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第九話『あの時とは違う』(改訂版 ver.1.01)

六人だけで受ける、初めての二つ星依頼。


目的地は《ガルド旧採石場》。


今回は地図もある。

保存食もある。

水も薬もロープもある。


ニール、ちゃんと準備しています。


……成長しました。


そして旧採石場で待っていたのは、二つ星昇格試験でも戦った《ロックリザード》。


同じ魔物。


同じ六人。


でも、あの時とは少し違います。


LEVELだけではない。


旅をして、依頼をこなして、失敗して、仲間と一緒に経験を積んできた六人。


果たして、あの頃からどれだけ強くなったのでしょうか。


今回も楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 翌朝。


 《ラグナード》西門。


「地図!」


「ある」


「保存食!」


「ある」


「水!」


「ある」


「薬!」


「ある」


「ロープ!」


「ある」


「剣!」


「それ忘れたら冒険者やめた方がいいよ」


 ハリトに言われた。


「確認は大事だろ!」


「昨日買ったものを全部声に出してるだけじゃない?」


「それを確認って言うんだよ!」


「そうかな」


 なんだよ。


 今回はちゃんと準備してきたんだぞ。


「しかも地図もある!」


「それは偉い」


「だろ?」


「普通だけど」


「褒めてから落とすなよ!」


 隣でミーナが笑っている。


 カイルは槍。


 オルドは盾。


 セラは杖。


 ハリトは弓。


 ミーナは腰に二本の短剣。


 そして俺は、父さんから十五歳の誕生日にもらった剣。


 腰には青の《勇者装具》。


「よし!」


 俺は《ラグナード》の外へ続く街道を見る。


「行こうぜ!」


 今回。


 俺たちを引率する上位冒険者はいない。


 ダリオさんもいない。


 依頼を選んだのも。


 情報を調べたのも。


 準備したのも。


 全部、俺たちだ。


 俺。


 ハリト。


 ミーナ。


 セラ。


 オルド。


 カイル。


 六人全員、二つ星。


 そして。


 六人だけで受ける、初めての依頼。


「なんか緊張してきた」


「今?」


 ハリトが言った。


「門を出る直前に?」


「いいだろ!」


「昨日はあんなに楽しそうだったのに」


「楽しみなのと緊張するのは両立する!」


「それはまあ、そうだね」


 俺は一歩。


 街の外へ踏み出した。


「次の冒険だ!」


「依頼ね」


「ハリト!」


 こうして俺たちは。


 六人だけで挑む最初の二つ星依頼へ出発した。


     ◇ ◇ ◇


 目的地は《ラグナード》西方。


 《ガルド旧採石場》。


 数年前まで石材を切り出していた場所で、今はもっと大きな採石場が別の場所にできたため、ほとんど使われていないらしい。


 ただし、近くの街道は今も使われている。


 鉱山や採掘場へ向かう作業員。


 荷物を運ぶ商人。


 近隣の集落へ向かう旅人。


 最近、その周辺で魔物の目撃が増えている。


 今回の依頼は。


 魔物の討伐。


 そして。


 旧採石場周辺の安全確認。


「で」


 ミーナが歩きながら俺を見る。


「ニール。昨日ちゃんと資料読んだ?」


「読んだ!」


「じゃあ、この辺りにいる魔物は?」


「ストーンラット。ホーンモール。それから――」


 俺は少し考える。


「ロックリザード」


「あ」


 ミーナが笑った。


「懐かしい」


「だろ?」


 その名前には。


 六人全員。


 覚えがある。


「二つ星の昇格試験ですね」


 セラが言った。


「あの時も出ましたからね」


「出たなあ」


 オルドも笑う。


 そう。


 俺たち六人が初めて一緒になった。


 二つ星昇格試験。


 そこで戦った魔物の一つが。


 ロックリザードだった。


「背中の鱗が硬い」


 俺が言う。


「腹側は比較的柔らかい」


 ハリト。


「岩に紛れるから、目視だけだと見落としやすい」


 ミーナ。


「突進にも注意が必要ですね」


 セラ。


「盾で正面から受けるなら、姿勢を低くする」


 オルド。


「で、隙ができたら俺が突く」


 カイル。


 全員。


 覚えている。


「なんかいいな」


 俺が言った。


「何が?」


「こういうの」


 あの時は。


 同じ試験を受けているだけだった。


 仲間じゃない。


 パーティーでもない。


 それが今は。


 同じ街を出て。


 同じ依頼を受けて。


 同じ道を歩いている。


「冒険者っぽくない?」


「前から冒険者だよ」


「雰囲気の話!」


 ミーナが俺たちを見て笑った。


