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第二十二話『持ち帰るもの』(改訂版 ver.2.00)

《緊急依頼》は、ひとまず終了。


でも、《エルティア大森林》の異変が解決したわけではありません。


逃げていた魔物たち。

森の奥から響く音。

不自然に盛り上がった地面。

そして、あの音に反応するハリト。


分からないことばかりですが、冒険者の仕事は「答えを見つけること」だけではないようです。


戦って、守って、見て、聞いて。


そして――持ち帰る。


第二章 第二十二話『持ち帰るもの』


緊急依頼を終えた六人が、それぞれ何を持ち帰ったのか。


楽しんでいただけましたら、ぜひブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです!

《緊急依頼》が解除されたのは、日が傾き始めた頃だった。


 避難していた人たちは、ギルドから追加で派遣された冒険者たちに護衛され、順番にラグナードへ戻っていく。


 森の異変そのものが解決したわけじゃない。


 むしろ。


 分からないことは増えた。


 魔物たちは、何から逃げていたのか。


 森の奥から響く音は何なのか。


 不自然に盛り上がっていた地面は何なのか。


 そして。


 どうしてハリトは、あの音を知っているような気がするのか。


「ニール」


「ん?」


「歩きながら考えて」


 ハリトが言った。


「置いてくよ」


「え?」


 顔を上げる。


 みんな、もう先を歩いていた。


「待てよ!」


「遅い」


 カイルが振り返る。


「考え事しながら歩けないのか?」


「できるわ!」


「できてなかったじゃん」


 ミーナが笑う。


「うるさい!」


 俺は走って追いついた。


     ◇ ◇ ◇


 ラグナードへ戻ると、冒険者ギルドはいつも以上に混雑していた。


「北東街道第二避難地点、帰還しました!」


 オルドの声に、受付職員が顔を上げる。


「お疲れさまでした! こちらへお願いします!」


 案内されたのは、普段依頼を受ける受付とは別の場所だった。


 机の上には地図と何枚もの報告書。


 泥だらけの冒険者たちが次々と状況を伝えている。


「緊急依頼って、帰ってからも大変なんだな」


 俺が言う。


「むしろ、ここからが大事なんじゃない?」


 セラが答えた。


「集めた情報を整理しないと、何が起きているのか分からないもの」


「なるほど」


「ニールは報告苦手そうだね」


 ミーナが言う。


「できるし!」


「じゃあお願い」


「任せろ!」


 俺は受付へ向き直った。


「魔物がいっぱい来ました!」


「交代」


 ハリトが俺の肩を掴んだ。


「早くない!?」


「情報量が少なすぎる」


「いっぱい来たじゃん!」


「そういう問題じゃない」


 受付職員まで笑っていた。


     ◇ ◇ ◇


 結局、報告は六人で行った。


 グラスドッグ五匹。


 レイザーマンティス一匹。


 遅れていた商隊七人。


 避難していた人たち。


 怪我人の状態。


 魔物を討伐せず、進路を変えることで避難地点を守ったこと。


 魔物同士が争っていなかったこと。


 商隊の証言では、魔物たちも何かから逃げているように見えたこと。


 森から響いた低い音。


 地面を伝わってきた揺れ。


 そして、周辺調査に入った三つ星冒険者から聞いた、地面の異常。


「以上です」


 ハリトが締める。


「ありがとうございます」


 受付職員が記録をまとめた。


「こちらの報告は、《エルティア大森林》北東部の調査資料に追加されます」


「俺たちの報告も?」


 思わず聞いた。


「もちろんです」


「でも俺たち、二つ星ですよ?」


 受付職員が少し不思議そうな顔をした。


「星の数で、見たものが変わるわけではありませんから」


「…………」


「二つ星冒険者だから気づけることもあります。商人だから知っていることもあります。薬草採取者だから分かることもあります」


 俺はマルクさんを思い出した。


 水の音。


 薬草の状態。


 俺たちが知らないことを、あの人は知っていた。


「大切なのは、分からないことを勝手に決めつけず、見たことを正確に持ち帰ることです」


「持ち帰る……」


「はい。それも冒険者の仕事ですよ」


 魔物を倒す。


 依頼された物を届ける。


 誰かを護衛する。


 それだけじゃない。


 自分が見たものを。


