第四話『はじめてのクエスト』(改訂版 ver.1.01)
第四話も、現在の設定や今後の展開に合わせて改訂しました!
《蒼天遺跡》へ近づいた罰として、一週間の外出禁止になっていたニール。
そして――ついに解禁。
「自由だああああああ!」
……反省しているのか、していないのか(笑)
今回は、そんなニールとハリトが初めて《冒険者ギルド》を訪れます。
魔物を倒すことだけが冒険なのか。
強い人だけが誰かを助けられるのか。
そしてニールが初めて、誰かに決められたものではなく、自分自身で「なりたい」と思うものを見つけます。
少年たちにとっての、小さな小さな最初のクエスト。
ぜひお楽しみください!
続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
それでは――
第一章 第四話『最初のクエスト』(改訂版 ver.1.01)
どうぞ!
「自由だああああああ!」
リーヴェルの朝。
ニール・レインの叫び声が、町に響いた。
「うるさい!」
家の中から母ミレアの声が飛んでくる。
「だって一週間だぞ! 一週間!」
「誰のせいよ!」
「俺です!」
「分かってるなら叫ばない!」
《蒼天遺跡》へ近づいた罰として言い渡された、一週間の外出禁止。
それが今日、ようやく終わった。
「行ってきます!」
「待ちなさい」
「え?」
勢いよく飛び出そうとしたニールの襟を、父ガイルが掴んだ。
「分かってるな?」
「……何が?」
「ニール」
「分かってます!」
「言ってみろ」
「危ないところには行かない!」
「それから?」
「一人で勝手に決めない!」
「それから?」
「…………」
「ニール?」
「暗くなる前に帰る!」
「よし」
ガイルが手を離す。
「行ってこい」
「おう!」
ニールは勢いよく家を飛び出した。
数秒後。
扉がもう一度開いた。
「母ちゃん!」
「何?」
「パン忘れた!」
「……忘れ物だけは一人前ね」
ミレアが呆れながら包みを渡す。
「今度こそ行ってきます!」
「気をつけてね!」
「おう!」
再び扉が閉まる。
ミレアは小さくため息をついた。
「……大丈夫かしら」
「ハリトがいる」
ガイルが答える。
「七歳の息子より、八歳の子を信用してない?」
「…………」
「あなた?」
「否定できんな」
◇
「冒険に行こう!」
「反省してないのか?」
一週間ぶりに会ったハリトの第一声だった。
いつもの樫の木の下。
「した!」
「本当に?」
「だから今日は、行っていい場所に行く!」
「……成長したのか、してないのか分からないな」
ハリトはため息をついた。
背中には、父セイルに作ってもらった弓。
三か月前よりも、その姿が少しだけ馴染んで見える。
「で、どこへ行くんだ?」
「決めてない!」
「帰る」
「待て!」
ニールがハリトの腕を掴んだ。
「じゃあ冒険を探しに行こう!」
「冒険って探すものなのか?」
「レオンさんだって冒険者だろ?」
「そうだけど」
「だったら冒険者がいるところへ行けば、冒険がある!」
「その理屈は――」
ハリトは少し考えた。
「……意外と間違ってないな」
「だろ!」
「自分で驚くな」
ニールは少し考える。
そして、思いついた。
「冒険者ギルド!」
「……入れてもらえるのか?」
「行ってみないと分かんないだろ!」
「それはそうだけど」
「よし! 決まり!」
ニールが走り出す。
「待て」
ハリトが呼び止めた。
「ん?」
「一人で勝手に決めないんじゃなかったのか?」
「…………」
ニールは戻ってきた。
「ハリト。一緒に冒険者ギルドへ行きませんか?」
「急に丁寧になるな」
「行く?」
「……行くよ」
「よっしゃ!」
「結局走るのか!」
◇
二人が向かったのは、リーヴェルの中心部にある《冒険者ギルド》だった。
ニールも建物の前を通ったことは何度もある。
旅装の人々が出入りする、少し大きな建物。
父ガイルから、冒険者たちが仕事を探したり、町の人々が依頼を出したりする場所だとは聞いていた。
けれど、中へ入るのは初めてだった。
「おお……!」
扉を開けた瞬間、ニールの目が輝いた。
剣を腰に下げた男。
大きな盾を背負った女。
ローブ姿の魔法使い。
獣の耳を持ったハーフビーストの冒険者。
奥では、依頼を終えたらしい一団が受付で何かを報告している。
壁には大きな地図。
そして反対側には、何枚もの紙が貼られた掲示板。
