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第七話『緑の守護者』(改訂版 ver.1.01)

今回は引き続き【ハリト視点】です。


遺跡の奥で、ハリトたちの前に現れた謎のオオカミ。


それはただの魔物なのか。


それとも、この場所を守るために存在している何かな

【ハリト視点】


 暗闇の中。


 二つの光が。


 僕を見ていた。


「……オオカミ?」


 誰かが呟いた。


 低い唸り声が。


 広い空間に響く。


 僕は。


 弓を構えたまま。


 動けなかった。


 怖い。


 さっきまで感じていた。


 懐かしさとは。


 まったく違う。


 これは。


 はっきりと。


 怖い。


「ハリト」


「……うん」


 ニールの声。


 いつの間にか。


 僕の少し前に出ていた。


「下がる?」


「…………」


 僕は。


 オオカミを見る。


 まだ。


 襲ってこない。


 暗闇の中。


 ただ。


 僕たちを見ている。


「待って」


「何?」


「まだ動かないで」


 ニールが止まる。


 ミーナも。


 短剣を構えたまま。


 動かない。


「シロナさん」


「はい」


「あれ、魔物ですか?」


「……分かりません」


 シロナさんの声が。


 いつもより低い。


「魔力は感じます。ですが……」


「ですが?」


「生き物から感じるものとは、少し違います」


「違う?」


「ええ」


 ミーナも。


 鼻を動かしている。


「匂いが変」


「どんな?」


「獣っぽくない」


「じゃあ何?」


「石……?」


 ミーナが。


 眉を寄せる。


「分かんない。でも、生きてるオオカミの匂いじゃない」


 その時。


 ニールの腰で。


 ベルトさんが光った。


「ベルトさん?」


『《識別――開始》』


「分かるのか?」


 少し。


 間がある。


『《古代識別情報――照合》』


 青い光が。


 明滅する。


『《対象――守護体》』


「守護体?」


 ニールが聞き返す。


「何を守ってるんだ?」


『《回答不能》』


「そこは分からないのかよ!」


 その瞬間。


 暗闇の中で。


 オオカミが。


 一歩。


 前へ出た。


 カツ――。


「っ!」


 僕たちは。


 一斉に構える。


 緑色の光が。


 その姿を照らした。


「……大きい」


 普通のオオカミじゃない。


 僕たちより。


 ずっと大きい。


 全身は。


 黒に近い。


 深い緑。


 毛に見えたものは。


 よく見ると違う。


 硬い。


 何枚もの板を。


 重ね合わせたような身体。


 その隙間を。


 緑色の光が走っている。


 生き物じゃない。


 でも。


 ただの石像にも見えない。


 頭が下がる。


 僕たちを。


 いや。


 僕を。


 見ている。


「…………」


 なぜか。


 そう思った。


「ハリト」


「分かってる」


 弓を構える。


 まだ。


 攻撃はしない。


 オオカミも。


 動かない。


 お互いに。


 見ている。


「……帰る?」


 ミーナが聞いた。


「今なら、まだ戻れる」


「うん」


 僕は答えた。


 その選択肢は。


 ある。


 ここで戻る。


 それは。


 逃げることじゃない。


 未知の遺跡。


 未知の守護体。


 依頼の範囲を考えれば。


 むしろ。


 正しい判断かもしれない。


「時間は?」


「まだ三十分にはなっていません」


 シロナさんが答える。


「ですが、ハリトさん」


「はい」


「時間だけで決める場面ではありません」


「分かってます」


 僕は。


 オオカミを見る。


 あれが。


 僕たちでは。


 どうにもならない相手なら。


 戻る。


 そう決めた。


 だから。


 まず。


 確かめる。


「ニール」


「おう」


「まだ攻撃しないで」


「分かった」


「ミーナも」


「うん」


「シロナさん」


「見ています」


 僕は。


 一歩。


 前へ出た。


 カッ。


 足元の緑色の線が。


 強く光った。


 同時に。


 オオカミの目も。


 強く光る。


「…………」


 もう一歩。


 カッ。


 オオカミが。


 頭を下げた。


「ハリト」


「まだ」


 もう一歩。


 その瞬間。


 オオカミが消えた。


「え――」


「ハリト!」


 横。


 風。


 違う。


 速い。


 考えるより先に。


 身体を後ろへ投げた。


 ブンッ!


