第九話『勇者の選択』(改訂版 ver.1.01)
前回、ついに緑の勇者となったハリト。
五百年ぶりに青と緑の《勇者装具》がつながり、ニールとハリトにも新たな変化が起こりました。
そして今回は、ニール視点へ戻ります。
LEVEL12となり、《蒼駆》《蒼閃》がⅢへ成長したニール。
LEVEL10となり、勇者として新たな力を得ることになったハリト。
勇者になることを自分で選んだハリトが、今度は――
**どんな力を選ぶのか。**
さらに、《同調段階》が上がったベルトさんにも何やら変化が……?
それでは、第九話『勇者の選択』。
お楽しみください!
ハリトが。
緑の勇者になった。
「…………」
なんか。
変な感じだ。
「何?」
ハリトがこっちを見る。
「いや」
「さっきからずっと見てるけど」
「なんかさ」
俺は。
ハリトの腰を見る。
そこには。
今までなかった緑の《勇者装具》がある。
「本当に勇者になったんだなって」
「……そうみたいだね」
「そこはまだ他人事なんだ」
「ニールだって最初はよく分かってなかったでしょ」
「まあ……」
そう言われると。
何も言えない。
俺だって。
ベルトさんを手に入れた時。
何が何だか分からなかった。
それに比べれば。
ハリトはずっとハリトらしい。
考えて。
確かめて。
最後は。
自分で決めた。
「……緑の勇者か」
「何?」
「似合ってる」
「色で言ってない?」
「だってハリト、髪も緑だし」
「そこ?」
ミーナが笑う。
「確かに似合ってるけどね」
「ありがとうございます」
ハリトが。
軽く頭を下げる。
「それにしても」
シロナが。
ベルトさんと。
ハリトの緑の《勇者装具》を。
交互に見る。
「五百年前の《五大勇者》と同じ、青と緑ですか」
「二人目だな」
俺が言う。
その瞬間。
少しだけ。
胸が高鳴った。
五人。
五百年前。
世界を救ったとされる。
《五大勇者》。
そのうち。
二つの装具が。
今。
ここにある。
でも。
俺は。
ハリトを見る。
やっぱり。
勇者って感じがしない。
「何?」
「いや」
「また?」
「だって俺にとって、ハリトはハリトだから」
「……何それ」
「勇者になる前からハリトだろ?」
「当たり前でしょ」
「だから変な感じ」
ハリトが。
少しだけ笑った。
「僕も同じだよ」
「え?」
「ニールが青の勇者だって分かった時」
ハリトが。
俺を見る。
「勇者っていうより、ニールだなって思った」
「なんだそれ」
「今ニールが言ったことと同じだよ」
「……確かに」
勇者になったから。
仲間になったわけじゃない。
ずっと仲間だったやつが。
勇者になった。
ただ。
それだけなのかもしれない。
◇
そして。
もう一つ。
変わったものがある。
「なあ、ベルトさん」
青い光が。
小さく瞬く。
「さっきから、なんか違くない?」
『《質問内容――不明瞭》』
「…………」
俺は。
固まった。
「ニール?」
「え?」
「どうしたの?」
「いや」
俺は。
もう一度。
ベルトさんを見る。
「ベルトさん……今、何て?」
『《質問内容――不明瞭。具体化を推奨》』
「めっちゃ喋った!?」
「え!?」
ミーナが。
こっちを見る。
「何!? 何て言ったの!?」
「質問が分かりづらいから、ちゃんと聞けって!」
「そんなこと言うの?」
「言った!」
正確には。
声じゃない。
意味が。
直接。
頭の中へ入ってくる。
それは。
今までと同じ。
でも。
明らかに違う。
今までは。
『《肯定》』
『《否定》』
『《回答不能》』
ほとんど。
そのくらいだった。
それが。
今は。
文章になっている。
「同調段階が上がったから?」
ハリトが聞く。
「それだ!」
俺は。
ベルトさんを見る。
「同調段階が三になったから、もっと話せるようになったのか?」
『《肯定》』
「短っ!」
「今のは短いんだ」
「さっき喋ったじゃん!」
『《意思伝達精度――向上》』
