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第四十話『冒険者たち』(改訂版 ver1.01)

三つ星へ昇格し、装備も新しくなったニールたち。


けれど今日は、依頼もなければ、倒すべき魔物もいません。


少しだけ立ち止まって。


これまでの冒険を振り返る時間です。


勇者として旅立ったニールは、

仲間と出会い、失敗し、助けられ、誰かを助け、

戦わないことや、仲間に任せることも覚えてきました。


そんなニールたちは、いつから「冒険者」になったのでしょうか。


第四十話『冒険者たち』


第二章、最終話です。


ぜひ最後までお楽しみください!


面白いと思っていただけましたら、高評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!

 三つ星になって。


 数日が経った。


「…………」


「ニール」


「…………」


「ニール?」


「…………」


「何してるの?」


「見てる」


「何を?」


「三つ星」


「まだ見てるの?」


 宿の一階。


 朝飯を食べながら。


 俺は。


 冒険者証を眺めていた。


 三つ。


 ちゃんとある。


「だって」


 ひっくり返す。


 戻す。


「三つだぞ?」


「うん」


「三つ星だぞ?」


「知ってるよ」


「すごくない?」


「僕も三つ星だからね」


 ハリトが。


 自分の冒険者証を出す。


「そうだった!」


「忘れてたの?」


「違う!」


「じゃあ何?」


「俺のは俺のだろ!」


「……うん」


 なんだその顔。


「おっ」


 声がした。


「三つ星様、今日もやってるね」


「ミーナ!」


 振り返る。


 新しい軽装。


 腰には。


 二本の新しい短剣。


 そして。


 琥珀色のラグナ石の髪飾り。


 ミーナが。


 呆れた顔で立っていた。


「何回見ても四つにはならないよ」


「分かってるよ!」


「じゃあ何で見てるの?」


「嬉しいから!」


「素直だね」


「悪いか!」


「別に」


 ミーナが。


 笑った。


「私も昨日見たし」


「ほら!」


「一回だけ」


「俺だって一回だ!」


「今見てたじゃん」


「今日の一回!」


「昨日は?」


「……昨日の一回」


「一昨日は?」


「一昨日の一回」


「毎日見てるじゃん」


「いいだろ!」


 だって。


 本当に。


 嬉しいんだから。


     ◇ ◇ ◇


「で」


 朝飯を食べ終わって。


 俺は聞いた。


「今日どうする?」


「どうするって?」


「依頼」


 ハリトと。


 ミーナが。


 俺を見る。


「今日は休むんじゃなかった?」


「そうだっけ?」


「昨日ニールが言ったんだよ」


「俺が?」


「新しい装備もできたし、今日は休むって」


「…………」


 言った気がする。


「じゃあ」


 俺は立ち上がった。


「ギルド行こう!」


「なんで!?」


「休みなんでしょ?」


「依頼は受けない!」


「じゃあ何しに行くの?」


「…………」


 考える。


「ギルドに」


「うん」


「行きたい!」


「理由になってないよ」


     ◇ ◇ ◇


 《ラグナード》の冒険者ギルドは。


 今日も。


 騒がしかった。


 扉を開ける。


 人の声。


 椅子を引く音。


 食器のぶつかる音。


 受付では。


 冒険者が依頼の報告をしている。


 掲示板の前では。


 依頼を探している冒険者たち。


 いつもと。


 何も変わらない。


「やっぱり」


 俺は言った。


「ここ来ると落ち着くな」


「この前まで、依頼見るたびに騒いでたのに?」


「今は違う」


「何が?」


「三つ星だから」


「それ言いたいだけでしょ」


 ばれた。


 その時。


 掲示板の前から。


 声が聞こえた。


「薬草採取なら、こっちじゃない?」


「でも報酬安くないか?」


「最初から討伐なんて無理だって」


「一匹くらいなら大丈夫だろ」


「やめとけって!」


「でもさ――」


「…………」


 俺は。


 足を止めた。


 まだ。


 装備が新しい。


 三人組の冒険者。


 冒険者証に見える星は。


 一つ。


「どうしたの?」


 ハリトが聞く。


「いや」


 なんか。


 見たことがある。


 誰かに。


 じゃない。


 あの感じ。


 依頼書を見る。


 報酬を見る。


 魔物の名前を見る。


 自分たちなら。


 どこまでできるのか考える。


 でも。


 ちょっとだけ。


 思う。


 もっと。


 できるんじゃないかって。


「……俺も、あんな感じだった?」


「もっとひどかったよ」


「即答!?」


「勇者になったばかりだったしね」


「いやいや、俺だってちゃんと考えて――」


「初めての依頼で何しようとしてたっけ?」


「…………」


 俺は。


 目を逸らした。


「薬草採取とか?」


「本当に?」


「…………」


「ニール?」


「昔のことはいいだろ!」


 ミーナが。


 笑う。


「心当たりあるんじゃん」


「あるけど!」


 俺は。


 もう一度。


 三人を見る。


 あいつらも。


 これから。


 色んな依頼を受けるんだろうか。


 失敗したり。


 怒られたり。


 魔物から逃げたり。


 誰かと出会ったり。


「……頑張れよ」


「知り合い?」


「いや」


「じゃあ何?」


「なんとなく」


 俺たちは。


 そのまま。


 ギルドの奥へ向かった。


     ◇ ◇ ◇


「珍しいですね」


 聞き慣れた声。


「シロナ!」


「おはようございます」


 シロナが。


 テーブルに座っていた。


「今日は依頼ですか?」


「休み!」


「では、なぜギルドに?」


「俺も聞いた」


 ハリトが言う。


「答えは?」


 ミーナも聞く。


「…………」


 三人が。


 俺を見る。


「冒険者だから?」


「疑問形ですね」


「いいだろ!」


 シロナが。


 くすっと笑う。


「座りますか?」


「おう」


 俺たちは。


 シロナのいるテーブルへ座った。


 依頼を受けるわけでもない。


 報告することもない。


 ただ。


 飯を食ったり。


 話したり。


 冒険者を眺めたり。


「……ギルドって、こんな場所だったんだな」


「どんな場所?」


 ミーナが聞く。


「依頼受けるだけじゃないんだなって」


「今さらですね」


 シロナが言った。


「それ最近よく言われる!」


「実際、今さらなことばかり言うからじゃない?」


「ミーナ!」


 その時だった。


 ギルドの扉が。


 勢いよく開いた。


「すまない! 治療を頼む!」


 声。


 何人かの冒険者が。


 入ってくる。


 泥だらけ。


 防具には。


 傷。


 一人は。


 仲間に肩を借りていた。


 受付の人たちが。


 すぐに動く。


「こっちへ!」


「何がありました?」


「街道の南だ! 予定になかった魔物が出た!」


「種類は?」


「《牙猿》が四――いや、五体だ! 一体は途中で――」


 報告が。


 始まる。


 どこで。


 何があった。


 どんな魔物だった。


 怪我人は。


 依頼は。


 どうなった。


「…………」


 俺は。


 その冒険者たちを見ていた。


 少し前の俺なら。


 最初に。


 何を思ったんだろう。


 《牙猿》。


 どれくらい強い?


 LEVELは?


 俺なら倒せる?


