第八話『自分たちの依頼』(改訂版 ver.2.00)
今回のお話は、初稿から展開が大きく変わった回です。
以前のバージョンでは、カイルだけが一つ星だったため、二つ星への昇格試験が中心のお話でした。
ですが改訂版では、カイルもニールたちと一緒に昇格試験を突破しています。
ということで――今回は六人全員が二つ星!
《ラグナード》で初めて、誰かに用意された依頼ではなく、自分たちで依頼を選び、自分たちだけで冒険へ向かうことになります。
護衛依頼を経験し、LEVELも上がり、少しずつ冒険者らしくなってきたニールたち。
果たして、ちゃんと準備して出発できるのでしょうか。
……ニールがいるので、そこが一番心配です。
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翌朝。
俺は《ラグナード》の冒険者ギルドにいた。
「…………」
目の前には、巨大な依頼掲示板。
一つ星。
二つ星。
三つ星。
四つ星。
さらに、その向こうには五つ星。
昨日も見た。
ちゃんと見た。
なのに。
「やっぱすげえな……」
「昨日と同じこと言ってる」
隣でハリトが呆れていた。
「一晩寝たら、また新鮮に見えるだろ」
「見えないよ」
「俺は見える」
「便利な性格だね」
「褒められた」
「褒めてない」
朝のギルドは、昨日以上に賑わっていた。
依頼を探す冒険者。
受付に並ぶ冒険者。
素材を運び込む冒険者。
朝から酒を飲んでいる冒険者。
そして、人間だけじゃない。
エルフ。
ハーフビースト。
長身で筋骨隆々のドワーフ。
見たことのない種族らしき冒険者もいる。
「よし!」
俺は拳を握った。
「今日は依頼を受けよう!」
「そのために来たんだけど」
「ハリト、もう少しこう……冒険の始まりを楽しもうぜ」
「昨日まで護衛依頼してたよね?」
「新しい街で、自分たちで選ぶ最初の依頼だぞ!」
そう。
今回は少し違う。
リーヴェルからここまでの護衛依頼は、ギルドから紹介された仕事だった。
しかも、三つ星冒険者のダリオさんがいた。
でも。
今日は違う。
俺。
ハリト。
ミーナ。
セラ。
オルド。
そして、カイル。
六人で依頼を探して。
六人で選んで。
六人だけで向かう。
「なんか……冒険者っぽくない?」
「今までも冒険者だったよ」
「そういうことじゃないんだよ!」
「分かるけどね」
ハリトが少し笑う。
「さて」
ミーナが依頼掲示板を見上げた。
「何にする?」
「面白そうなやつ!」
「却下」
「まだ何も選んでない!」
「選び方を却下したの」
オルドが腕を組む。
「報酬はちゃんと見ような」
「危険度もです」
セラが続く。
「目的地までの距離も」
ハリト。
「戦えるやつ」
カイル。
「カイルだけ俺寄り!」
「お前と一緒にするな」
「なんでだよ!」
なんだか。
この六人で依頼を選ぶのも、すっかり普通になってきた。
◇ ◇ ◇
「これどうだ?」
俺が一枚の依頼書を指差した。
《旧採石場周辺・魔物討伐および安全確認》
《ラグナード》西方にある、今は使われていない採石場。
最近、その周辺で魔物の目撃が増えているらしい。
近くには現在も使われている街道があり、採掘場へ向かう作業員も通る。
依頼内容は。
周辺に出没する魔物の討伐。
そして。
旧採石場周辺の安全確認。
「危険度二」
セラが読む。
「距離も悪くないですね。朝に出れば昼前には着けそうです」
「報酬は?」
オルドが確認する。
「六人で分けても、そこそこだな」
「よし!」
俺は依頼書へ手を伸ばす。
「これにしようぜ!」
「待って」
ハリトに止められた。
「何?」
「ちゃんと最後まで読む」
「読んだぞ」
「受注条件」
「あ」
依頼書の一番下。
そこには。
二つ星以上。
と書かれている。
「問題なし!」
俺は胸元のギルドプレートを見る。
二つの星。
ハリト。
ミーナ。
セラ。
オルド。
カイル。
全員。
同じように二つ以上の星を持っている。
「六人とも受けられるな」
「ああ」
カイルが自分のプレートを見る。
そこにある二つの星を、親指でなぞった。
「なんだ?」
「いや」
カイルは少しだけ笑った。
「前なら、こういう依頼を見ても受けられなかったんだよなって思ってさ」
俺たちが二つ星へ上がった昇格試験。
カイルは俺たちの中でも戦闘能力が高かった。
でも。
何でも一人でやろうとするところがあった。
だから、試験官だったレイヴさんに言われた。
『任せられるのも、強さだ』
それでもカイルは試験に合格した。
俺たちと一緒に。
