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第三話『五人目の反応』(改訂版 ver.1.01)

プロローグ第三話も、現在の設定や今後の展開に合わせて、改訂版として書き直しました!


見つからない《赤の勇者》。


五百年以上沈黙していた古代遺跡。


そして、四人が身につけている《勇者装具》。


今回は、これまで当たり前だと思っていた《五大勇者》の伝承に、少しずつ「何かがおかしい」が混ざり始めます。


特に注目していただきたいのは――


誰もいないはずの《赤》


すでに読んでくださった方も、


「ここ、変わったな」

「この反応って、もしかして……?」


なんて想像しながら、改訂版を楽しんでいただけたら嬉しいです!


そして、


「面白かった!」

「続きが気になる!」


と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、


プロローグ第三話『五人目の反応』


どうぞ!

「肉を食いすぎた」


 王都《セレスティア》を出てしばらくして、ピートが腹を押さえながら言った。


「知りません」


 シロナは振り返りもしない。


「昨日、あれほど言いましたよね。明日は早いんですから、ほどほどにしてくださいと」


「ほどほどにしたぞ」


「どこがです?」


「パンを三つ残した」


「私は肉の話をしています」


「肉を残すのは失礼だろ」


「誰にですか」


「肉に」


「…………」


 シロナが立ち止まった。


 ニールは、その横顔を見る。


「ピート」


「なんだ?」


「逃げた方がいい」


「なぜ――」


「ピートさん」


 シロナが笑った。


 笑っている。


 なのに、怖い。


「次の街まで走りますか?」


「いや、俺、腹が――」


「大丈夫です。治癒魔法がありますから」


「何を治すつもりだ!?」


「さあ?」


「ニール!」


「知らん!」


 ニールは走った。


「おい! 見捨てるな!」


「朝から元気だね、君たち」


 後ろからハリトの呆れた声が聞こえる。


 こうして俺たちは、王都を出た。


 目指すのはアルヴェリア東部。


 ノクティアとの国境近くで、三日前に異変が確認されたという古代遺跡。


 五百年以上、何の反応もなかった場所らしい。


 そして、ほぼ同じ頃。


 ノクティア側にも動きがあった。


 王国は、二つの出来事が無関係ではないと考えている。


 俺たちの仕事は、その調査。


 本当なら、五人で向かうものなのかもしれない。


 でも。


 赤の勇者は、まだ見つかっていない。


 だから今回も。


 俺たちは四人だった。


 王都を出て四日目。


 東へ進むにつれ、人の姿は目に見えて減っていった。


 代わりに増えたのは、王都方面へ向かう馬車と兵士たちだった。


「この辺りも避難したのか」


 ニールは街道脇に広がる畑を見る。


 作物は残っている。


 けれど、それを収穫する人がいない。


「国境に近い村には、避難命令が出ていますから」


 シロナが答えた。


 遠くに小さな家が並んでいる。


 煙の上がっている家は一軒もない。


「変な感じだな」


 昨日までは、きっと誰かが暮らしていた。


 子どもが走って。


 大人が働いて。


 家族で飯を食べて。


 そんな普通の生活があったはずなのに。


「……早く終わらせたいな」


 ニールが呟く。


「何を?」


 ハリトが聞いた。


「全部」


「ずいぶん大きく出たね」


「勇者だからな」


「赤も見つかってないのに?」


「それを言うな」


 ニールは肩を落とした。


「そういえば」


 ピートが口を開く。


「赤って、本当にいるのか?」


 三人の足が止まった。


「……何言ってんだ?」


「いや」


 ピートは頭を掻く。


「俺たち四人はいるだろ。でも赤だけ、誰も見てないじゃん」


「伝承では《五大勇者》です」


 シロナが答えた。


「五百年前も、赤、青、緑、黄、白の五人だったとされています」


「じゃあ、いるのか」


「いるはずです」


「どこに?」


「それが分からないから探してるんだろ」


 ニールが答える。


「なるほど!」


「今まで何だと思ってたんだ、お前」


「深く考えたことなかった」


「だろうね」


