第四話『英雄譚の続き』(改訂版 ver.1.01)
いよいよ、プロローグ最終話です!
これまで描かれてきたのは、五百年後の世界。
赤の勇者だけが見つからないこと。
五百年以上沈黙していた古代遺跡。
そして――
魔王を倒した《五大勇者》は、その後どうなったのか?
今回は時間を五百年前へ遡ります。
赤のロッサ・レギア。
青のアズール・セイン。
緑のヴェルデ・フォルティス。
黄のジャイロ・グランツ。
白のビアンカ・ルミナ。
後の世で《五大勇者》と呼ばれる五人。
彼らの英雄譚は、魔王を倒して終わった――はずでした。
現在の設定や今後の展開に合わせて、今回も改訂版として大きく見直しています。
すでに読んでくださった方も、
「ここが変わった!」
「これ、後々何かありそう……」
と想像しながら楽しんでいただけたら嬉しいです!
そして、
「面白かった!」
「この世界の謎が気になる!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!
それでは――
プロローグ第四話『英雄譚の続き』
五百年前の物語です。
五百年前。
後の世で《五大勇者》と呼ばれる五人は、魔王ヴァルガスの居城、その最深部へと辿り着いていた。
長い旅だった。
いくつもの国を越えた。
いくつもの戦場を駆けた。
仲間を失ったこともある。
自分たち自身が、ここで終わると思ったことも一度や二度ではない。
それでも五人は進み続けた。
すべては、この世界を救うために。
そして今。
その旅が、終わろうとしていた。
「……ずいぶん派手にやってくれたものだ」
崩れかけた玉座の間。
瓦礫の向こうで、男がゆっくりと立ち上がった。
魔王――ヴァルガス。
黒い衣は裂け、身体にはいくつもの傷を負っている。
それでも、その眼光はいまだ鋭い。
対する五人も無傷ではなかった。
先頭に立つ赤髪の女が、剣を構える。
赤の勇者。
ロッサ・レギア。
「お互い様でしょう」
ロッサは周囲を見回した。
「あなたも相当暴れたじゃない」
「我が城だ」
「じゃあ壊した分は自分で直して」
「……魔王に城の修繕を要求した勇者は、お前が初めてだろうな」
「光栄ね」
ヴァルガスが僅かに笑った。
「ロッサ」
背後から声が飛ぶ。
青い剣を構えた青年――アズール・セイン。
「油断するな」
「してないわよ」
「さっきもそう言って吹き飛ばされただろ」
「あれは油断じゃなくて作戦」
「どんな作戦だ」
「敵を油断させる作戦」
「お前が吹っ飛ぶ必要あるか?」
「……結果的には?」
「疑問形にするな」
「二人とも」
さらに後ろ。
弓を構えた緑髪のエルフ、ヴェルデ・フォルティスが呆れたように言った。
「魔王の前で喧嘩するのは、倒してからにしてくれ」
「喧嘩じゃない!」
二人の声が重なった。
ヴェルデがため息をつく。
「そういうところだ」
「ガッハッハッハ!」
豪快な笑い声が玉座の間に響いた。
巨大な剣を担いだドワーフの勇者、ジャイロ・グランツ。
「いいじゃねえか! これが最後なんだ! 好きなだけやらせとけ!」
「最後だから集中してください」
冷静な声とともに、白い光がジャイロを包んだ。
傷が塞がっていく。
白銀の髪。
長い耳。
ハーフエルフの勇者――ビアンカ・ルミナ。
「おお! 助かったぞ、ビアンカ!」
「これで本日七回目です」
「そんなにか?」
「あなたはもう少し避けるということを覚えてください」
「避けたら後ろのお前らに当たるだろ!」
ビアンカが一瞬、言葉を止めた。
「……そういうことを突然言うのは、ずるいと思います」
「ん? 何がだ?」
「何でもありません」
「なんだよ!」
ロッサが吹き出した。
アズールも笑う。
ヴェルデまで口元を緩めた。
世界の命運を懸けた戦い。
それでも五人は、いつも通りだった。
長い旅の果てに出来上がった、五人の距離だった。
「……不思議なものだな」
ヴァルガスが言った。
五人が彼を見る。
「何が?」
「仲間というものは」
ロッサの表情から笑みが消えた。
「何が言いたいの?」
「いや」
ヴァルガスは首を振る。
「少し、羨ましくなっただけだ」
「…………」
ほんの一瞬。
ヴァルガスの目が、五人の腰へ向けられた。
赤。
青。
緑。
黄。