「それに、あの頃とはLEVELも違うしね」


「あ」


 そうだった。


 俺はLEVEL四。


 ハリトはLEVEL六。


 ミーナはLEVEL四。


 カイルはLEVEL九。


 オルドとセラはLEVEL七。


 昇格試験の時とは違う。


 でも。


「LEVELだけじゃないだろ」


 カイルが言った。


「お?」


「昨日、お前が言ってただろ。経験ってのは魔物を倒すことだけじゃないって」


「…………」


「何だよ」


「カイルがいいこと言った」


「ぶっ飛ばすぞ」


「なんで!?」


 今日も平和だった。


     ◇ ◇ ◇


 《ラグナード》を離れて一刻ほど。


 街道を行き交う人は少しずつ減っていった。


 代わりに。


 岩が増えていく。


 草原の中に灰色の岩肌が現れ。


 遠くには低い山々。


 リーヴェル周辺とは。


 全然違う。


「おお……!」


「また始まった」


 ハリトが言う。


「見ろよ!」


「見てるよ」


「岩!」


「岩場だからね」


「でっかい岩!」


「うん」


「すげえ!」


「ニールって旅に向いてるよね」


 ミーナが笑う。


「だろ?」


「どこに行っても楽しそう」


「それ褒めてる?」


「今回は褒めてる」


 ならいい。


 知らない景色。


 知らない道。


 知らない街。


 こういうものを見るために。


 俺は冒険者になった。


 ――勇者になるより。


 ずっと前から。


「……あ」


「何?」


 ハリトが聞く。


「俺さ」


 腰の《勇者装具》を見る。


「勇者になったから冒険してるわけじゃないんだな」


「今さら?」


「今思ったんだよ!」


 勇者とは何か。


 何をする者なのか。


 まだ分からない。


 でも。


 俺が冒険者になった理由は。


 勇者とは関係ない。


 知らないものを見たい。


 知らない場所へ行きたい。


 いろんな人に会いたい。


「だったら、いいんじゃない?」


 ハリトが言う。


「何が?」


「勇者が何なのか。まだ決めなくても」


 俺は少し考えて。


「……そうだな」


 今は。


 冒険者でいい。


     ◇ ◇ ◇


「止まって」


 ミーナが手を上げた。


 全員が止まる。


 ハーフビーストの耳が。


 わずかに動いた。


「何かいる?」


「まだ分からない」


 ミーナが道端へしゃがむ。


 土を見る。


 指で触れる。


 匂いを確かめる。


「何か通ってる」


 ハリトも近づいた。


「魔物?」


「たぶん」


 ミーナが指差す。


 街道から。


 岩場へ。


 いくつもの足跡が続いている。


「一匹?」


「いや」


 ミーナが少し移動する。


「複数」


 俺は剣に手を伸ばした。


「抜かなくていいよ」


「まだ抜いてない!」


「顔が戦う顔だった」


「どんな顔だよ」


「こんな顔」


 ミーナが眉間に皺を寄せる。


「そんな顔してない!」


「してた」


 カイルが言った。


「してましたね」


 セラまで。


「多数決やめろ!」


 でも。


 以前の俺なら。


 足跡を見つけた瞬間。


 追いかけていたかもしれない。


「どうする?」


 俺が聞く。


 ハリトが地図を広げる。


「依頼範囲ではある。でも採石場はもう少し先」


「先に目的地を確認した方がいいと思います」


 セラが言う。


「足跡を追って時間を使いすぎると、本来の安全確認ができなくなります」


「なるほど」


 気になる。


 でも。


「場所だけ覚えておこう」


「追わないの?」


 ミーナが聞く。


「必要なら帰りに調べる」


 ハリトが俺を見る。


「何?」


「いや」


 少し笑っている。


「成長したなと思って」


「だろ!?」


「褒めた瞬間これだ」


     ◇ ◇ ◇


 さらに進むと。


 古びた標識が見えてきた。


 《ガルド旧採石場》。


「着いた!」


 街道から外れる。


 その先で。


 景色が変わった。


「……すげえ」


 山の一部が。


 丸ごと削られている。


 巨大な岩壁。


 何段にも切り取られた地面。


 放置された木製の足場。


 錆びた道具。


 半分崩れた小屋。


 人が作った場所なのに。


 少しずつ自然に飲み込まれ始めている。


「こういう場所、好きそうだね」


「好き」


「即答」


「絶対なんかあるだろ!」


「依頼を忘れないでね」


「分かってる!」


 入口には新しい看板。


 《立入注意》。


 《ラグナード》冒険者ギルドの印。


「ここから仕事だね」


 ミーナの表情が変わる。


「私とハリトで先を見る」


「分かった」


