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第十二話『銀髪の冒険者』(改訂版 ver.1.01)

昨日はミーナと《ラグナード》を満喫したニール。


休日も終わり、今日から再び冒険者生活へ!


……と思ったところで。


人混みの向こうに、見覚えのある銀髪を発見します。


以前、一度だけ出会った謎のハーフエルフ。


ようやく今回――名前が明らかになります。


そして今回は、旧版のストーリーをベースにしながら、今後につながる要素をかなり加筆しました。


何気ない出会いが、あとから振り返ると大きな意味を持っていた。


そんな回になっています。


新しく始まる四人の冒険と、そこに起こるちょっと不思議な出来事をお楽しみください!


今回も面白かったら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 休日は、思っていたよりあっという間に終わった。


 昨日はミーナと《ラグナード》を歩いた。


 ラグナード焼きを食べて。


 店を見て。


 ラグナ石の髪飾りを選んで。


 甘い焼き菓子まで食べた。


 魔物とは戦っていない。


 依頼もしていない。


 LEVELだって上がっていない。


 それでも。


 知らない街を歩いて。


 知らないものを見て。


 知らない味を知る。


 ああいうのも冒険なんだと思う。


 そして翌朝。


「今日は何やる?」


 俺は《ラグナード》の冒険者ギルドで、依頼板を見上げていた。


「昨日休んだばかりなのに元気だね」


 隣でハリトが呆れたように言う。


「休んだから元気なんだろ?」


「まあ、それはそうなんだけど」


 今日は全員一緒じゃない。


 カイルは槍を預けた武器屋へ。


 オルドは弟や妹たちへの土産を探しに行った。


 セラは魔法関係の資料を調べに行っている。


 《ラグナード》には、《リーヴェル》では見かけない魔法書や魔道具を扱う店もあるらしい。


 朝飯の時から、セラはものすごく楽しそうだった。


 というわけで。


 ここにいるのは俺とハリト。


 それから――。


「これとかどう?」


 ミーナだ。


 昨日買った琥珀色のラグナ石が、獣耳の横で揺れている。


「《薬草採取者の護衛》?」


「そう。採るのは依頼人。私たちは護衛ね」


 依頼先は、《ラグナード》から東へ進んだ先にある渓谷。


 そこに自生する薬草を採取したいらしい。


 推奨ランクは二つ星。


「いいんじゃない?」


 ハリトが依頼書を覗き込む。


「採取するのは俺たちじゃないの?」


「護衛だからね」


「じゃあ魔物が出なかったら?」


「何もせず平和に帰ってくる」


「…………」


「残念そうな顔しない」


「してない!」


「してるって」


 昨日までなら。


 俺も、何も戦わなかったら経験にならないと思っていたかもしれない。


 でも。


 護衛も。


 野営も。


 知らない街を歩くことも。


 全部、俺の知らなかった経験だった。


「よし。じゃあこれに――」


 依頼書を手に取った。


 その時だった。


「あ」


 人混みの向こうに。


 銀色が見えた。


「どうしたの?」


「いた」


「誰が?」


「銀髪の人!」


「情報が少なすぎるよ」


「違うって! 知ってる人!」


 長い銀色の髪。


 白を基調とした旅装。


 髪の間から覗く、少し長く尖った耳。


 間違いない。


「おーい!」


 俺が手を上げる。


 銀髪の女性が振り返った。


 紫色の瞳が俺を見つける。


「……ニールさん?」


「やっぱり!」


「お久しぶりです」


 以前、一度だけ会ったことがある。


 俺たちはあの時、名前を名乗った。


 だから向こうは。


 俺とハリトの名前を知っている。


 だけど――。


「やっぱり《ラグナード》にいたんだな」


「……やっぱり?」


「あれ?」


 女性の視線が。


 ほんの少しだけ横へ動いた。


 俺の隣。


 ミーナを見る。


「昨日も、お見かけしましたので」


「昨日?」


 俺とミーナの声が重なった。


「はい。大通りで」


「声かけてくれればよかったのに」


「…………」


 なぜか。


 少し間があった。


「お二人で楽しそうでしたので、お邪魔かと思いまして」


「…………」


 ミーナが俺を見る。


「ほら」


「何が!?」


「やっぱりそう見えてたんじゃん」


「何が!?」


「昨日」


「昨日が何!?」


 銀髪の女性が俺たちを交互に見る。


「違ったのですか?」


「違うよ!」


「即答するんだ」


「え!?」


 ミーナが笑っている。


 なんでだ。


 助けを求めてハリトを見る。


「ハリト」


「僕を巻き込まないで」


