第十一話『二人の勇者』(改訂版 ver.1.01)
前回、《エルティア大森林》を抜けたニールたち。
ハリト自身が選んで始まった「僕のクエスト」は、ひとまず終わりを迎えました。
ですが――。
冒険者の依頼は、無事に帰って報告するまで。
森の異変。
生物たちが避ける《空白地帯》。
地図にも載っていない古代遺跡。
オオカミ型の《守護体》。
そして――緑の《勇者装具》、リーフ。
彼らが持ち帰ったものは、あまりにも大きなものでした。
一人と一つで始まった勇者の物語。
青の隣に、ついに緑が並びます。
それでは、第十一話『二人の勇者』。
お楽しみください!
見慣れた城壁が見えた。
「ラグナード!」
俺は思わず声を上げた。
「帰ってきたー!」
「ニール、まだ門の外だよ」
「見えたらもう帰ってきたようなもんだろ!」
「違うと思う」
「細かい!」
ハリトの冷静な返事を無視して。
俺は歩く速度を上げた。
《エルティア大森林》を出てから。
さらに一日。
ようやく。
ラグナードへ戻ってきた。
「お風呂」
ミーナが呟く。
「飯」
俺も呟く。
「報告」
ハリトが言う。
「休息ですね」
シロナが続けた。
俺とミーナが。
同時に振り返る。
「報告が先?」
「お風呂が先じゃない?」
「報告」
ハリト。
「報告ですね」
シロナ。
二対二。
俺は。
ミーナを見る。
「……負けたな」
「相手が悪い」
「聞こえてるよ」
そんなことを話しながら。
門へ向かう。
何日か前。
俺たちは。
ここから《エルティア大森林》へ出発した。
四人とも。
三つ星。
勇者は。
俺一人だった。
でも。
今は。
もう一つ。
ハリトの腰に。
緑の光がある。
それ以外は。
何も変わっていないように見える。
でも。
たぶん。
俺たちは。
少しだけ変わって。
帰ってきた。
◇
冒険者ギルドの扉を開ける。
「帰ったぞー!」
何人かが。
こっちを振り返った。
「ニール」
「何?」
「静かに」
「無事に帰ってきたんだからいいだろ!」
「そういう問題じゃないよ」
「お帰りなさい」
受付から。
声がした。
リディアさんだった。
「皆さん、ご無事で何よりです」
「ただいま!」
「ただいま戻りました」
「ただいまー」
「戻りました」
俺。
ハリト。
ミーナ。
シロナ。
それぞれ。
挨拶をする。
リディアさんは。
俺たちを見て。
「…………」
止まった。
「リディアさん?」
その視線は。
ハリトの腰へ。
向いている。
「ハリトさん」
「はい」
「その腰のものは……?」
やっぱり。
気づくよな。
ハリトが。
自分の腰を見る。
緑の《勇者装具》。
リーフ。
「《エルティア大森林》で見つけました」
「森で……?」
「はい」
「それは」
リディアさんの視線が。
俺のベルトさんへ。
そして。
リーフへ。
行ったり来たりする。
「もしかして……」
リーフが。
淡く光った。
『《応答》』
「…………」
リディアさんが。
固まった。
「喋った……?」
「喋ります!」
「なんでニールが答えるの?」
「いいだろ!」
「今のは僕のリーフでしょ」
「……リーフ?」
リディアさんが聞く。
「この子の名前です」
「名前……」
そして。
ゆっくり。
俺を見る。
「ニールさんの……ベルトさんと同じような?」
「そうです!」
「僕はもう少し考えて付けましたけど」
「おい!」
ミーナが。
吹き出した。
「ベルトさんもいい名前だろ!」
『《肯定》』
「ほら!」
「本人がいいならいいんじゃない?」
「だろ!?」
リディアさんは。
しばらく。
俺たちを見ていた。
そして。
小さく息を吐いた。
「……少々、お待ちください」
「はい」
「報告は奥で伺います」
そう言って。
リディアさんは。
奥へ消えた。
「……怒られる?」
俺が聞く。
「何を?」
「なんかすごいもの持って帰ってきたから」
「拾ったわけじゃないよ」
「でも見つけたじゃん」
「僕のだから」
「それ言ったらベルトさんも俺のだけど」
「ニール」
「何?」
「たぶん問題はそこじゃない」
「じゃあ何?」
「分からない」
「分からないんじゃん!」
ミーナが。
笑った。
「勇者が二人って、結構すごいことなんじゃない?」
「そうなのかな」
「ニールはもう少し自覚した方がいいと思う」
「青の勇者になった時から言われてる」
「直ってないじゃん」
「だって俺は俺だろ」
そう言うと。
ハリトが。
少し笑った。
「それはそうだね」
◇
俺たちは。
ギルドの奥にある部屋へ。
通された。