二つ星へ上がった。
「でも今は受けられる」
俺が言う。
「ああ」
「しかもLEVEL九」
「それは関係ないだろ」
「強いじゃん」
「お前もLEVEL四になったからって調子乗るなよ」
「乗ってない!」
「昨日めちゃくちゃ喜んでたじゃん」
ミーナが笑う。
「LEVEL四! 俺も上がった! って」
「再現するな!」
「似てた?」
「似てない!」
ハリトがぼそっと言った。
「似てたよ」
「ハリト!?」
朝から味方がいない。
◇ ◇ ◇
俺たちは依頼書を持って受付へ向かった。
昨日、護衛依頼の完了報告を受けてくれた女性がいた。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「昨日はありがとうございました。俺、ニール・レインです」
「覚えていますよ」
そりゃそうか。
青の勇者だと大声で言ってる十五歳。
覚えやすい。
「そういえば、昨日は名前を聞いてなくて」
「ああ、失礼しました」
女性は胸元の職員章に軽く触れた。
「ラグナード支部受付担当のリディア・ノールです」
「リディアさん」
「はい。ラグナード滞在中は、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
俺は依頼書を差し出した。
「これ、受けたいです!」
リディアさんが内容を確認する。
「《旧採石場周辺・魔物討伐および安全確認》ですね」
「はい」
「参加者は?」
「六人です」
リディアさんは俺たちのギルドプレートを順番に確認した。
「全員、受注条件を満たしていますね」
「よし!」
「ただし」
「はい」
反射的に背筋が伸びた。
「この依頼は、単純な魔物討伐だけではありません」
リディアさんが依頼書の一部を指す。
「安全確認?」
セラが答える。
「そうです」
「魔物を倒せば終わりじゃないってこと?」
「はい」
リディアさんは頷いた。
「旧採石場周辺を確認し、街道や作業員に危険が残っていないかを調べる。それを含めて依頼です」
「なるほど」
なんだか。
昨日と似ている。
護衛依頼も。
レイザーマンティスを倒すことが目的じゃなかった。
商人と荷物を無事に届けること。
今回も。
魔物を倒すだけじゃない。
「つまり」
俺は言った。
「ちゃんと帰ってきて、見たことを報告するところまでが仕事!」
「はい」
「おお……」
「どうしたの?」
ミーナが聞く。
「俺、今すげえ冒険者っぽくなかった?」
「自分で言わなければね」
「言うんじゃなかった!」
リディアさんが小さく笑った。
「依頼を受注しますか?」
「はい!」
「では、正式に受理します」
こうして。
俺たちは《ラグナード》で初めて。
自分たちだけの依頼を受けた。
◇ ◇ ◇
「よし! 行くぞ!」
俺はギルドの出口へ向かう。
「どこに?」
「旧採石場!」
「今から?」
「そうだけど?」
ハリトが俺を見る。
「地図は?」
「…………」
「保存食」
「…………」
「水」
「…………」
「旧採石場周辺に出る魔物の情報」
「…………」
俺はゆっくりと。
回れ右した。
「まず準備をしよう!」
「切り替えが早い」
「俺は成長する男だからな!」
「言い方で誤魔化したね」
「誤魔化してない!」
昨日。
地図を買おうと思っていた。
思っていただけだった。
買ってない。
「地図」
「はい」
「保存食」
「はい」
「水」
「はい」
「薬」
オルド。
「はい」
「採石場ならロープもあった方がいいですね」
セラ。
「はい」
「魔物の情報も調べたい」
ミーナ。
「はい!」
そして。
「資料室行こうぜ!」
俺が言った。
みんなが。
一瞬、黙った。
「何?」
「いや」
ハリトが笑う。
「ちゃんと冒険者っぽくなってきたなと思って」
「だろ?」
ちょっと嬉しい。
◇ ◇ ◇
ギルドの資料室には。
魔物。
地形。
街道。
各地域の注意事項。
俺が今まで知らなかった情報が、山ほどあった。
「すげえ……」
「また言ってる」
「これは言うだろ!」
俺は旧採石場周辺の資料を開く。
ハリトは地図。
ミーナは魔物の記録。
セラは過去の報告書。
オルドは必要になりそうな装備を確認する。
カイルは――。
「カイル」
「何だ」
「寝るなよ」
「寝てねえ」
「目閉じてたぞ」
「考えてたんだよ!」
ちゃんと起きていた。
たぶん。
「周辺で最近確認されている魔物は、危険度一から二が中心みたい」
ミーナが資料を見ながら言う。
「じゃあ余裕だな!」
「その考え方をやめようって話をしてるんだけど」
