第六話『目覚める遺跡』(改訂版 ver.1.01)
今回は【ハリト視点】です。
森の奥で見つけた、地図にもない古い遺跡。
その地下へ続く階段の先には、いったい何があるのか。
懐かしさを感じながらも、感覚だけで進まず、仲間と確認しながら一歩ずつ進んでいくハリト。
そして遺跡は、少しずつ彼に反応し始めます。
それでは、第六話『目覚める遺跡』。
お楽しみください。
【ハリト視点】
地面の下へ続く階段を。
僕は見つめていた。
暗い。
どこまで続いているのか分からない。
けれど。
その奥から吹いてくる風だけは。
やっぱり。
懐かしかった。
「……ここだと思う」
思わず口から出た。
「ここって?」
ニールが僕の横に並ぶ。
「分からない」
「分からないのかよ」
「分からないけど……」
階段の奥を見る。
「僕がずっと感じてたのは、この奥からだと思う」
「そっか」
ニールが。
地下への階段を覗き込んだ。
「じゃあ、行ってみるか」
「待って」
「え?」
「すぐには行かない」
ニールが。
こっちを見る。
「……ハリト?」
「何?」
「いや」
ニールが妙な顔をする。
「俺より先に行くって言うかと思った」
「僕を何だと思ってるの?」
「今日のハリト、なんか前のめりだから」
「ニールに言われたくない」
「それはそう」
認めるんだ。
「まず、確認しましょう」
シロナさんが。
階段の手前にしゃがむ。
「今回の依頼は《エルティア大森林・異常生態調査》です」
「うん」
「未知の遺跡内部の探索まで、依頼に含まれているわけではありません」
僕も。
地図を開いた。
僕たちがいる場所は。
許可された調査範囲の。
ほぼ端。
ここまでは。
問題ない。
でも。
この階段の先が。
どこまで続いているのかは分からない。
「どうする?」
ミーナが聞く。
「ギルドに戻る?」
それも。
正しい。
未知の遺跡を発見した。
位置を記録して。
ギルドへ報告する。
それだけでも。
今回の調査としては。
十分な成果になる。
むしろ。
普通なら。
そうするべきだ。
「…………」
僕は。
階段を見る。
また。
風が吹いた。
胸の奥に。
あの感覚が広がる。
懐かしい。
どうしてなのかは。
分からない。
でも。
それだけで。
進むのは違う。
この感覚があるから。
だから行く。
それじゃ。
僕が決めたことにならない。
「少しだけ、中を確認したい」
僕は言った。
「少しだけ?」
ミーナが聞く。
「うん。深くまで行くつもりはない」
僕は。
地図を閉じる。
「入口から確認できる範囲だけ。中がどうなってるのか。危険があるのか。それを調べたい」
シロナさんが。
僕を見る。
「撤退条件を決めましょう」
「はい」
「何か異常があれば、すぐに戻る」
「はい」
「未知の魔物や、私たちでは対処できないものを確認した場合も戻る」
「分かりました」
「それから」
シロナさんが。
空を見る。
「内部での調査は三十分まで。それ以上かかりそうなら、一度戻りましょう」
「三十分」
「時間が分からなくなる可能性もあります。私が確認します」
「分かりました」
「何かを見つけても?」
「今の僕たちじゃ扱えないものなら、戻ります」
シロナさんが。
少し笑った。
「それなら、私は異論ありません」
「私も」
ミーナが手を上げる。
そして。
二人が。
ニールを見る。
「俺?」
「ニールさんは?」
シロナさんが聞く。
「まさか最初から行くつもりだったので、何も考えていなかったということはありませんよね?」
「…………」
「ニールさん?」
「ハリトに任せる!」
「逃げましたね」
「適材適所!」
「便利な言葉ですね」
「いや、でも」
ニールが。
僕を見る。
「今日はハリトが決めればいいだろ」
「…………」
「俺たちはついてく」
それだけ言って。
ニールは笑った。
「だろ?」
僕は。
小さく息を吐いた。
「……うん」
昔とは。
本当に逆だ。
「じゃあ」
階段を見る。
「行こう」
◇
最初に。
階段を降りたのは。
僕だった。
一段。
また一段。
苔のついた石段を。
慎重に降りる。
「滑るから気をつけて」
「了解」
後ろから。
ニールの声。
その後ろにミーナ。
最後がシロナさん。
少し進むと。
外の光が。
届かなくなってきた。
「シロナさん」
「はい」
シロナさんが。
手を上げる。
「《光球》」
白い光が浮かぶ。
階段が。
柔らかく照らされた。
「……すごい」
思わず声が出た。
「何が?」
ニールが聞く。
「壁」
「壁?」
光に照らされた壁は。
石を積んで作ったものじゃなかった。
一枚の。
巨大な石を。
そのまま削り出したみたいに。
継ぎ目がない。
「これ、人が作ったの?」
ミーナが。
壁に顔を近づける。
「触らないでくださいね」
「分かってるって」
「ニールさんにも言っています」
「俺まだ何もしてない!」
「まだ、ですね」
「信用!」
僕は。
壁を見る。
ところどころに。
細い線が走っている。
模様?
