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第三十三話『次の星へ』(改訂版 ver 1.01)

無事にディンとメリアを救出し、ラグナードへ帰還したニールたち。


《エルティア大森林》で起きている異変は、まだ何も解決していません。


それでも――。


森へ踏み込まず、二人を連れて帰ることを選んだ。


その「戦わなかった選択」が、ニールたちを次のステージへ進めます。


第三十三話『次の星へ』


ぜひお楽しみください!


面白かったら、高評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!

 ラグナードの北門が見えてきた。


「……帰ってきた」


 そう呟いたのは、俺じゃなかった。


 行方不明になっていた三つ星冒険者。


 薬師のメリア・ノールだった。


 森から逃げる途中で痛めた足は、岩場を出る前にシロナが《癒しの光》で治している。


 だから今は、自分の足で歩いている。


 その隣にいるのが、剣士のディン・ハーグ。


 二人とも疲れてはいる。


 けど。


 ちゃんと生きて。


 自分の足で帰ってきた。


「よかったな」


 俺が言うと。


 ディンがこっちを見る。


「それは俺たちの台詞だ」


「え?」


「お前たちが来なかったら、もう一晩あそこで過ごすことになってた」


「まあ、それは……」


「ありがとう」


 真正面から言われると。


 なんか。


 照れる。


「俺は別に……」


「ニール」


 ミーナが笑う。


「こういう時は、どういたしましてでいいんじゃない?」


「……どういたしまして」


「ははっ」


 ディンが笑った。


「それと」


 メリアがシロナを見る。


「治療までしていただいて、ありがとうございました」


「歩ける程度の怪我でよかったです」


 シロナが微笑む。


「でも、今日はゆっくり休んでくださいね」


「はい」


 そのまま。


 六人で北門をくぐる。


 見つけた。


 助けた。


 そして。


 一緒に帰ってきた。


 あとは。


 ギルドに報告するまでが、俺たちのクエストだ。


     ◇ ◇ ◇


「お帰りなさい」


 ギルドへ入ると。


 受付にいたリディアさんが顔を上げた。


 そして。


 俺たちの後ろを歩いている二人を見て。


 目を見開いた。


「ディンさん……メリアさん!」


「ただいま」


 ディンが片手を上げる。


「ご心配をおかけしました」


 メリアも頭を下げた。


 その瞬間。


 ギルドの中がざわついた。


「見つかったのか?」


「二人とも無事だ!」


「よかった……!」


 すぐに何人かの職員がやってくる。


 二人ともシロナの治療を受けているけど。


 念のため。


 ギルドでも身体を診てもらうことになった。


 奥へ向かう前に。


 ディンが俺たちを振り返る。


「またあとでな」


「はい」


「今度、飯くらい奢らせてくれ」


「本当ですか!?」


「そこ食いつくんだ」


 ハリトが呆れる。


「だって三つ星冒険者の奢りだぞ!」


「ニール……」


 ミーナがため息をついた。


 でも。


 ディンは笑っていた。


     ◇ ◇ ◇


「では、報告をお願いします」


 少しして。


 俺たちは受付前の机を囲んでいた。


 リディアさんが地図を広げる。


 俺。


 ハリト。


 ミーナ。


 そしてシロナ。


「まず、以前シロナさんが痕跡を確認した地点へ向かいました」


「はい」


「そこからミーナが、二人の痕跡を見つけました」


 俺がミーナを見る。


「お願いします」


「うん」


 ミーナが地図を指差した。


「最初は足跡が途切れたように見えました。でも、木の根や岩に泥が残ってたんです」


「つまり?」


「二人は途中から、足跡を残しにくい場所を選んで移動してたんだと思います」


「意図的に?」


「はい」


 リディアさんが記録していく。


「それを追跡して、二人を発見しました」


「場所はこちらです」


 シロナが地図を指す。


「《エルティア大森林》の外縁から、西へ離れた岩場です」


「森林内部には?」


「入っていません」


 俺が答える。


 リディアさんが俺を見る。


「本当に?」


「なんで俺を見て確認するんですか!?」


「念のためです」


「入りませんでした!」


「ニール、ちょっと入りたそうだったけどね」


「ミーナ!」


「事実でしょ?」


「それは……」


 否定できない。


 気にはなった。


 ものすごく。


 魔物たちが森から逃げている。


 その奥で。


 何が起きているのか。


 確かめてみたいと思った。


「でも」


 俺は言った。


「行かなかった」


「なぜです?」


「俺たちは、森の異変を調べに来たわけじゃなかったから」


 リディアさんのペンが止まる。


「行方不明になった二人を探す。それが今回の依頼だった」


「はい」


「二人を見つけた。それにメリアさんは怪我してた」


 だったら。


「まず二人を助けて、街まで連れて帰る方が先だと思った」


「なるほど」


 リディアさんは。


 なぜか少しだけ笑った。


「なんですか?」


「いえ」


「なんかありますよね?」


「続けてください」


「絶対なんかある!」


     ◇ ◇ ◇


 次に。


 魔物について報告した。


 《グラスドッグ》。


 《ロックリザード》。


 それ以外にも。


 複数の魔物が《エルティア大森林》から外へ向かって移動していた。


「争っている様子はありませんでした」


 ハリトが説明する。


「種類の違う魔物が、同じように森の外へ向かっていました」


「数は?」


「正確には分かりません。でも、少なくとも普通ではないと思います」


「ディンさんとメリアさんからも、同様の証言がありました」


 リディアさんが言う。


「先ほど簡単にですが、確認しました」


 リディアさんの表情が変わる。


「《石角羊》の件もあります」


 俺たちが遭遇した。


 三十七匹の群れ。


「あれも、《エルティア大森林》周辺で起きた異常でした」


「じゃあ」


 俺は地図を見る。


「やっぱり森で何か起きてる?」


「その可能性は高くなりました」


「調査するんですか?」


「はい」


 リディアさんが頷く。


「ギルドとして、正式に調査する必要があるでしょう」


「だったら俺たちも――」


 そこまで言って。


 止まる。


「あ」


「はい」


 リディアさんが言った。


「森林内部の異常調査となれば、原則として三つ星以上の冒険者が対象になります」


「ですよね!」


 分かってた!