机の上に。
地図。
ハリトが取った記録。
俺たちが持ち帰った情報。
一つずつ。
並べていく。
「では」
リディアさんが。
記録用の紙を広げる。
「★★★《エルティア大森林・異常生態調査》について、順番にお願いします」
「はい」
ハリトが。
地図を指す。
「まず、調査範囲内で複数種の生物が森の外側へ移動している痕跡を確認しました」
「複数種?」
「はい。《枝角鹿》だけではありません。足跡から判断して、少なくとも数種類です」
ミーナが。
横から補足する。
「匂いも複数ありました。全部同じ方向じゃないけど、森の奥から離れようとしてる感じ」
「なるほど」
リディアさんが。
書き込む。
「原因は?」
「特定できませんでした」
ハリトは。
はっきり答えた。
「ただ、帰路で《枝角鹿》を一匹確認しています」
「状態は?」
「外へ逃げている様子ではありませんでした。僕たちを警戒した後、森の内側へ向かっています」
「では、異変が収まりつつある可能性が?」
「可能性はあります」
ハリトが。
少しだけ間を置く。
「でも、一匹だけです。異変が収まったとは断定できません」
「分かりました」
リディアさんが。
また記録する。
「他には?」
「ここです」
ハリトが。
地図の一点を指した。
「この周辺で、生物の痕跡がほとんどなくなる場所を確認しました」
「ほとんど?」
「足跡、食痕、縄張りの痕跡。どれも急に減ります」
ミーナが言う。
「鳥とか虫の気配も、すごく少なかった」
「植物には?」
「見た限りでは大きな異常はありませんでした」
シロナが答える。
「水についても、私が確認できる範囲では強い毒や異常な魔力は検出していません」
リディアさんの。
表情が変わる。
「生物だけが、そこを避けている可能性がある?」
「そう考えています」
ハリトが答えた。
「僕たちは《空白地帯》って呼んでました」
「《空白地帯》……」
リディアさんが。
その言葉を書き込む。
「それから」
ハリトの指が。
少しだけ。
地図の奥へ動く。
「その先で、遺跡を発見しました」
リディアさんの手が。
止まった。
「……遺跡?」
「はい」
「登録されているものですか?」
「少なくとも、僕たちが持っていた地図にはありませんでした」
「内部には?」
「入りました」
部屋が。
少し。
静かになった。
「ハリトさん」
「はい」
「今回の依頼は、《エルティア大森林》の異常生態調査です」
「はい」
「未知の遺跡内部の探索は、依頼範囲を超える可能性があります」
「分かっています」
「それでも入った?」
「はい」
ハリトは。
目を逸らさなかった。
「入り口で、一度全員で確認しました」
進むか。
戻るか。
内部調査は。
三十分まで。
異常があれば。
撤退。
未知の魔物。
対応できない危険。
どちらかを確認した場合も。
撤退。
あの時。
決めたことを。
ハリトが。
一つずつ説明していく。
「シロナさん」
リディアさんが。
シロナを見る。
「あなたも、その判断を認めたのですね?」
「はい」
シロナが答える。
「ただし、目的は遺跡の攻略ではありません。あくまで限定的な内部確認です」
「危険だと判断した場合は?」
「その時点で撤退することを、全員で確認していました」
「もし皆さんが進むことを望んでも?」
「止めていました」
シロナが。
穏やかに答える。
「命を失ってまで確認しなければならないものではありませんから」
「分かりました」
リディアさんが。
ハリトを見る。
「結果的には?」
「進みました」
「その判断を、今でも正しかったと思いますか?」
「…………」
ハリトが。
少しだけ。
考える。
「分かりません」
俺は。
ハリトを見る。
「結果だけなら、全員無事です」
ハリトが続ける。
「でも、全員無事だったから正しい判断だった、とは言えないと思います」
「…………」
「ただ」
ハリトは。
逃げなかった。
「最初に進みたいと言ったのは、僕です」
腰の。
リーフへ。
手を置く。
「みんなにも確認しました。シロナさんにも条件を決めてもらいました。でも、進むことを選んだのは僕です」
「…………」
「だから、その判断をしたことから逃げるつもりはありません」
リディアさんは。
しばらく。
ハリトを見ていた。
やがて。
小さく頷く。
「分かりました」
紙へ。
何かを書き込む。
「その判断も含めて、報告として記録します」
「はい」
「ただし」
「はい」
「次に未知の遺跡を発見した場合、可能であれば、まずギルドへ報告してください」
