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第三十四話『三つ星昇格試験』(改訂版 ver1.01)

いよいよ始まる、三つ星昇格試験!


強敵との戦闘?

危険な場所の攻略?


ニールが想像していた試験とは違い、与えられた依頼は――まさかの「荷物運び」。


しかも今回、試験官を務めるのは……。


ニール、ハリト、ミーナ。


三人は、自分たちの判断だけで三つ目の星を掴めるのか。


第三十四話『三つ星昇格試験』


ぜひお楽しみください!


面白かったら、高評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!


 三つ星昇格試験。


 そう聞いた時。


 俺はもっと、こう。


 強そうな魔物を倒すとか。


 危険な場所まで行って帰ってくるとか。


 そういうものを想像していた。


 だけど。


 俺たち三人の前に置かれた依頼書に書いてあったのは――。


「……荷物を届ける?」


「はい」


 翌朝。


 冒険者ギルドの受付前。


 リディアさんは、いつも通りの顔で頷いた。


 机の上には。


 小さな木箱が一つ。


 両手で抱えられるくらいの大きさだ。


「今回、皆さんにお願いするのはこちらです」


 俺は木箱を見る。


 次に。


 依頼書を見る。


 もう一度。


 木箱を見る。


「……これを?」


「はい」


「届ける?」


「はい」


「それが三つ星の試験?」


「はい」


「…………」


 隣を見る。


 ハリトも依頼書を読んでいる。


 ミーナは木箱をじっと見ていた。


「中身は?」


 ミーナが聞く。


「依頼の達成に必要な情報ではありません」


「開けちゃダメ?」


「もちろんです」


「だよね」


 依頼書に書かれている内容は。


 本当に少なかった。


 指定された荷物を。


 西にある《ルーベン村》へ届けること。


 期限は。


 明日の日没まで。


 荷物を紛失、破損させないこと。


 それだけ。


「ルーベン村って、ここからどれくらい?」


「普通に街道を使えば、一日半くらいかな」


 ハリトが答える。


「一日半?」


 俺は依頼書を見る。


 明日の日没まで。


「間に合うじゃん」


「何もなければね」


 ミーナが言った。


「そういうこと言うなよ」


「冒険者でしょ?」


「そうでした」


 何も起きない保証なんてない。


 道が使えなくなるかもしれない。


 魔物が出るかもしれない。


 天気が崩れるかもしれない。


 今回は荷物もある。


 俺たちが無事でも。


 こいつが壊れたら依頼失敗だ。


「ルートの指定は?」


「ありません」


「途中で宿に泊まっても?」


「構いません」


「魔物が出たら?」


「皆さんで判断してください」


「道が通れなかったら?」


「皆さんで判断してください」


「困ってる人がいたら?」


「皆さんで判断してください」


「……リディアさん」


「はい」


「それ言いたいだけになってません?」


「いいえ?」


 絶対ちょっと楽しんでる。


「つまり」


 ハリトが依頼書から顔を上げた。


「期限までに、この荷物を破損させずルーベン村へ届ける。それ以外は、僕たちが決めていいんですね」


「その通りです」


「評価基準は?」


「非公開です」


「えっ!?」


 俺は思わず声を上げた。


「そこも!?」


「そこが重要ですから」


「せめて何点取れば合格とか!」


「ありません」


「減点方式?」


「お答えできません」


「魔物を倒したら加点とか!」


「ありません」


「ないんだ!?」


 リディアさんが俺を見る。


「ニールさん」


「はい」


「これは討伐試験ではありません」


「……はい」


 分かってます。


