第十八話『緊急依頼』(改訂版 ver.1.01)
鳴り響いた、緊急招集の鐘。
《エルティア大森林》周辺で続いていた異変は、ついに街道を利用する人々にも影響を及ぼし始めます。
二つ星は避難誘導と救助。
三つ星は調査と迎撃。
四つ星以上は大型魔物への対応。
同じ冒険者でも、星によって任される役割は違う。
そして今回は、シロナとも別行動。
ニール、ハリト、ミーナ。
さらにカイル、オルド、セラ。
久しぶりに六人が揃います。
強くなったからといって、何をしてもいいわけじゃない。
「今の自分たちに任された仕事は何なのか」
ニールたちにとって初めての《緊急依頼》が始まります!
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その音が鳴ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。
カン――。
カン――。
カン――。
「……何?」
ミーナが顔を上げる。
《ラグナード》の冒険者ギルド。
俺たちは結局、午前中に良さそうな依頼を決められず、併設された食堂で昼飯を食べていた。
目の前には、食べかけの《ラグナード焼き》。
「鐘?」
俺も入口を見る。
カン――。
もう一度。
さっきまで騒がしかったギルドが、静まり返っていた。冒険者たちが立ち上がり、受付職員たちが一斉に動き始める。
「シロナ?」
向かいに座っていたシロナを見る。
表情が変わっている。
「緊急招集です」
「緊急……?」
「《緊急依頼》が出ます」
◇ ◇ ◇
「現在、《エルティア大森林》に近い北東街道付近で、複数の魔物が確認されています!」
ギルド中央に職員の声が響く。
大きな地図が広げられ、その周りに冒険者たちが集まっていた。
「大森林から出てきた魔物か?」
誰かが聞いた。
「現時点では断定できません! ただし街道を利用していた商人から、通常より多数の魔物を確認したとの報告が入っています!」
ざわめきが広がる。
《エルティア大森林》。
調査班が異常を報告したばかりだ。
「確認された魔物は?」
「《グラスドッグ》、《クリフジャッカル》、それに《レイザーマンティス》!」
「《レイザーマンティス》まで街道に?」
「またかよ……」
俺とハリトは顔を見合わせた。
《ラグナード》へ来る途中でも遭遇した、本来ならもっと深い森にいるはずの魔物。
「さらに大型魔物らしき目撃情報があります。ただし、種類は未確認です」
職員が続ける。
「現在、街道上には避難できていない旅人や商人がいる可能性があります。ギルドはこれを《緊急依頼》として扱います!」
空気が一気に張り詰めた。
「参加条件は?」
冒険者の一人が聞く。
「役割によって異なります!」
地図の上に、いくつか印が置かれる。
「二つ星冒険者は街道周辺の避難誘導、救助、物資運搬、および安全区域での警戒!」
俺は自分のギルドプレートを見る。
★★。
「三つ星は周辺調査および魔物の迎撃!」
そして。
「四つ星以上は大型魔物の捜索、および必要に応じて討伐!」
「…………」
俺は隣を見る。
シロナ。
★★★★。
「シロナは……」
「はい」
シロナも地図を見ていた。
「私はそちらでしょうね」
「別行動?」
「おそらく」
なんだろう。
分かっていたはずなのに、少しだけ変な感じがした。
シロナは俺たちと一緒に依頼を受けていた。
でも、俺たちと同じ二つ星じゃない。
LEVEL二十六。
四つ星の冒険者なんだ。
「シロナ」
ミーナが言った。
「気をつけてね」
「ありがとうございます、ミーナさん」
「怪我しないでよ」
「善処します」
「そこは『しません』って言うところじゃない?」
「冒険者ですから、約束できないことは約束しません」
「……シロナらしい」
ミーナが笑った。
「ニールさん」
「何?」
「勝手にこちらへ来ないでくださいね」
「なんで俺だけ!?」
「来そうだからです」
「行かないよ!」
「本当に?」
「……たぶん」
「ニール」
ハリトが言う。
「そこは言い切ろう」
「行きません!」
「よろしい」
「なんでシロナに怒られてるんだ俺!」
◇ ◇ ◇
「ニール!」
聞き覚えのある声がした。
「カイル!」
人混みの向こうから三人が来る。
槍を背負ったカイル。
盾を持ったオルド。
杖を持ったセラ。
「お前らもいたのか」
「緊急招集の鐘が聞こえたから来た」