「すげえ……!」
ニールは掲示板へ走った。
「これ全部クエスト!?」
「依頼書だろ」
ハリトも横から覗く。
『リーファ草採取』
『南街道・荷物護衛』
『壊れた荷車の回収』
『グラスドッグ討伐』
『行方不明の家畜捜索』
『北部街道周辺・魔物生息調査』
「……薬草採りもある」
ハリトが言った。
「この前の俺たち、冒険者だったんじゃね!?」
「違う」
「なんで!」
「リコの家の手伝いだ」
「同じじゃん!」
「依頼として受けてないし、報酬もない」
「夢がないな!」
「現実を言ってるだけだ」
ニールは次々に依頼書を見る。
薬草。
荷物。
護衛。
家畜。
魔物。
壊れた荷車。
「…………」
やがて。
首を傾げた。
「……ない」
「何が?」
「世界を救うやつ」
「あると思ってたのか?」
「魔王討伐とか!」
「七歳児が受けられると思うか?」
「受けられないけど、見るくらいいいだろ!」
「何を騒いでるの?」
突然、声がした。
二人が振り返る。
受付の女性が、呆れた顔でこちらを見ていた。
「ここは子どもの遊び場じゃないわよ」
「冒険者になりに来ました!」
「帰りなさい」
「早い!」
「七歳でしょ?」
「なんで分かった!?」
「どう見てもそれくらいだからよ」
「俺、結構強いですよ!」
「そう」
「木剣もあります!」
「帰りなさい」
「見てもない!」
ハリトがニールの肩を掴んだ。
「帰るぞ」
「ハリト!」
「僕まで恥ずかしくなってきた」
「お前も冒険者になろうぜ!」
「今はならない」
「今は?」
「…………」
「今はって言った!」
「うるさい」
受付の女性が吹き出した。
「大きくなって、それでも冒険者になりたかったら、またおいで」
「絶対来る!」
「はいはい」
「名前覚えといて!」
「何年後よ」
「ニール・レイン!」
「勝手に名乗るな」
「お前も!」
「嫌だ」
「ハリト・ヴェールです!」
「勝手に名乗るな!」
受付の女性は笑っていた。
「ニール・レインとハリト・ヴェールね」
「ほら、覚えてもらえた!」
「絶対すぐ忘れるよ」
「忘れませんー!」
受付の女性が笑いながら手を振る。
「何年かしたら、もう一度おいで」
「おう!」
ニールは元気よく答えた。
◇
ギルドを出た直後だった。
「ニール!」
聞き慣れた声がした。
「ダン?」
牧場の方からダンが走ってくる。
息を切らしていた。
「どうした?」
「羊がいなくなった!」
「羊?」
「朝、柵を開けたら一頭足りなくて……父ちゃんと母ちゃんが探してるんだけど、見つからないんだ」
ダンは困った顔をしていた。
「まだ小さいんだ。昨日まで普通にいたのに」
「名前は?」
「ポポ」
ニールの目が光る。
「……ハリト」
「嫌な予感がする」
「クエストだ!」
「お手伝いだ」
「クエスト!」
「お手伝い」
「困ってる人がいる!」
「それはそうだな」
「だったら!」
ハリトはため息をつく。
そして、少しだけ笑った。
「……探そう」
「よっしゃ!」
◇
牧場には、すでにトーマとリコも来ていた。
「ポポー!」
ダンが呼ぶ。
返事はない。
「最後に見たのは?」
ハリトが尋ねる。
「昨日の夕方。その時はいた」
「柵は?」
「閉めたはずなんだけど……」
「じゃあ、まず牧場の周りから探そう」
ハリトが言う。
ニールが目を丸くした。
「なんか冒険者みたいだな!」
「羊を探してるだけだ」
「そういう依頼、さっきあったぞ!」
「……確かにあったな」
「ほら!」
五人は牧場の周囲を調べ始めた。
「なあ!」
しばらくして、トーマが声を上げる。
「ここ見ろ!」
木製の柵の一部が、わずかに外れていた。
「壊れてる?」
ニールが聞く。
「違う」
トーマが留め具を見る。
「ここの釘が錆びて抜けたんだ。風か、羊が押したんだと思う」
「そんなの分かるの?」
「鍛冶屋の息子を舐めんな!」
「また言ってる」
リコが呆れる。
「じゃあ、ポポはここから出た?」
「たぶん」
「待って」
今度はダンが地面へしゃがみ込んだ。
「これ」
土の上に、小さな跡が残っている。
「足跡?」
「うん」
ダンが頷く。
「ポポだ」
「分かるの!?」
「毎日見てるからな」
ニールは足跡を見る。
自分には、ただのへこみにしか見えない。
ハリトが足跡の先を見る。
「森の方へ向かってる」
「行こう!」
ニールが走り出そうとした。
けれど。
一歩目で止まった。
「…………」
振り返る。
ハリト。