 石角羊三十七匹の件ですね。


 分かってますとも。


「それに」


 リディアさんが続ける。


「ただ荷物を届ければ合格、というわけでもありません」


「え?」


 今度はミーナが反応した。


「届ける試験なのに?」


「依頼そのものを達成することは、冒険者として当然です」


 リディアさんが言う。


「三つ星冒険者に求められるのは、その過程も含め、自分たちで判断できることです」


 進む。


 戻る。


 戦う。


 避ける。


 任せる。


 助ける。


 そして。


 時には、諦める。


 その全部を。


 自分たちで決める。


「……なるほど」


 ハリトが小さく頷いた。


 俺も。


 ようやく少し分かってきた。


 これは。


 正しい答えを当てる試験じゃない。


 俺たちが。


 どう考えて。


 どう答えを出すのか。


 それを見る試験なんだ。


「それと」


 リディアさんが言った。


「もちろん、皆さんだけで向かうわけではありません」


「え?」


「試験には、試験官が同行します」


「試験官?」


 そうか。


 俺たちだけで行ったら。


 誰が評価するんだ。


「どんな人ですか?」


「すでに来ていますよ」


「え?」


 リディアさんが。


 俺たちの後ろを見る。


 振り返る。


「おはようございます」


「…………」


 銀色の長い髪。


 尖った耳。


 そして。


 見慣れた穏やかな笑顔。


「シロナ!?」


「はい」


 シロナ・エルネージュ。


 四つ星冒険者。


 LEVEL二十六。


 そして。


 ここ最近。


 ずっと俺たちと一緒に行動している人。


「今回、皆さんの昇格試験を担当させていただきます」


「シロナだったの!?」


「はい」


「昨日、分からないって言ってたじゃん!」


「昨日の時点では、本当に知りませんでしたよ」


「いつ決まったの!?」


「その後です」


「そんなすぐ決まる!?」


 ミーナが笑っている。


「最悪」


「ミーナさん?」


「だってシロナ、絶対細かいところまで見てるじゃん」


「もちろんです」


「ほら!」


 笑顔で言うから怖い。


「でも」


 ハリトが聞いた。


「いつも一緒にいるシロナさんが、試験官でいいんですか?」


「問題ありません」


 答えたのはリディアさんだった。


「今回の三名については、これまでの行動を把握している冒険者の方が適任だとギルドが判断しました」


 そして。


「シロナさんは四つ星冒険者です。試験官を務める資格も十分にあります」


「公平に評価しますよ」


 シロナが微笑む。


「落とす時は、きちんと落とします」


「怖っ!」


「公平です」


「その笑顔で言わないで!」


 ただ。


 少し安心したのも本当だった。


 シロナなら。


 俺たちのことを知っている。


 それに。


 何かあった時だって――。


「ああ、それから」


 シロナが言った。


「試験中、私は基本的に何もしませんので」


「…………え?」


「私は試験官です」


「でも、魔物が出たら?」


「皆さんで対処してください」


「道に迷ったら?」


「皆さんで考えてください」


「荷物が――」


「皆さんで判断してください」


「リディアさんが二人いる!」


「失礼ですね」


「どっちに!?」


 リディアさんとシロナが顔を見合わせる。


 なんでちょっと笑ってるんだ。


「ただし」


 シロナの表情が。


 少しだけ変わった。


「皆さんの命に関わると私が判断した場合は、介入します」


「じゃあ安心――」


「その時点で、原則として試験は終了です」


「ですよね!」


 そりゃそうだ。


 俺たちが。


 三つ星冒険者として依頼を任せられるか。


 それを見る試験なんだから。


 危なくなったら四つ星に助けてもらって。