白。
五つの《勇者装具》。
そして。
ヴァルガスは静かに息を吐いた。
「さあ、来い」
黒い魔力が吹き上がる。
空気が震えた。
玉座の間そのものが軋み始める。
「お前たちが信じるものを――」
ヴァルガスが両腕を広げた。
「最後まで、貫いてみせろ」
ロッサが剣を構える。
「言われなくても!」
五人が同時に地面を蹴った。
最初に飛び込んだのは、ジャイロだった。
「うおおおおおおッ!!」
巨大な剣を振り下ろす。
黒い魔力と衝突した。
轟音。
床が砕ける。
「ジャイロ!」
「止めてる! 今だ!」
「ヴェルデ!」
「見えている」
三本の矢が放たれる。
ほぼ同時。
ヴァルガスの周囲に展開していた魔法陣が三つ砕けた。
「アズール!」
「ああ!」
青い閃光。
アズールの剣が、開いた防御を切り裂く。
だが。
「甘い!」
「――っ!」
ヴァルガスの腕が振り上げられる。
アズールの身体が宙へ浮いた。
「アズール!」
ロッサが飛び込む。
「来るな!」
「もう来た!」
「だからお前は――!」
赤い剣がヴァルガスの一撃を受ける。
衝撃。
二人まとめて吹き飛ばされた。
「ほら見ろ!」
「うるさい!」
「喧嘩してる場合ですか!」
白い光が二人を包む。
ビアンカだった。
「傷は塞ぎます! 痛みは我慢してください!」
「十分!」
ロッサが立ち上がる。
アズールも続いた。
「ロッサ」
「なに?」
「次で決めるぞ」
「当然」
二人が視線を合わせる。
それだけで十分だった。
赤と青の《勇者装具》が光る。
それに呼応するように。
緑。
黄。
白。
五つの光が輝き始めた。
旅の途中で、それぞれが手にした不思議な装具。
なぜ自分たちが選ばれたのか。
誰がこれを作ったのか。
なぜ五つ存在するのか。
五人は知らない。
それでも。
何度もこの力に助けられてきた。
何度も、この五人だから越えられたものがあった。
「みんな!」
ロッサが叫ぶ。
「行くわよ!」
「いつでも」
アズール。
「合わせる」
ヴェルデ。
「任せろ!」
ジャイロ。
「無茶だけはしないでください」
ビアンカ。
「それ、今言う?」
「あなた方には毎回言っています」
ロッサが笑う。
「じゃあ――」
赤い剣を構えた。
「これで最後!」
五つの光が重なる。
その瞬間。
ヴァルガスの表情が変わった。
「…………」
そして。
笑った。
「やはり――」
小さな声だった。
「お前たちだったか」
ロッサには聞こえなかった。
「行くよ!」
赤い光。
青い光。
緑の風。
黄色の衝撃。
白い魔力。
五つの力が、一つになり――。
魔王を貫いた。
静寂。
ヴァルガスを覆っていた黒い魔力が消えていく。
「……見事だ」
膝をつく。
そして。
倒れた。
しばらく、誰も動かなかった。
「……終わった?」
ロッサが呟く。
ヴェルデが周囲を確認する。
「魔力反応……消失」
ビアンカもヴァルガスを確認した。
「生命反応も……ありません」
沈黙。
ジャイロが四人を見る。
「つまり?」
「……勝った」
アズールが言った。
「俺たちの勝ちだ」
「…………」
ジャイロが大きく息を吸った。
「勝ったぞおおおおおおおお!!」
「うるさい!」
ヴェルデが耳を塞ぐ。
「勝ったんだぞ! もっと喜べ!」
「耳元で叫ぶな!」
「ガッハッハッハ!」
ロッサは、その光景を見ながら笑った。
「終わったんだ」
「ああ」
隣にアズールが立つ。
「終わった」
ロッサは崩れた天井の向こうに広がる空を見上げた。
「帰れるね」
「ああ」
「……何年ぶりかな」
「さあな」
「帰ったら何しよう」
「寝る」
「夢がないわね」
「じゃあ、お前は?」
「私は――」
ロッサが少し考える。
そして、アズールを見る。
「秘密」
「なんだよ、それ」
「帰ったら教えてあげる」
「忘れるなよ」
「アズールこそ」
ロッサは笑った。
「ちゃんと生きて帰ってよ」
アズールも笑う。
「お前もな」
「――ロッサ・レギア」
声がした。
二人の表情が変わる。
「……!」
倒れたはずのヴァルガス。
その指が、僅かに動いていた。
「まだ……!」
アズールが剣を抜く。
「待て」
ヴァルガスが言った。
「もう戦う力など残っていない」
「なら何?」
ロッサが警戒しながら近づく。
「お前に、贈り物がある」