リコ。
トーマ。
ダン。
「何?」
ハリトが聞く。
「いや……」
ニールは少し照れながら頭を掻いた。
「……みんなで行こう」
ハリトが少しだけ笑った。
「ああ」
◇
森に入ると、足跡は次第に分かりにくくなった。
「消えた……」
ニールが地面を見る。
「いや」
ハリトがしゃがむ。
「こっちだ」
「なんで分かる?」
「枝が折れてる」
細い枝が一本、途中から折れていた。
少し先では、リコが葉を調べる。
「これ、食べられてる」
「羊?」
「たぶん」
ダンも確認する。
「ポポ、これ好きだ」
「じゃあ、こっち!」
ニールが進もうとする。
「待って」
今度はトーマだった。
「何?」
「これ」
古い木の柵が倒れている。
「昔の牧草地かな」
ダンが言う。
ハリトが周囲を見渡した。
「足跡。折れた枝。食べた草。それに、この柵……」
「…………」
ニールは少し考えた。
トーマが見つけた壊れた柵。
ダンが見つけた足跡。
ハリトが見つけた折れた枝。
リコが見つけた食べ跡。
自分一人なら。
たぶん、一つも気づかなかった。
でも。
みんなが見つけたものを繋げれば。
「……あっちだ」
「どうして?」
リコが聞く。
「ポポは牧場から出て、森に入った。それで草を食べながら歩いた。でも、ずっと森の奥へ行ったんじゃなくて――」
ニールは倒れた柵の向こうを見る。
「昔の牧草地がある方へ行ったんじゃないか?」
ダンが頷く。
「ありえる。羊は開けた場所の方が落ち着くから」
「じゃあ――」
ニールは笑った。
「みんなで行こう!」
◇
「メエエエエ!」
「いた!」
崖の下。
小さな羊が震えていた。
「ポポ!」
ダンが叫ぶ。
高さは三メートルほど。
どうやら足を滑らせたらしい。
ポポはこちらを見上げて鳴いている。
「俺が降りる!」
ニールが言った。
「待て」
ハリトが即座に止める。
「大丈夫!」
「どうやって?」
「俺が降りて――」
「うん」
「ポポを抱えて――」
「それから?」
「…………」
「考えてないだろ」
「途中までは考えた!」
リコがため息をつく。
「縄がいるんじゃない?」
「ある!」
ダンが背負っていた縄を取り出した。
「なんで持ってるの!?」
「羊を探すんだから必要だろ」
「ダン、すげえ!」
「普通だよ」
「じゃあ、どこに結ぶ?」
トーマが周囲を見る。
一本の太い木へ近づいた。
「これならいけそう」
「本当に?」
「父ちゃんの仕事、ずっと見てるからな。傷んでる木くらい分かる」
ニールが木を見上げる。
「木工職人の息子の俺が――」
「お前は分からないだろ」
ハリトが言った。
「そうだった!」
「そこ間違えるのか」
トーマが縄を引っ張り、結び目を確認する。
「大丈夫」
「じゃあ俺が降りる」
ニールが言った。
今度は、すぐに動かなかった。
「ダン。ポポを抱く時、どうすればいい?」
「暴れても慌てるな。身体をちゃんと支えて」
「分かった」
「怪我してたら、無理に動かさないで」
リコが言う。
「分かった」
「僕は上から周りを見る」
ハリトが弓を手にした。
「何かあったらすぐ言う」
「頼んだ」
ニールは全員を見る。
「じゃあ――行ってくる!」
◇
縄を使って、ゆっくり崖を降りる。
「大丈夫だぞ」
「メエエ……」
「怖かったよな」
ニールはポポへ近づいた。
まず、足を見る。
「リコ! 血は出てない!」
「立てそう!?」
ポポは震えながらも立ち上がった。
「大丈夫そう!」
「ダン!」
「抱いてみて! 嫌がったら無理するな!」
「分かった!」
ニールが慎重に近づき、ポポの身体を支える。
「よしよし。帰ろうな」
その時だった。
ガサッ。
崖の上。
ハリトの耳が動いた。
「……!」
茂みの奥。
灰緑色の毛。
《グラスドッグ》。
以前、自分たちを襲ったものと同じ魔物。
「ハリト?」
トーマが小声で言う。
「静かに」
ハリトは弓を構えた。
グラスドッグはこちらを警戒している。
まだ飛びかかってはいない。
けれど。
崖の下にはニールとポポがいる。
ここから逃げれば、魔物がどちらへ向かうか分からない。
ハリトの手が、わずかに震えた。
脳裏に。
三か月前の光景が浮かぶ。
レオン・バルク。
三本の矢。
一度も魔物へ当てずに、その進む方向を変えた冒険者。
『遠くの敵を倒すだけの武器じゃない』
ハリトは息を吐いた。
狙うのは――。
魔物じゃない。
その少し前。
弦を放す。
ヒュッ!