 多分。


 そんなことを。


 考えていた。


 でも。


 今。


 最初に目で追ったのは。


 一人。


 二人。


 三人。


 四人。


「……全員いるな」


「え?」


 ミーナが。


 俺を見る。


「いや」


 全員。


 帰ってきた。


 怪我はしている。


 依頼だって。


 成功したのか。


 分からない。


 それでも。


 仲間を連れて。


 帰ってきた。


「…………」


 なんか。


 少しだけ。


 安心した。


     ◇ ◇ ◇


「冒険者ってさ」


 俺は言った。


「何?」


 ミーナが。


 飲み物を口にする。


「俺、最初は魔物を倒す仕事だと思ってた」


「それは知ってる」


「そんなに?」


「ニール、すぐ剣抜いてたし」


「そこまでじゃない!」


「そうだったかな」


「ハリトまで!」


 でも。


 確かに。


 そうだった。


「LEVEL上げて」


 強くなって。


「強い魔物倒して」


 もっと強くなって。


「星を増やして」


 もっと。


 危険な依頼を受ける。


「そういうのが、冒険者だと思ってた」


「今は?」


 ハリトが聞いた。


「…………」


 俺は。


 少し考える。


「分かんない」


「分かんないの?」


「うん」


 でも。


「魔物を倒すだけじゃない」


 それは。


 分かる。


 護衛した。


 荷物を守った。


 薬草を採った。


 人を探した。


 知らない町へ行った。


 野営した。


 戦った。


 逃げた。


 戦わないことも選んだ。


 進んだ。


 戻った。


 人を助けた。


 全部は助けられないことも知った。


 誰かに任せた。


 誰かに任された。


 依頼を終わらせた。


 そして。


 帰ってきた。


「……全部かな」


「全部?」


「今までやってきたこと」


 俺は。


 自分の冒険者証を見る。


「それ全部やってるうちに、三つ星になった」


 だから。


 どれか一個だけが。


 冒険者じゃない。


「俺、一人だったら」


 俺は。


 ハリトを見る。


 ミーナを見る。


「三つ星になれてないな」


「今さら?」


 ミーナが言った。


「またそれ!」


「だって今さらだもん」


「しょうがないだろ! 今気づいたんだから!」


 ハリトが。


 笑う。


「僕も一人じゃ無理だったと思うよ」


「でしょ?」


 ミーナが言う。


「私も」


「だろ?」


 俺は。


 なんか。


 嬉しくなった。


「じゃあ三人とも一人じゃ無理じゃん!」


「何で嬉しそうなの?」


「いいじゃん!」


 できないことがある。


 俺には。


 見えないものがある。


 ハリトには。


 できないことがある。


 ミーナにだって。


 苦手なことはある。


 だから。


 三人でやる。


「……冒険者って」


 俺は言った。


「一人で何でもできなくていいんだな」


 シロナが。


 少しだけ。


 笑った。


「そうですね」


 それだけ。


 シロナは言った。


     ◇ ◇ ◇


 昼を過ぎて。


 俺たちは。


 ギルドを出た。


「結局、何しに来たんだろ」


 ミーナが言う。


「休みに来た!」


「ギルドに?」


「冒険者だから!」


「またそれ?」


「いいだろ!」


 通りを歩く。


 新しい防具にも。


 少し慣れてきた。


 剣は。


 親父からもらったもの。


 でも。


 前より。


 少しだけ。


 俺に合うようになった。


 ハリトの弓も。


 変わった。


 ミーナの腰には。


 新しい短剣。


 俺たちは。


 変わった。


 でも。


 別の誰かになったわけじゃない。


「…………」


 俺は。


 腰に手をやった。


 ベルトさん。


 こいつが。


 俺のところに来た。


 それで。


 俺は。


 青の勇者になった。


「なあ、ベルトさん」