『《情報伝達量――拡張》』
「おお……」
すげえ。
ちゃんと。
会話になってる。
「じゃあ、ベルトさん」
『《質問――受付》』
「おおお!」
「ニール、楽しそうだね」
「だって今まで全然答えてくれなかったんだぞ!」
聞きたいことは。
山ほどある。
「じゃあ……さっき何が起きた?」
『《質問範囲――広大》』
「…………」
「ニール」
「何?」
「もっと具体的に聞けって言われたばっかりじゃない?」
「うるさい!」
俺は。
考える。
「ハリトの緑の《勇者装具》が認証された後、ベルトさんと緑の装具がつながっただろ? あれは何?」
『《緑個体――認証完了》』
『《同系統個体――二基》』
『《勇者装具間接続――再構築》』
『《共有領域――一部開放》』
『《相互同調補正――適用》』
「……なるほど」
「分かった?」
「全然」
「だと思った」
「待て!」
俺は。
頭の中で。
整理する。
「つまり……青と緑が、つながった?」
『《肯定》』
「それでベルトさんの同調段階も上がった?」
『《肯定》』
「ハリトの緑が最初から二なのも?」
『《肯定》』
「じゃあ、装具同士がつながれば、勝手に成長していく?」
『《否定》』
「違う?」
『《相互接続――成長補助》』
『《使用者との同調――別途必要》』
「……あ」
なんとなく。
分かった。
「ベルトさんは俺と」
『《肯定》』
「ハリトの装具はハリトと」
『《肯定》』
「それぞれ仲良くならないとダメ?」
『《表現――概ね適切》』
「概ね!」
ミーナが。
吹き出した。
「やっぱり仲良くなってるじゃん」
「そうなのか?」
『《肯定》』
「ベルトさんもそう思ってんの!?」
なんか。
ちょっと。
嬉しい。
◇
「そういえば」
俺は。
ハリトを見る。
「お前、LEVEL10になったんだよな」
「うん」
ハリトが。
緑の装具を見る。
「まだ実感はないけど」
「LEVEL10……」
何か。
引っかかる。
俺も。
LEVEL10になった時。
何かが――。
「あ」
「何?」
「ハリト」
「うん」
「出てない?」
「何が?」
「選ぶやつ」
「……何それ」
「スキル!」
「スキル?」
「勇者の!」
ハリトが。
止まった。
「ニール」
「何?」
「初耳だけど」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
「…………」
「そういう大事なことは、ちゃんと話して」
「はい」
「怒られてる」
ミーナが笑う。
「うるさい!」
俺は。
ベルトさんを見る。
「勇者がLEVEL10になったら、勇者技能を選べるんだよな?」
『《肯定》』
「ハリトも?」
『《肯定》』
「ほら!」
「僕には何も――」
ハリトが。
言いかけた。
その時。
腰の緑が。
強く光った。
「……え?」
「ハリト?」
「待って」
ハリトが。
緑の装具へ。
手を置く。
「何か……来た」
「何が?」
「選択肢」
「やっぱり!」
「ニール、ちょっと静かにして」
「はい」
ハリトが。
目を閉じる。
しばらくして。
ゆっくりと。
目を開けた。
「三つある」
「見せて!」
「見せられないよ」
「じゃあ教えて!」
「近い」
「ごめん」
ハリトが。
一つずつ。
確認していく。
「一つ目は《風読み》」
「おお」
「風の流れを通して、周囲の変化を捉えやすくする技能」
「ハリトっぽい」
「二つ目。《遠見》」
「遠くを見る?」
「視覚と集中力を補助して、遠距離の情報を捉えやすくする」
「それもハリトっぽい」
「三つ目」
ハリトが。
少し止まった。
「《導風》」
「どうふう?」
「風を利用して、矢や味方の動きを補助する技能……みたいだね」
「それだ!」
「なんでニールが決めるの?」
「格好いいから!」
「僕の技能なんだけど」
「はい」
ミーナが。
肩を震わせている。
「ハリトはどれがいいの?」
「…………」
ハリトは。
少し考える。