 目の前を。


 巨大な前脚が通り過ぎる。


「っ!」


 地面を転がる。


「ハリト!」


「大丈夫!」


 すぐに起きる。


 速い。


 見えなかった。


「来るぞ!」


 ニールが。


 俺――じゃない。


 僕の前へ出る。


 剣。


 オオカミの爪。


 ガンッ!!


「ぐっ!」


 ニールの身体が。


 後ろへ滑った。


「ニール!」


「大丈夫!」


 ニールが笑う。


「こいつ、強い!」


「笑うところじゃない!」


 オオカミが。


 また姿勢を低くする。


「来る!」


     ◇


 速い。


 とにかく。


 速い。


 オオカミが。


 地面を蹴る。


「右!」


 僕は叫ぶ。


 ニールが。


 右へ飛ぶ。


 その横を。


 オオカミが通り過ぎる。


「今!」


 矢を放つ。


 カンッ!


「っ!」


 弾かれた。


「硬い!」


「私も!」


 ミーナが。


 横から飛び込む。


 二本の短剣。


 カッ!


 緑の身体を斬る。


 でも。


 浅い。


「これ無理!」


「下がって!」


 ミーナが離れる。


 オオカミが。


 身体をひねる。


「ミーナ!」


 間に。


 ニールが入った。


 ガンッ!


「ぐっ!」


「ニール!」


「平気!」


「平気じゃないでしょ!」


「まだいける!」


 シロナさんの手に。


 光が集まる。


「怪我をしたら、すぐに言ってください!」


「はい!」


 オオカミは。


 また距離を取った。


 僕たちを。


 見ている。


 襲って。


 離れる。


 また。


 見る。


「…………」


 変だ。


「ハリト?」


「こいつ」


 僕は。


 弓を下ろさないまま。


 オオカミを見る。


「本気で僕たちを殺そうとしてる?」


「何?」


「だって」


 速い。


 硬い。


 強い。


 最初の一撃。


 僕は。


 ほとんど見えなかった。


 もし。


 あれが。


 本当に僕を殺すための攻撃だったなら。


「……もっとやれるはず」


 オオカミが。


 また。


 姿勢を低くした。


「来る!」


 今度は。


 僕を見ている。


「ハリト!」


「大丈夫!」


 僕は。


 矢をつがえる。


 オオカミが走る。


 速い。


 正面。


 僕は。


 矢を放つ。


 カンッ!


 また。


 弾かれる。


 そのまま。


 突っ込んでくる。


「ハリト!」


 ニールの声。


 避ける?


 いや。


 違う。


「ニール!」


「おう!」


「左!」


 ニールが。


 迷わず動いた。


 オオカミの横へ。


 剣を振る。


 オオカミが。


 わずかに進路を変える。


「ミーナ!」


「分かってる!」


 反対側から。


 ミーナが飛び込む。


 オオカミが。


 さらに。


 身体をひねる。


 正面。


 僕から。


 目が逸れた。


「《風よ》」


 弓に。


 風を集める。


「そこ!」


 矢を放つ。


 狙うのは。


 身体じゃない。


 前脚。


 緑色の板。


 その。


 隙間。


 ガッ!


「入った!」


 オオカミの動きが。


 一瞬だけ。


 止まる。


「やった!」


 ミーナが声を上げる。


 でも。


「まだ!」


 オオカミが。


 こちらを見る。


 その目が。


 強く光った。


     ◇


 そこから。


 動きが変わった。


「速くなってない!?」


 ニールが叫ぶ。


「なってる!」


「なんで!?」


「知らないよ!」


 オオカミが。


 壁を蹴る。


「上!」


「は!?」


 頭上。


 ニールが。


 剣を上げる。


 ガンッ!


「ぐっ!」


「ニール!」


「大丈夫!」


「それ今日何回目!?」


 僕は。


 周囲を見る。


 どうする。


 もっと。


 僕が指示を出さないと。


 いや。


 僕が。


 全部決める?