カイルが答える。
「状況は?」
ハリトが簡単に説明する。
魔物の増加。
旅人の避難。
俺たち二つ星には、救助と警戒が割り振られること。
「なるほどな」
カイルが槍を握る。
「じゃあ俺たちも行く」
「六人だね」
ミーナが笑った。
俺。
ハリト。
ミーナ。
カイル。
オルド。
セラ。
二つ星への昇格試験を一緒に受け、《ラグナード》までの護衛も共にした六人。
最近はそれぞれ別の依頼を受けていた。
でも。
また揃った。
「久しぶりだな」
オルドが笑う。
「そんなに経ってないだろ」
「ニールが毎日騒いでるから、長く感じるんじゃない?」
セラが穏やかに言った。
「セラまで!?」
「冗談よ」
「みんな俺で遊ぶようになってない!?」
「扱い方を覚えたんだろ」
カイルが鼻で笑う。
「お前が一番腹立つ!」
「元気そうで何よりだ」
「喧嘩は後です」
シロナの一言。
「はい」
なぜか全員黙った。
強い。
四つ星、こういうところも強い。
◇ ◇ ◇
「二つ星の方はこちらへ!」
職員に呼ばれ、俺たち六人は別の受付へ向かった。
「皆さんには北東街道の第二避難地点へ向かっていただきます」
示された地図には、《ラグナード》から北東へ延びる街道と、その途中に小さな印がついていた。
「ここは?」
セラが聞く。
「街道沿いの休憩所です。旅人や商人が一時的に避難しています」
「何人くらい?」
オルドが聞く。
「現時点で二十人前後。ただし、まだ到着していない一団がいるとのことです」
「俺たちの仕事は?」
カイルが聞く。
「避難地点の防衛と、到着した方々の誘導です。周辺に魔物が現れた場合は――」
「倒す?」
俺が聞く。
「必要なら」
職員が俺を見る。
「ただし、追わないでください」
「…………」
「ニールさん?」
遠くからシロナの声。
「分かってるよ!」
なんで聞こえてるんだよ!
周囲から笑いが起きる。
「大型魔物を確認した場合は?」
ハリトが聞いた。
「戦闘を避け、これを使用してください。三つ星以上の班を向かわせます」
職員が小さな筒を差し出す。
赤い印がついている。
「緊急信号弾です」
ハリトが受け取った。
「僕が持つよ」
「頼む」
俺が持つより絶対いい。
「ニール、自覚あるんだ」
「どういう意味だよ!」
◇ ◇ ◇
出発前。
ギルド前には何組もの冒険者が集まっていた。
二つ星。
三つ星。
四つ星。
普段なら同じ掲示板を見ているだけの冒険者たちが、それぞれの役割を与えられていく。
「なんか……すごいな」
俺は呟いた。
「何が?」
ミーナが聞く。
「みんな違う仕事するんだな」
「そりゃそうでしょ」
「いや、そうなんだけど」
今まで。
ランクが高いって、単純に強い魔物と戦えるってことだと思っていた。
でも違う。
四つ星には四つ星の仕事。
三つ星には三つ星の仕事。
そして。
二つ星にも、俺たちに任された仕事がある。
「ニールさん」
シロナが近づいてきた。
杖を背負っている。
もう出発するらしい。
「シロナ」
「私は先に行きます。他の四つ星冒険者と合流します」
「そっか」
「皆さんもお気をつけて」
「シロナもな」
「はい。それと――」
「追わない!」
「まだ言っていません」
「どうせそれだろ!」
「違います」
「え?」
シロナが少し笑う。
「自分たちの仕事をしてください」
「…………」
「それで十分です」
そう言って、シロナは歩き出した。
俺はその背中を見る。
四つ星。
俺たちより、ずっと先を歩いている冒険者。
でも。
「よし!」
頬を叩く。
「行こう!」
「切り替え早いね」
ハリトが言う。
「俺たちには俺たちの仕事がある!」
「それ、今シロナが言ったやつじゃん」
ミーナが笑う。
「いい言葉はすぐ使う!」
「堂々と言った」
「行くぞ!」
俺たちは六人で街道へ向かった。
◇ ◇ ◇
《ラグナード》を出て、北東街道を走る。
いつもなら商人や旅人が行き交う道。
今日は静かだった。
「変だね」
ハリトが言った。
「何が?」
「鳥が少ない」
俺は空を見る。
言われて初めて気づく。
「ミーナ?」
「うん」
ミーナの獣耳が動く。
「静かすぎる」
カイルが槍を構える。
「魔物か?」
「分かんない。でも……」
ミーナが鼻を動かす。
「匂いはする」
「どっち?」
オルドが盾を前へ出す。
「森の方」
全員が《エルティア大森林》の方角を見る。
木々が揺れている。
風?