 ハリトが即答した。


「おい!」


 四人の声が、誰もいない街道に響いた。


 遺跡へ到着したのは、その日の夕方だった。


「……なんだ、これ」


 ニールは足を止めた。


 古代遺跡。


 そう聞いていたから、数日前に潜った遺跡と似たようなものを想像していた。


 崩れた石壁。


 苔むした柱。


 昔の誰かが残した、ただ古いだけの建物。


 実際、遠くから見ればそう見える。


 半ば崩れた巨大な神殿。


 地面へ沈み込んだ柱。


 壁を覆う蔦や苔。


 だが。


「……光ってるな」


 ピートが言った。


「光っていますね」


 シロナも遺跡を見上げる。


 石壁の隙間を、細い青色の光が走っていた。


 一本ではない。


 何十本もの線が、遺跡の奥へ向かって伸びている。


 しかも一定の間隔で明滅していた。


「遺跡って、あんな光り方するものなのか?」


「普通はしないと思うよ」


 ハリトが答える。


「魔法陣か?」


「……いえ」


 シロナが近づいた。


「少なくとも、私が知っている術式ではありません」


「シロナでも分からないことあるんだな」


「ありますよ」


「何でも知ってるのかと思ってた」


「ニールさん」


「はい」


「今のうちに謝ってください」


「ごめんなさい」


「早いね」


 ハリトが笑った。


 シロナは青い光へ手を近づける。


 だが、触れる直前で止めた。


「妙ですね」


「何が?」


「魔力をほとんど感じません」


「……光ってるのに?」


「だから妙なんです」


 ニールは腰元へ目を落とした。


 青の《勇者装具》は、何の反応も示していない。


「お前、これ何か分かる?」


 小声で尋ねてみる。


 わずかな間を置いて、意味が頭の中へ届いた。


《回答――制限》


「……またそれかよ」


「何か言いました?」


「いや。こいつも教えてくれない」


 ニールが装具を軽く叩く。


《訂正――回答不能》


「そこは訂正するんだな」


 ハリトが笑いを堪えていた。


「ずいぶん仲良くなったね」


「たまに腹立つけどな」


《評価――不明》


「ほら、こういうところ」


「遊んでないで行くよ」


「はいはい」


 四人は顔を見合わせた。


「入るか」


 ピートが大剣を背負い直す。


「お前は何も触るなよ」


「なんでだよ」


「この前の遺跡で罠を踏んだだろ」


「あれはニールだ!」


「……そうだった」


「忘れるな!」


「では二人とも触らないでください」


「俺も!?」


「信用がありませんので」


「勇者なのに!?」


「勇者と注意力は別問題です」


 ハリトが吹き出した。


「諦めなよ、ニール」


「お前はどっちの味方だよ」


「安全な方」


 いつもの調子で言い合いながら、四人は遺跡へ入った。


 中は、さらに奇妙だった。


 壁そのものは石造りだ。


 なのに、ところどころに黒く滑らかな素材が埋め込まれている。


 金属とも違う。


 石とも違う。


 継ぎ目すら見当たらない。


 そして壁を走る青い光は、奥へ奥へと続いていた。


「まるで道みたいだな」


 ニールが言った。


「俺たちを案内してるとか?」


 ピートが答える。


「やめて」


 ハリトが言った。


「なんで?」


「そういうこと言うと、本当にそうなる気がする」


「じゃあ罠か?」


「それも言わないで」


「じゃあ何なら言っていいんだ?」


「黙ってて」


「ひどい!」


 やがて、通路が途切れた。


 その先に、巨大な空間が広がっている。


 ニールは思わず足を止めた。


「……すげえ」


 天井が見えない。


 中央には巨大な円形の台座。


 その周囲を囲むように、五本の柱が立っていた。


「……五本?」


 シロナが呟く。


 それぞれの柱に、違う紋章が刻まれていた。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 白。


 ニールは目を見開いた。


「これ……」


「《五大勇者》の紋章だ」


 ハリトが答える。


「なんでこんなところに?」


「分からない」


 ハリトが慎重に一歩踏み出した。


 その瞬間だった。


 ――ヴン。


 低い音が響く。


「……今の何?」


「俺じゃないぞ」


