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『女の子にはいろいろあるの』(改訂版 ver1.01)

本編で、待ち合わせに遅れてきたミーナ。


理由を聞かれて返した言葉は――。


「女の子には、いろいろあるの」


では、その「いろいろ」とは何だったのか。


石角羊との一件で傷んだブーツ。

お気に入りの髪飾り。

ちょっとした買い物。


そして――なぜか今日は、あいつの顔がよく浮かぶ。


今回は少しだけ本編を離れて、

ミーナ・フェルの一日を描く外伝です。


外伝『女の子にはいろいろあるの』


本編では見えなかったミーナの「いろいろ」を、ぜひお楽しみください!


面白かったら、高評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!

 朝。


 ミーナ・フェルは。


 《ラグナード》の街を一人で歩いていた。


「よし。まずはブーツっと」


 今日は。


 依頼じゃない。


 魔物を探す必要もない。


 足跡を追う必要もない。


 周囲の気配に。


 ずっと神経を尖らせている必要もない。


 今日は。


 ただの買い物だ。


 もっとも。


「これがないと、次の依頼に行けないんだけどね」


 ミーナは。


 自分の足元を見る。


 履いているのは。


 普段使いの簡素な靴。


 いつものブーツは。


 修理に出していた。


 原因は。


「……《石角羊》」


 思い出す。


 西の丘。


 迫ってきた。


 あの群れ。


「もう思い出すのやめよ」


 怖かった。


 足も捻った。


 ブーツも傷んだ。


 留め具が緩んで。


 革の一部も傷ついた。


 足の方は。


 もう大丈夫。


 でも。


 ブーツは。


 放っておいても直らない。


「こんにちはー」


 店へ入る。


「ああ、ミーナちゃん」


 店員が。


 顔を上げた。


「できてるよ」


「ほんと?」


「ほら」


 受け取る。


「おおー」


 留め具は。


 しっかり直っている。


 傷んだ革も。


 補強されていた。


「結構傷んでたね」


「そう?」


「買い替えてもよかったくらいだよ」


「えー」


 ミーナは。


 ブーツを見る。


「まだ履けるでしょ?」


「履けるけど」


「じゃあ、これがいい」


「気に入ってるの?」


「履き慣れてるから」


 歩く。


 走る。


 しゃがむ。


 登る。


 森でも。


 草原でも。


 ずっと。


 これを履いてきた。


「新品って、最初ちょっと動きにくいし」


「冒険者らしい理由だね」


「そう?」


「でも」


 店員が。


 ブーツを見る。


「今度はもう少し大事に使ってよ?」


「私に言わないでよ」


「じゃあ誰に?」


「石角羊」


「何匹と戦ったの?」


「…………」


「一匹?」


「…………」


「二匹?」


「…………」


「……聞かない方がいい?」


「そうして」


 店員が。


 笑った。


 その場で。


 履き替える。


 軽く足踏み。


 つま先を動かす。


 少し歩く。


「うん」


 いい。


 やっぱり。


 これだ。


「ありがとう!」


「毎度」


 代金を払う。


 店を出る。


「よし!」


 これで。


 一つ目。


「次は――」


 ミーナは。


 自分の髪に触れた。


「こっち」


     ◇ ◇ ◇


「石そのものは大丈夫ですよ」


 小さな装飾品店。


 店員の女性が。


 ミーナの髪飾りを確認していた。


 琥珀色の。


 小さなラグナ石。


「留め具ですね。少し緩んでいます」


「直せる?」


「もちろん」


「じゃあお願い」


 髪飾りを。


 店員へ渡す。


 作業が始まる。


「…………」


 暇になった。


 ミーナは。


 店の中を見る。


 首飾り。


 腕輪。


 耳飾り。


 髪飾り。


 色々な石を使った。


 小さな装飾品。


 普段なら。


 あまり来ない店だ。


 同じお金を使うなら。


 薬。


 保存食。


 道具。


 短剣。


 そっちを。


 優先する。


 でも。


 今日は。


 依頼じゃない。


「……これ、かわいい」


 足が止まった。


 小さな。


 青い石の首飾り。


 手に取る。


 鏡の前に立つ。


 首元へ。


 合わせてみる。


「…………」


 悪くない。


 というか。


 結構。


 いいかも。


「これなら――」


 ふと。


 頭の中に。


 声が浮かんだ。


『お、似合ってるじゃん』


「…………」


 ミーナは。


 首飾りを戻した。


「なんでニール?」


「はい?」


 店員が。


 顔を上げる。


「なんでもない!」


 なんで。


 今。


 ニールが出てくるのよ。


 別に。


 今日。


 二人で会うわけじゃない。


 ハリトもいる。


 シロナもいる。


 いつもの。


 仲間。


「…………」


 もう一度。


 首飾りを見る。


「別に」


