第八話『緑の勇者』(改訂版 ver1.01)
オオカミ型《守護体》との戦いを越え、その先へ進むことを認められたハリトたち。
そして遺跡の最奥で待っていたのは、ベルトさんと同じ系統を持つ、緑色の装具でした。
けれど。
そこにあるからといって、受け取らなければならないわけではない。
選ばれたからといって、受け入れなければならないわけでもない。
最後に決めるのは、ハリト自身です。
自分が知りたいから。
自分が進みたいから。
ハリトが選んだ道の先に、何が待っているのか。
それでは、第八話『緑の勇者』。
お楽しみください。
【ハリト視点】
緑の光に包まれた装具が。
台座の上に浮かんでいる。
「…………」
形は違う。
色も違う。
それでも。
分かる。
ニールのベルトさんと。
同じものだ。
腰のベルトさんが。
青く光る。
『《同系統個体――確認》』
やっぱり。
そうなんだ。
「ハリト?」
後ろから。
ニールの声がする。
「どうした?」
「……考えてる」
「何を?」
僕は。
緑の装具を見る。
「これを、受け取るのか」
「…………」
ニールは。
すぐには何も言わなかった。
手を伸ばせば。
届く。
たぶん。
僕が触れれば。
何かが起こる。
遺跡は。
ずっと僕に反応していた。
僕が歩けば。
緑の光が灯った。
僕が近づけば。
扉が開いた。
そして。
あのオオカミを越えた先に。
これがあった。
森へ入ってから。
ずっと感じていた。
理由の分からない。
懐かしさ。
その正体が。
目の前にあるような気がする。
だからこそ。
最後は。
ちゃんと自分で決めたい。
「ニール」
「ん?」
「ベルトさんを手に入れた時、どう思った?」
「俺?」
「うん」
ニールが。
少し考える。
「……よく分かんなかった」
「それで取ったの?」
「取った」
「なんで?」
「気になったから」
「…………」
「何?」
「ニールらしいなって」
「悪い?」
「別に」
思わず。
笑ってしまった。
「でも、その後は?」
「その後?」
「青の勇者になって」
ニールは。
少しだけ黙った。
「怖くなかった?」
「怖かったよ」
「…………」
少し。
意外だった。
ニールなら。
何も考えず。
面白そうだったとか。
言うと思っていた。
「今も?」
「うん」
ニールは。
腰のベルトさんを見る。
「ベルトさんのことだって、まだ全然分かってないし」
『《肯定》』
「そこ肯定するの!?」
思わず。
吹き出した。
「自分で言うんだ」
「最近こういうの多いんだよ!」
『《肯定》』
「二回言うな!」
ミーナが笑う。
シロナさんも。
口元に手を当てていた。
僕も。
少しだけ笑った。
「でも」
ニールが。
もう一度。
ベルトさんを見る。
「持っててよかったとは思ってる」
「どうして?」
「ベルトさんがあったから、できたこともあるし」
青い光が。
小さく瞬く。
「それに」
ニールが笑う。
「最近、話すの結構面白い」
「話すって言っても、ほとんど一言じゃない?」
「前より喋る!」
『《肯定》』
「ほら!」
「それしか言ってないけど」
「ベルトさん!?」
また。
笑いが起きる。
不思議だった。
こんな場所なのに。
少しだけ。
緊張がほどけた。
僕は。
もう一度。
緑の装具を見る。
「ハリトさん」
シロナさんが言った。
「はい」
「誰かに選ばれたからといって、それを受け入れなければならないわけではありません」
「…………」
「受け取らないことも、選択です」
「はい」
「ですが」
シロナさんが。
微笑む。
「欲しいのであれば、受け取ってもよいのでは?」
欲しい。
その言葉に。
胸の奥が。
少しだけ動いた。
僕は。
これが欲しいのか。
勇者になりたい?
分からない。
強くなりたい?