「勝手に進まないでよ」


「分かってるって!」


「二回言った」


「信用しろ!」


 ハリトとミーナが先行する。


 少し距離を空けて。


 俺たちが続く。


 カイルが前。


 オルドが中央。


 セラを守れる位置に置き。


 俺はどちらにも動ける位置。


「……あれ?」


「どうした?」


 カイルが聞く。


「誰も指示してないのに、ちゃんと並んでる」


「確かに」


 オルドが笑う。


「護衛依頼の時の癖じゃないか?」


 たった一回。


 でも。


 その経験は。


 ちゃんと俺たちの中に残っている。


     ◇ ◇ ◇


「止まって」


 今度はハリトだった。


 弓を構えている。


「前方。右の岩陰」


 見る。


 岩。


 その隣にも岩。


 さらに。


 もう一つ。


「……どれ?」


「一番右」


「ただの岩じゃ――」


 動いた。


 灰褐色の身体。


 岩のような鱗。


 低い姿勢。


 太い尾。


「……ロックリザード」


 俺が名前を口にした瞬間。


 誰からともなく。


 六人で顔を見合わせた。


「……なんか」


 俺は笑った。


「懐かしいな」


「分かる」


 ミーナも笑う。


「昇格試験、思い出すね」


「あの時は緊張しました」


 セラが杖を握る。


「俺もだ」


 オルドが盾を構えた。


「今は?」


 俺が聞く。


「緊張はしてる」


 オルドが笑う。


「でも、あの時とは違うな」


 その言葉に。


 カイルも槍を構えた。


「違うな」


 あの時は。


 俺たちは今みたいな仲間じゃなかった。


 同じ試験を受ける。


 ただの受験者。


 カイルは強くて。


 ミーナは周りをよく見ていて。


 オルドは誰かを守って。


 セラは冷静に魔法を使って。


 ハリトは。


 まあ。


 昔からハリトだった。


 そして俺は。


 必死だった。


 でも。


 今は違う。


 六人で《ラグナード》まで旅をして。


 一緒に飯を食って。


 野営して。


 魔物と戦って。


 同じ依頼をやり遂げて。


 六人全員。


 一つずつLEVELも上がった。


「一匹じゃないよ」


 ミーナが言った。


 岩陰。


 崩れた足場。


 さらに奥。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 四匹。


 五匹。


「五匹か」


 カイルが槍を構える。


「どうする?」


 あの頃のカイルなら。


 聞く前に動いていたかもしれない。


 でも今は。


 ちゃんと俺たちを見る。


「ここは足場が悪い」


 オルド。


「少し戻ったところに開けた場所があります」


 セラ。


「誘い出そう」


 ハリト。


「私もそれがいいと思う」


 ミーナ。


 俺は剣を抜いた。


「決まりだな」


 カイルが笑う。


「じゃあ、確認してみるか」


「何を?」


「あの試験の時から」


 槍の穂先が。


 ロックリザードへ向く。


「俺たちが、どれだけ強くなったか」


「――いいね」


 目の前にいるのは。


 あの日と同じ魔物。


 だけど。


 戦う俺たちは。


 もう。


 あの日と同じじゃない。


     ◇ ◇ ◇


 ハリトの矢。


 ロックリザードの目の前へ。


 わざと外す。


「ギャッ!」


 一匹がこちらを見る。


 二匹。


 三匹。


 こちらへ向かってくる。


「来る!」


 俺たちは下がる。


 逃げるためじゃない。


 自分たちで選んだ場所まで。


「カイル!」


「ああ!」


 一匹が飛び込んでくる。


 槍。


 でも。


 硬い背中は狙わない。


 最初から腹側。


「オルド!」


「任せろ!」


 カイルは。


 全部自分でやろうとしなかった。


 突進してきた二匹目を。


 オルドの盾が受け止める。


「ぐっ!」


「ニール!」


「はいよ!」


 俺の水魔法。


 地面を濡らす。


 ロックリザードの脚が滑った。


「それ便利だね!」


 ミーナが横を駆け抜ける。


「だろ!?」


「雑だけど!」


「余計な一言!」


 短剣が。


 柔らかい腹部を狙う。


「カイル!」


「任せろ!」


 槍。


 一匹目。


 倒れる。


「次!」


 指示を待たない。


 でも。


 勝手にも動かない。


「ニール、右!」


 ハリト。


「分かってる!」


 俺が右へ。


 その直後。


 矢が。


 さっきまで俺がいた場所を通り抜ける。


 ロックリザードの顔へ。


 命中。


「今!」


 セラの魔法。


 地面が盛り上がる。


 体勢を崩した。


「行く!」


 俺は踏み込む。