文字?
分からない。
「シロナさん。読めます?」
「いいえ」
シロナさんが。
首を振る。
「少なくとも、私が知っている文字ではありません」
「シロナでも知らないんだ」
「世界は知らないことだらけですよ、ニールさん」
「なんか嬉しそう」
「ええ」
シロナさんの目が。
少しだけ。
輝いている。
「知らないものを知るために、旅をしているので」
「……なるほど」
ニールが笑った。
「シロナらしいな」
「ありがとうございます」
僕は。
また前を見る。
階段は。
続いている。
その先。
暗闇の中から。
風が吹いてくる。
こんな地下なのに。
どうして。
風が吹いているんだろう。
そう思った時だった。
一段。
降りる。
――カッ。
「っ!」
足元が。
緑色に光った。
「ハリト!」
「動かないで!」
ミーナの声。
僕は。
その場で止まる。
光は。
僕の足元から。
壁へ。
細い線を走っていく。
一本。
二本。
三本。
暗かった階段に。
緑の光が。
次々と灯った。
「……何これ」
ニールが呟く。
僕にも。
分からない。
「ハリト。痛くない?」
「うん」
「何か変な感じは?」
「……ある」
「あるの!?」
「痛くはないよ」
「じゃあ何?」
僕は。
足元を見る。
緑の光。
そこから。
壁へ続く線。
「懐かしい感じが……さっきより強い」
ニールの腰で。
ベルトさんが。
青く光った。
「ベルトさん?」
『《同系統反応――継続》』
「やっぱり、これもそうなのか?」
『《肯定》』
「何があるんだ?」
『《接続対象――未確定》』
「接続?」
ニールが。
眉を寄せる。
「何と何を?」
『《回答不能》』
「そこは分かんないのかよ!」
ベルトさんは。
それ以上。
答えなかった。
「……ハリト」
「うん」
「これ」
ニールが。
僕の足元を見る。
「お前に反応してないか?」
「…………」
僕は。
一歩。
先へ進む。
カッ。
少し先の線が。
緑色に光った。
止まる。
光も。
そこで止まる。
「…………」
もう一歩。
進む。
また。
その先が光る。
「やっぱり」
ミーナが呟いた。
「ハリトが進むと光ってる」
「みたいだね」
どうして?
僕だから?
それとも。
他にも理由がある?
分からない。
でも。
一つだけ。
確かなことがある。
「……僕に反応してる」
遺跡は。
僕が進むたびに。
少しずつ。
緑の光を灯していった。
◇
階段を降りきると。
広い通路に出た。
「……広い」
天井も。
高い。
四人どころか。
十人並んでも。
歩けそうな幅がある。
「何のために、こんなに広くしたんだろ」
ミーナが言う。
「大勢が使ってた?」
「それとも」
ニールが。
天井を見る。
「でかいやつが使ってたとか」
「やめて」
「何が?」
「そういうこと言うと、本当に出そう」
「ミーナでも怖いものあるんだ」
「あるよ!」
「意外」
「ニールはないの?」
「ある」
「何?」
「シロナが笑顔で怒ってる時」
「ニールさん?」
「ほら!」
僕は。
吹き出した。
「静かにしてよ」
「ハリトまで笑うな!」
地下。
知らない遺跡。
何があるかも。
分からない。
それなのに。
少しだけ。
緊張が解けた。
僕は。
前を見る。
緑色の光が。
通路の奥まで。
続いている。
いや。
違う。
まだ。
奥までは光っていない。
僕が。
一歩進む。
カッ。
少し先の光が灯る。
もう一歩。
また。
その先が灯る。
「ハリト」
「うん」
「やっぱりこれ……」
「分かってる」
僕が進むと。
遺跡が反応する。
それ以上のことは。
まだ。
分からない。
「時間は?」
僕が聞く。
「まだ大丈夫ですよ」
シロナさんが答える。
「では、予定通り慎重に進みましょう」
「はい」
僕たちは。
先へ進んだ。
◇
しばらくすると。
通路が。
二つに分かれた。
「分かれ道」
ニールが。
左右を見る。
右。
左。
どちらも。
同じような通路。
「どうする?」
聞かれて。
僕は。
少しだけ目を閉じた。
風。
右から。
ほんの少し。
流れてくる。
そして。
胸の奥。
あの懐かしさも。
右の方が。
少しだけ強い。
「……右」
「分かるの?」
「なんとなく」
言ってから。
僕は止まった。
「待って」
「どうした?」
「それだけで決めたくない」
僕は。
荷物から。
紙を取り出す。
「まず、ここまでの道を記録する」
「おお」
「何?」
「いや」
ニールが笑う。
「ちゃんと冒険者だなって」
「三つ星だからね」
「それ、前にも言ってなかった?」
「便利だから」
