↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/99

第十四話『戦わないという選択』(改訂版 ver.2.00)

薬草の採取を終え、あとは《ラグナード》へ帰るだけ。


……なのですが。


帰るまでが護衛依頼。


行きとは違う異変に気づいたシロナは、迷わず「戦わない」という判断をします。


倒せる相手なら、倒せばいい。


強い冒険者なら、戦えばいい。


ニールがなんとなく持っていたそんな「強さ」のイメージを、四つ星冒険者のシロナが少しずつ変えていきます。


果たして四人は、マルクさんと《青鈴草》を無事に《ラグナード》まで送り届けられるのか。


四人での初めての護衛依頼、帰り道です!


今回も楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 LEVEL五。


 その数字がよほど嬉しいらしい。


「ニール、足元気をつけて」


「分かってるよ」


「LEVEL五からの忠告ね」


「なんでちょっと偉そうなの?」


「だって、あと一つで追いつくし」


「まだ俺の方が上だろ!」


「今だけね」


「絶対追いつくつもりだ!」


 薬草採取を終えた俺たちは、《ラグナード》へ向かって《エルナ渓谷》を戻っていた。


 先頭は俺。


 少し後ろにマルクさん。


 左右をハリトとミーナが警戒し、最後尾をシロナが歩いている。


 行きに増水した川は、まだ流れが速い。だから帰りも川沿いを避け、高い場所を選んで進んでいた。


「それにしても」


 俺は後ろを振り返る。


「シロナって、ずっと後ろにいるよな」


「そうですね」


「前に出なくていいの?」


「必要なら出ますよ」


「でもLEVEL二十六だろ?」


「はい」


「だったら先頭にいた方が安全じゃない?」


 シロナは少し考えた。


「ニールさん。護衛で一番危ない場所は、どこだと思いますか?」


「一番危ない場所?」


「はい」


「……前?」


「どうしてです?」


「敵が来そうだから」


「では、後ろから来たら?」


「後ろ」


「上からなら?」


「上」


「崖が崩れたら?」


「……全部?」


「そういうことです」


 シロナが微笑む。


「どこが危険なのか分からないから、全体を見る人が必要なんですよ」


「なるほど……」


 俺は前を見る。


 敵を倒せる。


 魔法が使える。


 LEVELが高い。


 強い冒険者って、そういうものだと思っていた。


 でも、シロナを見ていると、なんか違う。


「だから私が後ろにいます」


「一番後ろなら、みんなが見えるから?」


「それもあります」


「それも?」


「ニールさんを前に置いておけば、勝手に危険を見つけてくれそうなので」


「俺、罠扱い!?」


「囮かな」


 ハリトが言った。


「ひどくない!?」


「大丈夫。LEVEL六の囮だから」


 ミーナが笑う。


「俺のLEVELをそういうことに使うな!」


「私も早く六にならないとなあ」


「囮になるために!?」


 マルクさんの笑い声が渓谷に響いた。


     ◇ ◇ ◇


 しばらく進んだところで、シロナが突然立ち止まった。


「止まってください」


 声が違った。


 さっきまでの柔らかい声じゃない。


 俺たちはすぐに足を止める。


「どうした?」


 ハリトが聞く。


 シロナは答えず、地面を見ていた。


「シロナ?」


 ミーナが近づこうとする。


「ミーナさん。そのままで」


「……分かった」


 シロナがしゃがみ、岩の隙間に指を近づける。


 触れない。


 ただ、見る。