 はい、合格。


 なんてことにはならない。


「それでは」


 リディアさんが言った。


「準備を始めてください」


「はい!」


「出発時刻も、皆さんに任せます」


「そこから!?」


「はい」


 俺は。


 ハリトを見る。


 ミーナを見る。


「……どうする?」


「まず相談しよう」


 ハリトが言った。


「だね」


 ミーナも頷く。


     ◇ ◇ ◇


 ギルドの端にあるテーブル。


 俺たちは地図を広げていた。


 シロナは。


 少し離れた場所に座っている。


「シロナ」


「はい」


「ルーベン村まで一番安全なのって――」


「ニール」


 ハリトが止めた。


「あ」


「開始五分で試験官に答え聞くのやめて」


「危なかった」


「もう聞いてますけどね」


 シロナの声が飛んでくる。


「今のなしで!」


「評価についてはお答えできません」


「怖い!」


 仕方ない。


 自分たちで考えよう。


「道は大きく三つかな」


 ハリトが地図を指す。


 一つ目。


 西へ伸びる街道。


「一番安全。でも遠い」


「普通に進めば一日半くらい」


 二つ目。


 途中から南西へ入り。


 丘陵地帯を抜ける道。


「こっちなら、かなり短くできる」


 ミーナが言った。


「でも、魔物は街道より多いよ」


「石角羊はいないよな?」


「いるかもね」


「街道にしよう」


「早いよ」


 三つ目。


 川沿いを進むルート。


 距離だけなら最短。


 ただし。


「雨が降ったら面倒だね」


 ハリトが窓を見る。


 今日は晴れている。


 でも。


 明日まで晴れているとは限らない。


「俺なら丘陵」


 俺は言った。


「理由は?」


「早い」


「他には?」


「……早い!」


「一個しかないじゃん」


 ミーナに言われた。


「じゃあミーナは?」


「街道かな」


「安全だから?」


「それもあるけど」


 ミーナが木箱を見る。


「今回は、私たちだけじゃないから」


「?」


「荷物」


 ミーナが木箱を指差す。


「私たちだけなら、多少危ない道でもいい。でも今回は、これを壊さず届ける依頼でしょ?」


「あ」


 そうか。


 俺たちが怪我しなければいい。


 魔物を倒せればいい。


 そういう話じゃない。


「ハリトは?」


「僕も街道かな」


「二対一!」


「ただし」


 ハリトが地図を指でなぞる。


「最初から最後まで、絶対に街道を使うとは決めない」


「どういうこと?」


「状況が変わったら、その時また考える」


 街道が使えなくなったら。


 天候が変わったら。


 予定より遅れたら。


 別の道を選ぶ。


「今、一番安全だと思う道を選ぶ。でも、それにこだわらない」


「……そっか」


 俺は地図を見る。


 一度決めたから。


 最後までその通りにしなきゃいけない。


 そんな決まりはない。


「じゃあ街道で行こう」


「いいの?」


 ミーナが俺を見る。


「多数決だ!」


「考えるの諦めた?」


「違う!」


 でも。


 俺一人だったら。


 たぶん。


 丘陵を選んでいた。


 早いから。


 魔物が出ても。


 倒せばいいと思っていた。


 だけど。


 今回は三人だ。


 俺が気づかないことに。


 二人が気づく。


「荷物は?」


 ハリトが聞く。


「俺が持つ」


「なんで?」


「一番力あるから」


「それは分かるけど」


 ミーナが俺を見る。


「魔物が出たらどうするの?」


「箱置いて戦う」


「却下」


「早っ!」


「ニールが一番前で戦う可能性が高いでしょ」


 確かに。


「じゃあ僕が持とうか」


「ハリトも弓を使うじゃん」


「そうなんだよね」


 三人で。


 木箱を見る。


 誰が持つ?