「いらない」
「そう言うな」
ヴァルガスの指先に、小さな黒い光が生まれた。
「ロッサ!」
アズールが走る。
だが。
黒い光の方が速かった。
「――っ!」
光がロッサの胸へ吸い込まれた。
「ロッサ!」
アズールが身体を支える。
「大丈夫か!?」
「……大丈夫」
「何をした!」
ビアンカがすぐに駆け寄った。
白い魔法陣がロッサを包む。
「これは……」
「どうした?」
「分かりません」
「は?」
「術式が……読めません」
四人の表情が変わった。
ビアンカにも分からない。
「何をしたの」
ロッサがヴァルガスを見る。
「呪いだ」
「趣味悪いわね」
「魔王だからな」
「納得したくないけど、納得したわ」
ヴァルガスが僅かに笑った。
「ロッサ・レギア」
「何よ」
「お前は世界を救った」
「……まだ帰ってないけどね」
「そうだ」
ヴァルガスの声色が変わった。
「まだ、終わっていない」
ロッサが眉を寄せる。
「何?」
「お前たちは、自分たちが正しいと思っている」
誰も答えなかった。
「それでいい」
ヴァルガスは続ける。
「今はな」
「何が言いたい」
アズールが低い声で問いかけた。
だが、ヴァルガスはロッサだけを見ていた。
「次は――」
一度、息を吐く。
「反対側から世界を見てみろ」
「反対側?」
「そして」
ヴァルガスの身体が、黒い粒子へ変わり始める。
「自分で選べ」
「待ちなさい!」
「勇者でもなく」
ヴァルガスが笑った。
「魔王でもなく」
その言葉を最後に。
魔王ヴァルガスは消えた。
「……最後まで意味分かんねえ奴だったな」
ジャイロが言った。
「魔王ですからね」
ビアンカはまだロッサを調べている。
「身体には、今のところ異常はありません」
「ほら」
ロッサがアズールを見る。
「大丈夫だったでしょ」
「帰ったらもう一度調べてもらえ」
「はいはい」
「絶対だぞ」
「心配性ね」
「誰のせいだ」
「私?」
「お前以外に誰がいる」
ヴェルデがため息をついた。
「帰ってからやってくれ」
「だから喧嘩じゃないって」
ロッサが笑った。
戦いは終わった。
魔王は倒れた。
五人とも生きている。
あとは帰るだけだった。
――そのはずだった。
カチリ。
「……?」
アズールが振り返った。
「今の音、何?」
「俺じゃねえぞ」
「誰もジャイロとは言っていない」
「なんで俺を見る!」
カチリ。
もう一度。
今度は全員が聞いた。
「装具……?」
ビアンカが呟く。
五人が腰を見る。
光っている。
赤。
青。
緑。
黄。
白。
これまでとは違う。
五つの《勇者装具》が、まったく同じ周期で明滅していた。
「何これ」
ロッサが赤の装具へ手を伸ばす。
「触るな」
アズールが言った。
「もう触ってる」
「だからお前は!」
「何よ!」
「静かに」
ヴェルデの声で、全員が止まった。
「何か来る」
空気が変わる。
魔力ではない。
殺気でもない。
それなのに。
本能だけが告げていた。
何かが始まる。
何もない空間に、一本の光が走った。
さらに一本。
さらに。
見たことのない文字が、宙へ浮かんでいく。
「……古代文字?」
ビアンカが首を振る。
「違います」
「じゃあ何だ?」
「分かりません」
次の瞬間。
五人の《勇者装具》が、一斉に強い光を放った。
《魔王個体――生命反応消失》
「……ヴァルガスのこと?」
ロッサが呟く。
《認証個体――五》
《戦闘能力――基準達成》
「何だ、これ……」
ジャイロが大剣を握り直す。
《勇者適合――基準達成》
ヴェルデの目が細くなる。
「誰かが僕たちを評価している……?」
そして。
一度。
光が止まった。
《最終選定――》
五人の表情が変わる。
「最終……?」
アズールが呟く。
その直後。
大地が揺れた。
「うおっ!?」
ジャイロが踏ん張る。
「地震ではありません!」
ビアンカが叫んだ。
城の外。
遠く離れた場所から、光が立ち上がった。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
五人が言葉を失う。
地平線の彼方。
まるで世界そのものが、五人の勝利を待っていたかのように。
五つの光が、天へ伸びていた。
「……何よ、あれ」
ロッサが呟いた。