 聞いたものを。


 次に判断する誰かのところまで持って帰る。


「なるほど……」


「ニールには難しそうだな」


 カイルが言った。


「なんでだよ!」


「お前、すぐ『たぶんこうだ!』って言いそうだろ」


「言わねえよ!」


「じゃあ、森の奥で何が起きてると思う?」


「巨大な古代魔物が地面の下で目覚め――」


「ほら」


「予想くらいいいだろ!」


 受付職員がまた笑った。


     ◇ ◇ ◇


「お疲れさまでした」


 聞き覚えのある声。


「あ」


 振り返る。


「シロナ!」


「ただいま戻りました」


 長い銀髪。


 白い服には少し泥がついている。


 でも、怪我はなさそうだ。


「大丈夫だった?」


 ミーナが駆け寄る。


「はい。ミーナさんたちもご無事で何よりです」


「シロナは何してたの?」


「北側の街道付近で、大型魔物の捜索をしていました」


「いた?」


「いいえ」


 シロナが首を振る。


「大型魔物そのものは確認できませんでした。ただ……」


「ただ?」


「北へ戻るはずの魔物が、南西へ移動していました」


 まただ。


「やっぱり逃げてる?」


 俺が聞く。


「その可能性はあります。ただし」


 シロナが俺を見る。


「まだ断定はできません」


「はい」


「いい返事ですね」


「今日それ何回も言われた!」


「良いことです」


 シロナが微笑んだ。


「冒険者は、分からないことを分からないまま持ち帰ることも必要ですから」


 やっぱり。


 四つ星も同じことを言うんだ。


「シロナさん」


 セラが一歩前へ出た。


「怪我人が一人います。腕を負傷していて、応急処置はしました。診てもらえますか?」


「もちろんです、セラさん」


「お願いします」


 シロナはすぐに怪我人のところへ向かった。


「……セラ」


「何?」


「シロナと知り合いだったっけ?」


「さっき紹介してもらった」


「いつ!?」


「ニールが受付で巨大な古代魔物の話してる時」


「俺だけ知らないところで交流が進んでる!」


「報告をちゃんと聞かないからだよ」


 ハリトが言った。


「ぐぬぬ……」


     ◇ ◇ ◇


 報告を終えると。


 ようやく。


「終わったあああ!」


 俺はギルドの食堂の椅子へ倒れ込んだ。


「疲れた!」


「まだ報酬もらってないよ」


 ミーナが隣に座る。


「じゃあ復活!」


「現金だな」


 カイルが呆れる。


「報酬は大事だろ!」


「それはそう」


 オルドが笑いながら座る。


 セラ。


 ハリト。


 ミーナ。


 カイル。


 オルド。


 そして俺。


 六人が同じテーブルにつく。


 なんだか久しぶりだ。


「そういや」


 俺はみんなを見る。


「ラグナードに来てから、六人で依頼するの久しぶりじゃない?」


「そうだね」


 セラが頷く。


「採石場以来かな」


「最近は別々だったしね」


 ミーナが言う。


「私はニールとハリトとシロナと一緒だったし」


「俺は武器の調整してた」


 カイルが答える。


 そう言いながら。


 さっきから何度も、自分の槍をちらちら見ている。


「カイル」


「なんだ?」


「嬉しいんだろ」


「何が?」


「《槍術Ⅰ》」


「…………」


 カイルが槍から目を逸らした。


「別に」


「絶対嬉しいじゃん!」


「うるせえ!」


「ニヤニヤしてた!」


「してねえ!」


「してたよ」


 ハリトが即答する。


「ハリト!?」


「僕も見た」


「私も」


 ミーナが手を挙げる。


「俺もだな」


 オルドまで。


「お前ら……!」


 カイルの顔が少し赤くなる。


 セラが笑った。


「初めての技能なんだから、嬉しくて当然でしょ」


「……まあ」


 カイルが小さく答える。


「ちょっとだけな」


「素直になった!」


「ニール、殴るぞ」


「なんで俺だけ!?」


「一番うるさいからだ」


 みんなが笑った。


「俺は買い物だな」


 オルドが話を戻す。


「弟たちに頼まれてたものがあって」


「私は魔法書を見てた」


 セラが言う。


「買ったの?」


「三冊」


「三冊!?」


「欲しい本はもっとあったけど」


「魔法使い怖い」


「どういう意味?」


「財布が」


 セラが笑う。


「だから依頼を受けるのよ」


「なるほど」


 冒険者って。