それは。
思う。
もっと。
できることを増やしたい。
ニールを。
ミーナを。
仲間を。
助けられるくらいに。
でも。
それだけじゃない。
僕は。
この装具を見ている。
知りたい。
どうして。
僕はこの森を。
懐かしいと感じたのか。
この遺跡は。
何なのか。
あのオオカミは。
何を確かめていたのか。
ベルトさんと。
この緑の装具は。
どうして同じものなのか。
勇者とは。
何なのか。
そして。
この先に。
何があるのか。
「……そっか」
やっと。
分かった。
「僕は」
ニールが。
僕を見る。
「知りたいんだ」
「何を?」
「全部」
「全部?」
「この装具のことも」
一歩。
前へ出る。
「五大勇者のことも」
もう一歩。
「この森のことも」
緑の光が。
少しだけ強くなる。
「この先に何があるのかも」
台座が。
目の前にある。
「僕が知りたいから」
手を伸ばす。
「僕が進みたいから」
緑の光が。
僕の手を照らす。
怖くない。
いや。
少しは。
怖い。
これを受け取ったら。
何かが変わる。
それくらいは。
分かる。
でも。
それでも。
知りたい。
進みたい。
僕が。
そう思った。
「だから――」
緑の《勇者装具》に。
触れる。
「僕は、これを選ぶ」
◇
瞬間。
世界が。
緑に染まった。
「ハリト!」
ニールの声が。
遠くなる。
身体が。
浮いたような感覚。
目を開けているのか。
閉じているのか。
それすら。
分からない。
森。
風。
空。
木々。
何かが。
身体の中へ。
流れ込んでくる。
記憶じゃない。
言葉でもない。
もっと。
単純な。
感覚。
「…………」
懐かしい。
やっぱり。
同じだ。
森で感じたものと。
ここへ来るまで。
何度も感じた。
あの感覚と。
「……君だったんだ」
僕は。
たぶん。
そう言った。
返事はない。
ただ。
緑の光が。
僕を包んでいる。
この感覚の正体を。
僕は。
ずっと知りたかった。
そして。
自分で。
ここまで来た。
だったら。
最後も。
自分で決める。
頭の中に。
何かが響いた。
《認証――開始》
「…………」
《個体情報――照合》
《適合情報――確認》
《精神反応――確認》
緑の光が。
さらに強くなる。
そして。
《使用者意思――確認》
止まった。
僕の。
意思。
「うん」
誰に言うでもなく。
答える。
「僕が選んだ」
瞬間。
光が。
弾けた。
《認証――完了》
《緑個体――認証完了》
◇
「――ハリト!」
「……ニール?」
目を開ける。
ニールの顔が。
すぐ目の前にあった。
「大丈夫か!?」
「……近い」
「え?」
「顔」
「あ、ごめん」
一歩。
下がる。
「身体は!?」
「大丈夫」
「痛くない?」
「うん」
「変な感じは?」
「それは……ある」
「あるの!?」
「ニール」
「何!?」
「ちょっと静かにして」
「はい」
僕は。
自分の身体を見る。
服。
弓。
変わっていない。
でも。
一つだけ。
今まで。
なかったものがある。
「……これ」
腰。
緑の《勇者装具》。
台座の上にあったものが。
僕の身体に。
装着されている。
中央の紋章が。
静かに。
緑色の光を放っていた。
「ハリト……」
ミーナが。
目を丸くしている。
シロナさんも。
装具を見つめていた。
「これは……」
シロナさんが。
小さく呟く。
「ニールさんのものと……」
「うん」
ニールが。
自分のベルトさんを見る。
「たぶん」
青と。
緑。
二つの装具。
「同じだ」
僕は。
腰の装具に触れる。
不思議だった。
初めて。
身につけたはずなのに。
違和感がない。
むしろ。
馴染んでいる。
「…………」
これが。
緑の《勇者装具》。
そして。
僕は――。
その時だった。
ニールの腰で。
ベルトさんが。
強く光った。
「うわっ!」
「ニール!?」