「俺の適材適所と同じじゃん!」
「違うよ」
「何が!?」
僕は。
ここまでの道を。
簡単に書き込む。
階段。
通路。
分岐。
戻る道を。
もう一度確認する。
「ミーナ」
「うん?」
「匂いは?」
ミーナが。
左右を確認する。
「右の方が、少し空気が動いてる」
「魔物は?」
「今のところ、どっちもそれっぽい匂いはしないかな」
「シロナさん?」
シロナさんが。
少し目を閉じる。
「魔力の流れは……右の方が強いですね」
「ニール」
「ベルトさん?」
「お願い」
ニールが。
腰に手を置く。
「ベルトさん。反応は?」
『《同系統反応――右方》』
「右だって」
「分かった」
僕は。
地図をしまう。
僕の感覚。
風。
ミーナの嗅覚。
シロナさんの魔力感知。
そして。
ベルトさんの反応。
全部。
同じ方向。
「じゃあ」
右の通路を見る。
「右へ行こう」
感覚だけじゃない。
みんなで確認した。
その上で。
僕が決めた。
◇
右の通路を。
進む。
緑の光が。
僕たちの少し先まで。
一つずつ。
灯っていく。
やがて。
僕たちは。
大きな壁の前で止まった。
「……行き止まり?」
ニールが。
見上げる。
「違う」
僕は。
壁を見る。
たぶん。
これは。
「扉だと思う」
「これが?」
取っ手はない。
隙間もない。
巨大な。
一枚の石壁にしか見えない。
でも。
その中央に。
一つだけ。
紋様が刻まれている。
「これ……」
ミーナが呟く。
僕も。
息を呑んだ。
地上で。
遺跡が開いた時。
浮かび上がったものと。
同じ紋様。
僕が。
一歩近づく。
カッ。
紋様が。
緑色に光った。
「……やっぱり」
ニールが。
僕を見る。
「ハリトに反応してる」
「うん」
胸の奥に。
懐かしさが広がる。
今までで。
一番強い。
でも。
声は聞こえない。
誰かに。
進めと言われたわけでもない。
僕は。
自分で。
この扉の前まで来た。
「ハリト」
「大丈夫」
僕は。
扉を見る。
「分かったことがある」
「何?」
「この扉」
緑の紋様が。
さらに強く光る。
「僕に反応してる」
その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……。
「っ!」
巨大な扉が。
ゆっくりと。
左右へ開き始めた。
僕たちは。
すぐに距離を取る。
ニールが剣へ手を伸ばす。
ミーナも。
短剣を構える。
僕は。
弓へ手をかけた。
シロナさんが。
僕たちの後ろで。
静かに周囲を見る。
扉の向こうは。
暗い。
《光球》の光も。
奥までは届かない。
「…………」
何も。
見えない。
でも。
何かが。
いる。
そう思った。
カツ――。
「……え?」
暗闇の中から。
硬いものが。
石床を踏む音。
カツ――。
もう一度。
ゆっくりと。
近づいてくる。
低い。
息遣い。
獣のような。
音。
「何かいる」
ミーナが。
小さく言った。
「分かってる」
ニールが。
剣を抜く。
僕も。
矢を一本。
つがえる。
その時。
暗闇の奥で。
二つの光が。
静かに。
灯った。
「…………」
目。
低い位置から。
僕たちを見ている。
そして。
闇の中で。
大きな影が。
ゆっくりと。
立ち上がった。
四本の脚。
長い尾。
獣の輪郭。
そして。
頭には。
二つの耳。
「……オオカミ?」
誰かが。
呟いた。
答えるように。
低い唸り声が。
広い空間に。
響いた。
僕は。
弓を構えたまま。
その姿を見つめる。
どうして。
遺跡が僕に反応するのか。
この先に。
何があるのか。
まだ。
何も分からない。
ただ。
この場所に入ると決めたのは。
僕だ。
だから。
ここから先も。
自分で決める。
暗闇の中。
オオカミの目が。
まっすぐに。
僕を見ていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は再び【ハリト視点】でした。
自分だけが感じる懐かしさ。
自分が進むたびに灯る、緑色の光。
それでもハリトは、その感覚だけで道を決めず、ミーナ、シロナ、ニール、そしてベルトさんの情報を確かめながら進んでいきます。
「呼ばれたから行く」のではなく、自分で考え、自分で選んで進む。
そんなハリトの前で、ついに開いた巨大な扉。
そして、その奥から現れたオオカミのような謎の存在。
果たしてこれは、敵なのか。
それとも――。
次回もお楽しみいただけたら嬉しいです!
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