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第二話『森の中の異変』(改訂版 ver.1.01)

三つ星冒険者として受けた、《エルティア大森林》の異常調査。


森の外へ向かう魔物たち。

その原因は、まだ分からない。


ニールたちは、これまでよりさらに森の奥へと足を踏み入れていきます。


第三章 第二話『森の中の異変』


よろしくお願いします!

 翌朝。


 ラグナードの北門には、まだ朝の冷たい空気が残っていた。


「食料」


「ある」


「水」


「ある」


「薬」


「ある」


「魔物避け」


「ある」


「予備の縄」


「ある」


「ニールさんの慎重さ」


「ある!」


「本当ですか?」


「なんで最後だけ確認するんだよ!」


 シロナが小さく笑う。


「念のためです」


「昨日リディアさんにも同じことされたんだけど!」


「皆さん、心配しているのですよ」


「信用されてるのか、されてないのか分からない!」


「両方じゃない?」


 ミーナが言った。


「一番困るやつ!」


 ハリトが肩を揺らして笑っている。


 そんな感じで。


 俺たちは北門を出た。


 目的地は――。


 《エルティア大森林》。


 昨日、ハリトが自分で選んだクエスト。


 今日は。


 その森の異変を調べに行く。


     ◇


 ラグナードを出てしばらくは、整備された街道を歩いた。


 荷車を引く商人。


 街へ向かう農夫。


 俺たちとは逆方向へ歩いていく冒険者。


 いつもの景色だ。


「このままなら、昼前には着くと思う」


 ハリトが言った。


「次の分かれ道を右。その先で街道を外れるよ」


「了解」


「森に入る前に一度休もう。中に入ったら、落ち着いて休める場所がすぐ見つかるとは限らないから」


「分かった」


 自然と。


 ハリトが決めている。


 別に誰かが、


『今日はハリトがリーダーな』


 と決めたわけじゃない。


 でも。


 森を歩くなら、ハリトが一番向いている。


 地形を見る。


 風を読む。


 遠くの音を聞く。


 弓を使うハリトは。


 普段から俺よりずっと周りを見ている。


「ニール」


「ん?」


「前」


「え?」


 足元に石があった。


「うおっ!?」


 危うくつまずきそうになる。


「何してるの?」


「ハリト見てた」


「なんで?」


「いや、今日はなんか頼もしいなって」


「……普段は?」


「頼もしいぞ」


「今、ちょっと考えたよね?」


「考えてない!」


 ミーナが笑う。


「仲良いねえ」


「幼馴染ですからね」


 シロナが言う。


「そういうものなの?」


「そういうものなのではないでしょうか」


「シロナも分かってないだろ」


「はい」


「堂々と言った!」


 朝からこんな調子だ。


 でも。


 悪くない。


     ◇


 昼前。


 《エルティア大森林》の手前で、俺たちは一度休憩を取った。


 水を飲み。


 軽く腹に入れる。


 目の前には。


 巨大な森が広がっている。


「そろそろ行こうか」


 ハリトが立ち上がった。


「おう」


 俺たちも荷物を背負う。


 ハリトが。


 先に森へ向かって歩き始めた。


 俺たちは。


 その後に続いた。


     ◇


 森へ入った瞬間。


 音が変わった。


 街道の音が遠くなる。


 鳥の声。


 葉が揺れる音。


 枝の隙間を抜ける風。


 土と草の匂い。


 木々が高い。


 昼なのに、場所によっては薄暗い。


「ここから調査開始だね」


 ハリトが言った。


「まずは、前回確認した辺りまで行こう」


「了解」


 先頭をハリトが歩く。


 その後ろをミーナ。


 俺とシロナが続く。


 しばらく進んだところで。


「待って」


 ミーナが止まった。


 しゃがみ込み。


 地面を見る。


「何かあった?」


「これ」


 ミーナが指をさす。


 俺も覗き込んだ。


「…………」


 土だ。


「ニール、分かる?」


「足跡?」


「どれが?」


「…………これ?」


「木の根」


「難易度高くない!?」


 ミーナが笑った。


「ほら。ここ」


 指で示される。


 土が。


 少し沈んでいる。


「……あ、本当だ」


 一度分かると。


 なんとなく見えてきた。


 一つ。


 二つ。


 それが。


 いくつも重なっている。


 ハリトもしゃがみ込んだ。


「一種類じゃないね」


「うん」


 ミーナが別の場所を指す。


「こっちは蹄っぽい。こっちは爪」


「これは?」


「それはニールの足跡」


「俺かよ!」


「さっき踏んだでしょ」


「全然分からん……」


「調査なんだから、少しずつ覚えた方がいいよ」


「はい……」


 俺も。


 もう一度地面を見る。


 さっきよりは。


 少しだけ分かる。


「向きは?」


 ハリトが聞いた。


 ミーナが。


 足跡を順番に追っていく。


「……こっち」


 指したのは。


 森の外側だった。


「外向き?」


「うん」


 ハリトが立ち上がる。


 周囲を見る。


「もう少し調べよう」


「おう」


 俺たちは再び歩き出した。


     ◇