「……油断せずに行こう」
「よろしい」
ハリト先生が厳しい。
「それと」
セラが過去の報告書から顔を上げた。
「旧採石場は、かなり前から使われていないようです」
「なんで?」
「採れる石の量が減ったことと、一部の坑道が崩落したから、とあります」
「中に入れる?」
「依頼範囲は周辺の安全確認です。坑道内部へ入る必要はないと思います」
「…………」
「ニール」
「入らないよ!」
「まだ何も言ってないけど」
「顔に書いてあったんだろ!?」
「うん」
受付の人と同じことをされ始めた。
解せぬ。
◇ ◇ ◇
その日は。
依頼に必要な準備に使うことにした。
地図を買う。
保存食を補充する。
水筒を確認する。
薬を買う。
ロープを用意する。
装備を点検する。
そして。
魔物の情報を調べる。
前の俺なら。
依頼を見つけた瞬間。
「行こうぜ!」
だったと思う。
でも。
今は少しだけ違う。
知らないなら調べる。
必要なら準備する。
危ないなら考える。
それでも行きたいなら。
行く。
俺たちは。
最初から強い冒険者だったわけじゃない。
知らないことだらけで。
失敗して。
怒られて。
覚えて。
そして。
また次の依頼を受ける。
たぶん。
それでいいんだ。
「ニール」
「ん?」
ハリトが地図を広げていた。
「明日はこの道」
「おお」
《ラグナード》から西へ。
街道を進み。
途中で少し外れた先に。
旧採石場。
「今度は分かる?」
「完璧!」
「じゃあ、ラグナードはどこ?」
「ここ!」
「そこ旧採石場」
「…………」
「ニール?」
「明日までに覚えます」
「不安しかない」
みんなが笑った。
俺も笑う。
そして。
地図を見る。
知らない場所。
知らない道。
知らない魔物。
でも。
今度は。
六人だけで行く。
「次の冒険だな」
「ああ」
カイルが笑った。
明日。
俺たちは。
《ラグナード》で最初の依頼へ向かう。
◇ ◇ ◇
その夜。
宿の部屋で。
ハリトは窓の外を見ていた。
《ラグナード》の街並み。
その向こう。
さらに遠く。
ここからは見えない。
《エルティア大森林》の方角。
あれから。
呼ばれているような感覚はない。
何も聞こえない。
何も感じない。
なのに。
なぜか。
前より気になっていた。
あの時。
弓を引いた瞬間。
風が。
矢が。
自分の身体が。
まるで。
ずっと昔から知っていたみたいに動いた。
「…………」
ハリトは自分の手を見る。
なぜ、あんなことができたのか。
ただの偶然なのか。
それすら分からない。
でも。
「……いつか行こう」
小さく呟いた。
呼ばれたからじゃない。
何かに行けと言われたからでもない。
自分が。
知りたいと思った時に。
「僕が決めて、行く」
ハリトは窓を閉めた。
◇ ◇ ◇
遠く離れた。
《エルティア大森林》の奥。
誰にも知られていない場所で。
緑色の光が。
静かに瞬いた。
《対象――遠方》
《魂反応――安定》
《成長――継続》
《追跡――継続》
しばらく。
何も起こらない。
そして。
《強制誘導――不要》
《待機――継続》
緑の光は。
少年を呼ばなかった。
連れ戻そうともしなかった。
ただ。
待っていた。
彼がいつか。
誰かに選ばれたからではなく。
何かに命じられたからでもなく。
自分の意志で。
この森を選ぶ時を。
カイルの昇格試験――ではなく。
六人で、次の冒険へ!
改訂前とは大きく展開が変わりましたが、個人的にはこちらの方が第二章『冒険者たち』らしい流れになったかなと思っています。
これまでのニールたちは、ギルドから仕事を紹介してもらったり、三つ星冒険者のダリオと一緒に護衛したりと、まだ「教えてもらいながら冒険する」立場でした。
でも今回は違います。
依頼を選ぶ。
条件を確認する。
情報を調べる。
地図を買う。
必要な装備を考える。
そして――自分たちで決めて、冒険へ行く。
魔物を倒してLEVELを上げるだけではなく、こういう一つ一つの経験も、ニールたちを冒険者にしていくのだと思います。
そしてもう一つ。
《エルティア大森林》が気になり続けているハリト。
それでも彼は、
「僕が決めて、行く」
と口にしました。
森の奥にある何かも、彼を無理に呼ぼうとはせず、ただ待っています。
「選ばれたから進む」のではなく、最後に選ぶのは自分自身。
この小さな選択が、この先どこにつながっていくのか。
次は六人だけで挑む、《旧採石場》での依頼です!
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