあった?」


『《肯定》』


「じゃあ」


 ハリトが。


 地図を見る。


 何枚も。


 何枚も。


 何百年もの間。


 遺跡の存在が。


 書かれなかった地図。


「どうして、誰も見つけられなかったの?」


 少し。


 長い沈黙。


 緑の光が。


 静かに。


 明滅する。


 そして。


『《回答――制限》』


「…………」


「同じだ」


 俺は言った。


「うん」


 青も。


 緑も。


 知っている。


 でも。


 俺たちには。


 まだ。


 教えてくれない。


     ◇


「じゃあさ」


 ミーナが。


 地図の上に。


 頬杖をつく。


「今回の森の異変も、それと関係あるのかな?」


「異変?」


「動物たちが外に出てきてたでしょ?」


「あ」


 《枝角鹿》。


 森の外へ向かう足跡。


 いろんな生き物が。


 何かから。


 離れるように。


 森の外へ。


 向かっていた。


「遺跡が見つかった」


 ミーナが。


 指を一本立てる。


「同じ時期に、森の生き物たちが動き始めた」


 もう一本。


「関係ありそうじゃない?」


「ありそう!」


「ニールさん」


「はい」


 シロナだった。


「可能性があることと、事実であることは違います」


「はい」


「今回、《エルティア大森林》で起きていた異変の原因を、私たちは特定できていません」


「はい」


「ですから、今の段階で遺跡が原因だったと決めるべきではありません」


「はい」


「よろしいです」


 三回。


 はいって言った。


「でも」


 ハリトが。


 地図を見ている。


「僕も、関係がないとは思えない」


「私もです」


 シロナが答えた。


「ただし、それはまだ仮説です」


「うん」


「森の異変」


 シロナが。


 一枚の記録へ触れる。


「そして、これまで記録されていなかった遺跡が発見された時期」


 次に。


 別の地図へ。


 指を置く。


「今後、同じような変化が起きるのであれば」


 シロナは。


 古い地図を見る。


「偶然ではない可能性も出てきます」


「じゃあ」


 俺は。


 身を乗り出す。


「また調べに行く?」


「今は行きません」


 ハリトが。


 即答した。


「早い!」


「調査は終わったでしょ」


「でも気になるじゃん!」


「気になるからって、すぐ森の奥に入るの?」


「…………」


「それ、前のニールじゃない?」


「…………」


 何も。


 言い返せない。


 ミーナが。


 吹き出した。


「成長したね、ハリト」


「ニールもね」


「俺!?」


「今、止まったでしょ」


「…………」


 確かに。


 行こうとは。


 思った。


 でも。


 行くとは。


 言わなかった。


「俺も成長してる!」


「はいはい」


「雑!」


 でも。


 たぶん。


 今は。


 それでいい。


 答えは。


 まだない。


 だから。


 今できることを。


 調べる。


 記録する。


 覚えておく。


 そして。


 必要になった時。


 また。


 考える。


 問いは。


 増えた。


 でも。


 無理に答えを出す必要は。


 ないのかもしれない。


     ◇


 ギルドを出る頃には。


 もう。


 夕方だった。


「頭使った」


「僕も」


「お腹すいた」


「ニールはいつもでしょ」


「ミーナも食べるだろ!」


「食べるけど」


 俺たちは。


 夕暮れのラグナードを歩く。


 隣には。


 ハリト。


 その腰には。


 リーフ。


 俺の腰には。


 ベルトさん。


「なあ、ハリト」


「何?」


「五百年前からあったんだよな」


「うん」


「なのに誰も見つけなかった」


「そうみたいだね」


「で、俺たちが見つけた」


「うん」


「…………」


 分からん。


「なんで?」


「僕に聞かれても」


「だよなあ」


 後ろから。


 ミーナが言う。


「そのうち分かるんじゃない?」


「軽いな」


「だって、今は分からないんでしょ?」


「うん」


「だったら今考えても仕方ないじゃん」


「…………」


 確かに。


 なんか。


 悔しい。


 俺は。


 もう一度。


 ベルトさんを見る。


「お前も、そのうち教えろよ」


『《回答――》』


「制限?」


『《肯定》』


「先に言うなよ!」


「自分で言ったんでしょ」


 ハリトが。


 笑った。


 リーフも。


 小さく光った。


 五百年前。


 《五大勇者》がいた時代。


 その頃から。


 青の遺跡も。


 緑の遺跡も。


 存在していた。


 青は。


 遺跡そのものは。


 知られていた。


 でも。


 ベルトさんが眠る場所には。


 誰も辿り着けなかった。


 緑は。


 遺跡そのものが。


 何百年もの間。


 誰にも見つからなかった。


 違う。


 でも。


 同じだ。


 どちらも。


 ずっと。


 待っていた。


「…………」


 だったら。


 俺は。


 ふと思う。


 まだ。


 俺たちが知らない場所にも。


 何かが。


 誰かを。


 待っているんだろうか。


 まだ。


 答えはない。


 どうして。


 今だったのか。


 どうして。


 俺たちだったのか。


 それも。


 分からない。


 だけど。


 もしかしたら。


 俺たちが始めたと思っていた。


 この冒険は。


 俺たちが知らないところで。


 ずっと昔から。


 続いていたのかもしれない。


 五百年前から。


 ずっと。


 そして。


 今。


 止まっていた何かが。


 もう一度。


 動き始めている。


 そんな気がした。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は戦闘ではなく――。


調査回でした!


ニールにとっては、魔物と戦うより強敵だったかもしれません(笑)。


そして今回、青と緑の《勇者装具》について、一つの共通点が見えてきました。


《蒼天遺跡》は、遺跡そのものは昔から知られていた。


けれど、ベルトさんが眠っていた場所には誰も辿り着けなかった。


一方、《エルティア大森林》では、リーフが眠る遺跡そのものが何百年もの間、記録されていなかった。


見つからなかったものは違う。


それでも――。


どちらも五百年前から、そこに存在していた。


そしてベルトさんもリーフも、その理由を知らないわけではない。


『《回答――制限》』


知っている。


けれど、今は答えられない。


さて。


なぜなのでしょうか。


そして、もう一つ。


《エルティア大森林》で起きていた生物たちの異変と、遺跡の発見には関係があるのか。


こちらも現時点では、まだ分かりません。


「ありそうだから、きっとそうだ」


とは決めつけず。


分からないものは、分からないまま記録する。


そして気になるからといって、すぐ森へ突っ込まない。


ハリトだけでなく、ニールも少しずつ冒険者らしくなってきました。


そして――。


青が五百年前から待っていた。


緑も五百年前から待っていた。


ならば。


まだ彼らの知らないどこかにも――。


何かが。


誰かを待っているのでしょうか。


五百年前に止まったものが、なぜ今になって動き始めたのか。


その答えは、まだもう少し先のお話。


第三章も、いよいよ終盤です。


続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!


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