 俺たちは。


 まだ二つ星。


 俺のLEVELは十になった。


 《蒼駆Ⅰ》も。


 《蒼閃Ⅰ》も手に入れた。


 でも。


 冒険者として胸につけている星は。


 まだ二つだ。


「LEVELが上がれば、星も勝手に増えればいいのに」


「増えません」


「即答!」


「LEVELと冒険者ランクは別のものですから」


「分かってますけど」


 俺は胸元を見る。


 二つの星。


「じゃあ」


 顔を上げる。


「三つ星になればいいんですよね?」


「ニール」


 ハリトが苦笑する。


「いや、だってそうだろ?」


 条件が足りないなら。


 条件を満たせばいい。


「そのことなんですが」


 リディアさんが言った。


「え?」


「少々お待ちください」


 受付の奥へ消える。


 そして。


 一枚の書類を持って戻ってきた。


「ニール・レインさん」


「はい」


「ハリト・ヴェールさん」


「はい」


「ミーナ・フェルさん」


「……私も?」


「もちろんです」


 リディアさんが。


 三人の前へ書類を置いた。


「三名を、三つ星昇格試験の受験者として推薦します」


「…………」


 俺。


 ハリト。


 ミーナ。


 三人で書類を見る。


「三つ星……」


 ハリトが呟く。


「私も……?」


 ミーナはまだ驚いている。


「なんで驚くんだよ」


「だって……」


「今回、二人を見つけられたの、ミーナのおかげだろ?」


「え?」


「俺、足跡とか全然分からなかったし」


「それはそうだけど」


「即答ですね、ニールさん」


 リディアさんが笑う。


「だって本当ですから」


「そうですね」


 リディアさんがミーナを見る。


「今回、痕跡を追跡し、ディンさんとメリアさんの発見に大きく貢献したのはミーナさんです」


「…………」


「誰かについていっただけではありません。自分で痕跡を見つけ、自分で考え、進む方向を判断した」


 ミーナが。


 少しだけ目を見開く。


「十分、推薦に値します」


「……ありがとうございます」


「俺は?」


「順番です」


「はい」


「ニール、待てないの?」


「待てる!」


『――否定』


「ベルトさん!?」


 ハリトが吹き出した。


     ◇ ◇ ◇


「今回の依頼だけで決めたわけではありません」


 リディアさんが別の書類を取り出す。


 そこには。


 俺たちがこれまで受けてきた依頼が記録されていた。


 採取。


 護衛。


 調査。


 討伐。


 そして。


 《石角羊》の緊急事態。


「二つ星冒険者として必要な経験を、三人とも積んできています」


「じゃあ、やっぱり石角羊三十七匹が――」


「違います」


「まだ最後まで言ってない!」


「分かります」


「なんで!?」


「ニールさんですから」


「ひどくない!?」


 リディアさんが小さく息を吐いた。


「以前も説明しましたが、強い魔物を倒せるから、星が増えるわけではありません」


「はい……」


「冒険者ランクは、単純な戦闘能力を示すものではありません」


 リディアさんが。


 俺たち三人を見る。


「依頼を任せられるか」


「…………」


「状況が変わった時、自分たちで判断できるか」


「…………」


「そして、生きて帰ってこられるか」


 俺は。


 胸の二つ星を見る。


「それが……星?」


「その一部です」


 リディアさんが頷いた。


「特に三つ星からは、ギルドが細かな指示を出せない依頼も増えてきます」


「細かな指示がない?」


「現地で何が起きるか分からない依頼です」


 なるほど。


 今回みたいな。


 想定していなかったことが起きる依頼。


「だから」


 リディアさんが続ける。


「今回、評価されたことの一つは――」


 地図を見る。


「《エルティア大森林》へ入らなかったことです」


「…………え?」


 俺は聞き返した。


「入らなかったこと?」


「はい」


「それが評価されるんですか?」


「されます」


 即答だった。


「皆さんは、森で明らかな異常を発見しました」


「はい」