「何かあるの?」


「足跡です」


「足跡?」


 俺も見てみる。


 土の上に何かの跡がある。


 でも。


「……どれ?」


「これです」


「分からん」


「でしょうね」


「なんでちょっと嬉しそうなの!?」


 ハリトも覗き込む。


「大きいね」


「はい」


「四本脚?」


「おそらく」


 ミーナが鼻を動かした。


「……獣っぽい匂いはする。でも、《クリフジャッカル》じゃない」


「いつのものか分かりますか?」


「ちょっと待って」


 ミーナが周囲を調べる。


「新しいと思う。たぶん今日」


 シロナが頷いた。


「私もそう思います」


「魔物?」


 俺は剣に手を置いた。


「可能性は高いですね」


「じゃあ――」


「戦いません」


「まだ何も言ってない!」


「探しに行こうとしましたよね?」


「…………」


「しましたね?」


「……ちょっとだけ」


 シロナがため息をついた。


「今回の依頼は何ですか?」


「薬草採取者の護衛」


「目的は?」


「マルクさんを無事に《ラグナード》まで帰す」


「では、正体不明の魔物を探しに行く必要は?」


「……ない」


「正解です」


 なんだろう。


 褒められたのに負けた気がする。


「ただ」


 ハリトが足跡を見る。


「進行方向と重なってない?」


 シロナの表情が変わった。


「そうなんです」


 俺も見る。


 分からない。


 全然分からない。


「これ、どっち向きなの?」


「ニール、そっちが後ろ」


 ミーナに言われた。


「分かるの!?」


「さすがにそれくらいは」


「LEVEL五だから?」


「これは関係ない」


「自分で言った!」


 だけど、シロナは笑わなかった。


「このまま進むと、遭遇する可能性があります」


「迂回する?」


 ミーナが聞く。


「それがいいでしょう」


「どっちへ?」


 シロナは周囲を見渡した。


 右は岩壁。


 左は増水した川。


 進める場所は多くない。


「……少し戻りましょう」


「戻るの?」


「はい。先ほど分岐がありました。時間はかかりますが、南側の高台を回れます」


「でも、かなり遠回りじゃない?」


「一時間ほど余計にかかるでしょうね」


「だったら、このまま行った方が――」


「ニールさん」


 シロナが俺を見る。


「早く帰ることと、安全に帰ること。どちらが依頼ですか?」


「……安全に帰ること」


「はい」


 まただ。


 戦わない。


 近づかない。


 避ける。


 それも冒険者の仕事。


「分かった。戻ろう」


 俺たちは来た道を引き返した。


     ◇ ◇ ◇


 そして、十分ほど歩いたところで。


「待って」


 ミーナが振り返った。


 獣耳が後ろを向いている。


「……来てる」


「何が?」


「分かんない。でも、いる」


 ドン。


 遠くで音がした。


 岩が転がる。


 ドン。


 また。


 ハリトが弓を構える。


「大きいね」


「走ります」


 シロナが即座に言った。


「マルクさんを中央に。ニールさん、前方確認。ハリトさんは右。ミーナさんは後方をお願いします」


「了解!」


「分かった」


「任せて!」


 走る。


 岩場を抜ける。


 だけどマルクさんは大きな背負い籠を持っている。


 速くは走れない。


「マルクさん、荷物持つ!」


「いや、これは――」


「俺の方が走れる!」


 返事を待たず、背負い籠を受け取る。


「重っ!」


「薬草潰すなよ!」


「そっち!?」


「商品だぞ!」


「分かった!」


 ドン!