 ずっと同じ仲間と旅するものだと思っていた。


 でも、違うのかもしれない。


 一緒に依頼を受ける日もある。


 別々に過ごす日もある。


 それぞれにやりたいことがあって。


 必要な時に、また集まる。


「なんかいいな」


 俺が言う。


「何が?」


 カイルが聞く。


「こういうの」


「また始まった」


 ハリトが言う。


「何だよ!」


「ニールの『なんかいいな』」


「いいだろ別に!」


「説明できない時に言うよね」


「うっ」


「図星だ」


 ミーナが笑った。


     ◇ ◇ ◇


「お待たせしました!」


 受付職員がやってくる。


「《緊急依頼》の暫定報酬です」


「暫定?」


「緊急依頼は、後日追加評価が行われる場合があります。今回の皆さんは避難地点の防衛、商隊の救助、情報収集まで行っていますので」


「追加評価……」


 ミーナの目が光った。


「報酬増える?」


「可能性はあります」


「やった」


「ミーナ、顔」


「冒険者だもん。報酬大事でしょ?」


「さっき俺が言った時、カイルに現金って言われた!」


「私は言ってないもん」


「ずるい!」


 受付職員が笑いながら、報酬を置いていく。


「それと」


「まだ何か?」


「今回の緊急依頼への参加記録は、皆さんの活動実績としてギルドに残ります」


 俺は顔を上げた。


「活動実績?」


「はい。依頼の成功だけではありません。緊急時の判断、役割分担、避難者への対応、報告内容。それらも評価対象です」


「それって……」


 カイルが先に気づいた。


「三つ星への昇格にも?」


「もちろんです」


 六人が一瞬、黙った。


「三つ星……」


 俺は呟く。


 少し前まで。


 三つ星になれば、《エルティア大森林》の調査依頼を受けられると思っていた。


 でも。


 あの依頼はもう、掲示板から外されている。


 危険度の再査定。


 北東部への立ち入り制限。


 今は三つ星になったとしても、入ることはできない。


「ニール」


 ハリトが俺を見る。


「分かってるよ」


「何も言ってないけど」


「勝手に行ったりしない」


「ならいい」


「だから何で毎回分かるんだよ!」


「顔」


「そんなに出てる!?」


「かなり」


 ミーナまで頷いた。


     ◇ ◇ ◇


 料理が運ばれてくる。


 ラグナード焼き。


 肉料理。


 スープ。


 パン。


「いただきます!」


「ニール、早い!」


「腹減った!」


 食べる。


「うまっ!」


 今日。


 何度走っただろう。


 何度剣を抜いただろう。


 でも。


 不思議と、疲れているのに気分は悪くない。


「ニール」


「ん?」


 ハリトがスープを飲みながら聞いた。


「今日、森に行かなかったね」


「……うん」


「勇者なら行けって言われたのに」


「行きたかったけどな」


「知ってる」


「でもさ」


 パンをちぎる。


「俺が勇者だからって、俺しかできないわけじゃないんだなって」


「うん」


「三つ星の人が調べて。四つ星以上の人たちが次の調査をする。俺たちは避難地点を守った」


 みんな。


 自分のできることをした。


「それでいいんじゃないかなって」


「成長したじゃん」


 ミーナが言った。


「だろ?」


「LEVEL七になったしね」


「そっち!?」


「でも私もLEVEL六になったから、一しか違わないよ」


「俺が一つ上だからな!」


「すぐ追いつくもん」


「じゃあ競争だ!」


「望むところ!」


「お前ら、LEVELだけで競争するなよ」


 カイルが呆れた顔をする。


「LEVEL十が言うと腹立つ!」


「知らねえよ!」


 みんなが笑う。


 俺も笑った。


 LEVEL七。


 確かに数字は上がった。


 でも。


 今日の俺が昨日までの俺と違うのは、たぶんそれだけじゃない。


 行きたいと思った場所へ、行かなかった。


 自分より上の冒険者に任せた。


 守ると決めた場所を守った。


 分からないことを、分からないまま持ち帰った。


 そういうものも。


 きっと。


 俺の中に残っていく。


     ◇ ◇ ◇


「ところで」


 セラが食事をしながら言った。


「これからどうする?」


「これから?」


「ラグナードに来た目的は、いろんな依頼を経験することでしょ?」


「そうだった」


「忘れてたの?」


「忘れてない!」


「今の間は何?」