「分かりました」
「危険がなかったから良かった、で終わらせてはいけません」
「はい」
「ニールさんも」
「はい!」
「ミーナさんも」
「……はい」
「なんで私までって顔をしましたね?」
「してません」
「してたよ」
「ニールは黙ってて!」
シロナが。
小さく笑っていた。
◇
「遺跡内部では、何を?」
リディアさんが。
話を戻す。
「《守護体》と呼ばれるものに遭遇しました」
「《守護体》?」
「ベルトさんが、そう識別した」
俺が答える。
「オオカミみたいな形だった」
「生物ですか?」
「違うと思います」
ミーナが。
首を振る。
「匂いが、生き物とは違ってた」
「魔力も通常の魔物とは異なっていました」
シロナも続ける。
「戦闘になった?」
「はい」
ハリトが答える。
「でも、僕たちを倒そうとしていたわけじゃないと思います」
「なぜ?」
「試されていたからです」
「試されていた?」
ハリトが。
その時のことを。
説明する。
俺たちを。
ただ殺そうとしていたわけじゃない。
ハリトを見ていたこと。
動きを。
判断を。
仲間との戦い方を。
確かめていたこと。
そして。
最後に。
戦いを止めたこと。
「ベルトさんは、その後」
俺は。
腰を見る。
「《試行終了》って言った」
『《守護体――試行終了》』
「うおっ」
リディアさんが。
ベルトさんを見る。
「今のは……?」
「補足してくれた!」
『《通過判定――確認》』
「そこまで言えるようになったんですか?」
「最近よく喋るんですよ!」
『《意思伝達精度――向上》』
「ほら!」
「なんでニールが自慢するの?」
「俺のベルトさんだから!」
リディアさんが。
少しだけ。
困ったように笑う。
「……続けましょう」
「はい」
◇
「《守護体》の先で」
ハリトが。
リーフに触れる。
「この子を見つけました」
リーフが。
淡く光った。
『《応答》』
リディアさんが。
改めて。
その緑を見る。
「その装具が、本当にニールさんの《勇者装具》と同じものだと確認できるのですか?」
「ベルトさん」
俺が呼ぶ。
『《質問――受付》』
「リーフって、ベルトさんと同じ《勇者装具》なんだよな?」
『《肯定》』
『《緑個体――認証済》』
『《同系統個体――確認》』
続いて。
リーフも。
光る。
『《青個体――認識》』
「…………」
リディアさんが。
黙った。
青。
緑。
二つの光を。
交互に見る。
「それから」
俺が言う。
「二つがつながった」
「つながった?」
『《勇者装具間接続――再構築》』
『《共有領域――一部開放》』
「……再構築」
リディアさんが。
その言葉を。
ゆっくり繰り返した。
「以前、つながっていたということですか?」
「たぶん」
俺が答える。
「五百年前に」
ハリトが続ける。
「でも、それ以上のことは、まだ僕たちにも分かりません」
「遺跡と森の異変には?」
「関係があるかもしれません」
ハリトが答える。
「でも、原因だとは断定できません」
「…………」
「遺跡の近くに《空白地帯》があった。リーフも遺跡の中にいた。だから、何か関係がある可能性は高いと思います」
「はい」
「でも」
ハリトが。
地図を見る。
「今分かっているのは、そこまでです」
「俺は絶対なんかあると思うけどな」
「僕もそう思うよ」
「じゃあ――」
「でも、“たぶん”を“原因です”って報告はできないでしょ」
「…………」
なるほど。
「ハリト」
「何?」
「真面目だな」
「さっきも聞いたよ」
リディアさんが。
小さく笑った。
「それで結構です」
「え?」
「推測と、確認できた事実を分けて報告する。それも調査依頼では重要なことです」
「はい」
ハリトが。
頷いた。
◇
「そして」
リディアさんが。
緑の装具を見る。
「《五大勇者》」
部屋が。
静かになる。
「赤。青。緑。黄。白」
俺も。
知っている。
五百年前。
世界を救ったとされる。
五人の勇者。
「これまで、現代で確認されていた《勇者装具》は、ニールさんの青だけでした」
「俺ですね」
「はい」
リディアさんが。
俺を見る。
そして。
ハリトを見る。
「そこに、緑」
「……はい」
「ハリトさん」
「はい」
「あなたが」
一度。
言葉を切る。
「《緑の勇者》ということになります」
「…………」
静かだった。
知っていた。
俺たちは。
もう。
知っている。
でも。
こうして。
誰かの口から。
改めて言われると。
