第十話『依頼完了』(改訂版 ver.1.01)
《ガルド旧採石場》での依頼を終え、《ラグナード》へ戻るニールたち。
ロックリザードを討伐し、旧採石場を調査。
そして最後に見つけたのは、資料にも載っていない謎の坑道でした。
気になる。
ものすごく入りたい。
それでもニールたちが選んだのは――入らずに帰ること。
今回は、そんな彼らが持ち帰った情報を冒険者ギルドへ報告します。
魔物を倒すだけが冒険者の仕事ではない。
戦うことだけが経験でもない。
では、「無事に帰って情報を持ち帰ること」には、どんな意味があるのでしょうか。
少しずつ冒険者になっていく六人を、今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
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《ラグナード》の城壁が見えた時。
「帰ってきたー!」
俺は思わず両手を上げた。
「まだ門の外だよ」
「見えたらもう帰ってきたようなもんだろ」
「そういう油断が一番危ないんだけど」
ハリトは相変わらず冷静だった。
俺たちは《ガルド旧採石場》を出たあと、来た道をそのまま《ラグナード》へ戻ってきた。
討伐したロックリザードの素材。
採石場周辺の状況。
そして。
あの古い坑道。
調べることは調べた。
でも。
入らなかった。
「なあ」
カイルが歩きながら言った。
「結局、あの坑道なんだったんだろうな」
「知らない」
「気にならないのか?」
「めちゃくちゃ気になる」
「だよな」
「だから早くギルドに報告したい」
俺がそう言うと。
ミーナが隣で笑った。
「ちゃんと冒険者になってきたね」
「前から冒険者だよ!」
「前だったら絶対入ってたじゃん」
「…………」
否定できない。
「でもさ」
俺は振り返った。
遠く。
もう《ガルド旧採石場》は見えない。
「知らない場所に入るのって、準備してからでも遅くないだろ?」
「うん」
「それに、俺たち二つ星だし」
「おお」
ミーナが目を丸くした。
「ニールが自分の星を気にしてる」
「俺だって成長するんだよ!」
「昨日まで『七つ星になる!』って言ってた人が?」
「目標は七つ星!」
「そこは変わらないんだ」
もちろん。
いつかは七つ星。
でも。
今の俺たちは二つ星だ。
LEVELだって。
俺はまだ四。
できることも。
知らないことも。
ちゃんと分かってきた。
……いや。
知らないことの方が多いって分かってきた、の方が正しいかもしれない。
「よし!」
俺は城門を指差した。
「まずは報告!」
「その前に門を通ろうね」
「分かってるよ!」
笑いながら。
俺たちは《ラグナード》の門をくぐった。
◇ ◇ ◇
「お帰りなさい」
《ラグナード》冒険者ギルド。
受付にいたリディアさんが俺たちを迎えてくれた。
「《ガルド旧採石場周辺・魔物討伐および安全確認》ですね」
「はい!」
「では、報告をお願いします」
俺たちは順番に話していく。
ロックリザードを四匹討伐。
一匹は旧採石場の奥へ逃走。
周辺には通常より多くの足跡。
街道近くにも、複数の魔物が移動した痕跡があった。
そして。
「採石場の奥に、古い坑道がありました」
俺が言うと。
リディアさんの手が止まった。
「坑道?」
「昨日見た資料には載ってませんでした」
セラが地図を広げる。
「位置はこちらです」
地図上の《ガルド旧採石場》。
その奥を指差す。
「入口周辺は一部崩れています。内部の状態までは確認できていません」
「魔物の痕跡は?」
リディアさんの声が少し変わった。
ミーナが前へ出る。
「ありました。ロックリザードの足跡がいっぱい。でも、変だった」
「変?」
「ほとんどが坑道の中から外へ向かってた」
リディアさんが考え込む。
「つまり、坑道内部から複数のロックリザードが移動している可能性がある、と」
「うん」
「他に気づいたことは?」
「幼体らしい足跡は確認できませんでした」
ハリトが答える。
「餌を食べた痕跡も少なかったです。少なくとも、普通にあの場所を巣にしているようには見えませんでした」
オルドも続ける。
