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第十五話『乾杯』(改訂版 ver.1.01)

《エルナ渓谷》での護衛を終え、ようやく《ラグナード》へ帰ってきたニールたち。


でも――帰ってきただけでは、依頼は終わりません。


依頼人の評価。


危険への対処。


持ち帰った情報。


そして、冒険者としての判断。


今回の経験は、ニールたちの「二つ星冒険者」としての実績になっていきます。


そして夜は、四人で初めての依頼達成を祝って乾杯!


……のはずが、ニールはさっそくシロナの魔法に興味津々のようです。


今回も楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 《ラグナード》の城門をくぐった頃には、空がすっかり赤くなっていた。


「帰ってきたあ……」


 街に入った瞬間、全身から力が抜ける。


「ニールさん」


「分かってる。まだ終わってないんだろ?」


「おや」


 シロナが少し驚いた顔をした。


「学習しましたね」


「俺をなんだと思ってるの!?」


「知らない穴を見つけると入りたがる人です」


「まだ一回も入ってないから!」


「入ろうとはしたよね」


 ハリトが言う。


「ハリトはどっちの味方だよ!」


「事実の味方」


「一番強いやつ!」


 ミーナが吹き出した。


 隣ではマルクさんも笑っている。


「まあ、こいつらのおかげで俺も薬草も無事だ」


 そう言って、背負い籠を叩いた。


「これを届けて、ギルドで報告すりゃ依頼完了だな」


「よし!」


「だからまだ終わってませんよ、ニールさん」


「今から終わらせるの!」


     ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルドへ戻ると、夕方ということもあって中は賑わっていた。


 依頼を終えて帰ってきた冒険者。酒を飲んでいる奴。明日の依頼を探している奴。


 俺たちは受付へ向かう。


「あ、お帰りなさい」


 リディアさんが俺たちに気づいた。


「ただいま!」


「全員無事ですね」


「もちろん!」


「マルクさんは?」


「無事だ」


 マルクさんが手を上げる。


「途中で足を捻ったが、シロナさんに治してもらった」


「怪我を?」


 リディアさんの表情が仕事の顔に変わる。


「何がありました?」


「俺から話そう」


 マルクさんが説明する。


 渓谷での増水。


 《クリフジャッカル》。


 帰路で見つけた大きな足跡。


 そして――。


「《岩甲狼》?」


 リディアさんの眉が動いた。


「間違いありませんか?」


「はい」


 シロナが答える。


「私も確認しました。成獣だと思います」


「場所は?」


 シロナが地図を受け取る。


「この辺りです」


 指を置く。


 リディアさんはすぐに別の紙へ何かを書き込んだ。


「通常、《岩甲狼》はもう少し北側の岩山に生息しています」


「また生息地が違う?」


 俺が聞く。


「断定はしません」


 リディアさんが俺を見る。


「はい」


 言われる前に答えた。


「……本当に学習しましたね」


「なんでみんな俺をなんだと思ってるの!?」


 ミーナが横で笑っている。


「ただ、報告は上げておきます。旧採石場の件もありますから」


 やっぱり。


 何かが少しずつ、おかしくなっている。


 でも今の俺たちに分かるのは、それだけだ。


「それで」


 リディアさんがマルクさんを見る。


「依頼についてはいかがでしたか?」


「文句なしだ」


 即答だった。


「増水に気づいたのはミーナ。魔物が出た時も、俺を優先して守ってくれた」


「へへ」


 ミーナの尻尾が上がる。


「ハリトは?」


「周りをよく見てた。俺には何が見えてるのか分からんくらいにな」


「ありがとうございます」


「ニールは――」


「俺は!?」


「うるさかった」


「そこ!?」


「冗談だ」


 マルクさんが笑う。


「俺が足を捻った時、すぐ背負ってくれた。薬草も無事だった」


「よし!」


「ただし」


「まだあるの!?」


「薬草を潰しそうだった」


「潰してない!」


「結果的にはな」


「厳しい!」


 リディアさんが笑いを堪えながら、最後にシロナを見る。


「シロナさんについては……聞くまでもなさそうですね」


「私は必要なことをしただけです」


「それができるから四つ星なんでしょうね」


 リディアさんは依頼書に印を押した。


「《薬草採取者の護衛》――達成を確認しました」


「よっしゃ!」


 依頼完了。


 何度聞いても、この瞬間は嬉しい。


     ◇ ◇ ◇


 報酬を受け取り、四人で分ける。


「はい」


 俺はシロナへ硬貨を渡した。


「ありがとうございます」


「……なんか変な感じだな」


「何がです?」


「四つ星なのに、俺たちと同じ報酬でいいの?」


「同じ依頼を受けたのですから、同じでいいでしょう」


「もっと欲しくない?」


「では、ニールさんの分をいただきましょうか?」


「やっぱ駄目!」


「冗談です」


「シロナの冗談分かりづらいんだよ!」


「私は分かるようになってきたよ」


 ミーナが言う。


「早くない!?」


「ニールが分かりやすいだけじゃない?」


「なんで俺基準なの!?」


 そんなことを話していると、リディアさんに呼び止められた。


「皆さん」


「はい?」


「今回の報告は、皆さんの活動記録にも残ります」


「活動記録?」


「ギルドでは依頼を達成した数だけを見ているわけではありません。依頼人からの評価。危険への対処。情報の報告。判断。協力。そういったものも記録されています」


「へえ……」


「今回で言えば、増水を事前に察知したこと。正体不明の足跡を追わず、依頼を優先したこと。《岩甲狼》との不要な戦闘を避けたこと。そして、その情報を正確に持ち帰ったこと」