「俺じゃない!」
「それは分かる!」
同時に。
僕の装具も。
強く光る。
「え?」
青。
緑。
二つの光が。
互いに。
呼応する。
「何これ!?」
ミーナが。
一歩下がる。
「魔力反応が上昇しています!」
シロナさんの声。
僕の装具から。
何かが。
流れ出す。
同時に。
ベルトさんからも。
何かが。
こちらへ流れ込んでくる。
「ニール!」
「大丈夫!」
「本当!?」
「痛くはない!」
「僕も!」
青と緑。
二つの光が。
僕たちの間で。
重なる。
瞬間。
頭の中に。
意味が流れ込んだ。
同時に。
ニールが。
目を見開く。
「来た」
「何が?」
「ベルトさんが」
ニールが。
腰を見る。
「何か言ってる」
青い光が。
強く瞬く。
『《同系統個体――二基》』
僕の装具が。
応えるように。
緑に光る。
『《勇者装具間接続――再構築》』
「再構築……?」
僕が呟く。
次の瞬間。
遺跡全体へ。
緑色の光が。
走った。
床。
壁。
天井。
何本もの光が。
枝のように。
広がっていく。
『《共有領域――一部開放》』
青。
緑。
二つの光が。
さらに強くなる。
『《相互同調補正――適用》』
「同調……」
ニールが。
自分のベルトさんを見る。
「ニール?」
「…………」
「どうしたの?」
「上がった」
「何が?」
「《同調段階》」
「え?」
ニールが。
信じられないような顔をしている。
「今まで二だったのが」
青い光が。
ゆっくり。
明滅する。
「三になった」
「三……」
僕は。
自分の装具を見る。
すると。
こちらにも。
意味が浮かんだ。
《同調段階――二》
「……僕は二」
「最初から!?」
ニールが。
今度はこっちに驚く。
「たぶん」
「俺、二になるまで結構かかったんだけど!?」
「僕に言われても」
「ずるくない!?」
「知らないよ」
その時。
ベルトさんが。
光った。
「ん?」
ニールが。
腰を見る。
「ベルトさん?」
『《肯定》』
「何が!?」
「何に肯定したの?」
「分からない!」
「じゃあ聞いてみたら?」
「そうする!」
ニールが。
ベルトさんを見る。
「ハリトが最初から二なのって、俺のベルトさんが先に目覚めてたから?」
少し。
間がある。
『《肯定》』
「おお!」
「本当に?」
「だって肯定した!」
「でも、それだけ?」
「え?」
「他にも理由があるかもしれないでしょ」
「ベルトさん?」
『《回答不能》』
「そこは分からないのかよ!」
ミーナが。
吹き出した。
「やっぱり仲良しじゃん」
「どこが!?」
僕も。
思わず笑った。
その時。
腰の緑が。
小さく。
瞬いた。
《安定》
「…………」
「ハリト?」
「いや」
緑の装具に。
そっと触れる。
ベルトさんとは。
少し違う。
まだ。
言葉らしい言葉は。
ほとんどない。
でも。
なんとなく。
そこに。
何かがいる。
そんな気がした。
「僕のも」
「ん?」
「ちゃんと、いるみたいだ」
◇
青と緑の光が。
少しずつ。
落ち着いていく。
これで。
終わった。
そう思った。
でも。
最後に。
二つの《勇者装具》が。
同時に。
強く光った。
「え?」
「まだ何かあるの!?」
ニールが。
ベルトさんを見る。
僕も。
腰の装具へ。
手を置く。
身体の奥。
何かが。
熱くなる。
「……これ」
知っている。
この感覚。
「ハリト?」
「LEVELが――」
光が。
弾けた。
《成長確認》
《個体:ニール・レイン》
《LEVEL11 → LEVEL12》
「え!?」
ニールが。
自分を指差す。
「俺!?」
続けて。
表示が変わる。
《勇者技能:《蒼駆Ⅱ》→《蒼駆Ⅲ》》
《伝説技能:《蒼閃Ⅱ》→《蒼閃Ⅲ》》
「……上がった」
ニールが。
呆然とする。
「LEVELだけじゃない」
「ニールの技能も?」