矢が地面へ突き刺さった。
「ギャン!」
グラスドッグが横へ飛ぶ。
「ハリト!」
「大丈夫!」
まだ逃げない。
なら。
次は。
反対側。
ハリトが二本目の矢をつがえる。
「…………」
レオンのようにはいかない。
どこへ撃てば、どう動くのか。
まだ全部は分からない。
それでも。
今、自分がやるべきことは分かる。
「そっちじゃない」
弦を放す。
ヒュッ!
二本目の矢が地面へ刺さった。
グラスドッグが身を翻す。
森の奥へ。
「…………」
ハリトはすぐには弓を下ろさなかった。
耳を澄ませる。
茂みが揺れる音。
足音が遠ざかる。
やがて。
聞こえなくなった。
「……行った」
ようやく弓を下ろす。
その手は、まだ少し震えていた。
「ハリト!」
崖の下からニールが叫ぶ。
「すげえじゃん!」
「……」
「レオンさんみたいだった!」
「…………まだ全然だよ」
ハリトは自分が放った二本の矢を見る。
三本ではない。
上手くできたかも分からない。
それでも。
魔物を倒さず。
仲間を守ることはできた。
「……でも」
ハリトは、小さく笑った。
「少しだけ、できた」
◇
「ポポ!」
牧場へ戻ると、ダンの父親が駆け寄ってきた。
「よかった……!」
無事なポポを見て、大きく息を吐く。
「本当にありがとう」
「へへっ」
ニールは鼻を擦った。
「クエストクリア!」
「お手伝いでしょ」
リコが言う。
「もうクエストでいいだろ」
トーマが笑う。
「だよな!」
「どっちでもいい」
ハリトも笑った。
ダンの父親は五人を見る。
「報酬ってわけじゃないが、これ持っていけ」
渡されたのは、小さな包みだった。
「何これ?」
「うちで作ったチーズだ」
「報酬だあああ!」
「食べ物で喜びすぎ」
リコが呆れる。
「これで正式にクエストだ!」
「ギルド通してないけどな」
ハリトが言う。
「細かい!」
◇
夕暮れ。
五人は町へ戻っていた。
冒険者ギルドの前を通る。
ニールは足を止めた。
窓の向こうに、掲示板が見える。
薬草採り。
荷物運び。
護衛。
魔物討伐。
家畜探し。
いろんな依頼がある。
「なあ、ハリト」
「何?」
「俺さ」
ニールはギルドを見た。
「冒険者って、魔物を倒す人だと思ってた」
「違ったな」
「うん」
三か月前。
レオンは《グラスドッグ》を倒さなかった。
今日は。
ハリトも倒さなかった。
ニールだって、剣なんて一度も使っていない。
世界を救ったわけでもない。
魔王を倒したわけでもない。
迷子になった、たった一頭の羊を助けただけだ。
でも。
ダンは笑っていた。
ダンの父親も嬉しそうだった。
それに。
自分一人では、ポポを見つけられなかった。
「誰かが困っててさ」
ニールが言う。
「自分にできることをやって――」
トーマが柵を見た。
ダンが足跡を見つけた。
リコが食べられた草を見つけた。
ハリトが道を読んだ。
そして。
自分は、それを繋げた。
「一人でできなくても、みんなでやったらできることがあるんだな」
ハリトがニールを見る。
「……今さら?」
「今分かったんだよ!」
「そうか」
「それで、助けた相手が笑ってくれたら――」
ニールはギルドの掲示板を見る。
「なんか、いいな」
「…………」
「俺、冒険者になりたい」
ハリトが少し驚いた。
「勇者じゃなくて?」
「勇者にもなりたい!」
「欲張りだな」
「だって、勇者ってどうやったらなれるか分かんないじゃん」
「まあな」
「でも冒険者なら――」
ニールはギルドを見る。
「大きくなったら、自分でなれるんだろ?」
「……たぶん」
「じゃあ決めた!」