 剣。


 腹部。


 手応え。


 二匹目。


「左からもう一匹!」


 ミーナ。


「オルド!」


「任せろ!」


 盾。


 カイルの槍。


 ハリトの矢。


 セラの魔法。


 ミーナの短剣。


 そして。


 俺の剣。


 気づけば。


 誰が。


 何をするのか。


 なんとなく分かる。


 あの昇格試験の時とは。


 全然違う。


     ◇ ◇ ◇


 戦闘は。


 思ったより早く終わった。


 四匹。


 討伐。


 最後の一匹は。


 採石場の奥へ逃げていった。


「……終わった?」


 俺は剣を構えたまま周囲を見る。


「終わったみたい」


 ミーナが耳を動かす。


「逃げた一匹は?」


 カイルが聞く。


「追わなくていい」


 俺は剣を下ろした。


「まず安全確認」


「了解」


 みんなも武器を下ろす。


 俺は。


 倒したロックリザードを見る。


「……なんか」


「何?」


 ハリトが聞く。


「前より、楽だった」


「そりゃそうでしょ」


「こいつら、弱くなった?」


「なってないよ」


「じゃあ」


 ハリトが笑った。


「僕たちが強くなったんだろ」


「…………」


 そっか。


 同じ魔物だから。


 分かる。


 LEVELだけじゃない。


 知識。


 経験。


 判断。


 仲間との連携。


 積み重ねてきたもの。


 全部。


「あの試験の時とは違うな」


 カイルが言った。


「特にカイルがね」


 ミーナ。


「なんで俺だけなんだよ」


「だって分かりやすかったじゃん。ちゃんとオルドに任せてた」


「…………」


 カイルが少し黙る。


 そして。


「まあな」


 ちょっとだけ。


 嬉しそうだった。


「『任せられるのも、強さだ』だっけ?」


 俺が言う。


「……覚えてたのかよ」


「当然!」


「だったらお前も覚えとけよ」


「何を?」


「勝手に突っ込むなってことを」


「俺の話になった!?」


 みんなが笑った。


     ◇ ◇ ◇


 その後。


 俺たちは採石場を調べた。


 そこで。


 ミーナが気づいた。


「……多い」


「何が?」


「足跡」


 地面には。


 ロックリザードの爪痕。


 一つや二つじゃない。


「巣になってる?」


 俺が聞く。


「それなら幼体がいてもいいはず」


 ハリトが周囲を見る。


「餌の跡も少ない」


「じゃあ」


 カイルが言う。


「どこかから集まってきた?」


「たぶん」


 ミーナが足跡を追う。


 俺たちも続く。


 そして。


 採石場の奥。


 崩れた岩壁。


 そこに。


 黒い穴が開いていた。


「……何だ、あれ」


「古い坑道でしょうか」


 セラが言った。


「昔はこちら側も掘っていたのかもしれません」


 でも。


 問題は。


 そこじゃない。


「……ニール」


 ミーナの声が変わった。


「どうした?」


「これ」


 地面。


 ロックリザードの足跡。


 いくつも。


 その向きは。


「……中から出てきてる?」


「うん」


 坑道から。


 外へ。


 何匹ものロックリザードが。


 移動している。


「何かから逃げた?」


 オルドが言った。


「可能性はあります」


 セラ。


 俺は。


 《蒼天遺跡》を思い出した。


 そして。


 《エルティア大森林》で遭遇したレイザーマンティス。


 どちらも。


 普段とは違う場所へ魔物が移動していた。


 まさか。


 ここも――。


「同じとは限らない」


 ハリトが言った。


「……だな」


 そうだ。


 似ているからって。


 全部が同じ理由とは限らない。


 俺は。


 坑道を見る。


 暗い。


 何も見えない。


 気になる。


 めちゃくちゃ。


 気になる。


「ニール」


「うん」


「入りたいって思ってるでしょ」


「…………」


 図星。


「どうする?」


 カイルが聞く。


 俺は。


 暗い坑道を見る。


 昨日。


 リディアさんから言われた。


 依頼は。


 旧採石場周辺の魔物討伐と安全確認。


 坑道内部の調査ではない。


 地図もない。


 崩落しているかもしれない。


 魔物が何匹いるかも分からない。


 何がいるのかも。


 分からない。


「…………」


 入りたい。


 冒険者として。


 ものすごく入りたい。


 でも。


「……入らない」


 俺は言った。


「本当に?」


 ミーナが聞く。


「ああ」


「ニールなのに?」


「俺なのにって何だよ!」


「絶対『行こうぜ!』って言うと思った」


「俺も」


 カイル。