「まだ何も言ってない!」


「だいたい分かる」


 ひどい。


     ◇ ◇ ◇


「そういえば」


 俺は銀髪の女性を見る。


「俺たち、名前聞いてなかった」


「ようやく気づきましたか」


「俺たちは名乗ったよな?」


「はい。ですから、ニールさんとハリトさんのお名前は存じています」


「やっぱり」


 女性は俺たちに向き直ると。


 軽く頭を下げた。


「シロナ・エルネージュです」


 そして。


 少し尖った耳に触れる。


「ハーフエルフです。改めまして、よろしくお願いします」


「シロナか」


「はい」


「よろしく!」


「……ずいぶん軽いですね」


「駄目?」


「いいえ」


 シロナは少しだけ笑った。


「あなたらしいと思っただけです」


「私はミーナ。ミーナ・フェル」


「よろしくお願いします、ミーナさん」


「うん。よろしく、シロナ」


 早い。


 もう呼び捨てだ。


 でも。


 シロナは特に気にしていないらしい。


「シロナも冒険者だったんだな」


「はい」


「何つ星?」


「ニール」


 ハリトに止められた。


「何?」


「いきなり聞く?」


「駄目なの?」


「私は構いませんよ」


 シロナがギルドプレートを取り出す。


 そこに刻まれた星を見て。


 俺は固まった。


「…………四つ?」


「はい」


「四つ星!?」


 思わず声が出た。


 周りの冒険者がこっちを見る。


「ニール、声」


「だって四つ星だぞ!?」


「え、シロナ四つ星なの? すごっ」


 ミーナも遠慮なく横から覗き込む。


「長く冒険者をしていれば、このくらいにはなりますよ」


「LEVELは?」


「ニール」


 またハリトに止められた。


「今度は何!?」


「それもいきなり聞くの?」


「だって気になる!」


「私は構いませんよ」


 シロナが目を閉じる。


 ほんの少しだけ。


 自分の内側へ意識を向ける。


 やがて。


 目を開いた。


「LEVEL二十五です」


「二十五!?」


 また声が出た。


「だから声!」


「だって俺、四だぞ!?」


「比べる相手を考えて」


 俺の六倍以上。


 すげえ。


「四つ星でLEVEL二十五……」


 俺が呟くと。


 シロナが俺を見る。


「ギルドランクとLEVELは、同じものではありませんからね」


「あ」


 そうだった。


「LEVELが高ければ、必ず高い星を得られるわけではありません。依頼を達成すること。依頼人を守ること。危険を判断すること。そして、生きて帰ること」


 シロナは淡々と続ける。


「そうした積み重ねを、ギルドは見ています」


「…………」


「LEVELだけで決まるのでしたら、ギルドランクなど必要ありませんから」


 耳が痛い。


 俺。


 LEVELを上げたいって理由でギルドに来たことあったな。


 ちらっ。


 ハリトを見る。


「何?」


「別に」


「今、絶対なんか思っただろ」


「別に」


 こいつ。


     ◇ ◇ ◇


「シロナって、ずっと旅してるの?」


 ミーナが聞いた。


「ええ。気づけば長くなりましたね」


「どこ行ったことある?」


「《アルヴェリア》の各地や、エルフたちが暮らす土地。ドワーフたちの山岳地方。それから、小さな村や辺境の集落もいくつか」


「すげえ!」


「ニール、食いつきすぎ」


「だって俺、《リーヴェル》から《ラグナード》に来ただけで感動してるんだぞ!」


「それはそれで素敵なことだと思いますよ」


「なんでそんなに旅してるの?」


 俺が聞くと。


 シロナは少し考えた。


「世界を見たかったから、でしょうか」


「世界?」


「はい」


 シロナが自分の耳に触れる。


「私が育った場所には、人間も、エルフも、ハーフエルフも、ハーフビーストもいました」


「そんな場所あるんだ」


「小さな集落です。いろいろな事情でそこへ辿り着いた人たちが、一緒に暮らしています」


「へえ……」


 ミーナの獣耳がぴくりと動く。


「外では、あまり良くない呼び方をする人もいるようですが」


「嫌だね、それ」


 ミーナが言った。


「そうですね」


 シロナは。


 それでも穏やかに笑った。


「ですが、私にとってはただの故郷です」


 その言葉が。


 なんとなく心に残った。


「じゃあ、故郷が嫌で出たわけじゃないんだ?」


「ええ。好きですよ」


「あ、それ私と同じ」


 ミーナが反応した。


「私も里は好き。でも、それしか知らないままなのが嫌だったんだよね」


「そうなのですね」


「うん。外を見たかった」


「……似ていますね」


「ね」


 二人が笑う。


 昨日。


 ミーナと同じ話をしたばかりだった。


 好きだから。