少しだけ。
違って聞こえた。
ハリトが。
腰のリーフを見る。
「……そうみたいですね」
「軽い!」
思わず。
言ってしまった。
「ニールも似たようなものだったでしょ」
「俺はもっと驚いた!」
「最初だけね」
「最初は大事だろ!」
リディアさんが。
小さく笑う。
「お二人らしいですね」
「そうですか?」
「はい」
でも。
すぐに。
表情を引き締めた。
「ただし、この情報は慎重に扱う必要があります」
「なんで?」
「《五大勇者》のうち、二人が現代に現れたことになります」
「はい」
「これは、この支部だけで判断できる情報ではありません」
リディアさんが。
青と。
緑を見る。
「上部への報告が必要になります。遺跡についても、《守護体》についてもです」
「面倒くさそう」
「ニールさん」
「はい」
「ものすごく面倒だと思います」
「リディアさんが言った!?」
「ですので」
リディアさんが。
少し笑う。
「情報の扱いについても、こちらで協議します。少なくとも現時点で、ギルドから積極的に公表することはありません」
俺は。
ハリトを見る。
「どうする?」
「何が?」
「緑の勇者」
「どうするって?」
「隠す?」
ハリトは。
少し考えた。
「別に隠すつもりはないよ」
「じゃあ言いふらす?」
「それもしない」
「じゃあどうするんだよ」
「普通にする」
「普通?」
「聞かれたら、必要なら答える。それだけ」
ハリトが。
リーフを見る。
「これがあるからって、僕が急に別人になるわけじゃないから」
「…………」
俺は。
笑った。
「だよな」
「うん」
「俺も言いふらさない!」
ハリトが。
俺を見る。
「ニールはちょっと心配」
「なんで!?」
◇
最後に。
受付へ戻る。
報酬。
記録。
確認。
そして。
リディアさんが。
書類へ。
印を押した。
ぽん。
「★★★《エルティア大森林・異常生態調査》」
もう一度。
書類を確認する。
「依頼完了です」
「よっしゃ!」
俺は。
思わず。
拳を握った。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
ハリトが。
頭を下げる。
俺も。
ミーナも。
シロナも。
それぞれ。
頭を下げた。
これで。
終わった。
ハリトが見つけた。
《エルティア大森林》への依頼。
ハリトが。
行くと決めた。
あのクエストが。
本当に。
終わった。
「ハリト」
「何?」
「お疲れ」
「ニールも」
「俺はついてっただけだけどな」
「そんなことないよ」
「そう?」
「うん」
少し。
間を置いて。
ハリトが言う。
「一人じゃ、たぶん行かなかった」
「……そうなの?」
「行くって決めたのは僕だけど」
ハリトが。
少し笑う。
「一緒に行きたいと思ったのは、みんながいたからだよ」
ミーナの。
尻尾が揺れる。
「私も?」
「もちろん」
「シロナさんも?」
「もちろん」
「俺は?」
「……まあ」
「なんで俺だけ溜めるんだよ!」
「冗談だよ」
「緑の勇者になってから性格悪くなってない!?」
「たぶん元から」
「認めた!」
ミーナが笑う。
シロナも。
笑っている。
その時。
リーフが。
淡く光った。
『《休息――推奨》』
「……ほら」
ハリトが。
リーフを見る。
「また言ってる」
「正しいじゃん」
『《行動継続――非推奨》』
「めちゃくちゃ休ませたがるな」
「そうなんだよ」
『《安全行動――推奨》』
「優しいじゃん」
「ちょっと過保護なんだよ」
ハリトが。
困ったように笑う。
「僕を守ろうとしてくれてるのは、分かるんだけどね」
「俺のベルトさんと交換する?」
緑の光が。
すぐに瞬いた。
『《交換――拒否》』
「早っ!」
ミーナが。
腹を抱えて笑う。
「ニール、嫌われてるじゃん!」
「違う! 装具だから交換できないって意味だろ!」
『《肯定》』
「ほら!」
「必死だね」
「ベルトさん、もうちょっと早く肯定してくれよ!」
『《要求――過剰》』
「お前最近それ好きだな!?」
◇
ギルドを出る。
夕方。
ラグナードの街は。
相変わらず。
賑やかだった。
商人。
冒険者。
子ども。
荷車。
食べ物の匂い。
「飯!」
「お風呂!」
俺とミーナが。
同時に。
違う方向を指した。
「飯!」
「お風呂!」
「飯!」
「お風呂!」
「先に宿を取りましょう」
シロナ。
「賛成」
ハリト。
「また負けた!」
「なんで勝負になってるの?」
四人で。
歩く。
ふと。
俺は。
ハリトの横へ並んだ。