「私もです」


 セラ。


「俺もかな」


 オルド。


「お前ら俺を何だと思ってる!?」


「ニール」


 ハリト。


「お前まで言うな!」


 みんなが笑う。


 でも。


 俺は。


 もう一度坑道を見る。


「中に何がいるか分からないなら、ギルドに報告する」


「うん」


「必要なら」


 俺は言った。


「ちゃんと準備してから来ればいい」


 ハリトが頷く。


「僕も賛成」


「では、入口の位置を記録しましょう」


 セラ。


「足跡の数もな」


 オルド。


「大きさも測っとく」


 ミーナ。


「俺は周りを見てる」


 カイル。


 みんなが。


 それぞれ動き出す。


 俺も。


 坑道から背を向けた。


 気になる。


 でも。


 進まない。


 それを。


 自分で決めた。


 その瞬間。


 腰の《勇者装具》が。


 ほんの一瞬だけ。


 青く瞬いた。


『――判断』


「ん?」


 装具を見る。


「今、何か言った?」


『――肯定』


「判断?」


『――肯定』


「俺が入らなかったこと?」


 少しの沈黙。


『――肯定』


「…………」


「どうしたの?」


 ハリトが聞く。


「いや」


 俺は《勇者装具》を見る。


「なんか褒められた気がする」


『――回答不能』


「そこは肯定しろよ!」


 みんなが笑った。


     ◇ ◇ ◇


 俺たちが。


 《ガルド旧採石場》を離れた後。


 静けさが戻った。


 誰もいない。


 古い採石場。


 そして。


 暗い坑道の奥。


 ずるり。


 何かが。


 ゆっくりと動いた。


 岩のような塊が。


 持ち上がる。


 違う。


 岩ではない。


 鱗。


 一枚だけで。


 人間の頭ほどもある。


 ずるり。


 巨大な尾が動いた。


 坑道の壁へ触れる。


 ゴッ――。


 低い音。


 小石が落ちる。


 暗闇の中。


 二つの黄色い眼が。


 ゆっくりと開いた。


 《ロックリザード》。


 その名で呼ぶには。


 あまりにも巨大な個体。


 長い年月を生き。


 硬く。


 大きく。


 そして。


 強くなった魔物。


 坑道の壁には。


 新しい爪痕。


 削られた岩。


 広がった縄張り。


 周囲に棲んでいたロックリザードたちは。


 この巨大な個体に追われ。


 外へと押し出されていた。


 《蒼天遺跡》とは関係ない。


 《エルティア大森林》の異変とも関係ない。


 ただ。


 アルカレムという世界で。


 一匹の魔物が長く生き。


 縄張りを広げた。


 それだけのこと。


 けれど。


 もし。


 俺たちが。


 あの時。


 好奇心のまま坑道へ入っていたら。


 きっと。


 話は違っていた。


《判断経験――蓄積》


《既知対象への戦闘適応――確認》


《共同戦闘――記録》


《依頼目的――達成》


《成長共有補正――継続》


《対象――六名》


 あの昇格試験から。


 俺たちは。


 確かに強くなっていた。


 だけど。


 世界にはまだ。


 俺たちの知らない強さがある。


 坑道の奥で。


 巨大な魔物が。


 再び。


 静かに目を閉じた。

同じ《ロックリザード》と戦ったからこそ分かる、自分たちの成長。


ニールたちは確かに強くなっていました。


でも今回描きたかった「強さ」は、LEVELや戦闘能力だけではありません。


カイルは、自分一人ですべてやろうとせず仲間に任せる。


ニールは、逃げた魔物を追わず依頼を優先する。


そして最後には――


気になる坑道へ、入らない。


以前のニールなら、


「絶対なんかあるだろ! 行こうぜ!」


だったかもしれません(笑)


でも、知らない。準備もない。依頼範囲でもない。


だから一度帰って報告し、必要なら準備してから来る。


進むことだけが勇気ではなく、進まないと決めることも冒険者の強さ。


そして、その判断は正解でした。


坑道の奥にいたのは、《ロックリザード》と呼ぶにはあまりにも巨大な個体。


しかも今回は《蒼天遺跡》や《エルティア大森林》のような大きな謎とは関係ありません。


この世界には、勇者たちとは関係のない場所でも、知らない出来事が起きている。


アルカレムは、ニールたちを中心に回っている世界ではないのです。


さて。


巨大な魔物の存在を知らないまま、《ラグナード》へ戻る六人。


この報告が、次にどんな依頼へつながっていくのでしょうか。


続きも楽しみと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!

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