第五話『森に眠るもの』(改訂版 ver.1.01)
ハリトが選んだ道の先へ。
森の異変を追って進む四人は、やがて地図にもない場所へ辿り着きます。
魔物たちが近づかない場所。
ハリトが感じていた、理由の分からない懐かしさ。
そして、ベルトさんが調べ続けていた“何か”。
今回は、その先にあるものへ一歩近づくお話です。
それでは、第五話『森に眠るもの』。
お楽しみください。
ハリトが先頭を歩いている。
その後ろを。
俺たちはついていく。
「この辺から少し高くなってる」
ハリトが足元を確かめながら言った。
「上まで行けば、森の様子が見えるかもしれない」
「了解」
俺が答えると。
ミーナが横から俺を見る。
「素直」
「なんだよ」
「いや。ニールがこんなに素直についていくの、珍しいなって」
「俺だって人の言うことくらい聞くぞ」
「シロナ?」
「私は何も言っていませんよ?」
「なんでシロナに確認した!?」
「客観的な意見が必要かなって」
「ニールさんも成長されていますよ」
「ほら!」
「以前よりは」
「余計な一言!」
前を歩いていたハリトが笑った。
いつもの感じだ。
でも。
少しだけ違う。
さっきからハリトは。
ほとんど迷わない。
地図を見る。
地面を見る。
風を見る。
その上で。
自分で進む方向を決めている。
森から感じている。
あの。
よく分からない何か。
それだけを頼りにしているわけじゃない。
ハリト自身が考えて。
自分で。
この先へ行こうとしている。
◇
しばらく登ると。
木々の間から。
少しだけ空が見えた。
「着いた」
「おお……」
小さな高台だった。
崖というほど高くない。
でも。
そこからは。
周囲の森を見渡すことができた。
「広っ」
思わず声が出る。
木。
木。
木。
どこまで見ても。
森だ。
遠くには。
低い山も見える。
「ラグナードは?」
ミーナが聞く。
「あっち」
ハリトが振り返る。
木々の隙間。
ずっと遠くに。
小さく。
街らしきものが見えた。
「結構来たね」
「まだ調査範囲内だけどね」
ハリトが地図を広げる。
俺も横から覗き込む。
「今ここ?」
「たぶん、この辺」
「結構奥じゃん」
「だから、ここからは慎重に行こう」
「了解」
「また素直」
「ミーナ!」
そんなことを言いながら。
シロナは。
高台の端から森を見ていた。
「……皆さん」
「ん?」
「あちらを」
シロナが指をさす。
森の一角。
俺には最初。
何がおかしいのか分からなかった。
「何?」
「木の高さ」
ハリトが言った。
「あそこだけ低い」
「あ」
言われて。
ようやく気づいた。
周囲には。
高い木が密集している。
なのに。
一か所だけ。
ぽっかりと。
木々が低くなっている場所がある。
「空き地?」
「かもしれない」
ハリトが目を細める。
「でも……」
「何?」
「不自然だ」
確かに。
森の中に。
木が少ない場所があること自体は。
別に変じゃない。
でも。
そこだけ。
妙に丸い。
まるで。
何かを囲むように。
周りの木々が生えている。
「行ってみる?」
ミーナが聞いた。
ハリトは。
すぐには答えなかった。
地図を見る。
空を見る。
森を見る。
「距離は?」
俺が聞く。
「ここからなら……三十分くらいかな」
「調査範囲は?」
「ぎりぎり中層の手前」
ハリトがシロナを見る。
「どう思います?」
「今回の依頼範囲内ですね」
シロナが答える。
「ですが」
森の一角を見る。
「何があるかは分かりません」
「うん」
「行くのであれば、異常を感じた時点で引き返しましょう」
「分かりました」
ハリトが頷く。
もう一度。
その場所を見る。
「……行こう」
自分で。
そう決めた。
◇
高台を降りる。
さっき見つけた場所へ向かって。
慎重に進む。
近づくにつれて。
また。
森が静かになっていった。
「……鳥、いなくなった」
ミーナが小さく言った。
今度は。
俺にも分かる。
さっきまでは。
遠くで鳴き声が聞こえていた。
今は。
風と。
俺たちの足音だけ。
「魔物の気配は?」
「今のところない」
「それが逆に怖いな」
「分かる」
俺は。
腰のベルトさんに触れた。
「なあ、ベルトさん」
『《照合中》』
「まだそれなのか?」
『《肯定》』
「そこは即答なんだな」
ミーナが。
俺の腰を見る。
「まだ調べてるの?」
「みたいだな」
「何を?」
「それが分かったら苦労しない」
『《肯定》』