 そこにずっといなきゃいけないわけじゃない。


 好きな場所を出て。


 知らないものを見に行く。


 そういう旅もある。


「私の場合は」


 シロナが続けた。


「自分が何者なのか、知りたかったというのもあります」


「何者?」


「人間なのか。エルフなのか。ハーフエルフなのか」


 少しだけ。


 シロナの紫色の瞳が遠くを見る。


「それとも――そんなことは関係ないのか」


「…………」


 俺には。


 まだ全部は分からない。


 でも。


 なんとなく。


 俺が考えていることと似ている気がした。


 青の勇者だから。


 何をしなければならないのか。


 勇者とは何なのか。


 俺も。


 まだ答えを知らない。


「それで冒険者になったんだ?」


「旅をするには便利ですからね。仕事をしながら各地へ行けますし、ギルドが身分も保証してくれます」


「冒険者って、そんな始め方もあるんだな」


「ええ」


 シロナが微笑む。


「ですが、旅を続けているうちに、冒険者という生き方そのものも好きになりました」


 俺は。


 手に持っていた依頼書を見る。


 《薬草採取者の護衛》。


 そして。


 シロナを見る。


「じゃあさ」


「はい?」


「一緒に行く?」


「…………はい?」


「この依頼。俺とハリトとミーナで行こうとしてたんだけど、シロナも一緒にどう?」


「ニール」


 ハリトが額を押さえる。


「何?」


「四つ星の冒険者を、近所に遊びに行くみたいに誘わないで」


「いいじゃん。面白そうだし」


 ミーナが笑う。


「ミーナまで……」


 シロナは依頼書を受け取ると。


 しばらく内容を読んだ。


「薬草採取者の護衛ですか」


「うん」


「二つ星推奨ですね」


「四つ星には簡単すぎる?」


「依頼に簡単も難しいもありませんよ」


 シロナが答える。


「依頼人を無事に連れて帰れば成功。それができなければ失敗です」


 その言葉に。


 護衛依頼で一緒だったダリオを思い出した。


「それに」


 シロナが俺たちを見る。


「あなた方が、どのような冒険をしているのか。少し興味があります」


「じゃあ!」


「はい」


 シロナが微笑んだ。


「ご一緒してもよろしいですか?」


「もちろん!」


「私はいいよ」


「僕も」


 俺。


 ハリト。


 ミーナ。


 そして。


 シロナ。


 四人。


 今日だけの臨時パーティーが決まった。


 ――その瞬間だった。


 カチッ。


「……ん?」


 腰から。


 小さな音がした。


 青の《勇者装具》。


 中央の青い部分が。


 淡く光っている。


「ニール?」


「いや。装具が……」


 青い光が。


 一度。


 ハリトへ向くように明滅した。


 次に。


 シロナ。


 そして最後に。


 俺自身。


『――反応』


「反応?」


 ミーナが装具を覗き込む。


『――肯定』


「何に?」


 少し。


 間があった。


『――同系統』


「同系統?」


『――肯定』


 俺は。


 ハリトを見る。


 シロナを見る。


「何と何が同系統なんだ?」


『――回答不能』


「そこは答えてくれないのかよ!」


「相変わらずだね」


 ハリトが苦笑する。


 でも。


 シロナは違った。


 驚いたように。


 青の装具を見つめている。


「……今、話しました?」


「あ」


 そうか。


 シロナは知らない。


「話すよ」


「勇者の装具が?」


「うん」


『――肯定』


「自分で答えるのですね……」


「でも、難しいことはあんまり答えてくれない」


『――肯定』


「そこも肯定するんだ」


 ミーナが笑った。


 俺はもう一度。


 装具へ聞いてみる。


「ハリトに反応した?」


『――肯定』


「シロナにも?」


『――肯定』


「俺にも?」


『――肯定』


「じゃあ……」


 ミーナが。


 自分を指差した。


「私には?」


 少し。


 間があった。


『――否定』


「…………」


 俺。


 ハリト。


 シロナ。


 ミーナ。


 四人で黙った。


 ミーナの獣耳が。


 ぴくっと動く。


「なんで!?」


「俺に言うなよ!」


「私だけ仲間外れみたいじゃん!」


『――否定』


「じゃあ何なの!?」


『――回答不能』


「腹立つー!」


「装具に怒るなよ!」


 だけど。


 ハリトは笑っていなかった。


 青い光を見ながら。


 何かを考えている。


「ニール」


「何?」


「僕には、前から会ってるよね」


「あ」


 そうだ。


 ハリトとは。


 俺が七歳の頃から一緒にいる。


 なのに。


 どうして今になって?