 音が近づいた。


「見えた!」


 ミーナが叫ぶ。


 振り返る。


 岩陰から、大きな影が姿を現した。


 四本脚。


 灰色の体毛。


 背中には岩みたいな硬い突起。


「何だ、あれ……」


 俺は足を止めそうになる。


「ニールさん、前を!」


「はい!」


 シロナの声で我に返る。


 今は観察してる場合じゃない。


「もう少しです!」


 前方に分岐が見える。


 高台へ続く細い道。


「こっち!」


 俺たちは一気に駆け込んだ。


 その時。


「――っ!」


 マルクさんが足を滑らせた。


「マルクさん!」


 俺は籠を下ろす。


 ハリトが身体を支える。


「足は?」


「捻った……!」


「シロナ!」


「診ます」


 シロナがすぐにしゃがんだ。


 魔物の足音が近づく。


「どう?」


「骨には異常ありません。ただ、このまま走らせるのは危険です」


「じゃあ俺が背負う!」


「籠は?」


「ハリト!」


「僕?」


「頼む!」


「分かった」


 ハリトが籠を背負う。


「重いね、これ」


「薬草潰すなよ!」


「はいはい」


「来る!」


 ミーナが叫んだ。


 大きな魔物が曲がり角から姿を現す。


 近くで見ると、さらにでかい。


「シロナ、あれ何!?」


「《岩甲狼》です」


「強い!?」


「少なくとも、《クリフジャッカル》よりは」


「じゃあ倒す?」


「いいえ」


 即答だった。


「まだ逃げられます」


「でもマルクさんが!」


「だからです」


 シロナが立ち上がる。


「ニールさん。マルクさんをお願いします」


「え?」


「背負ってください」


「シロナは?」


「少し時間を稼ぎます」


「一人で!?」


「一人で倒すとは言っていません」


 シロナが杖を構えた。


「追ってこられないようにするだけです」


 《岩甲狼》が低く唸る。


「でも!」


「ニールさん」


 シロナが俺を見る。


 笑っていた。


 いつもの、穏やかな顔。


「護衛でしょう?」


「……!」


 そうだ。


 倒すことが目的じゃない。


「分かった!」


 俺はマルクさんを背負った。


「すまねえ!」


「大丈夫!」


「重くないか!?」


「ちょっと!」


「正直だな!」


「行きますよ!」


 シロナの声。


 《岩甲狼》が走り出す。


「――《光壁》」


 白い光が広がった。


 半透明の光の壁が、《岩甲狼》の前に現れる。


 激突。


 光が大きく揺れた。


「うおっ……!」


「ニール、走って!」


「分かってる!」


 走る。


 後ろから衝撃音。


 だけどシロナは攻撃しない。


 もう一枚。


 《光壁》。


 進路を塞ぐ。


 《岩甲狼》が横へ回ろうとする。


「ハリトさん!」


「了解!」


 矢が飛ぶ。


 魔物ではなく、その足元へ。


 《岩甲狼》が一瞬止まる。


「ミーナさん、右の岩陰へ!」


「分かった!」


 ミーナが走る。


 小石を蹴り飛ばす。


 音。


 《岩甲狼》の視線がそちらへ向いた。


「今です!」


 俺たちは高台へ駆け上がる。


 最後にシロナが後退する。


「シロナ!」


「大丈夫です!」


 《岩甲狼》が追おうとする。


 でも。


 道が狭い。


 巨体では通りにくい。


 しばらくこちらを睨んでいたが――やがて《岩甲狼》は諦めたように背を向けた。


     ◇ ◇ ◇


「……行った?」


 俺は息を切らしながら聞いた。


 ミーナの耳が動く。


「……うん。離れていってる」


「よっしゃあ……!」


 その場に座り込みそうになる。


「まだですよ」


 シロナが言った。


「ええ!?」


「マルクさんの足を治療します」


「あ、そうだった!」


「ニールさん」


「はい」


「護衛対象を忘れないでください」


「すみません!」


 マルクさんが笑った。


「俺を背負ってる奴が俺を忘れるなよ」


「そうだった!」


「大丈夫か、この護衛」


 みんなが笑う。


 俺がマルクさんを下ろすと、シロナが捻った足のそばへしゃがんだ。


「少し熱く感じるかもしれません」


 シロナが手をかざす。


「――《癒しの光》」


 淡い白い光が、マルクさんの足を優しく包み込んだ。


「あ……」


 この光。


 見覚えがある。


 初めてシロナに会った時。


 ロイドおじさんが怪我をしていた時に、シロナが使った魔法だ。


「あの時の魔法だ」


「覚えていたのですか?」


「そりゃ覚えてるよ。ロイドおじさんの怪我、治してくれたやつだろ?」


「はい。《癒しの光》です」


 戦うための魔法じゃない。


 傷ついた誰かを助けるための魔法。


 あの時はただ、すごい魔法だと思った。


 でも今は。


 少し違って見える。


 さっきの《光壁》もそうだった。


 敵を倒したわけじゃない。


 俺たちが逃げるための時間を作った。


 そして今は、《癒しの光》でマルクさんを治している。


 シロナの魔法は。


 誰かを倒すためじゃなく。


 誰かを守るために使われていた。


「……おお」


 マルクさんが足をゆっくり動かす。


「痛みが引いていく」


「完全に治すには少し時間が必要です。今日は無理をしないでください」


「助かった」


 シロナが立ち上がる。


「シロナ」


「はい?」


「さっきの《岩甲狼》」


「はい」


「倒せた?」


 シロナは少し考えた。


「一人で、という意味ですか?」


「うん」


「おそらく」


「やっぱり!」


「ただし、怪我をする可能性はあります」


「それでも倒せるんだろ?」


「そうですね」


「じゃあなんで戦わなかったの?」


 シロナは俺を見る。


「倒す必要がなかったからです」


「…………」


「私は冒険者です。魔物を見つけたら必ず倒す仕事ではありません」


 シロナは杖を下ろした。


「依頼人を無事に帰す。それが今日の仕事です。戦っている間にマルクさんが襲われるかもしれない。私が怪我をすれば、皆さんを守る人が一人減る。薬草が失われれば、依頼そのものが失敗するかもしれない」