「うん」
ベルトさんを。
見下ろす。
「《蒼駆》と《蒼閃》も……Ⅲになってる」
そして。
今度は。
僕の装具が。
強く光った。
《個体:ハリト・ヴェール》
《LEVEL9 → LEVEL10》
「…………」
身体の奥に。
力が。
広がっていく。
僕も。
「上がった……」
「ハリトも!?」
「うん」
「LEVEL10!?」
「みたい」
ニールが。
僕を見る。
僕も。
ニールを見る。
「…………」
「…………」
「なんで?」
「僕に聞かないでよ」
「だよな!」
青。
緑。
二つの《勇者装具》が。
並んで光っている。
五百年前。
何があったのか。
僕たちは。
まだ知らない。
どうして。
この装具たちが。
長い間。
離れていたのかも。
分からない。
でも。
一つだけ。
分かることがある。
今。
青と緑。
二つの《勇者装具》が。
再び。
つながった。
僕は。
腰の装具に。
そっと手を置く。
「よろしく」
返事は。
すぐにはなかった。
少しして。
緑色の光が。
一度だけ。
静かに瞬いた。
《――了解》
僕は。
少しだけ笑った。
「ハリト」
「何?」
ニールが。
僕の肩を叩く。
「緑の勇者だな」
「…………」
その言葉は。
まだ。
少しだけ。
自分のものじゃないみたいだった。
でも。
嫌じゃない。
「たぶんね」
「そこは認めろよ!」
「まだ分からないことだらけだから」
「認証されたじゃん!」
「それとこれとは別」
「ハリトぉ!」
ミーナが笑う。
シロナさんも。
小さく笑っている。
僕も。
笑った。
昔。
ニールが先を走って。
僕が追いかけていた。
そのニールが。
青の勇者になった。
でも。
僕は。
ニールが勇者になったから。
ここまで来たわけじゃない。
僕が。
行きたいと思った。
僕が。
知りたいと思った。
僕が。
選んだ。
その道の先に。
これがあった。
「ニール」
「ん?」
「僕は、君についてきて勇者になったんじゃないよ」
「うん」
「僕が選んだ道の先に」
腰の装具が。
緑に光る。
「これがあったんだ」
ニールは。
少しだけ笑った。
「知ってる」
「…………」
「だって」
僕の肩を。
もう一度叩く。
「ハリトのクエストだろ?」
ああ。
そうだった。
これは。
僕が選んだ。
僕のクエストだ。
五百年ぶりに。
青と緑。
二つの《勇者装具》が。
再び。
つながった。
そして。
僕は。
緑の勇者になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに――。
二人目の勇者。
緑の勇者、ハリトが誕生しました!
森で感じていた、理由の分からない懐かしさ。
ハリトに反応する遺跡。
オオカミ型《守護体》との戦い。
そのすべてを越えた先で、ハリトは緑の《勇者装具》と出会いました。
でも、ハリトが勇者になったのは「選ばれたから」だけではありません。
「僕が知りたいから」
「僕が進みたいから」
「僕は、これを選ぶ」
自分自身の意思で手を伸ばしたからこそ、ハリトは緑の勇者になりました。
そして――。
《同系統個体――二基》
《勇者装具間接続――再構築》
五百年の時を越えて、青と緑の《勇者装具》が再びつながりました。
その影響で、
ニールはLEVEL11からLEVEL12へ。
ハリトはLEVEL9からLEVEL10へ。
さらにニールの《蒼駆》《蒼閃》もⅡからⅢへ成長。
二人の勇者が揃ったことで、何かが大きく動き始めています。
そして、LEVEL10になったハリト。
勇者にとって、このLEVELにはある意味があります。
それが何なのかは――次回へ。
ハリトの“勇者としての最初の選択”を、ぜひお楽しみに!
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