 似合ってるって。


 言われたいわけじゃない。


 多分。


「……やめよ」


 今日は。


 髪飾りを直しに来ただけ。


 そう。


 それだけ。


     ◇ ◇ ◇


 怖かった。


 《石角羊》の群れも。


 足を捻った時も。


 怖かった。


 でも。


 あとから考えると。


 一番。


 嫌だったのは。


 ニールが。


 目を覚まさなかったことかもしれない。


「…………」


 待っている間。


 いつの間にか。


 そんなことを考えていた。


 三日。


 ニールは。


 眠っていた。


 シロナは。


 大丈夫だと言っていた。


 身体が限界を超えただけ。


 今は。


 眠っているだけ。


 だから。


 心配しなくていい。


 そう。


 言っていた。


 でも。


 ミーナは。


 何度か。


 様子を見に行った。


 仲間だから。


 当然だ。


 自分が怪我をしたせいで。


 ニールが。


 一人で残ったから。


 だから。


 気になっただけ。


 それだけ。


 なのに。


 三日目。


 まだ。


 眠っているニールを見た時。


 考えてしまった。


 もし。


 このまま。


 起きなかったら。


「…………」


 嫌だった。


 すごく。


 嫌だった。


 だから。


 目を覚ましたと聞いた時。


 安心した。


 ものすごく。


 安心した。


「…………」


 そこで。


 ミーナは。


 別のことまで。


 思い出した。


 ニールが。


 目を覚ました後。


 まだ。


 熱があるんじゃないかと思って。


 自分の額を。


 ニールの額へ。


「…………」


 ぴたり。


「…………」


 ミーナの耳が。


 ぴくっと動いた。


「私、何やってんの……?」


 その時は。


 何とも思わなかった。


 熱があるか。


 確かめただけ。


 里でも。


 小さい頃は。


 普通にやっていた。


 だから。


 おかしくない。


 全然。


 おかしくない。


「…………」


 少し考える。


「いや」


 普通に。


「手でよくない?」


 自分で言って。


 顔が。


 熱くなる。


「いやいやいや!」


 首を振る。


 耳まで。


 一緒に揺れる。


「仲間だから!」


 そう。


 仲間。


 ハリトが。


 三日間眠っていたって。


 心配する。


 シロナだって。


 心配する。


 当然。


 だから。


 ニールだからって。


 わけじゃない。


「……多分」


「お待たせしました」


「ひゃいっ!?」


 変な声が出た。


 店員が。


 驚いている。


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫!」


「そうですか?」


「大丈夫だから!」


「髪飾り」


「あ」


 差し出された。


 琥珀色のラグナ石。


 留め具は。


 しっかり直っている。


「ありがとうございます」


「つけてみますか?」


「うん」


 髪を整える。


 髪飾りを。


 つける。


「どう?」


「よく似合っていますよ」


「ほんと?」


「はい」


 鏡を見る。


「…………」


 うん。


 やっぱり。


 これがいい。


「大切に使っているんですね」


「まあね」


「お気に入りですか?」


「うん」


 そこは。


 素直に答えられた。


「今日は、この後どなたかと?」


「え?」


「いえ。ずいぶん念入りに鏡を見ていらしたので」


「…………」


「お出かけかなと」


「違う違う!」


 ミーナは。


 慌てて手を振る。


「いつもの仲間と会うだけ!」


「そうなんですね」


「そう!」


 ニールと。


 ハリトと。


 シロナ。


 いつもの。


 四人。


「本当にそれだけだからね?」


「はい」


「何その笑顔」


「何も?」


「絶対何か思ってるでしょ!」


     ◇ ◇ ◇


 本当なら。


 そのまま。


 待ち合わせ場所へ向かえばよかった。


 でも。


「あ」


 服屋。


「…………」


 少しくらいなら。


 まだ。


 時間はある。


「見るだけ」


 そう。


 見るだけ。


 ミーナは。


 店へ入った。


「あ、これかわいい」


 見るだけは。


 終わった。


     ◇ ◇ ◇


「こっちもいいなあ……」


 普段着。


 手袋。


 腰につけられる。


 小さな鞄。


「これ便利そう」


 買う。


「この石鹸、いい匂い」


 買う。


「干した果物……」


 買う。


「これも保存できるし」


 冒険にも。


 使える。


 多分。


「…………」


 そして。


 屋台。


「焼き菓子……」


 買った。


     ◇ ◇ ◇


「……買いすぎた」


 両手を見る。


 荷物。


 荷物。


 荷物。


 冒険に。


 必要なもの。


 冒険に。


 関係ないもの。


「…………」


 半分くらい?