誰も答えられない。
アズールが青い剣を握り直す。
「ロッサ」
「うん」
「どうやら」
遠くの光を見つめる。
「まだ終わってないらしい」
ロッサはしばらく黙っていた。
そして。
「……最悪」
小さく笑った。
「せっかく帰れると思ったのに」
ジャイロが大剣を肩へ担ぐ。
「だったら、あれを調べりゃ帰れるんだろ?」
「なぜ壊す前提なんだ」
ヴェルデが呆れる。
「まだ壊すとは言ってねえ!」
「顔が言っていました」
ビアンカが答えた。
「顔で分かるのか!?」
「分かります」
「お前ら俺の扱い雑じゃねえか!?」
いつもの声。
いつもの五人。
ロッサは仲間たちを見た。
アズール。
ヴェルデ。
ジャイロ。
ビアンカ。
誰一人、帰ろうとは言わなかった。
「じゃあ――」
ロッサが剣を担ぐ。
「行こうか」
「どこへ?」
アズールが聞いた。
「全部」
「……全部?」
「五か所あるんでしょ?」
ロッサは笑う。
「だったら全部見ればいいじゃない」
アズールが頭を抱えた。
「お前ならそう言うと思ったよ」
「嫌?」
「まさか」
アズールは剣を収めた。
「付き合うさ」
「僕も」
ヴェルデが言う。
「ここまで来て放ってはおけない」
「俺も行くぞ!」
ジャイロが笑う。
「放っておいたらロッサさんとジャイロさんだけで壊しそうですから、私も行きます」
ビアンカが答えた。
「私まで!?」
「自覚してください」
笑い声が響く。
五人は歩き出した。
魔王を倒した、その先へ。
――後の世に残された記録には、こう記されている。
五百年前。
魔王ヴァルガスが世界を脅かした。
それに立ち向かった五人の勇者がいた。
赤のロッサ・レギア。
青のアズール・セイン。
緑のヴェルデ・フォルティス。
黄のジャイロ・グランツ。
白のビアンカ・ルミナ。
五人は魔王を討ち倒し、世界に平和を取り戻した。
人々は彼らを――
《五大勇者》と呼んだ。
そこで、英雄譚は終わっている。
五人がその後どこへ向かったのか。
そこで何を見たのか。
何を選んだのか。
それを記したものは、残されていない。
ただ。
誰にも知られることのなかった場所に。
最後の記録だけが残っていた。
《戦闘能力――基準達成》
《勇者適合――基準達成》
《――》
《調和条件――未達》
《最終選定――失敗》
そして。
五人の勇者は――
誰一人として帰らなかった。
プロローグ 了
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
これにて――
プロローグ『五人目が、いない』完結です!
今回の改訂では、五百年前の《五大勇者》について、現在の世界観や今後の展開につながる部分を中心に大きく見直しました。
伝説の英雄たちといっても、ずっと格好いいわけじゃない。
喧嘩したり、笑ったり、ツッコんだり。
五百年前にも、こんなふうに一緒に旅をしていた五人がいました。
そして彼らは、ついに魔王ヴァルガスを倒します。
普通の英雄譚なら――
ここでエンディングです。
でも、この作品では違います。
魔王を倒したその先で、五人は自分たちの知らなかった何かに出会った。
そして歴史に残されたのは、
「五大勇者は魔王を倒し、世界を救った」
そこまででした。
なぜ、五人は誰一人として帰ってこなかったのか。
ヴァルガスがロッサに残したものは何なのか。
《勇者装具》は何のために存在するのか。
そして――
《調和条件――未達》
この言葉が何を意味するのか。
答えはまだ、ずっと先です。
ここから物語の時間は遡り、青の勇者ニール・レインの冒険が始まります。
彼がどうやって冒険者になり、仲間と出会い、プロローグで描かれた未来へ辿り着くのか。
まずは一人の少年の、小さな冒険から。
第一章『青の勇者』へ続きます!
ここまで読んで、
「続きが気になる!」
「五人目の勇者を一緒に追いかけたい!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援よろしくお願いします!
皆さんの応援が、続きを書く大きな力になります。
それでは――
青の勇者ニール・レインの冒険を、始めましょう。
引き続き、
『五人目の勇者が見つからない』
をよろしくお願いします!