「……そっか」


「勝てるかどうかだけで考えてはいけません」


 俺は黙ってシロナを見る。


 四つ星。


 LEVEL二十六。


 少し前の俺なら。


 強い魔法を使えるから四つ星なんだと思っていた。


 でも。


 たぶん違う。


 戦えること。


 逃げられること。


 危険に気づくこと。


 誰に何を任せるか決めること。


 そして。


 戦わなくていい相手とは、戦わないこと。


「……四つ星ってすげえな」


「だから、四つ星を何だと思っているんですか?」


「なんでもできる人」


「話を聞いていましたか?」


「聞いてたよ!」


 ミーナが笑う。


「全然成長してないじゃん」


「LEVEL六にはなったからな!」


「あ、自分で言った」


「しまった!」


 ハリトが肩をすくめる。


「LEVELだけ上がっても駄目って、今教わったところなのにね」


「ぐっ……!」


「ハリト、それは効く!」


「僕は事実を言っただけだよ」


 シロナが小さく笑った。


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 《ラグナード》の城壁が見えた。


「帰ってきたあ!」


 俺は思わず声を上げる。


「まだ門を通ってませんよ、ニールさん」


「シロナって意外と細かいよな」


「無事に帰るまでが護衛ですから」


「はいはい」


「返事は一回です」


「母さんみたいなこと言うなよ!」


「では、一回で返事をしてください」


「はい!」


 隣でミーナが吹き出す。


 ハリトも笑っている。


 マルクさんは治療してもらった足で、ゆっくり歩いていた。


「いい護衛だったよ」


 突然、マルクさんが言った。


「え?」


「お前らだ」


「俺たち?」


「ああ」


 マルクさんは背負い籠を見る。


 《青鈴草》は無事だ。


「薬草も俺も、ちゃんと帰ってきた」


 それだけ言って笑った。


 俺は少しだけ胸を張る。


「まあね」


「ニールは背負っただけだけど」


 ミーナが言った。


「めちゃくちゃ重要だっただろ!」


「LEVEL六の荷物持ち」


「マルクさんは荷物じゃない!」


「そこ!?」


 笑い声と一緒に、城門をくぐる。


 その時。


 俺は後ろを歩くシロナを見た。


 強いから、四つ星なんじゃない。


 たぶん。


 任せられるから、四つ星なんだ。


 俺たちはまだ二つ星。


 でも。


 いつか俺も。


 誰かにそう思ってもらえる冒険者になりたい。


 勇者だからじゃなく。


 ニール・レインだから。


 そう思ってもらえる冒険者に。

「倒す必要がなかったからです」


今回、シロナがニールに教えたのは、戦い方ではなく「戦わないという選択」でした。


シロナは四つ星、LEVEL二十六。


《岩甲狼》とも、おそらく一人で戦える。


それでも戦わなかった。


今回の目的は魔物の討伐ではなく、


マルクさんと《青鈴草》を無事に《ラグナード》へ帰すこと。


だから避ける。


逃げる。


仲間に役割を任せる。


必要なら《光壁》で時間を稼ぐ。


そして怪我をした人には――


《癒しの光》。


この魔法、実はニールにとって初めて見るものではありません。


以前シロナと出会った時、怪我をしたロイドおじさんを助けてくれた、あの魔法です。


あの時も今回も、シロナが魔法を使った理由は同じ。


誰かを守るため。


そしてニールも、少しずつ気づき始めました。


LEVELが高いから。


強い魔法が使えるから。


魔物を倒せるから。


それだけで、上位の冒険者になれるわけではない。


強いから、四つ星なんじゃない。

任せられるから、四つ星なんだ。


ニールたちはまだ二つ星。


でもいつか――


「青の勇者だから」ではなく、


「ニール・レインだから任せたい」


そう言われる冒険者になれるでしょうか。


四人の冒険は、まだ始まったばかりです。


続きも楽しみと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。