「またある」


 しばらくして。


 今度はハリトが止まった。


 地面を見ている。


 ミーナも隣にしゃがむ。


「これも違う種類だね」


「外向き?」


「……うん」


 また。


 森の外。


 さらに進む。


 また。


 痕跡が見つかった。


 折れた草。


 土に残った跡。


 木の幹についた傷。


「これも?」


「たぶん」


 ハリトが地図を取り出した。


 位置を確認する。


「記録しておこう」


「私が書きますね」


 シロナが手帳を取り出す。


「複数種の痕跡。移動方向は森林外部」


「場所は、この辺です」


 ハリトが地図を指す。


 シロナが書き込む。


 俺は。


 もう一度、森の奥を見る。


「やっぱり何かから逃げてるのかな」


「まだ分からない」


 ハリトが答えた。


「食べ物が減ったのかもしれない。水場が変わったのかもしれないし、大きな魔物が縄張りを広げた可能性もある」


「なるほど」


「だから調べるんだよ」


「分かってるって」


「本当に?」


「なんでみんな俺にだけ確認するんだよ」


「実績」


 ミーナが即答した。


「ミーナまでリディアさんみたいなこと言うな!」


 でも。


 ハリトの言う通りだ。


 まだ。


 何が起きているのかは分からない。


 俺たちの仕事は。


 原因を勝手に決めることじゃない。


 見つけて。


 確かめて。


 持ち帰る。


 まずはそれだ。


「行こう」


 ハリトが言った。


「うん」


 俺たちは。


 さらに森の奥へ進んだ。


     ◇


「静かに」


 ハリトの声が変わった。


 全員が止まる。


 ミーナの耳も。


 ぴん、と立った。


「……いるね」


「どっち?」


「左前方」


 ハリトが弓へ手を伸ばす。


「一……いや、二」


 俺には。


 まだ何も聞こえない。


 でも。


 剣の柄に手を置く。


 茂みが揺れた。


 何かが。


 ゆっくりと姿を現す。


 灰色の毛。


 細長い脚。


 頭から伸びる、枝のような角。


「《枝角鹿》」


 ハリトが小さく言った。


「危険?」


「こっちから近づかなければ、基本的には大丈夫」


 俺は。


 剣の柄に手を置いたまま。


 二匹を見る。


 向こうも。


 俺たちを見ている。


「…………」


「…………」


「ニール」


「分かってる」


 俺は。


 剣から手を離した。


「戦わない」


 今日の依頼は討伐じゃない。


 俺たちが何もしなければ。


 向こうも襲ってこない。


 だったら。


 戦う理由はない。


 二匹の《枝角鹿》は。


 しばらく俺たちを警戒していた。


 やがて。


 一匹が動く。


 もう一匹も続く。


 走り出した。


「……あれ?」


 俺は。


 その方向を見る。


 森の奥じゃない。


「外だ」


 ミーナが言った。


 二匹とも。


 俺たちが来た方向へ走っていく。


「また外向き……」


 ハリトが呟いた。


 足跡だけじゃない。


 実際に。


 魔物が森の外へ移動している。


「追う?」


 俺が聞く。


「いや」


 ハリトは首を振った。


「僕たちが調べたいのは、行った先じゃない」


 そして。


 《枝角鹿》が現れた方向を見る。


「どこから来たのかだ」


「なるほど」


 俺も。


 森の奥を見る。


「じゃあ、こっちか」


「うん」


 ハリトが歩き出す。


 俺たちも続いた。


     ◇


 やがて。


 一本の木の前で。


 ハリトが止まった。


「あった」


 幹に。


 小さな布が結ばれている。


「これ、前につけたやつだよな」


「うん」


 ハリトが頷く。


 俺たちが残した目印。


「ここから先が、今回の調査範囲ですね」


 シロナが言った。


「はい」


 ハリトが。


 地図を見る。


 その先。


 木々の向こう。


 俺たちが。


 まだ詳しく調べていない場所。


「無理はしないようにしましょう」


 シロナが言う。


「異常があれば、その時点で判断します」


 ハリトが答えた。


 そして。


 俺たちを見る。


「行こう」


「おう」


 ハリトが。


 目印の布を越える。


 俺たちも。


 その後へ続いた。


 ここまでに確認したのは。


 いくつもの魔物の痕跡。


 どれも。


 森の外へ向かっていた。


 そして。


 実際に外へ向かう《枝角鹿》。


 原因は。


 まだ分からない。


 だから。


 俺たちは。


 それを確かめるために。


 《エルティア大森林》の奥へ進んだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


いよいよ《エルティア大森林》の調査が始まりました。


複数種の魔物が、なぜ森の外へ向かっているのか。

そして、その先でニールたちを待っているものは何なのか。


第三章『緑の勇者』、ここから少しずつ物語が動いていきます。


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次話もよろしくお願いします!

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