 ニールは。


 近接戦。


 ミーナは。


 攪乱。


 シロナさんは。


 支援。


 僕が。


 全員を。


「ハリト!」


「え?」


「左!」


 ミーナの声。


 振り向く。


 オオカミ。


「っ!」


 避ける。


 爪が。


 服をかすめた。


 地面を転がる。


「ハリト!」


「大丈夫!」


 立ち上がる。


 何やってるんだ。


 僕は。


 全部。


 見ようとしてた。


 全部。


 決めようとしてた。


 でも。


 そんなの。


 一人で戦ってるのと。


 何が違う?


「ハリト!」


 ニールが。


 オオカミの一撃を受けながら叫ぶ。


「考えすぎ!」


「…………!」


「お前が全部見なくていい!」


「でも!」


「俺は俺で見る!」


 ニールが。


 剣を押し返す。


「ミーナも!」


「見てる!」


「シロナも!」


「もちろんです」


「だから!」


 ニールが。


 こっちを見る。


「ハリトはハリトの見るとこ見ろ!」


「…………」


 本当に。


 こいつは。


 時々。


 すごく簡単に言う。


「分かった!」


 僕は。


 オオカミを見る。


 全部を見る必要はない。


 僕が。


 見るべきもの。


 速さ。


 動き。


 攻撃。


 違う。


 もっと。


 その前。


 オオカミが動く直前。


「…………」


 耳。


 目。


 脚。


 身体の向き。


 呼吸。


 緑の光。


 ――光?


「ニール!」


「何!?」


「動く前に、身体の線が光ってる!」


「どこ!?」


「脚!」


 オオカミの。


 後ろ脚。


 緑色の線が。


 強くなる。


「来る!」


 跳んだ。


「右!」


 ニールが避ける。


 次。


 前脚。


「ミーナ、下がって!」


「うん!」


 爪。


 空を切る。


「分かる」


 動く前。


 光が。


 力を集める場所へ。


 流れている。


「見える」


 オオカミが。


 僕を見る。


 身体の光が。


 脚へ集まる。


「来る」


 僕は。


 矢をつがえた。


     ◇


 戦い方が。


 変わった。


「右!」


「了解!」


「ミーナ、今!」


「任せて!」


 僕が。


 全部を決めているわけじゃない。


 ニールは。


 僕が言う前に。


 剣を構える。


 ミーナは。


 自分で。


 オオカミの死角へ回る。


 シロナさんは。


 誰かが傷つけば。


 僕が言わなくても動く。


 僕も。


 自分が見えるものを見る。


 必要な時だけ。


 伝える。


「次、正面!」


 オオカミが。


 走る。


「ニール!」


「おう!」


 ニールが。


 正面から受ける。


 ガンッ!