違う。
森の奥から、何かが移動している。
「急ごう」
ハリトが言った。
「第二避難地点まで、あとどれくらい?」
「この速度なら、もうすぐ」
セラが地図を確認する。
俺たちは速度を上げた。
少し進むと、道の先に建物が見えた。
「あれだ!」
街道沿いの休憩所。
その周囲に人が集まっている。
「着いた!」
でも。
様子がおかしい。
「誰か!」
男がこちらへ走ってくる。
「冒険者か!?」
「そうです!」
俺が答える。
「ギルドから来ました!」
「助かった! まだ戻ってないんだ!」
「何が?」
ハリトが聞く。
「商隊だ!」
俺たちは顔を見合わせる。
「何人?」
オルドが聞く。
「七人!」
「場所は?」
「ここへ向かってるはずだった! でも来ない!」
「最後に確認したのは?」
ハリトが聞く。
「街道の北側だ! もうとっくに着いてるはずなんだ!」
森を見る。
静かだ。
静かすぎる。
「どうする?」
カイルが俺を見る。
「助けに行く?」
ミーナも聞く。
俺は答えかけた。
――行こう。
いつもの俺なら、たぶんそう言っていた。
でも。
止まった。
俺たちの仕事は、第二避難地点の防衛。
到着した人たちの誘導。
ここには二十人近い人がいる。
まだ来ていない七人を助けたい。
当然だ。
でも六人全員でここを離れたら?
今いる二十人は、誰が守る?
「…………」
考えろ。
勇者だからじゃない。
冒険者として。
「ハリト」
「うん」
「まず状況を確認しよう」
ハリトが少し笑った。
「僕もそう思う」
「ミーナ」
「何?」
「ここから匂い、追える?」
「やってみる」
「オルドとセラは避難してる人たちを見てくれ」
「分かった」
「ええ」
「カイル」
「俺は?」
「俺と周囲の警戒」
「了解」
カイルが槍を肩に乗せる。
「ちょっとは考えるようになったじゃねえか」
「ちょっとは余計だ!」
でも今は、飛び出さない。
まず見る。
考える。
それから決める。
俺たちは二つ星。
まだできないことは多い。
でも。
二つ星だからこそ、任された人たちがいる。
その時だった。
『――警戒』
「!」
腰から聞こえた声に、全員が反応した。
青の《勇者装具》。
俺はすぐに周囲を見る。
「何かいるのか?」
『――肯定』
短い返事。
「どこだ?」
『――接近』
「何が?」
一瞬の沈黙。
『――複数』
ハリトの表情が変わった。
「全員、警戒!」
カイルが槍を構える。
オルドは避難している人たちの前へ出て盾を構え、セラがその後ろで杖を握った。
「どっちから来る!?」
俺が聞く。
『――回答不能』
「そこまでは分からないのか!」
装具は答えない。
危険が近づいている。
それだけ。
どうするかは。
俺たちが決める。
「ニール!」
ミーナの声が飛んだ。
「何か分かった!?」
ミーナは森ではなく、街道の先を指差していた。
「聞こえる!」
「何が?」
「馬!」
全員が振り返る。
遠く。
街道の向こうから。
微かに、馬の蹄の音が聞こえてきた。
でも。
一つじゃない。
ドドドドドド――。
「……速くない?」
セラが呟く。
ミーナの表情が変わった。
「違う」
「え?」
「馬だけじゃない」
獣耳がぴんと立つ。
「何か――追ってきてる!」
『――危険』
青の《勇者装具》が、もう一度告げた。
今度は誰も聞き返さなかった。
ハリトが弓を抜く。
カイルが槍を構える。
オルドが盾を上げる。
セラが杖を握る。
ミーナが短剣を抜く。
俺も剣を抜いた。
「来るぞ!」
街道の向こう。
土煙の中から、必死に走る馬車が姿を現した。
その後ろを。
いくつもの影が追っていた。
俺たち六人の。
初めての《緊急依頼》が始まった。
ついに始まった、初めての《緊急依頼》。
今回は戦闘そのものより、その直前のニールの判断を大切にしました。
戻ってこない七人の商隊。
当然、助けに行きたい。
以前のニールなら、おそらく真っ先に飛び出していたと思います。
でも今回は、
「六人全員でここを離れたら、今いる二十人は誰が守る?」
と、一度立ち止まりました。
《エルナ渓谷》でシロナから教わったこと。
依頼には目的があること。
戦えるからといって、戦う必要はないこと。
そして、自分たちに任された役割を果たすこと。
シロナがいないところで、それをニール自身が考えられるようになっています。
LEVELが上がるだけじゃない。
こういうところも、ニールの「成長」です。
そして久しぶりに揃った、
ニール、ハリト、ミーナ、カイル、オルド、セラの六人。
さらに今回は、青の《勇者装具》も、
『――警戒』
『――接近』
『――複数』
『――危険』
と、少しだけ六人を助けてくれました。
ただし、装具が教えてくれるのは「危険がある」ということだけ。
どこから来るのか。
何が来るのか。
そして、どうするのか。
それを見つけ、考え、決めるのはニールたち自身です。
さて。
必死に走ってくる馬車。
その後ろから迫る、いくつもの影。
ここからは――
二つ星冒険者たちの仕事です。
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