「シロナが加わったから?」


「それなら、どうして僕にも反応したんだろう」


「…………」


 分からない。


 その時。


 青の光が。


 急に強くなった。


『――三』


「え?」


『――共鳴』


「共鳴?」


『――肯定』


「三って……」


 俺。


 ハリト。


 シロナ。


 三人?


「どういう意味?」


『――回答不能』


「またか!」


 次の瞬間だった。


 青い光が。


 俺の身体を包んだ。


「うわっ!?」


「ニール!」


 痛くない。


 熱くもない。


 でも。


 何かが。


 身体の奥を駆け抜けていく。


 今まで。


 剣を振ったこと。


 魔物と戦ったこと。


 依頼をこなしたこと。


 護衛したこと。


 野営したこと。


 逃げたこと。


 考えたこと。


 失敗したこと。


 その全部が。


 突然。


 身体の奥へ沈み込んでいくような。


 そんな感覚。


『――成長』


「え?」


『――ニール・レイン』


 青の装具が告げる。


『――LEVEL五』


「…………は?」


 待て。


 俺。


 さっきまで四だぞ?


 でも。


 まだ終わらなかった。


 もう一度。


 身体の奥で。


 何かが弾けた。


『――成長』


『――LEVEL六』


「…………」


「ニール?」


 ハリトの声。


 俺は目を閉じた。


 意識を。


 自分の内側へ向ける。


 そこにある。


 今の自分。


 確かめる。


「…………六」


「え?」


「LEVEL六になってる」


「二つ上がったの!?」


 ミーナの声が響いた。


「俺が聞きたい!」


 その時。


 ハリトの身体が。


 わずかに揺れた。


「……っ」


「ハリト?」


 ハリトも。


 目を閉じる。


 しばらくして。


 目を開いた。


「……七」


「上がった!?」


「うん。六から七」


 そして。


「…………」


 シロナが。


 自分の手を見ていた。


「シロナ?」


「少し、お待ちください」


 シロナが目を閉じる。


 長い。


 俺たちよりも。


 ずっと慎重に。


 自分の内側を確かめる。


 やがて。


 ゆっくりと目を開いた。


「……二十六です」


「シロナも!?」


「はい」


 さっき。


 確認した時は。


 LEVEL二十五。


 今は。


 二十六。


 俺。


 四から六。


 ハリト。


 六から七。


 シロナ。


 二十五から二十六。


 三人。


「…………」


 ミーナが。


 無言で目を閉じた。


 しばらく。


 動かない。


 そして。


 目を開いた。


「…………四」


「うん」


「四のまま」


「うん」


「ニール」


「何?」


「昨日まで私と同じLEVELだったよね?」


「そうだな」


「今日、六?」


「そうみたい」


「ハリトは七?」


「うん」


「シロナは二十六?」


「はい」


「私だけ四?」


「…………うん」


 ミーナが。


 にっこり笑った。


「青の勇者、ずるくない?」


「俺に言うなよ!」


「一気に二つって何!?」


「俺も知らないよ!」


「私、ちゃんと冒険してるんだけど!」


「知ってるよ!」


「昨日だっていっぱい歩いた!」


「それは俺も一緒だろ!」


「ラグナード焼きも食べた!」


「LEVEL関係ないだろ!」


「ラグナ石も買った!」


「もっと関係ない!」


 ミーナの尻尾が。


 ぶんぶん揺れている。


 怒っているのか。


 面白がっているのか。


 たぶん。


 両方だ。


「お二人とも」


 静かな声。


 俺とミーナが止まる。


 シロナだった。


 さっきまでの。


 穏やかな表情じゃない。


 青の《勇者装具》を。


 じっと見つめている。


「……これは、普通ではありません」


「やっぱり?」


「はい」


 シロナが自分の手を握る。


 開く。


「LEVEL二十五まで上げるのに、私は長い時間をかけています」


「…………」


「魔物と戦い、依頼をこなし、旅をして、失敗もしました。それらの経験が積み重なって、少しずつ成長してきました」


 シロナが。


 俺を見る。


「それが、今は何もしていない」


「うん」


「それなのにLEVELが上昇した」


 もう一度。


 青の装具を見る。


「明らかに異常です」


 その言葉で。


 急に。


 実感が湧いた。


 俺は。


 嬉しかった。


 LEVELが二つも上がったんだから。


 でも。


 確かに。


 何もしていない。


「装具のせい?」


 俺が聞く。


『――肯定』


「やっぱり!」


「では」


 シロナが尋ねる。


「なぜ私たち三人なのですか?」


 青の装具が。


 少しだけ明滅した。


『――共鳴』


「その共鳴とは?」


『――回答不能』


「私とハリトさんには、何か共通点があるということでしょうか」


『――肯定』


「え?」


 ハリトが反応した。


「僕とシロナさんに?」


『――肯定』


「何が?」


『――回答不能』


「…………」


 ハリトとシロナ。


 エルフと。


 ハーフエルフ。


 それか?