「《風読み》は、僕が今までやってきたことを伸ばせる」
「うん」
「《遠見》も、弓や偵察には便利だと思う」
「うん」
「でも」
緑の装具へ。
触れる。
「《導風》は、僕だけじゃない」
「え?」
「僕の矢にも使えるし、みんなの動きも助けられる」
ハリトが。
俺たちを見る。
「それに」
少し。
笑った。
「今までできなかったことが、できそうだから」
緑の光が。
強くなる。
「僕は《導風》を選ぶ」
瞬間。
意味が。
俺の方にも。
ベルトさんを通して流れ込んできた。
『《勇者技能――選択完了》』
『《導風Ⅰ――取得》』
「おお!」
「……入った」
ハリトが。
自分の手を見る。
「何か変わった?」
「風が」
「風?」
「前より少しだけ……分かる気がする」
ハリトの髪が。
微かに揺れる。
風なんて。
ほとんどない。
遺跡の中なのに。
「これが《導風》……」
ハリトが。
小さく呟く。
◇
でも。
それで。
終わらなかった。
緑の装具が。
もう一度。
光った。
「ハリト?」
「待って」
さっきとは。
違う。
緑の光が。
強い。
ベルトさんも。
それに反応する。
『《規定条件――達成》』
『《伝説技能――継承開始》』
「伝説技能……?」
ハリトが。
俺を見る。
「ニール。これも選ぶの?」
「いや」
俺は。
首を振る。
「そっちは違う」
「違う?」
「俺の《蒼閃》と同じなら」
ベルトさんを見る。
「受け継ぐやつだ」
『《肯定》』
「受け継ぐ……」
緑の光が。
ハリトの身体を包む。
『《先代使用記録――参照》』
『《適合処理――開始》』
ハリトが。
目を見開く。
「何か見える?」
「……いや」
首を振る。
「見えるっていうより」
ハリトが。
胸に手を当てる。
「分かる」
そして。
緑の光が。
一度。
大きく瞬いた。
『《伝説技能――継承完了》』
『《翠嵐Ⅰ――取得》』
「すいらん?」
「《翠嵐》……」
ハリトが。
その名前を。
確かめるように。
繰り返す。
「どんな技?」
「待って」
「はい」
ハリトが。
目を閉じる。
「一本の矢を……核にする」
「うん」
「そこから、風で作った矢を生み出す」
「…………」
「一本の矢が」
ハリトが。
目を開く。
「複数の矢になる」
「何それ!?」
「僕もまだ使ってないから分からないよ」
「使おう!」
「ここで?」
「使おう!」
「遺跡の中だよ」
「ちょっとだけ!」
「ダメ」
「なんで!?」
「何が起きるか分からない技能を、五百年前の遺跡の中で試さないで」
「正論!」
シロナが。
小さく笑う。
「戻ってから、安全な場所で試しましょう」
「はい……」
でも。
一本の矢が。
複数になる。
「《翠嵐》か……」
名前からして。
絶対。
格好いい。
「ニール」
「何?」
「僕の技能だからね」
「分かってるよ!」
「顔が使いたそう」
「弓貸して!」
「嫌だよ」
◇
「そうだ」
ハリトが。
腰を見る。
「どうした?」
「この子」
「緑の?」
「うん」
ハリトが。
緑の《勇者装具》へ。
指を置く。
「ずっと緑の装具って呼ぶのも、変だよね」
「じゃあ名前つけようぜ!」
「ニールには頼まない」
「なんで!?」
「ベルトさんって名付けた人だから」
「いい名前だろ!」
『《肯定》』
「ほら!」
「本人が気に入ってるならいいけど……」
ハリトが。
緑の装具を見る。
「名前か……」
「緑だからミドリさん!」
「却下」
「早い!」
「グリーンさん!」
「却下」
「緑ベルトさん!」
「絶対に嫌」
「なんで!?」
ミーナが。
お腹を押さえて笑っている。
「ニールに任せたらダメだね」
「なんでだよ!」
ハリトは。
しばらく考える。
そして。
緑の光に。
そっと触れた。
「……リーフ」
「リーフ?」
「うん」
「葉っぱ?」
「森で出会ったし」
ハリトが。
少しだけ笑う。
「僕には、それくらいがいい気がする」
「リーフ……」
俺は。
ハリトと。