『――肯定』


「まだ何も聞いてないぞ」


『――……』


「黙るなよ!」


「何してるの?」


 ミーナが。


 俺を見る。


「いや」


 俺は。


 笑った。


「俺さ」


「うん」


「青の勇者じゃん」


「そうだね」


「でも」


 冒険者証を。


 取り出す。


 三つの星。


「冒険者でもあるんだな」


「…………」


 ハリトが。


 少し笑う。


「ずっとそうだったよ」


「そうなんだけどさ」


 いつからだったんだろう。


 冒険者になったのは。


 ギルドに。


 登録した日?


 一つ星になった日?


 二つ星になった日?


 三つ星になった日?


 多分。


 どれも。


 正しくて。


 どれも。


 少し違う。


 依頼を受けた。


 失敗した。


 怖い思いもした。


 戦った。


 戦わないことも覚えた。


 誰かを助けた。


 誰かに助けられた。


 仲間を信じた。


 仲間に任せた。


 そして。


 一緒に。


 帰ってきた。


 そうやって。


 少しずつ。


 俺たちは。


 冒険者になっていったんだ。


 風が。


 通りを抜ける。


 ハリトが。


 ふと。


 北を見る。


「…………」


 俺も。


 その視線の先を見る。


 建物の向こう。


 もっと。


 遠く。


 あの方角には。


 《エルティア大森林》がある。


 でも。


 俺は。


 何も聞かなかった。


 ハリトも。


 何も言わなかった。


 今は。


 それでいい。


 次に。


 どこへ行くのか。


 何をするのか。


 まだ。


 決まっていない。


 でも。


 きっと。


 また。


 俺たちは。


 自分たちで決める。


「行こうぜ」


 俺が言う。


「どこに?」


 ミーナが聞く。


「飯!」


「また!?」


「昼だぞ!」


「ギルドで食べてたじゃん!」


「あれは休憩!」


「何が違うの!?」


 ハリトが。


 笑う。


 ミーナも。


 呆れながら。


 笑っている。


 俺も。


 笑った。


 俺は。


 青の勇者だ。


 それは。


 これからも。


 変わらない。


 でも。


 それだけじゃない。


 俺たちは――。


 冒険者だ。



第二章『冒険者たち』――完

第二章『冒険者たち』、最後までお読みいただきありがとうございました!


青の勇者として故郷を旅立ったニール。


最初は、


強い魔物を倒す。

LEVELを上げる。

強い技を覚える。

星を増やす。


それが「冒険者になること」だと思っていました。


けれど、旅を続ける中で経験したのは、それだけではありません。


護衛する。

採取する。

知らない町へ行く。

誰かを探す。

戦う。

戦わない。

進む。

戻る。

助ける。

助けられる。

仲間を信じる。

仲間に任せる。

そして、生きて帰ってくる。


その一つ一つを積み重ねて、

ニール、ハリト、ミーナは三つ星冒険者になりました。


「いつから冒険者になったのか」


きっと、どこか一つの瞬間ではなく、

三人で歩いてきた道そのものが、その答えなのだと思います。


そして物語は、ここで終わりではありません。


三つ星になり、できることも、行ける場所も少しずつ増えていきます。


まだ知らない場所。

まだ知らない魔物。

まだ分からない勇者のこと。

そして、それぞれが自分で選んでいく次の道。


ニールたちの冒険は、ここからまた新しい段階へ進んでいきます。


第二章『冒険者たち』をここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


続きも読みたいと思っていただけましたら、

ぜひ高評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!


それでは――。


次の冒険で、またお会いしましょう!

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