 でも。


 俺は人間だ。


「俺も同じなんだよな?」


『――肯定』


 じゃあ。


 種族じゃない。


「ミーナは?」


『――否定』


「もう聞かなくていい!」


「ごめん!」


「傷つくから!」


「装具が悪い!」


『――否定』


「否定するな!」


 ミーナが装具に怒っている。


 でも。


 俺には。


 分からなかった。


 俺。


 ハリト。


 シロナ。


 三人に共通するもの。


 青の装具が。


 反応するもの。


 それが。


 何なのか。


     ◇ ◇ ◇


「まあ」


 俺は。


 手に持った依頼書を見る。


「そのうち分かるだろ」


「出た」


 ハリトが言った。


「何が?」


「ニールの、分からないからとりあえず進むやつ」


「ちゃんと考えたよ!」


「考えた結果?」


「分からない!」


「じゃあ?」


「進む!」


「ほら」


「だって装具が教えてくれないんだから仕方ないだろ!」


 ミーナが吹き出す。


「ほんと、ニールってそういうとこあるよね」


「ミーナまで!?」


 シロナも。


 小さく笑った。


「あなた、本当に青の勇者なのですね」


「どういう意味!?」


「もう少し慎重な方なのかと思っていました」


「俺だって慎重だよ!」


「旧採石場の坑道には入らなかったもんね」


 ミーナが言う。


「ほら!」


「比較対象が昨日のニールなのが悲しいね」


「ハリト!」


     ◇ ◇ ◇


 俺たちは。


 依頼書を持って受付へ向かった。


 俺。


 ハリト。


 ミーナ。


 シロナ。


 今日だけの四人パーティー。


 二つ星が三人。


 四つ星が一人。


 受付へ向かう途中。


 俺はふと思った。


「なあ」


「はい?」


「シロナが一緒なら、今回かなり楽なんじゃない?」


「どうしてです?」


「だって四つ星だろ?」


「だから?」


「魔物が出ても、シロナが全部倒してくれるとか」


「嫌です」


「即答!?」


「ニール、最低」


 ミーナが笑う。


「違う! そういう意味じゃない!」


「どういう意味でも駄目です」


 シロナは平然としていた。


「これは皆さんの依頼でもあるのでしょう?」


「そうだけど」


「なら、自分でできることは自分でしてください」


「厳しい!」


「それに」


 シロナが。


 少しだけ表情を和らげる。


「自分で体験したことだからこそ、自分の経験になるのです」


「経験……」


「誰かの後ろを歩いているだけでは、身につかないものもあります」


「…………」


「何ですか?」


「いや」


 俺は腰の青い装具を見る。


「さっき何もしてないのに、LEVEL二つ上がったなって」


「ですから、それがおかしいと言っているのです」


「ですよね」


「今回の現象を基準にしないでください」


「はい」


 なんか。


 先生みたいだ。


「それに私は、治癒や魔法、知識を活かす方が得意です。LEVELが皆さんより高いからといって、何でも一人でできるわけではありません」


「四つ星でも?」


「四つ星でもです」


 シロナは。


 当然のように答えた。


「道を間違えれば迷います。知らない魔物なら判断を誤ることもあります。前衛が必要な時もあれば、斥候が必要な時もあります」


 ハリトを見る。


「遠くの敵なら、弓を扱える人がいた方がいい」


 ミーナを見る。


「危険を探すなら、感覚に優れた人がいた方がいい」


 そして。


 俺を見る。


「前で敵を止めてくださる方も必要です」


「俺?」


「はい」


「俺、必要?」


「必要ですよ」


「おお……」


「なんでそこで感動するの?」


 ミーナが笑った。


 シロナも。


 少しだけ笑う。


「冒険は、一人のLEVELだけでするものではありませんから」


「……そっか」


 四つ星。


 LEVEL二十六。


 俺たちより。


 ずっと先を歩いている冒険者。


 でも。


 一緒に冒険するなら。


 シロナだって。


 同じパーティーの一人だ。


「じゃあ俺、前やる!」