「入口周辺には新しい爪痕もありました」
「なるほど……」
リディアさんは一つずつ書き留めていく。
討伐した魔物。
逃げた魔物。
足跡。
坑道。
周辺の状況。
そして。
「坑道内部は確認しましたか?」
「してません」
俺が答える。
リディアさんが顔を上げた。
「入らなかったんですね?」
「はい」
少し。
間があった。
「正解です」
「おお」
「なんでニールさんが褒められて驚いてるんですか」
セラに言われた。
「いや、なんか嬉しくて」
「普通の判断です」
「もうちょっと褒めて!」
リディアさんが小さく笑った。
「では、ちゃんと褒めましょうか」
「お願いします!」
「そこまで食いつく?」
ミーナが笑っている。
リディアさんは、俺たちの報告書を机の上に置いた。
「今回の依頼で重要なのは、ロックリザードを四匹討伐したことだけではありません」
「え?」
「資料にない坑道を発見したこと。そして、複数の魔物がそこから移動している可能性に気づいたこと」
リディアさんが地図を見る。
「何より――その情報を持ち帰ったことです」
「情報を?」
「はい」
リディアさんは頷いた。
「内部の広さも分からない。崩落状況も分からない。何匹の魔物がいるのかも、他に何がいるのかも分からない。装備も情報もないまま踏み込んでいたら、戻ってこられなかった可能性もあります」
「…………」
俺は。
あの坑道を思い出した。
真っ暗な入口。
奥には何があるのか。
めちゃくちゃ気になった。
正直。
今でも気になる。
「冒険者の仕事は、危険を見つけたら必ず自分で解決することではありません」
リディアさんが言った。
「自分たちでは対処できないと判断したなら、その情報を持ち帰る。それによって、次に向かう冒険者が準備できます」
「次の冒険者……」
「皆さんが持ち帰った情報で、次に行く人たちは、少なくとも何も知らない状態ではなくなりました」
俺は。
なんとなく。
嬉しくなった。
魔物を倒した時とは。
少し違う。
俺たちが見つけたものが。
誰かの役に立つ。
「これも、冒険者の仕事なんですね」
セラが言った。
「もちろんです」
リディアさんが頷いた。
「討伐する。護衛する。採取する。調査する。そして、情報を持ち帰る。依頼によって求められるものは違います」
護衛依頼の時。
俺たちは。
レイザーマンティスを倒さなかった。
それでも。
商人と荷物を無事に《ラグナード》まで届けた。
だから。
依頼は成功だった。
今回も。
同じなのかもしれない。
何でも倒せばいいわけじゃない。
何でも自分で解決すればいいわけじゃない。
「冒険者って」
「はい?」
「思ってたより、いろいろ考えるんですね」
リディアさんが笑った。
「そうですね。長く続けるなら、特に」
「長く……」
その言葉が。
少しだけ残った。
強いだけじゃ。
冒険者を続けられない。
生きて。
帰ってきて。
報告する。
それも。
冒険なんだ。
◇ ◇ ◇
「それで」
オルドが聞いた。
「あの坑道は、どうなるんですか?」
「ギルド側で検討します」
リディアさんは、俺たちが提出した地図と報告書を見比べる。
「通常のロックリザードが複数個体で同じ場所から離れているのであれば、何らかの原因がある可能性は高いでしょう」
「調査するんですか?」
「おそらく」
リディアさんが少し考える。
「坑道内部の調査依頼を出すことになると思います」
「じゃあ!」
俺は身を乗り出した。
「俺たち――」
「受注条件は、三つ星以上になるでしょう」
「…………」
止まった。
「三つ星……」
「内部の地形が不明ですからね。場合によっては、それ以上になる可能性もあります」
俺は自分のギルドプレートを見る。
二つの星。
足りない。
「あと一個」
「そんな簡単に言わないの」
ハリトに言われた。
「でも一個だぞ?」
「その一個を取るために実績を積むんでしょ」
「じゃあ実績積もう!」
「切り替え早いなあ」
ミーナが笑う。
でも。
ちょっと悔しい。
自分たちが見つけた場所なのに。
今の俺たちでは。
その先へ行けない。
「…………」
だけど。
不思議と。
嫌じゃなかった。
行けないなら。
行けるようになればいい。
知らないなら。