緑の装具を見る。
「いいじゃん!」
「ニールに認められると少し不安になるな」
「なんで!?」
「冗談だよ」
ハリトが。
緑の装具に触れる。
「これからよろしく。リーフ」
少し。
間があった。
緑の光が。
静かに。
一度だけ瞬く。
『《了解》』
「…………」
「今なんか言った!?」
「うん」
「何!?」
ハリトが。
少しだけ。
嬉しそうに笑った。
「《了解》だって」
「おおお!」
俺は。
ベルトさんを見る。
「ベルトさん!」
『《質問――受付》』
「リーフだって!」
『《認識――登録》』
「登録した!」
「何を?」
「リーフって!」
ハリトが。
腰の装具を見る。
「……そっか」
青と。
緑。
ベルトさんと。
リーフ。
一人と一つだったのが。
二人と二つになった。
◇
「帰ろうか」
ハリトが言う。
「えー。《翠嵐》試さない?」
「帰ってから」
「《導風》は?」
「帰ってから」
「俺の《蒼駆Ⅲ》は?」
「帰ってから」
「《蒼閃Ⅲ》!」
「帰ってから」
「全部!?」
「全部」
シロナが。
微笑む。
「まずは無事に帰還して、ギルドへ報告するまでが依頼ですよ」
「……はい」
忘れてた。
俺たちは。
まだ。
依頼の途中だった。
来た道へ。
戻り始める。
前を。
ハリトが歩く。
その腰では。
リーフが。
静かに。
緑色の光を放っている。
俺の腰には。
ベルトさん。
青の勇者。
緑の勇者。
《蒼駆Ⅲ》。
《蒼閃Ⅲ》。
《導風Ⅰ》。
《翠嵐Ⅰ》。
できることが。
一気に増えた。
でも。
それ以上に。
知らないことも。
増えた。
「ハリト」
「何?」
「帰ったら、どれから試す?」
「まずギルドに報告」
「その後!」
「休む」
「その後!」
「考える」
「絶対だぞ!」
「はいはい」
ハリトが。
振り返らずに。
手を振る。
その隣で。
緑の光が。
小さく瞬いた。
ベルトさんも。
青く瞬く。
なんだか。
二つが。
話しているみたいに見えた。
一人と一つだった旅が。
二人と二つになった。
俺たちの冒険は。
また少し。
賑やかになった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、緑の勇者となったハリトの「最初の成長」のお話でした。
LEVEL10に到達したハリトに提示された《勇者技能》。
《風読み》
《遠見》
《導風》
その中からハリトが選んだのは――
《勇者技能:導風Ⅰ》
自分自身の力を伸ばすだけではなく、矢や仲間の動きにも活かせる力。
「今までできなかったことが、できそうだから」
そんな理由で《導風》を選ぶところも、ハリトらしい選択になったかなと思います。
そして、もう一つ。
自分で選ぶ《勇者技能》とは違い、先代の勇者から受け継ぐ力。
《伝説技能:翠嵐Ⅰ》
一本の矢を核として、複数の風の矢を生み出す技です。
まだⅠなので、その力はほんの入口。
《導風》も《翠嵐》も、ハリトと一緒にこれから成長していきます。
そして今回はもう一つ、大きな変化がありました。
《同調段階》が三へ上がったことで、明らかにおしゃべりになったベルトさん。
さらに緑の《勇者装具》にも――
**「リーフ」**
という名前がつきました。
ニールとベルトさん。
ハリトとリーフ。
一人と一つだった旅が、二人と二つへ。
勇者だけでなく、《勇者装具》たちとの関係もこれから少しずつ描いていきたいと思います。
さて。
次回はいよいよ、新しく手に入れた力を実際に使ってみることになる……かも?
《蒼駆Ⅲ》《蒼閃Ⅲ》。
そして《導風Ⅰ》《翠嵐Ⅰ》。
果たして、どれほど変わったのでしょうか。
続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、★評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
感想もぜひお待ちしています!