「ベルトさん!?」
「仲良いね」
「今の聞いてた!?」
でも。
ベルトさんの青い光は。
まだ消えていない。
ずっと。
何かを調べ続けている。
その時。
光が。
少しだけ強くなった。
『《照合対象――接近》』
「……え?」
足を止める。
「ニール?」
「ベルトさんが」
腰を見る。
「さっきから調べてた何かに、近づいてるみたいだ」
「分かるの?」
ハリトが聞く。
「たぶん」
俺は周囲を見る。
「でも、どこかまでは――」
『《同系統反応――微弱》』
「同系統?」
聞いたことのない言葉だった。
「どういう意味だ?」
『《照合継続》』
「そこは教えてくれないのかよ」
ベルトさんは。
それ以上答えなかった。
俺はハリトを見る。
「どうする?」
ハリトは。
少しだけ考えた。
「予定通り進もう」
「反応を追うんじゃなくて?」
「うん」
ハリトが地図を見る。
「僕たちが向かってる場所と同じ方向なら、今はそれでいい」
「そっか」
反応があるから。
そっちへ行く。
じゃない。
俺たちが調べると決めた場所に。
たまたま。
ベルトさんが反応している何かもある。
「了解」
俺たちは。
また歩き出した。
◇
しばらくして。
ミーナが突然止まった。
「待って」
全員が止まる。
「何?」
「……変な匂い」
「魔物?」
「違う」
ミーナが鼻を動かす。
「土……石……?」
「石?」
「なんて言えばいいんだろ」
眉を寄せる。
「森の匂いに混じって、違う匂いがする」
「どっち?」
「前」
ハリトが。
木々の向こうを見る。
「もう近いと思う」
確かに。
少し先。
木々の向こうが。
明るくなっている。
俺たちは。
足元を確かめながら進む。
一歩。
また一歩。
そして。
森が途切れた。
「…………」
誰も。
すぐには声を出さなかった。
円形の空間。
そこだけ。
大きな木がない。
草は生えている。
蔓もある。
でも。
その下から。
何かが。
覗いている。
「……石?」
俺が言った。
地面から。
灰色の何かが突き出している。
岩じゃない。
明らかに。
形が整いすぎている。
「これ……」
ミーナが。
足元の草をそっと払う。
その下から。
平らな石の板が現れた。
「人工物ですね」
シロナが言った。
「かなり古いものだと思います」
「遺跡?」
「可能性は高いですね」
俺は周囲を見る。
崩れた柱のようなもの。
地面に埋もれた石材。
苔。
蔓。
草。
長い時間をかけて。
森の一部になっている。
それでも。
分かる。
ここには。
昔。
何かがあった。
「こんなの、ギルドの地図にあった?」
「ない」
ハリトが答える。
「少なくとも、僕が確認した資料にはなかった」
「じゃあ新発見?」
「だとしたら」
シロナが周囲を見る。
「不用意に触れず、位置を記録して報告するのがいいでしょうね」
「分かってるって」
「おや」
「何?」
「先に言われてしまいました」
「俺だって学習するんだよ!」
「以前よりは」
「またそれ!?」
ミーナが笑った。
ハリトも。
少し笑った。
でも。
すぐに。
その顔から笑みが消えた。
「…………」
遺跡の中央。
そこを。
じっと見ている。
「ハリト?」
返事がない。
「おい?」
「……ニール」
「何?」
「やっぱり」
ハリトが。
ゆっくりと息を吐く。
「ここだと思う」
「ここ?」
「うん」
「何が?」
「分からない」
「…………」
「でも」
ハリトは。
遺跡の中央を見たまま。
胸元に手を置く。
「ずっと感じてたのが、一番強い」
懐かしい。
前に。
そう言っていた。
「声とか?」
「違う」
「じゃあ?」
「分からない」
「またそれか」
「ごめん」
「いや」
俺は。
ハリトの隣に立つ。
「分からないなら仕方ないだろ」
「……うん」
ハリトは。
もう一度。
遺跡を見る。
「でも、怖くはない」
「俺はちょっと怖いけどな」
「ニールが?」
「俺だって怖いものくらいある!」
「へえ」
「なんだその反応!」
少しだけ。
ハリトが笑った。
その時だった。
ベルトさんが。
強く光った。
『《照合対象――確認》』
「っ!」
青い光。
今までより。
ずっと強い。
『《古代識別情報――確認》』
「古代……?」
『《同系統反応――検出》』
「同系統って」
俺は。
ベルトさんを見る。
「何と同じなんだ?」
少し。
間があった。
『《勇者装具系統――一致》』
「…………え?」
今。
何て言った?