 ピートが両手を上げた。


「まだ誰も疑ってません」


 シロナが答えた。


 次の瞬間。


《外部接続――検知》


「え?」


 頭の中へ、青の声が届いた。


《同系統設備――確認》


「同系統……?」


「ニール?」


 ハリトがこちらを見る。


「青が何か――」


 言い終わるより早かった。


 腰の《勇者装具》から、青い光が溢れた。


「うわっ!」


 それに呼応するように、部屋の青い柱が輝く。


 ――ヴン。


 次は、緑。


 ハリトの装具と緑の柱が同時に光った。


「僕のも……?」


 そして。


「おお!」


 ピートの黄。


「だから喜ばないでください!」


 最後に、シロナの白。


 四人の《勇者装具》。


 四本の柱。


 同じ色同士が呼応するように光を放っている。


《認証個体――確認》


 青から、さらに情報が流れ込んできた。


《青――確認》


《緑――確認》


《黄――確認》


《白――確認》


 ニールは息を呑んだ。


 最後の一本を見る。


 赤。


 そこだけが、暗い。


《赤――》


 そこで情報が途切れた。


「……やっぱり」


 ニールが呟く。


「赤がいないからか」


 ハリトも赤い柱を見る。


 何も起きない。


 何の光もない。


「……本当にどこにいるんだよ」


 ニールは苦笑した。


「俺たち、結構探してるぞ」


 もちろん、返事なんてない。


 あるはずがない。


 そう思った。


 ――ドクン。


「……え?」


 赤い柱が光った。


 ほんの一瞬。


 本当に、一瞬だけ。


 まるで遠く離れた何かに応えるように。


 そして、すぐに消えた。


「今の……」


 ニールは目を見開く。


「今、赤が光ったよな?」


「え?」


 シロナが振り返った。


「赤が?」


「ああ!」


「私は見ていません」


「僕も」


 ハリトが首を振る。


「俺も!」


 ピートが言う。


「お前、黄色い柱見てただろ」


「よく分かったな!」


「見てなかったじゃねえか!」


 ニールはもう一度、赤の柱を見る。


 暗い。


 何の反応もない。


「……気のせい?」


《――》


「お前は?」


 青は答えない。


「今の見ただろ?」


《回答――制限》


「またそれかよ」


 だが。


 さっきとは何かが違った。


 答えられないんじゃない。


 そんな気がした。


 ――答えない。


 なぜか、そう感じた。


 その時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ。


 遺跡全体が揺れ始める。


「今度は何だ!?」


「全員、中央から離れて!」


 ハリトの声で四人が飛び退く。


 巨大な円形の台座から、光が立ち上がった。


 青。


 緑。


 黄。


 白。


 四本の光。


 そして――。


 少し遅れて。


 赤。


「……五つ」


 シロナが呟いた。


 五色の光が空中へ昇り、複雑に絡み合う。


 その下に、見たことのない文字のようなものが次々と浮かんだ。


「読める?」


 ニールが尋ねる。


 シロナは首を振る。


「いいえ。古代文字ではありません」


「じゃあ何だよ」


「分かりません」


 ハリトも光を睨んでいた。


「僕たちが知っている文字じゃない」


 ニールは目を凝らした。


 すると。


《外部情報――受信》


 青の声。


「読めるのか?」


《一部変換――実行》


 意味の分からなかった文字が、頭の中で別の形へ変わっていく。


《選定周期――進行》


《認証個体――四》


《未認証個体――一》


「……四?」


 ニールは思わず呟いた。


「どうしました?」


「青が……四人確認したって」


 四人。


 自分。


 ハリト。


 ピート。


 シロナ。


 なら。


「未認証、一人……」


 赤だ。


 やっぱり赤は、まだいない。


 そう思った直後。


 表示が乱れた。


《赤系統――照合》


《――》


《照合――継続》


《遠隔反応――》


 そこで文字が消えた。


「おい!」


 ニールは装具へ手を当てる。


「今の何だよ!」


《回答――制限》


「だから、それじゃ分かんねえって!」