「確認しただけ!」


 セラが笑う。


「《エルティア大森林》は気になる。でも、私たちはまだ二つ星」


「うん」


 俺は頷く。


「だったら」


 オルドが言う。


「今の俺たちに受けられる依頼をやっていけばいいんじゃないか?」


「普通だな」


 カイルが言う。


「普通でいいだろ」


 オルドが笑った。


「冒険者なんだから」


 その言葉に、なんとなくみんなが頷いた。


 明日は別々の依頼を受けるかもしれない。


 また六人で受けるかもしれない。


 まだ会ったことのない誰かと組むかもしれない。


 それでいい。


 それぞれに経験を積んで。


 必要な時に、また集まればいい。


「よし!」


 俺は立ち上がった。


「明日も依頼探そうぜ!」


「座って食べなよ」


 ハリトが言う。


「あ」


 まだラグナード焼きが半分残っていた。


「冷める!」


「だから言ったじゃん」


 慌てて座る。


 ミーナが笑う。


 カイルが呆れる。


 オルドが肉を追加で頼む。


 セラは買った魔法書を開こうとして、全員に止められた。


「皆さん、楽しそうですね」


 声がした。


 怪我人の処置を終えたシロナが、俺たちのところへ戻ってきた。


「シロナも食べる?」


 ミーナが聞く。


「ありがとうございます。ですが、今日は先に休ませていただきます」


「そっか」


 俺は思い出した。


「明日、森に行くんだよな」


「はい」


 シロナはいつもの穏やかな表情で頷いた。


「明朝、先遣調査隊と合流します」


 四つ星以上を中心に編成される調査隊。


 俺たちには、まだ任されない仕事。


「気をつけてな」


「ありがとうございます、ニールさん」


「シロナ」


 ハリトが呼んだ。


 シロナが振り返る。


「はい、ハリトさん」


「…………」


 ハリトは少しだけ黙った。


「気をつけて」


「はい」


 シロナが微笑む。


「行ってきます」


 それだけ言って、シロナは食堂を出ていった。


「…………」


 ハリトは、その背中をしばらく見ていた。


「ハリト?」


「何?」


「いや」


 俺は首を振った。


「なんでもない」


 また食事に戻る。


 話して。


 笑って。


 今日の依頼であったことを、何度も話した。


 でも。


 少し経った頃。


 ズン――。


「…………」


 遠く。


 街の外から。


 あの低い音が響いた。


 ほんのわずか。


 ギルドの喧騒に紛れてしまいそうな音。


 だけど。


 ハリトは。


 すぐに顔を上げた。


 北東。


 《エルティア大森林》の方角へ。


 俺は何も言わなかった。


 あの森で何が起きているのか。


 ハリトが何を感じているのか。


 まだ、分からない。


 分からないなら。


 今は、勝手に答えを決めなくていい。


 今日。


 俺たちはたくさんのものを持ち帰った。


 情報。


 報酬。


 経験。


 そして。


 まだ答えの出ていない――いくつもの疑問。


 それもきっと。


 冒険者が持ち帰るものなんだ。

今回は『持ち帰るもの』でした。


個人的に今回の中で大切にしたかったのが、


「分からないことを、分からないまま持ち帰る」


という冒険者の仕事です。


魔物を倒すことだけが冒険じゃない。


情報を持ち帰ることも、誰かに任せることも、行きたい場所へあえて行かないこともある。


そしてニールたちが持ち帰ったのは、情報や報酬だけではありません。


緊急依頼で得た経験。

仲間と役割を分担した経験。

カイルが手にした《槍術Ⅰ》。

そして、まだ答えの出ていない疑問。


ニールもLEVEL七になりましたが、数字とは別のところでも少しずつ《冒険者》になってきたように思います。


一方、《エルティア大森林》の調査は危険度が引き上げられ、今度はシロナたち四つ星以上の先遣調査隊へ。


そして最後。


森から再び響いた音に、真っ先に反応したのは――ハリトでした。


なぜなのか。


まだ答えは出ません。


今はその疑問も、いったん持ち帰っていただければと思います。


ここまで読んでくださってありがとうございます!


続きが気になる、六人のわちゃわちゃが好き、そしてハリト、お前いったい何なんだと思っていただけましたら、ぜひブックマーク・評価で応援よろしくお願いします!

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