 いや。


 考えるのは。


 やめよう。


「まあ、いいでしょ」


 依頼をして。


 報酬をもらって。


 危ない目にも遭って。


 だったら。


 たまには。


 自分のために。


 使ったっていい。


 ミーナは。


 買ったばかりの。


 焼き菓子をかじる。


「んー!」


 美味しい。


 耳が。


 ぴくっと動く。


 尻尾も。


 自然に揺れる。


「これ」


 もう一口。


「ニールたちにも買って――」


 止まる。


「…………」


 また。


 ニール。


「なんで今日、あいつばっかり出てくるのよ」


 焼き菓子を見る。


「…………」


 当然。


 焼き菓子は。


 答えない。


「別に」


 気になるとか。


 そういうんじゃない。


 最近。


 一緒にいる時間が。


 長いから。


 多分。


 それだけ。


「…………」


 そういうことに。


 しておこう。


 残りを。


 口へ放り込む。


 その時。


 街の鐘が鳴った。


「…………」


 一回。


 二回。


「…………あれ?」


 ミーナの耳が。


 ぴくりと動く。


 鐘。


 空。


 太陽。


「…………」


 もう一度。


 時間を考える。


「…………」


 待ち合わせ。


「…………」


 とっくに。


 過ぎてる。


「やばっ!!」


 荷物を抱える。


 走る。


「なんで誰も教えてくれないのよー!」


 もちろん。


 誰も。


 教えられるはずがない。


     ◇ ◇ ◇


 走る。


 走る。


 走る。


「はあっ……!」


 修理した。


 ブーツは。


 絶好調。


「よかった……!」


 今日。


 直しておいて。


 本当に。


 よかった。


 いや。


 そうじゃない。


「急げー!」


 角を曲がる。


 人を避ける。


 道を抜ける。


 そして。


「あ!」


 見えた。


 三人。


 ニール。


 ハリト。


 シロナ。


 もう。


 全員。


 来ている。


「ミーナ!」


 一番最初に。


 気づいたのは。


 ニールだった。


「遅かったな!」


「ごめんごめん!」


 止まる。


 息を整える。


「何してたんだ?」


「え?」


 ミーナは。


 自分を見る。


 直したブーツ。


 琥珀色の髪飾り。


 両手の荷物。


 服。


 小物。


 石鹸。


 食べ物。


 それから。


 今日。


 何度も。


 なぜか。


 頭に浮かんだ。


 目の前の。


 ニール。


「…………」


「ミーナ?」


「いろいろ」


「いろいろ?」


「そう」


「何だよ、それ」


「いいの!」


 ミーナは。


 髪を整える。


 琥珀色のラグナ石が。


 陽の光を受けて。


 小さく。


 輝いた。


「仕方ないでしょ」


「何が?」


「だから」


 ミーナは。


 笑った。


「女の子には、いろいろあるの」


 その。


 いろいろの中に。


 何が入っているのか。


 今のミーナにも。


 まだ。


 よく分かっていなかった。



外伝『女の子にはいろいろあるの』――了

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


今回は、本編でミーナが言っていた、


「女の子には、いろいろあるの」


その裏側のお話でした。


ブーツを直して。

髪飾りを直して。

服を見て。

小物を買って。

焼き菓子を食べて。


気づいたら待ち合わせに遅刻。


本当に「いろいろ」あったわけですが――。


その中には、ミーナ自身にもまだよく分かっていない「何か」も混ざっていたようです。


三日間眠ったままだったニールを心配したこと。


目を覚まして安心したこと。


青い首飾りを見て、なぜかニールの顔が浮かんだこと。


焼き菓子を見ても、またニールを思い出したこと。


それが何なのか。


今のミーナは、まだ知りません。


だから今は、


「仲間だから」


きっと、それでいいのでしょう。


本編ではニールたちの冒険を中心に描いていますが、

こうした外伝では、それぞれのキャラクターが普段どんなことを考え、どんな時間を過ごしているのかも描いていけたらと思っています。


ミーナの「いろいろ」の続きも含めて、これからの彼女たちを見守っていただけたら嬉しいです!


今回の外伝も面白かったと思っていただけましたら、

ぜひ高評価・ブックマークで応援よろしくお願いします!


それでは、次の冒険で!

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