「僕は周囲を見るよ」


「私は先に危ないもの探す」


「では私は、後ろから皆さんを見ています」


「よし!」


「まだ依頼を受けてないけどね」


「ハリト!」


 笑いながら。


 俺たちは受付へ向かった。


 俺はLEVEL六。


 ハリトはLEVEL七。


 シロナはLEVEL二十六。


 そして。


「……まだ納得いかない」


「まだ言ってる」


「だってニールに一気に抜かれたんだよ?」


「俺だって狙ったわけじゃないって!」


「次は私が上がるから」


「勝負する?」


「する」


「LEVELって勝負するものじゃないと思うけど」


 ハリトが呆れている。


「じゃあ」


 俺はミーナを見る。


「いっぱい経験しようぜ」


「え?」


「LEVELが上がるかどうかは分からないけどさ」


 昨日。


 ミーナが教えてくれた。


 知らない街を歩くのも。


 知らないものを見るのも。


 冒険だって。


 今日。


 シロナが教えてくれた。


 自分で体験したことだからこそ。


 自分の経験になる。


「魔物倒すだけじゃないんだろ?」


「…………」


 ミーナが。


 少しだけ目を丸くした。


 それから。


 笑った。


「そうだね」


 琥珀色のラグナ石が。


 獣耳の横で揺れる。


「じゃあ、いっぱい経験しよっか」


「おう!」


 こうして。


 新しい仲間を一人加えた。


 四人での最初の依頼が始まった。


 青の《勇者装具》が。


 なぜ。


 俺。


 ハリト。


 シロナ。


 三人にだけ反応したのか。


 この時の俺たちは。


 まだ。


 その意味を知らなかった。


     ◇ ◇ ◇


 四人が受付へ向かったあと。


 青の《勇者装具》の奥深く。


 ニールには知ることのできない領域で。


 新たな記録が刻まれていた。


 《同行者構成――更新》


 《対象――四名》


 《成長共有補正――継続》


 そして。


 通常とは異なる処理が開始される。


 《適合反応――複数検出》


 《同系統反応――三》


 《勇者共鳴補正――試験適用》


 《対象――三》


 《蓄積成長――再計算》


 《蓄積成長――解放》


 《継承者補正――適用》


 《記録領域――制限》


 《詳細開示――不可》


 処理は。


 そこで止まった。


 青。


 緑。


 白。


 その色を示す言葉は。


 まだ。


 どこにも表示されなかった。

ついに名前が判明しました。


シロナ・エルネージュ。


四つ星、LEVEL二十五のハーフエルフ。


そして――。


仲間になった途端、何かがおかしい(笑)


今回の改訂では、旧版のシロナとの再会を残しながら、《勇者装具》に関する新しい伏線を大きく加筆しました。


青の《勇者装具》が反応したのは、


ニール。


ハリト。


シロナ。


なぜか、この三人だけ。


そして発生した、


《勇者共鳴補正》


ニールはLEVEL四から六。


ハリトはLEVEL六から七。


シロナはLEVEL二十五から二十六。


なのに――。


ミーナはLEVEL四のまま。


「青の勇者、ずるくない?」


ごもっともです(笑)


ただし、これは単なる「勇者だからLEVELが上がりました」という話ではありません。


なぜ三人なのか。


なぜミーナには起こらなかったのか。


そもそも《勇者共鳴》とは何なのか。


青の《勇者装具》は何かを知っているようですが、相変わらず――


《回答不能》


今はまだ、答えは出ません。


でも、この三人に起きたことはぜひ覚えておいてください。


いつか「ああ、だからあの時!」と思っていただける……はずです。


そして次からは、シロナを加えた四人での初めての依頼へ。


LEVEL二十六の四つ星冒険者が加わったから楽勝?


……シロナさんは、そんなに甘くなさそうです。


続きも楽しみと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

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