 俺はシロナを見る。


 今日一日で教えてもらったことばかりだ。


「そういうものが、次の星につながります」


「次の……」


 俺は自分のギルドプレートを見る。


 ★★。


 二つ星。


「三つ星?」


「まだですよ」


「ですよね!」


 即答だった。


「ですが」


 リディアさんが少し笑う。


「ちゃんと近づいています」


「……!」


 なんか。


 それは嬉しかった。


 LEVEL六になった時とは、また違う。


 青の勇者だからじゃない。


 特別扱いされたわけでもない。


 俺たちが受けた依頼。


 俺たちがした判断。


 俺たちが持ち帰った情報。


 それが、ちゃんと積み重なっている。


 LEVELと星は違う。


 LEVELは、俺自身が積み上げてきた力。


 星は、冒険者として積み上げてきた信頼。


 どちらも数字は増えていく。


 だけど。


 同じ「強くなる」じゃないんだ。


「三つ星になったら、もっと難しい依頼受けられるんだよな?」


「はい」


「もっと遠くにも?」


「依頼次第では」


「遺跡とか!」


「ニールさん」


 シロナが呼ぶ。


「何?」


「知らない穴には入らない」


「遺跡は穴じゃないだろ!」


「そこですか?」


 ミーナが笑った。


     ◇ ◇ ◇


 その夜。


 宿屋の食堂。


「乾杯!」


「何に?」


 ハリトが聞く。


「四人で初めて依頼達成したんだから、それに決まってるだろ!」


「なるほど」


「じゃあ乾杯!」


 ミーナはすぐに乗ってきた。


「シロナも!」


「分かりました」


 俺たちは木の杯を持ち上げる。


 中に入っているのは、果実を使った甘い酒だ。


 この国では十五歳になれば成人として扱われる。酒を飲むことだってできる。


「四人の初クエスト達成に!」


「乾杯!」


 杯がぶつかる。


 一口飲んでみる。


「……甘っ!」


「ニール、酒弱い?」


「違う! 思ってたより甘かっただけ!」


「顔赤くなってない?」


「夕焼け!」


「もう夜だよ」


「…………」


 ミーナが笑う。


「弱いんじゃん」


「一口だぞ!?」


 ハリトも杯を口に運びながら笑っている。


「LEVELは酒の強さには関係ないみたいだね」


「なんでもLEVELに結びつけるな!」


 食卓には焼いた肉、野菜の煮込み、パン。


 そして。


「これ何?」


「《ラグナード焼き》だって」


 ミーナが言った。


 薄い生地に肉と野菜と溶けたチーズが包まれている。


「昨日も食べたやつ!」


「美味しかったからまた頼んだ」


「俺も!」


 かぶりつく。


「うまっ!」


「だから声大きいって」


 四人で食べる。


 くだらない話をする。


 今日の戦いの話。


 マルクさんの薬草の話。


 LEVEL五になったミーナが「あと一つ」と俺を追いかけてくる話。


 LEVEL七なのに、その争いにまったく参加する気のないハリトの話。


 そして、LEVEL二十六の四つ星なのに、意外と冗談を言うシロナの話。


「そういえば」


 俺はシロナを見る。


「今日使ってた魔法」


「どれです?」


「白い壁のやつ!」


「《光壁》ですか?」


「それ!」


 俺は身を乗り出した。


「あれ、俺も使える?」


「ニールさんは水属性ですよね?」


「うん」


「では、《光壁》をそのまま使うのは難しいでしょうね」


「ええー」


「ですが、水なら水で似たことはできますよ」


「マジで!?」


「例えば水を面状に固定して――」


「教えて!」


「今ですか?」


「今!」


「食事中ですよ?」


「じゃあ食べ終わったら!」


 ハリトが笑う。


「始まった」


「何が?」


「ニールが新しいものを見つけた時のやつ」