「なあ」
「何?」
「俺たち、二人になったんだな」
「四人いるけど?」
「違う!」
「分かってるよ」
ハリトが。
少し笑う。
青。
緑。
《五大勇者》。
五百年前。
世界を救ったとされる。
伝説の五人。
そのうち。
二つの色が。
今。
ここにある。
「なんかすげえな」
「今さら?」
「だって二人だぞ?」
「うん」
「五人中二人!」
「計算はできるよ」
「そういうことじゃない!」
俺は。
ベルトさんを見る。
それから。
リーフを見る。
「あと三つ、あるんだよな」
「五百年前と同じならね」
「どこにあるんだろうな」
「分からない」
「…………」
「どうしたの?」
「探す?」
ハリトが。
俺を見る。
「ニールは探したいの?」
「…………」
赤。
黄。
白。
残り三人。
勇者なら。
探した方がいいのかもしれない。
五人を。
集めた方がいいのかもしれない。
でも。
「……今はいいや」
「いいの?」
「うん」
「なんで?」
「だって」
俺は。
前を見る。
ラグナードの街。
たくさんの人が。
歩いている。
いろんな道が。
伸びている。
「俺たち、冒険者になったばっかりだろ?」
「…………」
「勇者だから勇者を探すんじゃなくてさ」
俺は。
ハリトを見る。
「俺たちが行きたいところに行こうぜ」
「その先で、また《勇者装具》が見つかったら?」
「その時考える!」
「やっぱり軽いなあ」
「いいだろ!」
「まあね」
ハリトが。
少しだけ。
笑った。
「僕も、それでいいと思う」
「だろ?」
「うん」
青の勇者。
緑の勇者。
そう呼ばれる俺たちは。
並んで。
ラグナードの街を。
歩いている。
どっちが前でもない。
どっちが後ろでもない。
隣。
昔から。
俺たちは。
友達だった。
今は。
冒険者でもある。
そして。
勇者でもある。
「ハリト」
「何?」
「これからもよろしくな」
「急に何?」
「いいだろ!」
「まあいいけど」
ハリトが。
少しだけ笑う。
「こちらこそ」
俺たちの腰で。
青と。
緑が。
ほとんど同時に。
小さく光った。
それが。
何を意味しているのか。
俺たちには。
まだ分からない。
でも。
今は。
それでいい。
一人と一つだった冒険は。
二人と二つになった。
そして。
俺たちは。
同じ道を。
並んで歩いていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ようやくラグナードへ帰ってきました!
今回で、★★★《エルティア大森林・異常生態調査》は正式に完了です。
ただし――。
森で何が起きているのか、その原因がすべて判明したわけではありません。
《空白地帯》と古代遺跡。
オオカミ型の《守護体》。
森の外へ移動する生物たち。
そして、帰路で確認された一匹の《枝角鹿》。
それらがどうつながっているのかは、まだ分からないままです。
「分からないから、さらに奥へ進む」のではなく。
分からなかったことも情報として持ち帰り、ギルドへ報告する。
三つ星冒険者となったニールたちの成長も、少し感じていただけたら嬉しいです。
そして――。
ついに冒険者ギルドも、二人目の勇者を認識しました。
青の勇者、ニール。
緑の勇者、ハリト。
五百年前には五人いたという《五大勇者》のうち、現代に二つの色が揃ったことになります。
とはいえ。
二人がいきなり「残りの勇者を探しに行こう!」とはならないのが、この物語の彼ららしいところです。
勇者だから、勇者らしいことをしなければならない。
勇者だから、残りの勇者を探さなければならない。
そうではなく――。
「俺たちが行きたいところに行こうぜ」
まずは、自分たちの冒険をする。
その道の先に何が待っているのかは、まだ誰にも分かりません。
そして今回、リーフも本格的に仲間入りしました。
ベルトさんよりまだ言葉は少ないものの、どうやらハリトの安全をかなり気にしている様子。
ニール&ベルトさん。
ハリト&リーフ。
この二組がこれからどんな関係になっていくのかも、楽しんでいただけたらと思います。
一人と一つだった冒険は――。
二人と二つへ。
ですが、第三章はもう少しだけ続きます。
次回。
ラグナードへ戻ったニールたちを待っているのは――?
続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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