知ればいい。
弱いなら。
強くなればいい。
「俺、三つ星になる」
「昨日は七つ星って言ってなかった?」
ミーナ。
「最終目標は七つ星!」
「じゃあ三つ星は?」
「次の目標!」
「急に現実的になったね」
「一個ずつだ!」
カイルが笑う。
「だったら俺も先に上がってやるよ」
「勝負する?」
「望むところだ」
「お前ら、昇格は競争じゃないぞ」
オルドに言われた。
分かってる。
たぶん。
◇ ◇ ◇
「では」
リディアさんが書類をまとめる。
「《ガルド旧採石場周辺・魔物討伐および安全確認》――依頼完了として処理します」
「よし!」
報酬。
そして。
討伐したロックリザードの素材代。
六人で分ける。
大金ではない。
でも。
なんだか。
すごく嬉しかった。
《ラグナード》で。
初めて自分たちで選んだ依頼。
初めて自分たちで準備して。
初めて六人だけで向かった依頼。
誰かに引率してもらったわけじゃない。
自分たちで考えて。
戦って。
調べて。
判断して。
帰ってきた。
「終わったな」
カイルが言う。
「ああ」
「どうだった?」
「楽しかった!」
「そこなの?」
セラが笑う。
「だって冒険だぞ?」
「仕事でもあります」
「分かってるって!」
でも。
俺は。
少しだけ分かってきた気がする。
冒険者になるって。
ギルドに登録することじゃない。
星が増えることだけでもない。
依頼を受けて。
考えて。
仲間と動いて。
無事に帰ってくる。
そして。
次の冒険へ行く。
そういうことなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
その日は。
宿へ戻って。
飯を食って。
風呂に入って。
寝た。
そして。
翌朝。
「…………」
俺は。
宿の食堂で。
ものすごく困っていた。
目の前には。
香草で焼いた肉。
目玉焼き。
豆と芋を煮込んだスープ。
焼いた野菜。
焼きたてのパン。
そして。
今日は。
依頼がない。
「…………」
護衛依頼。
野営。
《ラグナード》への到着。
《ガルド旧採石場》。
ずっと。
何かをしていた。
だから。
急に何もなくなると。
分からない。
「なあ、ハリト」
「何?」
向かいで。
ハリトが普通に朝飯を食べている。
「今日さ」
「うん」
「何すればいいんだ?」
「…………」
ハリトが。
俺を見る。
「休めば?」
「休む?」
「うん」
「何して?」
「だから休むんだよ」
「…………」
難しい。
冒険者になって。
いろんなことを覚えた。
戦い方。
護衛。
野営。
依頼の選び方。
準備。
報告。
でも。
俺には。
まだ一つ。
分からないことがあった。
――冒険者って。
休みの日。
何するんだ?
《ガルド旧採石場》――依頼完了!
今回ニールたちが評価されたのは、ロックリザードを四匹倒したことだけではありませんでした。
資料にない坑道を見つけた。
魔物がそこから移動していることに気づいた。
そして――無理に踏み込まず、その情報を持って帰った。
もしニールたちが好奇心のまま坑道へ入っていたら。
読者の皆さんは、前話の最後ですでに「何がいたのか」を知っています。
でも、ニールたちは知りません。
知らないからこそ、入らない。
そして、その判断によって次に向かう冒険者は準備ができる。
倒す。守る。調べる。判断する。帰る。報告する。
少しずつですが、六人は「戦える人」から「仕事を任せられる冒険者」へ成長し始めています。
そして坑道内部の調査は、どうやら三つ星以上の仕事になりそうです。
七つ星を目指すニールですが、まずは目の前の三つ星から。
果たして、いつかあの坑道へ戻る日は来るのでしょうか。
……と、次の目標もできたところで。
翌朝。
「今日、何すればいいんだ?」
まさかの予定なし
戦い方も覚えた。
護衛もした。
野営もした。
依頼も自分たちでこなした。
でもニールはまだ――
冒険者の休日を知らない。
次回は少し戦いから離れて、《ラグナード》の街を歩いてみましょう。
そして、誰と歩くのかもお楽しみに。
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