「ニール?」
ミーナが俺を見る。
でも。
すぐには答えられなかった。
勇者装具。
それって。
「ベルトさんと?」
『《肯定》』
「同じものが?」
『《回答不能》』
「どっちなんだよ!」
『《同系統反応――検出》』
「同じものとは言ってないってことか?」
『《肯定》』
「ややこしいな!」
でも。
分かったこともある。
ここには。
ベルトさんと。
何かしら同じ系統のものがある。
「ハリト」
「うん」
ハリトも。
俺を見ていた。
その顔は。
驚いている。
たぶん。
俺も。
同じ顔をしている。
「まさか……」
そこまで言って。
やめた。
まだ。
何も分かっていない。
その時。
地面が。
淡く光った。
「っ!?」
俺たちは。
一斉に距離を取った。
「ニール!」
「触ってない!」
「誰も聞いてないよ!」
「先に言っとこうと思って!」
草の下。
地面に埋もれていた石板に。
一本の線が走る。
緑。
淡い。
緑色の光。
「……何これ」
ミーナが呟いた。
一本。
二本。
三本。
光が。
古い石板の上を走っていく。
蔓の下。
苔の下。
今まで。
ただの地面だと思っていた場所。
そこに。
いくつもの線が浮かび上がる。
やがて。
光は。
一つの形を作った。
大きな円。
そして。
その中央に。
見たことのない紋様。
「……これも遺跡の一部?」
「おそらく」
シロナも。
いつもの笑みを消していた。
「皆さん、下がって」
俺たちは。
さらに距離を取る。
ゴ……。
「…………」
音。
地面の下から。
低い音がする。
ゴゴゴゴゴ……。
「動いてる!?」
「下がって!」
土が落ちる。
草が裂ける。
長い間。
森に埋もれていた石が。
ゆっくりと。
動き始める。
俺は。
剣の柄に手をかけた。
ミーナも。
腰を落とす。
ハリトは弓を構え。
シロナも。
すぐ動けるように周囲を見ている。
でも。
何も出てこない。
代わりに。
地面の一部が。
ゆっくりと開いていく。
「…………」
その下から。
現れたのは。
石の階段だった。
地下へ。
続いている。
「……入口?」
ミーナが呟く。
誰も答えない。
階段の先は。
暗い。
どこまで続いているのか。
ここからでは。
見えない。
その奥から。
風が吹いた。
「…………」
ハリトの緑の髪が。
揺れる。
ハリトは。
階段の先を見つめていた。
「ハリト?」
「……うん」
「感じる?」
少しだけ。
間があった。
「今までで、一番」
「そっか」
俺も。
階段を見る。
外へ向かっていた魔物たち。
誰も近づこうとしなかった。
森の中の。
空白みたいな場所。
ハリトが感じていた。
理由の分からない懐かしさ。
そして。
ベルトさんが見つけた。
《同系統》の反応。
何が。
どうつながっているのか。
まだ分からない。
この遺跡が。
森の異変と関係しているのかも。
まだ。
分からない。
ただ。
一つだけ。
分かった。
俺たちが探していた。
何かの続きが。
この下にある。
目の前で。
暗い階段が。
静かに。
口を開けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに見つかった、森の中に眠る古い遺跡。
そしてベルトさんから出てきた言葉。
《同系統反応》
果たして、この地下には何が眠っているのか。
ハリトが感じていた“懐かしさ”と、この遺跡にはどんな関係があるのか。
まだ謎は多いままですが、少しずつ何かが動き始めています。
そして目の前には、地下へ続く階段。
四人は、この先へ進むのか――。
続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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