「複数種の魔物が森から逃げている。行方不明だった冒険者からも、異常を裏付ける証言が得られた」


「うん」


「気になりましたね?」


「めちゃくちゃ」


「入りたかった?」


「……ちょっと」


「ニール」


「嘘ついてもしょうがないだろ!」


 でも。


「行かなかった」


「なぜです?」


 また。


 同じ質問。


 だから。


 同じ答えを返す。


「俺たちの依頼じゃなかったから」


 それに。


「二人を連れて帰る方が先だった」


「そうです」


 リディアさんが頷く。


「未知の異常を発見した時、興味だけで踏み込まない」


「…………」


「依頼の目的を忘れない」


「…………」


「仲間と救助対象の安全を優先する」


 そして。


「得た情報を、生きて持ち帰る」


 リディアさんが俺たちを見る。


「それも、冒険者の実力です」


 なんか。


 不思議だった。


 強い魔物を倒した時より。


 戦わなかったことを褒められている。


「以前のニールさんでしたら」


 リディアさんが言う。


「そのまま森へ入っていたのでは?」


「…………」


 想像する。


 少し前の俺。


 森で異変を発見。


 何かありそう。


 よし。


「……入ってましたね」


『――肯定』


「ベルトさん!」


 ミーナが笑う。


「装具にも分かるんだ」


「最近こいつ、俺に厳しくない!?」


 でも。


 否定はできない。


 たぶん。


 俺は。


 少しだけ変わった。


     ◇ ◇ ◇


「ハリトさん」


「はい」


「高所から周囲を確認し、複数の魔物の動きを発見したこと。そして、得た情報をすぐ仲間に共有したこと」


「はい」


「常に周囲と仲間を見ながら行動できています」


「ありがとうございます」


「ミーナさん」


「はい」


「追跡能力と観察力。そして先ほども言った通り、自分の判断で痕跡を追えたこと」


「……はい」


「十分、三つ星候補として評価できます」


「ありがとうございます」


 最後。


 リディアさんが俺を見る。


「ニールさん」


「はい!」


「声が大きいです」


「すみません」


「あなたについては」


 少し間があった。


「まだ心配です」


「俺だけ!?」


「ですが」


 続ける。


「以前より、止まれるようになりました」


「止まれる」


「はい」


「それ褒めてます?」


「とても」


「そうなの!?」


 シロナが横で微笑んでいる。


「ニールさんにとっては、大きな成長だと思いますよ」


「シロナまで!」


「褒めているんですよ?」


「だったらいいけど!」


 でも。


 なんとなく。


 分かる。


 前へ進むだけが。


 冒険じゃない。


 止まること。


 戻ること。


 仲間に任せること。


 それも。


 たぶん。


 前へ進むことなんだ。


「以上を含め」


 リディアさんが書類を指す。


「三名には、三つ星昇格試験を受ける資格があると判断されました」


「…………」


 三つ目の星。


 ずっと。


 目標にしていたもの。


「受けます」


 俺は言った。


「即答ですね」


「そりゃそうですよ!」


 ハリトを見る。


「ハリトは?」


「受けるよ」


 今度は。


 ミーナ。


「ミーナは?」


「聞く必要ある?」


「一応」


「受ける」


 ミーナが笑う。


「私だけ二つ星のままなんて嫌だし」


「よし!」


 三人。


 決定。


「では、三名とも受験希望として登録します」


 リディアさんが書類へ記入する。


「続いて、試験について説明します」


「はい!」


「今回の試験は、三名一組で行います」


「俺たち三人?」


「はい」


「よし」


「喜ぶのはまだ早いですよ」


「え?」


「三つ星昇格試験で確認されるのは、単純な戦闘能力ではありません」


 リディアさんが。


 一枚の依頼書を取り出した。


 机の上に置く。


 そこに書かれているのは。


 目的地。


 そして。


 達成条件。


「…………」


 俺は読む。