「交代でよくない?」


 ミーナが言った。


「交代?」


「うん。ずっと同じ人が持つ必要ないでしょ?」


「戦闘になったら?」


「その時、一番荷物を守りやすい人が持つ」


「その場で決めるの?」


「だから決めるんでしょ。その場で」


「…………」


 なるほど。


 役割まで。


 最初から最後まで固定する必要はないのか。


「じゃあ最初は俺」


 俺は木箱を持ち上げた。


「途中で交代。何かあったら、その時決める」


「うん」


「それでいこう」


 俺たちから。


 少し離れたところで。


 シロナは何も言わない。


 ただ。


 俺たちを見ていた。


     ◇ ◇ ◇


「それでは」


 ラグナード西門。


 シロナが俺たち三人を見る。


「ここから、三つ星昇格試験を開始します」


 俺は背負った荷物を確認する。


 ハリトは弓。


 ミーナは双剣。


 いつもと変わらない。


 でも。


 今日は少しだけ違う。


「最後に質問はありますか?」


 シロナが聞いた。


「あります!」


「どうぞ」


「試験中にシロナへ話しかけるのは?」


「自由です」


「相談は?」


「自由です」


「答えてくれる?」


「内容によります」


「じゃあ道に迷った時――」


「頑張ってください」


「やっぱり答えないじゃん!」


 ミーナが吹き出す。


 ハリトも笑った。


「行こう、ニール」


「ああ」


 西門を出る。


 街道が。


 まっすぐ西へ伸びている。


 目的地は。


 《ルーベン村》。


 期限は。


 明日の日没。


 荷物を壊さず。


 届ける。


 それだけ。


 でも。


 どうやって届けるかは。


 全部。


 俺たち次第だ。


 歩きながら。


 俺は腰の青の《勇者装具》へ小さく声をかけた。


「ベルトさん」


 青い光が。


 ほんの少しだけ瞬く。


「今回は、勝手に助けるなよ」


 少し間があって。


『――了解』


「よし」


 ……いや。


 待てよ。


「でも、本当に死にそうな時は頼むぞ?」


 沈黙。


「…………」


 もう一度。


「頼むぞ?」


『――回答不能』


「そこは答えてくれよ!」


「何してるの?」


 ミーナが横から覗き込んでくる。


「ベルトさんと試験の打ち合わせ」


「四人目の仲間がいるじゃん」


「いや、こいつ全然相談に乗ってくれないぞ」


『――肯定』


「そこは肯定するんだ!?」


 ミーナが笑う。


 前を歩いていたハリトも。


 肩を揺らしていた。


 その少し後ろ。


 シロナは。


 やっぱり何も言わない。


 ただ。


 俺たちを見ている。


 三つ星。


 その三つ目の星へ向かって。


 俺たち三人の試験が始まった。


     ◇ ◇ ◇


 ラグナードを出て。


 しばらく歩いた頃。


 街の姿は。


 もうずいぶん小さくなっていた。


 今のところ。


 何も起きていない。


「……普通だな」


 俺が言う。


「何が?」


「もっとこう、試験開始! いきなり魔物! みたいなの想像してた」


「そんな都合よく出てこないでしょ」


 ミーナが呆れる。


「いや、試験だからさ」


「魔物に試験の日程伝えてあるの?」


「伝えてないと思う」


「じゃあ普通に歩いて」


「はい」


 そんな話をしながら。


 街道を進む。


 俺でも。


 ハリトでも。


 たぶん。


 シロナでもなかった。


 最初に。


 それに気づいたのは。


「――待って」


 ミーナだった。


 足を止める。


「どうした?」


 俺たちも止まった。


 ミーナの獣耳が。


 ぴくりと動く。


 そして。


 鼻を小さく動かした。


「……匂う」


「何が?」


「分かんない」


 ミーナの表情から。


 さっきまでの笑みが消えている。


 視線は。


 街道の先。


「煙……?」


 もう一度。


 鼻を動かす。


「いや……何か、焦げてる」


 俺とハリトが。


 顔を見合わせた。


「火事?」


「分からない」


 俺は。


 反射的にシロナを見る。


 シロナは。


 何も言わない。


 いつもの穏やかな顔で。


 ただ。


 俺たちを見ている。


 そうだった。


 これは。


 俺たちの試験だ。


「……どうする?」


 俺が聞く。


 ハリトを見る。


 そして。


 ミーナを見る。


 ミーナは。


 街道の先をじっと見つめていた。


「この先」


 小さく。


 でも。


 はっきりと言った。


「何かある」


 三つ星昇格試験。


 最初の選択が。


 もう。


 俺たちの前に現れていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに始まりました、三つ星昇格試験。


今回の試験は、強い魔物を倒すことではありません。


「荷物を届ける」。


ただ、それだけ。


でも――。


どの道を選ぶのか。

戦うのか、避けるのか。

誰に何を任せるのか。

想定外の出来事が起きた時、どう判断するのか。


そこに「三つ星冒険者としての力」が問われます。


そして試験開始早々、ミーナが気づいた焦げたような匂い。


このまま進むのか。

立ち止まるのか。

それとも――。


ここからは、シロナも答えを教えてくれません。


最初の選択をするのは、ニールたち自身です。


次回もぜひお楽しみに!


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