「だって知らない魔法だぞ!」


 俺はシロナを見る。


「教えて!」


 シロナは少し困ったように笑った。


「基礎だけですよ」


「よっしゃ!」


「明日の朝です」


「今じゃ駄目?」


「朝です」


「はい……」


 ミーナが笑った。


「完全に先生と生徒じゃん」


「シロナ先生!」


「やめてください」


 即答だった。


 でも。


 シロナは少し笑っていた。


     ◇ ◇ ◇


 翌朝。


「《光壁》!」


 何も起きなかった。


「…………」


 もう一度。


「《光壁》!」


 やっぱり何も起きない。


「なんでだ!」


「何をしているんですか、ニールさん」


「うわっ!?」


 振り返る。


 シロナが立っていた。


「いつからいたの?」


「一回目の《光壁》からです」


「最初からじゃん!」


「はい」


「声かけてよ!」


「面白かったので」


「シロナってたまに性格悪いよな!?」


「気のせいです」


 絶対違う。


「それで」


 シロナが俺の手を見る。


「昨日の魔法を使おうとしていたのですか?」


「そう!」


「どうやって?」


「どうやってって……」


 俺は両手を前に出す。


「《光壁》って」


「それだけですか?」


「それだけ」


「使えるわけがないでしょう」


「なんで!?」


「名前を言えば魔法が使えるなら、世界中が魔法使いだらけですよ」


「たしかに!」


「納得が早いですね」


 シロナが小さく笑った。


「そもそもニールさんは、水魔法をどうやって使っているんですか?」


「どうって言われても……」


 右手を出す。


 身体の中にある何かを、腕へ。


 手へ。


 外へ。


 水が浮かんだ。


 小さな球になって、手のひらの上で揺れる。


「こんな感じ」


「……やはり」


「何?」


「ニールさん」


 シロナが俺の《水球》を見る。


「誰に魔法を習いました?」


「誰って……」


 考える。


 父さんじゃない。


 母さんでもない。


「誰にも」


「そうですよね」


「なんで分かるの?」


「普通は、そんな使い方をしませんから」


「え?」


 シロナの一言で。


 俺は初めて知った。


 俺が当たり前だと思っていた魔法は。


 どうやら。


 全然、当たり前じゃないらしい。

今回で、四人で挑んだ初めての護衛依頼――無事達成です!


そして今回、改めて描きたかったのが、


「LEVEL」と「星」は違う。


ということでした。


LEVELは、その人自身が積み上げてきた力。


一方、冒険者の星は依頼人からの評価や判断、協力、報告などを積み重ねて得ていく冒険者としての信頼です。


ニールはLEVEL六。


ハリトはLEVEL七。


ミーナはLEVEL五。


シロナはLEVEL二十六。


でも、数字が上がったからといって、それだけで一人前の冒険者になれるわけではありません。


今回ニールたちが積み上げたのは、魔物を倒した実績だけではなく、


「この人たちなら依頼を任せられる」


という、小さな信頼でした。


そして依頼を終えた夜は、四人で乾杯!


この世界では十五歳から成人なので、十五歳のニールもお酒を飲めます。


ただし――


飲めることと、酒に強いことは別問題です(笑)


そして翌朝。


シロナの《光壁》を真似しようとしたニールでしたが、思わぬことを指摘されました。


「普通は、そんな使い方をしませんから」


ニールがずっと当たり前だと思っていた《水球》。


どうやらその「当たり前」は、他の魔法使いにとっての当たり前ではないようです。


シロナ先生(本人は否定しています)による魔法講座は、ここから始まる……かもしれません。


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