ニールが笑った。
「俺、冒険者になる!」
「そうか」
「ハリトもな!」
「なんで僕まで決まってるんだ」
「一緒に世界を見るんだろ?」
「…………」
ハリトは空を見る。
夕焼けの向こう。
自分が生まれた森より、もっと遠く。
まだ知らない世界がある。
「……考えとく」
「よし!」
「行くとは言ってない」
「ハリトの『考えとく』は、だいたいやるやつ!」
「三か月で僕を理解した気になるな」
「違う?」
「…………」
「ほら!」
「うるさい」
二人は笑った。
◇
その夜。
ニールは木剣をベッドの横へ立てかけた。
今日。
初めて、自分たちだけで誰かを助けた。
いや。
自分たちだけ、という言い方も少し違う。
トーマがいた。
ダンがいた。
リコがいた。
ハリトがいた。
誰か一人がすごかったわけじゃない。
みんなが、自分にできることをした。
その結果。
一頭の羊が、家へ帰れた。
「……冒険者か」
ニールは呟いた。
胸の奥が、少しだけワクワクする。
いつか。
もっと大きくなったら。
リーヴェルの外へ行こう。
王都へ。
海へ。
ドワーフたちの暮らす場所へ。
ハリトの故郷へ。
まだ名前すら知らない場所へ。
知らないものを見に行こう。
知らない人に会いに行こう。
その途中で。
困っている誰かがいたら。
今日みたいに、みんなで考えればいい。
「よし」
ニールは布団へ潜り込んだ。
「冒険者になる」
もう一度。
今度は、小さな声で言った。
誰かに言われたからじゃない。
父に決められたわけでもない。
母に勧められたわけでもない。
英雄譚の中の誰かに憧れただけでもない。
今日、自分で見て。
自分でやって。
自分で決めた。
ニール・レイン、七歳。
少年が自分で選んだ、最初の夢。
それは。
世界を救う勇者ではなく――。
誰かの困りごとを引き受けて、まだ知らない世界を歩く。
冒険者だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回の改訂で特に大切にしたのは、
「ニールが初めて、自分で将来を選んだ日」
という部分です。
ニールは英雄譚が大好きで、勇者に憧れています。
でも、勇者になる方法なんて分からない。
そんなニールが初めて冒険者ギルドへ入り、掲示板に並んでいる依頼を見ます。
薬草を集める。
荷物を運ぶ。
家畜を探す。
誰かを護衛する。
魔物を倒すことだけが冒険じゃない。
そして今回のポポ探しでも、ニール一人が活躍したわけではありません。
トーマにはトーマのできること。
ダンにはダンのできること。
リコにはリコのできること。
ハリトにはハリトのできること。
それぞれが違うものを見つけ、それをニールが繋げていく。
この形は、この先のニールの冒険にも繋がっていく大切な部分です。
そしてハリトも、前回出会った冒険者――レオン・バルクから学んだことを、初めて自分の弓で試しました。
まだレオンのようにはできない。
それでも、
「少しだけ、できた」
このくらいから始まるのが、今のハリトらしいと思っています。
そして最後。
ニールが選んだ最初の夢は、世界を救う勇者ではありませんでした。
冒険者。
いつか何者になるのかではなく、まず自分が何者になりたいのか。
ここからニールとハリトの長い冒険が、少しずつ始まっていきます。
この五人の子どもたちの冒険をこれからも見届けたいと思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援よろしくお願いします!
次の冒険も、お楽しみに!