 だが、青はそれ以上答えなかった。


 五色の光も徐々に薄れていく。


 最後まで残ったのは、赤。


 ほんの一瞬だけ、他の四色より長く揺らめき――消えた。


 静寂が戻った。


「……何だったんだ?」


 ピートが呟く。


 誰も答えられない。


 ニールは暗くなった赤の柱を見つめていた。


 赤の勇者はいない。


 少なくとも、自分たちはまだ見つけていない。


 なのに。


 どうして、あの柱は光った?


「ハリト」


「何?」


「俺たちさ」


 ニールは赤の柱から目を離さないまま言った。


「やっぱり、探す場所を間違えてるんじゃないか?」


 ハリトはすぐには答えなかった。


 王都へ戻る途中、俺が同じようなことを口にした時は、ハリトも本気にはしていなかった。


 俺自身だってそうだ。


 ただ、なんとなく。


 それくらいの違和感だった。


 でも。


 今は違う。


 赤は確かに反応した。


 ここにはいない、何かに。


「……かもしれないね」


 初めて、ハリトがそう答えた。


 遺跡を出た頃には、空はすっかり暗くなっていた。


 遠く東の空。


 その先には、ノクティアがある。


 ニールは立ち止まり、しばらくそちらを見た。


「ニールさん?」


「いや」


 なんとなく。


 本当になんとなくだった。


「……誰かに見られてるような気がして」


 シロナも東を見る。


 けれど、そこにあるのは暗い空だけだった。


「行きましょう」


「ああ」


 ニールは歩き出す。


 赤の勇者を見つける。


 五人を揃える。


 魔王を倒す。


 そうすれば、世界は救われる。


 子どもの頃から知っている話だ。


 誰もが知っている。


 誰も疑わない。


 五百年前にも、《五大勇者》は魔王を倒した。


 そして、世界に平和をもたらした。


 ――なのに。


 ひとつだけ。


 今まで考えたこともなかった疑問が、頭に浮かんだ。


「……そういえば」


 ニールは足を止める。


「五百年前の《五大勇者》って、魔王を倒したあと――どうなったんだ?」


 三人が振り返った。


 誰も答えなかった。


 英雄たちは魔王を倒した。


 世界は救われた。


 そこまでは、誰でも知っている。


 でも。


 その先を。


 俺は知らなかった。


 五人の勇者が魔王を倒す。


 俺はずっと、それが《五大勇者》の英雄譚だと思っていた。


 けれど。


 あの赤い光を見た時から。


 ほんの少しだけ、そう思えなくなった。


 もしかしたら。


 俺たちが知っている英雄譚には――


 まだ、知らない続きがあるのかもしれない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


プロローグ第三話も、今後の展開や現在の設定に合わせて改訂版として大きく見直しました!


青、緑、黄、白。


四人の勇者には、それぞれの《勇者装具》がある。


古代遺跡も、四人の存在を確かに認識している。


それなのに――


誰もいないはずの《赤》が、一瞬だけ反応した。


果たして、あの反応は何だったのか。


そして、今回もう一つ浮かび上がった疑問。


五百年前、《五大勇者》は魔王を倒し、世界に平和をもたらした。


それは誰もが知っている英雄譚です。


では――


そのあと、五人の勇者はどうなったのでしょうか?


英雄譚に残されていること。


残されていないこと。


そして、ニールたちがまだ知らないこと。


この世界には、まだたくさんの謎が眠っています。


もちろん、今すぐすべての答えが明らかになるわけではありません。


ニールたちと一緒に冒険しながら、


「あれって、もしかして……?」


と考えて楽しんでいただけたら嬉しいです!


そして、


「続きが気になる!」

「五人目の勇者はどこにいるんだ!?」


と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援よろしくお願いします!


皆さんからの応援が、続きを書く大きな励みになります。


それでは――


五人目は、どこにいるのか。


引き続き、

『五人目の勇者が見つからない』

をよろしくお願いします!

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