「今!」


 ミーナが。


 横から斬る。


 オオカミが。


 ミーナへ向く。


 その瞬間。


 脚の隙間。


「《風よ》!」


 矢。


 命中。


 オオカミの身体が。


 大きく傾く。


「ニール!」


「分かってる!」


 剣が。


 振り下ろされる。


 でも。


「待って!」


「っ!」


 ニールが。


 寸前で止めた。


「ハリト!?」


「様子が変!」


 オオカミが。


 動かない。


 倒れている。


 でも。


 壊れていない。


 目の光も。


 消えていない。


 ゆっくり。


 頭を上げる。


「…………」


 僕を見る。


 また。


 僕だ。


 オオカミが。


 立ち上がった。


「来る!」


 ミーナが構える。


「待って」


「でも!」


「大丈夫」


 なぜか。


 分かった。


 もう。


 戦う感じがしない。


 オオカミは。


 ゆっくりと。


 僕の前まで歩いてきた。


 ニールが。


 剣を握る。


「ハリト」


「大丈夫」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん!?」


「ニールさん」


「でも!」


「ハリトさんを見ましょう」


 シロナさんの声。


 僕は。


 弓を下ろした。


 一歩。


 前へ出る。


 オオカミも。


 止まった。


 近い。


 大きい。


 見上げるくらい。


 緑色の目が。


 僕を見る。


「…………」


 怖い。


 まだ。


 少し。


 怖い。


 でも。


 逃げたくはなかった。


 オオカミが。


 ゆっくりと。


 頭を下げた。


「……え?」


 その額に。


 緑色の紋様が浮かぶ。


 遺跡にあったものと。


 同じ。


 光が。


 強くなる。


 そして。


 ベルトさんが。


 青く光った。


『《守護体――試行終了》』


「試行?」


 ニールが聞く。


『《通過判定――確認》』


「……通過?」


 僕が呟く。


 オオカミの身体が。


 淡く。


 光り始めた。


「消える……?」


 ミーナが言った。


 足から。


 身体。


 尾。


 少しずつ。


 緑色の光へ変わっていく。


 最後まで。


 オオカミは。


 僕を見ていた。


 そして。


 完全に。


 光へ変わった。


 その光が。


 僕たちの奥へ。


 流れていく。


 カッ――。


 暗かった空間の。


 さらに奥。


 緑色の線が。


 一斉に灯った。


「……道?」


 光が。


 一本の道を作っている。


 その先。


 今まで。


 壁だと思っていた場所に。


 新しい扉が浮かび上がった。


「これって」


 ニールが。


 ベルトさんを見る。


「通っていいってことか?」


『《肯定》』


「…………」


 僕は。


 扉を見る。


 この先に。


 何があるのか。


 まだ。


 分からない。


 でも。


 さっきまでとは。


 一つだけ違う。


 あのオオカミは。


 僕たちを。


 止めるためにいたんじゃなかった。


 確かめるために。


 いた。


 何を。


 確かめていたのかは。


 まだ分からない。


 僕は。


 みんなを見る。


「……行く?」


 ミーナが聞く。


「時間は?」


 僕は。


 シロナさんを見る。


「もうすぐ三十分です」


「じゃあ――」


 戻る。


 そう言おうとして。


 シロナさんが続けた。


「ただし」


「え?」


「ここまでの帰路は確認できています。先ほどの守護体も停止しました」


 シロナさんが。


 新しい扉を見る。


「この先を確認するだけなら、あと少しでしょう」


「いいんですか?」


「ハリトさんは、どうしたいですか?」


「…………」


 扉を見る。


 行きたい。


 でも。


 それだけじゃない。


 ここまで来た。


 だからでもない。


 今。


 戻れる。


 進める。


 どちらも。


 選べる。


 その上で。


「……行きたいです」


「では」


 シロナさんが笑う。


「行きましょう」


「おう」


 ニールが。


 剣を鞘へ戻す。


「ここまで来て戻るのも気になるしな」


「それは理由になってないよ」


「え?」


「でも、行くんでしょ?」


「もちろん!」


「じゃあいいよ」


「雑!」


 ミーナが笑った。


 僕も。


 少し笑う。


 そして。


 新しい扉の前に立つ。


 僕が近づくと。


 緑色の紋様が。


 静かに光った。


 扉が。


 開いていく。


 その向こう。


 暗闇の中に。


 一つだけ。


 緑色の光が。


 浮かんでいた。


「…………」


 腰のベルトさんが。


 青く光る。


『《同系統個体――確認》』


「……同系統?」


 ニールの声。


 僕は。


 緑の光を見つめる。


 ずっと感じていた。


 あの。


 懐かしさ。


 その正体が。


 そこにある。


 そんな気がした。


 でも。


 僕は。


 まだ。


 手を伸ばさなかった。


 呼ばれたから。


 ここへ来たんじゃない。


 選ばれたから。


 ここに立っているんでもない。


 森へ行くと決めたのも。


 遺跡へ入ると決めたのも。


 あのオオカミと向き合ったのも。


 全部。


 僕が。


 仲間と一緒に。


 選んできた。


 だから。


 最後も。


 僕が決める。


 緑色の光が。


 静かに。


 僕たちを照らしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回登場したのは、遺跡を守る謎のオオカミ型《守護体》。


圧倒的な速さと硬さを持つ相手に対して、ハリトは最初、仲間全員の動きを自分で見て、自分で決めようとしてしまいます。


でも。


仲間は、指示を待つだけの存在ではありません。


ニールはニールで考え。


ミーナはミーナで動き。


シロナも必要な時に支える。


その中でハリトも、自分に見えるものを見て、自分にできることを選ぶ。


一人で進むでもなく。


誰かについていくだけでもなく。


仲間と一緒に、それでも自分で選ぶ。


そんなハリトだからこそ、《守護体》は道を開いたのかもしれません。


そして、その先にあった緑色の光。


ベルトさんが告げた、


《同系統個体――確認》


その正体は――。


次回、いよいよハリトにとって大きな転機となるお話です。


続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!


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