 もう一度読む。


「……これだけ?」


「はい」


「魔物の討伐は?」


「指定されていません」


「何匹倒せばいいとか」


「ありません」


「進む道は?」


「指定されていません」


「俺が前衛とか、ハリトが――」


「役割も指定しません」


「…………」


 なんだこれ。


 今までの依頼と違う。


「目的は決まっています」


 リディアさんが言う。


「ですが、そこへ辿り着く方法は指定されていません」


「…………」


「進む道」


「…………」


「戦うか、避けるか」


「…………」


「誰が何を担当するか」


「…………」


「続行するか、撤退するか」


 全部。


「皆さんで決めてください」


「正解は?」


 俺が聞く。


「ありません」


「ないの!?」


「目的を達成し、生きて帰ること。それが試験です」


 リディアさんが俺たちを見る。


「ただし、結果だけではなく、そこへ至るまでの判断も評価されます」


「なるほど」


 俺は依頼書を見る。


 道は。


 書いていない。


 攻略法も。


 書いていない。


「……面白そう」


「ニール」


「だってそうだろ?」


 俺はハリトとミーナを見る。


「俺たちで攻略法を考えていいんだぞ?」


「そういう言い方するの、たぶんニールだけだよ」


「でも」


 ミーナが依頼書を見る。


「ちょっと分かるかも」


「だろ?」


「ちょっとだけね」


「よし!」


     ◇ ◇ ◇


「あ」


 俺は。


 ふと思い出した。


「シロナは?」


「はい?」


「試験、一緒に来るの?」


 シロナが少し考える。


「分かりません」


「分からない?」


「昇格試験には試験官が同行します」


「じゃあシロナが」


「誰が担当するかは、ギルドが決めます」


「あ」


「私が選ばれれば同行しますが」


 シロナが微笑む。


「今の時点では、私にも分かりません」


「そっか」


 ちょっと残念。


 でも。


 俺はもう一度。


 依頼書を見る。


「まあ、誰が来ても同じか」


「おや」


「だって」


 依頼書を持ち上げる。


「考えるのは俺たちなんだろ?」


「はい」


「だったら」


 俺は二人を見る。


 ハリト。


 ミーナ。


「三人でやろうぜ」


「うん」


「もちろん」


 三人で。


 もう一度。


 依頼書を見る。


 俺一人じゃ。


 できないことはいっぱいある。


 足跡なんて読めない。


 周りを見るのも。


 たぶん、ハリトの方が上手い。


 考えるより先に動くことだってある。


 でも。


 ミーナには。


 俺に見えないものが見える。


 ハリトには。


 俺が気づけないものが分かる。


 そして。


 俺にだって。


 俺にしかできないことがある。


 なら。


 三人なら。


 できる。


「三つ星か」


 胸元に触れる。


 今は。


 二つ。


 次の一つは。


 誰かにもらうだけじゃない。


 自分たちで考えて。


 自分たちで選んで。


 自分たちで取りに行く。


「やろうぜ」


 俺は言った。


「次の星を取りに」


 三つ星昇格試験。


 俺たち三人の。


 次のクエストが決まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ニール、ハリト、ミーナ。


ついに三人が、★★★昇格試験へ挑むことになりました。


今回、ニールが評価されたのは、強い魔物を倒したことではありません。


むしろ――「森へ入らなかったこと」。


冒険者に必要なのは、戦う強さだけではない。


何をするべきか。

何をしないべきか。

いつ進み、いつ戻るのか。


それを自分たちで判断できることも、一つの「強さ」なのだと思います。


そして次はいよいよ★★★昇格試験。


目的は決まっている。

でも、攻略法は決まっていない。


ニールたちは、自分たちだけでどんな答えを出すのか。


次回もぜひお楽しみに!


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